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第二章

スライム結界って何ですか!?

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「なぁ、タケル」
「ん? なに?」
「お前の特別な力って、なんだ?」

 ああ、そういえば彼には僕の無属性魔法は知られていないんだったな。ロイドが真剣な表情でこちらを見ている。けれどこの力の事はあまり他人に言わない方がいいような気もする。

「僕ね、魔術の才能があるみたいで全属性の魔術を全部使えるんだって。ルーファウスさんはそんな僕を見込んで僕を弟子にしてくれたんだけど、他の人にも目を付けられちゃったみたいで聖女様には神子にならないかって言われちゃったんだよね……」

 本当は神子を通り越して聖者だって言われたんだけど、それはさすがに黙っておいた方が良いだろう。神様本当にやり過ぎだよ。

「神子って、それ、冒険者なんてやってる場合じゃなくね? 神職なんて選ばれた人間しかなれないんだろう? 名誉職じゃないか!」

 驚いたような顔のロイド、だけどそんなの僕には荷が重いよ。

「ん~だけど僕、そういうのあんまり興味ないんだ。今の生活が楽しいし、神子ってなんか窮屈そうじゃない? 人の上に立つのも好きじゃないし、僕には向かないと思うんだよね」
「そうかな?」
「ロイド君は僕が神職に向いてると思うの?」
「少なくとも冒険者よりは向いてそうな気がするけどな。スライムが可愛くて倒せないなんて言ってる奴が冒険者に向いてるとは思えないし」

 それを言われてしまうと否定しずらい所だけど、ホーンラビットはちゃんと自分の手で倒したし、冒険者家業は嫌いじゃないんだけどな。

「でもさ、聖女様はライムを見て倒れたんだよ。ライムはすごく可愛いのにひどくない?」

 聖女様にとって、というか神職にとっては魔物は全て魔物以外の何ものでもなく、悪しきものとされるのだろう。僕が魔物を使役している事にショックを受けていたようだけど魔物だって意思を持った生き物だ、そんな態度は失礼だと思う。
 ローブの内ポケットの中を自分の定位置と定めたらしいライムが『よんだ~?』と、ひょこりと顔を覗かせる、僕はそんなライムを「何でもないよ」と撫で回した。

「そう言えばタケルのそのスライムもちょっと変わってるよな。共食いするし」
「え? 共食い!?」
「してるだろいつも、だから西の草原のスライムが激減したんだから」

 あれって共食いだっけ? いや、違うよね? だって、ライム達は融合合体してるだけで個別に分裂だってできるんだから。

『ボク達、なかまは食べないよ~』

 ほら、ライムだってそう言ってる、って言ってもロイドには聞こえないのだろうけど。

「あのね、ロイド君、うちのライムは共食いなんかしてないよ、説明が難しいんだけど、複数のスライムがひとつの集合体として『ライム』になってるってのが正解」
「あ?」

 意味が分からないという表情でロイドが首を傾げる。

「見てもらった方が早いかな、ライム、今って分裂できる?」
『できるよ~』

 言うが早いかライムがもこもこと何匹かのスライムに分裂していく、一匹一匹の個体は小さく自由奔放で結界内を飛び跳ね周る、結界壁にぶつかっては跳ね返されて『これ、おもしろ~い』と遊び始めた。

「な、何だよコレっ!?」
「びっくりするよね、だけどこれ全部ライムなんだよ。普段は一匹のライムなんだけど実はたくさんのスライムの集合体なんだ。僕もいまだによく分かってないけど、スライムって面白いよね」
「面白いって、お前……」

 何故かロイドに呆れ顔をされてしまった。だけど知れば知るほどスライムって面白いのだから仕方がないよね。気が付けば結界内だけじゃなく、結界の外にもスライム達がぞくぞく集まってきて、結界壁に体当たりしてぽよんぽよんと遊んでいる。

「ちょ……なんだよこの数、これ全部お前のスライムなのか?」
「えっと、それはよく分からないな、はは」

 僕が個別のスライムとして認識出来ているのは緑がかった個体のライムだけ。個別のスライムの声も聞こえるけれど、それ以外はどれが誰だかも分からない。

『ね~ぇ、タケル、この壁じゃまなの、壊してい~い?』

 また一体、結界壁に弾き返されてスライムがぽよんぽよんと僕の方へと転がってきた。これはライムの本体だな。

「駄目だよ、この壁は僕たちを守ってくれてる大事なものだからね」
『え~これくらい、ボク達だってできるもん』

 そう言うが早いか結界内のスライムと外のスライムがそれぞれ融合を始め、みるみるうちに二体の大きなスライムに変貌していく。そして結界内のライムは膨張を続け、やがて僕とロイドの居場所まで奪っていく。

「ちょ、やめやめ、ライム! 潰れるっ!」

 結界壁とスライムの透明な肉(?)壁に挟まれて居場所を失くした僕とロイドは抱き合うようにして結界壁に押し付けられた。
 先だってライムの攻撃で圧し潰されたゴブリンの無残な姿が脳裏をよぎる、僕たちを守っているはずの結界が逃げ場を塞いで潰されそうだ。
 ロイドも少しでも空間を作ろうと僕を抱えてスライムの一見柔らかそうな身体を押し返すのだが、柔軟性に富みすぎたスライムの身体は空いた隙間にすら埋まっていく。

「ライムっっ!!」
『スライム結界、いっくよぉ~』『はぁ~い』

 !? スライム結界!? なんだそれ!?
 そんな事を思った瞬間、急に僕たちにかかっていた圧力が消えて僕とロイドは抱き合ったままスライムの体内に放り込まれた。

「え……」

 その中は不思議な空間だった、目の前には恐らくスライムの核がふよふよ浮いている。これはまさかの、スライムに食べられた!?
 だけど不思議な事に息ができるし苦しくもない。身体が溶かされるような感覚もないし、一体これどうなってんだ?
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