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第三章
ドラゴン飛行は命懸け
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何だかんだの話し合いの末、準備を整えた僕達は4人揃ってダンジョン城の48階層へとやって来た。
48階層への転移魔法陣を降りたら、そこは小さな砂浜で、背後には階段、目の前は聞いていた通りの何処までも続く大海原だった。
「本当に海だ……」
ダンジョンが階層ごとに異次元に繋がっている事は理解していたつもりだけれど、地下に潜って目の前に広がっているのが大海原というのはやはりどう考えても理解が追い付かない。やっぱりここって異世界なんだよな、分かっていたけど現実感が仕事をしてくれない。
「なかなか絶望しか感じない光景だろ?」
「確かに苦労してたどり着いた先がこれでは、もう帰ろうってなりますね。陸地も見えないですし。そもそもゴールはあるんですかね?」
「私の探索では魔物を感知はできても、陸地の感知はできませんでしたね」
ルーファウスの探索できる範囲は遮蔽物のない場所では半径5キロ程だと以前彼から聞いている、という事は少なくとも5キロ先まではずっと海なのは間違いないのだろうな。
「僕もやってみていいですか?」
いくらオロチが空を飛べるからといっても全く休憩もなしに何キロも飛び続けるのは難しいと思うのだ、ある程度は向かう方向に目安も欲しいし、僕の探索でもし陸地を見付けられるのなら、まずはそこを目指したらいいのではと思い僕は探索を試みた。
自身に風を纏わせて、その風に自身の魔力を乗せる、今回背後には気を遣わなくていいので前方のみに集中し魔力を放つ。一陣の風を纏って波の上を僕の魔力が吹き抜けていく、僕はその自身の魔力の変化に意識を集中させた。
魔物の気配がする。消えたり浮かんだりするのは水面近くを泳ぐ魔物だろうか、恐らく僕の探索は水の中までは感知できていないのだろう。
「う~ん、陸地ありませんね」
「タケルでも分かりませんか、それでは完全にお手上げですね。少なくとも向こう数十キロに渡って陸地はないと覚悟をした方が良さそうです」
こうなってくるとアランの言葉ではないが本当に絶望しかないよな。何と言ってもここはダンジョンの中なのだ、海を渡るのに地図もなければ案内人もいない。
大昔の大航海時代、人々はどんな気持ちでそんな大海原に冒険に出たのだろうかと僕はそんな事を考える。
「まぁ、いつまでも愚痴っていても仕方がない。タケル、オロチを呼んでもらえるか」
「あ、そうでした! 呼びますね」
僕は従魔師ギルドの美味しそうな名前の支部長さんから貰った鍵を取り出す。落とすと大変なのでチェーンを付けて首から下げているその鍵は、傍目にはやはりどこにでもある普通の鍵に見えるのに、宙に向かって鍵を捻ると光り輝く扉が現れるのだから何度見ても驚くよ。
そんな光る扉を開けて、今度はオロチに貰った真っ白な笛を吹く。まるで骨のようにしか見えないその歪な龍笛に思い切り息を吹き込んだら、どんな音が鳴るのだろうと思っていたら、思いがけず何も音が出なかった。
「え、嘘だろ?」
「どうした、タケル?」
「この笛、全く音が鳴りません」
もう一度、僕は大きく息を吸い込み丸く開いた穴に向かって息を吹き込む、けれど笛は全く音を響かせる気配もない。
「もしかして、何か特別な方法があるのではないのですか? 例えば魔力を送り込んでみるとか」
確かにそれも一理あるかと思い、息と一緒に魔力を注ぎ込んでみたけれど、やはり龍笛からは空気が抜けていくばかりで音を発しない。
「まさかの不良品? これがないとオロチと連絡取れないのに……うわっ」
僕が途方にくれかけていた所で、ぶわっと突風が僕を襲う。何事かと思ったら、そこには大きな翼を広げたオロチが風を切って降りてきたところで、僕はその風圧に押し負けて尻もちをついた。
「オロチだ」
『あん!? 俺様を呼び出しておいて、何を驚いたような顔をしている?』
「だってこの笛全然鳴らなくて……」
『何を言っている、ちゃんと鳴っていたから俺はここに来たんだろうが! ってか、何度も鳴らすなうっとおしい、一回鳴らせば十分だ!』
どうやらオロチには僕達には聞こえていないこの龍笛の音が聞こえていたらしい。これはアレか? 人には聞こえない周波数的なものなのか?
