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番外編:橘大樹の受難は続く
そんな話は聞いてない!
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昴の旦那のシロウが何か指示を飛ばして回っている。そんな彼の指示に従って、恐らくこの街の治安維持部隊と思われる獣人達が右へ左へと駆けて行く。俺と昴は保護された人間達の所へ連れて行かれて、現在待機中。
「そういえば昴、お前耳と尻尾はどうしたんだ?」
「え? あ……忘れてた。ちょっとした目くらましの術なんだけど……」
そう言って昴が指を振ると、そこには普通に耳と尻尾が現れて、どうやら見えないようにされていただけで消えてなくなっていた訳ではなかったらしい。
「それにしてもさっきの人達、格好良かったなぁ」
「だよね! 悪者をなぎ倒してく姿、めちゃくちゃ格好良かった!」
どうやら、囚われていたのは俺たちだけではなかったようで、あちこちで救出された人間達は自分達を助けてくれた者達を口々に褒め称える。その中にはたぶんうちのロウヤも入っているのだろうと思うと、何故だか妙に鼻が高い。
「僕はあの白い狼が綺麗で好きだな」
背後で呟かれた言葉に昴の耳がぴくりと反応して、そちらを向いたのが面白い。昴の尻尾がそわそわと揺れて、その表情は嬉しそうでもあり、不安そうでもある。
「私は、私を連れ出してくれた銀灰色の狼だな。ああいう獣人が番相手だったらいいのに。きっと可愛い子が生まれる」
あちこちで、私はこの人、僕はあの人と品定めが始まって、最初は鼻が高いと思っていたのだが、どうにも落ち着かなくなった。自分の旦那がよその奴等に品定めされるのってなんか落ち着かない。
「シロさんは僕のなのに……」
昴の言葉がまさに俺の心を代弁してくれる、これは嫉妬か……俺もずいぶんロウヤに惚れこんだものだな。それにしても、ここに居る者達は全員獣人の子を孕める奴等ばかりで、俺だけが異質で俺だけがこの世界に溶け込めない。
「大樹さん、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「俺さぁ、ロウヤの嫁、やってていいのかな?」
昴が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「? どうしたの、突然? ロウヤさんと喧嘩でもした?」
「喧嘩はしてない、けど……俺はどう頑張ってもあいつの子供は産んでやれないし、なんかそういうの考えると俺はあいつの嫁でいる資格はないんじゃないかって……」
「子供……って、大樹さんが産みたくなったんなら産めば良くない?」
「!!? 昴、お前までそういう事言うのか!!? 無理に決まってんだろぉぉ!!!」
まさかの昴にまでさらっと言われて、俺は動揺が隠せない。お前は、お前だけは俺と常識を分かち合ってると思ってたのに!!
「え……だって、その為にパパに話し通してあるんじゃないの?」
「へ……?」
「あれ? もしかして大樹さん聞いてない?」
何をだ? 昴は一体何を言っている??
「僕は大樹さんがまだこっちの世界に慣れてないから、子作りはもう少し時間を置いてって聞いてたんだけど、それってもしかして大樹さん通した話じゃなかったんだ?」
「何の話だが全く分からんのだが!!?」
困惑顔の昴、けれど混乱してるのは俺も同じだ。
「うちの母さんって元々医者だし人体の造りには精通してるんだよね、それで、パパはわりと何でもできちゃう魔術師だから、2人の知識を総動員すれば子供ができるように大樹さんの胎内を創りかえる事は可能だろうって話……聞いてない?」
「全然まったく一ミリも聞いてねぇ!!!」
「ロウヤさんには話、通ってるはずなんだけどな……っていうか、ロウヤさんがシロさんとパパに相談持ち掛けて、そういう話しになったって僕は聞いてたんだけど」
それで『できるかできないかで言われたら、できる』だったのか……でもロウヤ、あの野郎どういう了見だ!? 俺はそんな話ちっとも聞いてねぇ。俺がこの1年どれだけそれで悩んでたと思ってんだよっ! そういう大事な話は俺をちゃんと通しやがれっ! というか、産むのは俺なんだからそういう事を勝手にお前が決めてんじゃねぇぇ!!
