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第二章

やってみたら出来ちゃった

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 僕達はとりあえず幾つかのグループ依頼を受けて10階層からダンジョン探索を始める事にした。
 転移魔法陣ゲートは言ってしまえばダンジョン専用のエレベーターみたいなもので、10階層まではあっという間に到着してしまう。ちなみに10階層は冒険者ランクでFランク相当、11階層からEランク相当になるらしいのだけど、何故10階層から始めたかというと、10階層にはダンジョンボスというのが存在するかららしい。
 10階層のダンジョンボスを倒す事ができれば11階層からも安心してダンジョンを楽しめる(?)程度の能力があるとみなされるので、小手調べに10階層という事らしい。
 でも、ダンジョンを楽しむって……まぁ、この街のダンジョンはアトラクションみたいなものだって言われてるし楽しめばいいんだろうけど、これって本当の冒険って言えるのかな?
 ん~……これは冒険ではなく、修行の場と割り切って楽しむのが正解なのかな。
 ダンジョンの10階層は如何にもな感じの入り組んだ地下迷路になっていて、あちらこちらで恐らく10代だと思われる年若い冒険者が魔物と戦っている。それはそうだよね、だって今ここに居る人達は僕たちと同程度の階級の冒険者たちだろうから。

「さて、無駄に戦闘をする必要もねぇし、ここはさくさく行っとくか」

 そう言ってアランは周りには目もくれず迷路を歩いて行く。そこかしこに魔物もいるのだが、襲ってくるのは仕方ないとして、普通に僕達を避けて逃げて行く魔物を追いかける必要もないという事でアランについて歩いて行ったら突き当りにぶつかった。

「あれ?」
「道、間違えました? アランは道を知ってるんですよね?」
「いや、行き当たりばったりだぞ。それがダンジョンの醍醐味だろう? ダンジョンは迷うのも楽しみのひとつなんだぞ。迷った先でお宝発見、なんて夢があるだろ?」

 さくさく先頭を歩いているものだから、てっきり道が分かっているのかと思ったら行き当たりばったりなのか!

「アラン、あなたそういう所ですよ……いくらこのダンジョンは危険が少ないからと言って適当な事はしないでください。それにこんな低階層で見付かるお宝なんてたかが知れてます」
「お前は本当に夢がないな。こいつ等にとっては初めてのダンジョンなんだ、少し迷うくらいの方が楽しいだろう?」

 まぁ、確かにそうかもしれないけど、ルーファウスは呆れたように大きな溜息を吐く。

「そんな状態なのなら私だって地図化マッピングスキルを使いましたよ。先に言ってくれたら対処法を教える事も出来たのに、もうこれ完全に迷子じゃないですか!」

 確かに僕達は既に幾つかの分岐点をアランの足の向くままについて来てしまったので、出発点に戻ろうと思ってもちゃんと戻れるかすら怪しくなっている。
 まさかこんな簡単に迷子になるなんて、ダンジョンを舐めていたら危ないのだという事がよく分かった。
 この階層にはスライムやゴブリン程度の弱い魔物しか出てこないけれど、地下という事もあって今まで見た事のない魔物が何体も出てくる。それに加えて迷ってダンジョンから抜け出せなくなったら食料だってアイテムだって限られているのだからそれだけで命取りだ。

「まぁまぁ、そんなに怒るなって。これだって、ダンジョンではこんな事も起こり得るって学びのひとつだろ?」
「それはそうかもしれませんけど……はぁ、タケル、さっそく探索サーチの出番のようですよ。練習にちょうどいいのでやってみましょうか」

 ああ、そうか! 確かにこんな時の為の探索だよな。僕はルーファウスに言われるがまま風を起こして、その上に自分の魔力を薄く乗せる。この薄くというのがどうにも難しくて、何度も失敗を繰り返して数度目にどうにか成功させてそれを放つと、辺りの景色と僕の意識が俯瞰するように脳内で地図として構築されていく。
 なんだこれ、凄いな!
 脳内地図にはダンジョンの全体像が浮かび上がり、人や魔物の動きが手に取るように見えてしまい、僕は一瞬でこの階層の全体図を把握するに至る。

「えっと、ダンジョンボスは向こうですね」
「…………タケルは本当に相変らずですね」

 僕の言葉に何故かルーファウスがまた大きく息を吐いた。

「え? 僕なにかダメな事しましたか?」
「逆ですよ、逆。もしかして先程の一回でこの階層の探索を全て終えた……とか言うのでしょうね、貴方なら」
「えっと……」
「探索をしてみてこの階層の広さはどの程度だとタケルは認識しましたか?」
「ええっと、周囲3キロくらい、かな?」
「先程私の探索範囲は遮蔽物が多い場所では周囲1キロ程度と言ったと思うのですが、周囲3キロという事は必然的にタケルの探索能力は私の探索能力より上という事になりますね」

 あ……

「いや、でも、今回はたまたま上手くいっただけかもしれませんし! ほら、ビギナーズラック的な感じで!」
「下手な慰めはいりませんよ、タケルの能力が特別な事は私も理解しているつもりですからね。ただ、こんな調子では私が師匠を名乗っていられるのも今のうちだけかもしれませんね」
「そんな事ないですよ、僕なんか全然まだまだで教わる事ばかりですから!」
「あ~タケルが有能なのはもう分かった、だけどそんな言い合いをしていても不毛だろう、行くぞ行くぞ」

 僕とルーファウスの会話に終止符をうつようにしてアランがまた先頭をきって歩き出したので、僕達は慌てて彼を追う。

「あ、アラン、そっち行き止まりですけど、何かあります」
「お? 何かってなんだ?」
「いえ、そこまでは分かりませんけど……」

 僕は脳内マップを拡大してみるが、何かがあるという情報以上の情報は出てこない。アランは「ふむ」と考え込むようにしてそちらへと足を向ける。そして辿り着いた突き当りには、コロンと薬瓶がひとつ転がっていた。

「お、なんの薬かは分からんが、お宝があったな。タケルの探索サーチはそんな詳細なとこまで分かるのか?」
「探索ってそういうものなんじゃないんですか?」

 言ってしまえば僕の脳内マップはゲーム攻略本のマップにも似て、魔物の出現場所も、内容までは分からないけれどアイテムのある場所も記載されている。だけど、探索という魔術はそういうものなんじゃないのか?

「タケルと一緒だと無駄足が一切ないダンジョン攻略が出来そうだな。うっかりするとダンジョン城の完全踏破も出来ちまいそうな気がするぜ」

 アランがそう言ってゲラゲラと笑う。あれ? 僕、また何かしでかした?
 僕が戸惑い顔でいると「少なくともタケルといればどんな危険なダンジョンでも安心して攻略できそうですね」とルーファウスも苦笑する。
 もしかして、僕はまたしてもチートスキルを発動してしまったのか? やってみたら出来ちゃったが、チート過ぎて本当に困るよ。

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