「彼は何と? 何か怒っているように見えますが」
「ちゃんと笛の音は聞こえているから何度も鳴らすなと怒られました」
「へぇ、ドラゴンの耳は俺達とはどうやら性能が違うようだな」
感心したように言うアランにオロチは視線を向けると当然だと言わんばかりに胸を張る。それに気付いたのだろうアランが「流石ドラゴンだな」と彼に声をかけると、オロチは満更でもなさそうな表情で、この二人は完全に打ち解けたようだと何故だかホッとした。
オロチは一度亜人の姿に変化して扉をくぐると『ここは何処だ?』と怪訝な表情を見せる。
「ここはダンジョンの中、ダンジョン攻略のために最下層を目指してるんだけど、ここから先に進めなくて困ってたんだ」
『ダンジョン、へぇ……それで空を飛べる従魔を欲しがっていた訳か。俺はお前達を乗せて何処へ向かえばいい?』
「とりあえず近くに陸地はないみたいなんだけど、何処かに必ず陸地はあると思うんだ。そこに向かって飛んで欲しいんだけど、大丈夫?」
『大丈夫とはどういう事だ? そんなの大丈夫に決まっているだろう、さっさと俺様の背に乗るがいい』
そう言ってオロチは元の姿に戻ると大きな翼を広げて僕達の乗る場所を作ってくれる。最初にオロチと飛行した時は咥えられての飛行だったからあまり生きた心地がしなかったけれど、あの時もこうやって背中に乗せてくれたら良かったのにと、僕は思わずにはいられない。
「念の為スライム結界張っとくね、ライムお願い!」
『わかった~』
オロチの背に乗り込んで僕達は各々オロチの鱗に掴まる、そしてライムの結界で全員を包み込んで安全を確保する。たぶんこれで振り落とされる事もないはずだ。
オロチが海に向かって飛び立つとあっという間に海面は遥か眼下へと下がっていく。それに伴いぐんと身体が下に引っ張られつつも浮き上がる感じ、これはそう、まるで飛行機の離陸と同じような感覚だ。
「俺、これ駄目かも、吐きそう……」
ロイドが鱗に突っ伏し青い顔をしている。ああ、この浮遊感、ダメな人は駄目だよね、実は僕も絶叫系のアトラクションがあまり得意ではないので気持ちは分かるよ。
僕はロイドににじり寄り、背中を撫でて回復をかけた。三半規管強化の魔法とかあったらいいのにな。
そんな事を思っている間にもオロチはどんどん高度を上げていき、地上からずいぶん離れてしまった、一体何処まで高度を上げる気かと思っていたら『陸地が見えた、あそこに向かえばいいんだな』とオロチが急加速で今度は前進し始めた。そのスピードの速いこと速いこと、翼を一振りするだけで、僕達が元居た砂浜があっという間に見えなくなってしまった。
それに伴い、相当な風力を受けていると思われるライムの外皮が揺れていて、これにはライムも少し困ってしまったようで『や~ん、ちぎれちゃうよぅ』と、ぺたりとオロチの背にへばりついた。
『この程度で音を上げるとは、これだからスライムは』
嘲笑うようにさらに加速するオロチ、これ、スライム結界張ってなかったら確実に僕たち吹っ飛ばされてたな。
「ごめん、ライム、もう少しだけ頑張って」
『うん、ボク、がんばる~』
そうは言うもののライムの身体はプルプルしていて今にも吹き飛ばされそうで、僕はオロチに減速をお願いする。
『そんなにのんびり飛んでいてはいつまで経っても目的地にたどり着かないだろうが』
「そうだけど、このスピードに僕たちの身体はついてけないんだから加減して!」
オロチはそんな僕の言葉に『柔だな』と一言吐き捨てて、それでも少し減速してくれた。
そもそも頑強な体躯のドラゴンと比べたらほとんどの生物は柔なんだから、そこのところは少しは考えて欲しいものだ。
48階層への転移魔法陣を降りたら、そこは小さな砂浜で、背後には階段、目の前は聞いていた通りの何処までも続く大海原だった。
「本当に海だ……」
ダンジョンが階層ごとに異次元に繋がっている事は理解していたつもりだけれど、地下に潜って目の前に広がっているのが大海原というのはやはりどう考えても理解が追い付かない。やっぱりここって異世界なんだよな、分かっていたけど現実感が仕事をしてくれない。
「なかなか絶望しか感じない光景だろ?」
「確かに苦労してたどり着いた先がこれでは、もう帰ろうってなりますね。陸地も見えないですし。そもそもゴールはあるんですかね?」
「私の探索では魔物を感知はできても、陸地の感知はできませんでしたね」
ルーファウスの探索できる範囲は遮蔽物のない場所では半径5キロ程だと以前彼から聞いている、という事は少なくとも5キロ先まではずっと海なのは間違いないのだろうな。
「僕もやってみていいですか?」
いくらオロチが空を飛べるからといっても全く休憩もなしに何キロも飛び続けるのは難しいと思うのだ、ある程度は向かう方向に目安も欲しいし、僕の探索でもし陸地を見付けられるのなら、まずはそこを目指したらいいのではと思い僕は探索を試みた。
自身に風を纏わせて、その風に自身の魔力を乗せる、今回背後には気を遣わなくていいので前方のみに集中し魔力を放つ。一陣の風を纏って波の上を僕の魔力が吹き抜けていく、僕はその自身の魔力の変化に意識を集中させた。
魔物の気配がする。消えたり浮かんだりするのは水面近くを泳ぐ魔物だろうか、恐らく僕の探索は水の中までは感知できていないのだろう。
「う~ん、陸地ありませんね」
「タケルでも分かりませんか、それでは完全にお手上げですね。少なくとも向こう数十キロに渡って陸地はないと覚悟をした方が良さそうです」
こうなってくるとアランの言葉ではないが本当に絶望しかないよな。何と言ってもここはダンジョンの中なのだ、海を渡るのに地図もなければ案内人もいない。
大昔の大航海時代、人々はどんな気持ちでそんな大海原に冒険に出たのだろうかと僕はそんな事を考える。
「まぁ、いつまでも愚痴っていても仕方がない。タケル、オロチを呼んでもらえるか」
「あ、そうでした! 呼びますね」
僕は従魔師ギルドの美味しそうな名前の支部長さんから貰った鍵を取り出す。落とすと大変なのでチェーンを付けて首から下げているその鍵は、傍目にはやはりどこにでもある普通の鍵に見えるのに、宙に向かって鍵を捻ると光り輝く扉が現れるのだから何度見ても驚くよ。
そんな光る扉を開けて、今度はオロチに貰った真っ白な笛を吹く。まるで骨のようにしか見えないその歪な龍笛に思い切り息を吹き込んだら、どんな音が鳴るのだろうと思っていたら、思いがけず何も音が出なかった。
「え、嘘だろ?」
「どうした、タケル?」
「この笛、全く音が鳴りません」
もう一度、僕は大きく息を吸い込み丸く開いた穴に向かって息を吹き込む、けれど笛は全く音を響かせる気配もない。
「もしかして、何か特別な方法があるのではないのですか? 例えば魔力を送り込んでみるとか」
確かにそれも一理あるかと思い、息と一緒に魔力を注ぎ込んでみたけれど、やはり龍笛からは空気が抜けていくばかりで音を発しない。
「まさかの不良品? これがないとオロチと連絡取れないのに……うわっ」
僕が途方にくれかけていた所で、ぶわっと突風が僕を襲う。何事かと思ったら、そこには大きな翼を広げたオロチが風を切って降りてきたところで、僕はその風圧に押し負けて尻もちをついた。
「オロチだ」
『あん!? 俺様を呼び出しておいて、何を驚いたような顔をしている?』
「だってこの笛全然鳴らなくて……」
『何を言っている、ちゃんと鳴っていたから俺はここに来たんだろうが! ってか、何度も鳴らすなうっとおしい、一回鳴らせば十分だ!』
どうやらオロチには僕達には聞こえていないこの龍笛の音が聞こえていたらしい。これはアレか? 人には聞こえない周波数的なものなのか?
「彼は何と? 何か怒っているように見えますが」
「ちゃんと笛の音は聞こえているから何度も鳴らすなと怒られました」
「へぇ、ドラゴンの耳は俺達とはどうやら性能が違うようだな」
感心したように言うアランにオロチは視線を向けると当然だと言わんばかりに胸を張る。それに気付いたのだろうアランが「流石ドラゴンだな」と彼に声をかけると、オロチは満更でもなさそうな表情で、この二人は完全に打ち解けたようだと何故だかホッとした。
オロチは一度亜人の姿に変化して扉をくぐると『ここは何処だ?』と怪訝な表情を見せる。
「ここはダンジョンの中、ダンジョン攻略のために最下層を目指してるんだけど、ここから先に進めなくて困ってたんだ」
『ダンジョン、へぇ……それで空を飛べる従魔を欲しがっていた訳か。俺はお前達を乗せて何処へ向かえばいい?』
「とりあえず近くに陸地はないみたいなんだけど、何処かに必ず陸地はあると思うんだ。そこに向かって飛んで欲しいんだけど、大丈夫?」
『大丈夫とはどういう事だ? そんなの大丈夫に決まっているだろう、さっさと俺様の背に乗るがいい』
そう言ってオロチは元の姿に戻ると大きな翼を広げて僕達の乗る場所を作ってくれる。最初にオロチと飛行した時は咥えられての飛行だったからあまり生きた心地がしなかったけれど、あの時もこうやって背中に乗せてくれたら良かったのにと、僕は思わずにはいられない。
「念の為スライム結界張っとくね、ライムお願い!」
『わかった~』
オロチの背に乗り込んで僕達は各々オロチの鱗に掴まる、そしてライムの結界で全員を包み込んで安全を確保する。たぶんこれで振り落とされる事もないはずだ。
オロチが海に向かって飛び立つとあっという間に海面は遥か眼下へと下がっていく。それに伴いぐんと身体が下に引っ張られつつも浮き上がる感じ、これはそう、まるで飛行機の離陸と同じような感覚だ。
「俺、これ駄目かも、吐きそう……」
ロイドが鱗に突っ伏し青い顔をしている。ああ、この浮遊感、ダメな人は駄目だよね、実は僕も絶叫系のアトラクションがあまり得意ではないので気持ちは分かるよ。
僕はロイドににじり寄り、背中を撫でて回復をかけた。三半規管強化の魔法とかあったらいいのにな。
そんな事を思っている間にもオロチはどんどん高度を上げていき、地上からずいぶん離れてしまった、一体何処まで高度を上げる気かと思っていたら『陸地が見えた、あそこに向かえばいいんだな』とオロチが急加速で今度は前進し始めた。そのスピードの速いこと速いこと、翼を一振りするだけで、僕達が元居た砂浜があっという間に見えなくなってしまった。
それに伴い、相当な風力を受けていると思われるライムの外皮が揺れていて、これにはライムも少し困ってしまったようで『や~ん、ちぎれちゃうよぅ』と、ぺたりとオロチの背にへばりついた。
『この程度で音を上げるとは、これだからスライムは』
嘲笑うようにさらに加速するオロチ、これ、スライム結界張ってなかったら確実に僕たち吹っ飛ばされてたな。
「ごめん、ライム、もう少しだけ頑張って」
『うん、ボク、がんばる~』
そうは言うもののライムの身体はプルプルしていて今にも吹き飛ばされそうで、僕はオロチに減速をお願いする。
『そんなにのんびり飛んでいてはいつまで経っても目的地にたどり着かないだろうが』
「そうだけど、このスピードに僕たちの身体はついてけないんだから加減して!」
オロチはそんな僕の言葉に『柔だな』と一言吐き捨てて、それでも少し減速してくれた。
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