ふつふつと怒りを募らせる俺と困り顔の昴、だけど事これに関して俺は怒ってもいいはずだ。
そもそもあいつはいつでも俺を置いて自分勝手に物事を進めようとする、結婚式の時もそうだった。別に今更別れようとは思わないが、あの時も俺1人が蚊帳の外で勝手に式を挙げられたのだ。あれは義母のコテツさんが暴走した結果でもあるのだろうが、あの親子の暴走癖はどうにかしないといけないなと妙な使命感が湧いてきた。
しばらくすると大体の後処理を終えたのだろう、ロウヤ達がこちらへとやって来る。すると、それに群がるように周りで待機していた人々が彼等に寄っていく。
「あのっ! もし良かったら私とお付き合いしてくれませんか!」
「ああ、抜け駆け! それより僕と結婚前提でお付き合いしませんか!?」
そう言って彼等は口々にお目当ての獣人達に言い寄っていく。おいおい、お前等積極的だな……いや、でもそういえばこんな光景前にも見たぞ、それは大賢者ヨセフとの決闘の直前、中央管理棟での事だ。あの時も人は独身であろう獣人達に群がって自分を選べと迫っていた。
「悪いが私にはすでに妻がいる、スバル」
真っ白な狼獣人のシロウがこちらに腕を伸ばすと、スバルはぱっと笑みを見せてその腕の中に飛び込んだ。くそっ、お前等仲良いな!
「だったら……」
「悪いが俺も妻子持ちだ」
別の奴がさくりと顔色も変えずに言い切ると、人々はあからさまに不満顔を見せる。お前等そういうところだぞ!
「ここに独身はいないの?」
「グレイ、どうやらよりどりみどりのようだぞ? この中から番相手を選んだらどうだ?」
シロウが腕の中に昴を抱いたまま自分の背後に立つ一際大きな銀灰色の狼獣人に声をかけると、そいつは一言「ミオが泣くぞ」と返事を返した。
「ミオはやらんと何度も言っている」
「それはミオが決める事だ」
ぐぬぬと苦虫を噛み潰したような表情のシロウ、昴は苦笑している。澪って昴のとこの子の名前だよな? まだ年端もいかない子供のはずなのに既にお手付きなのか? ってか、この大きな獣人が相手って犯罪もいい所だろ? 大丈夫なのか?
「じゃあ……」
人々の向かう視線の先、そこには腕を組んでロウヤが立っている。視線はこちらを向いているが、シロウのように腕を伸ばす事も名を呼ぶ事すらしやしない。ただ黙って俺の方を向くロウヤは俺の動きを窺っていた。
「そういえば昴、お前耳と尻尾はどうしたんだ?」
「え? あ……忘れてた。ちょっとした目くらましの術なんだけど……」
そう言って昴が指を振ると、そこには普通に耳と尻尾が現れて、どうやら見えないようにされていただけで消えてなくなっていた訳ではなかったらしい。
「それにしてもさっきの人達、格好良かったなぁ」
「だよね! 悪者をなぎ倒してく姿、めちゃくちゃ格好良かった!」
どうやら、囚われていたのは俺たちだけではなかったようで、あちこちで救出された人間達は自分達を助けてくれた者達を口々に褒め称える。その中にはたぶんうちのロウヤも入っているのだろうと思うと、何故だか妙に鼻が高い。
「僕はあの白い狼が綺麗で好きだな」
背後で呟かれた言葉に昴の耳がぴくりと反応して、そちらを向いたのが面白い。昴の尻尾がそわそわと揺れて、その表情は嬉しそうでもあり、不安そうでもある。
「私は、私を連れ出してくれた銀灰色の狼だな。ああいう獣人が番相手だったらいいのに。きっと可愛い子が生まれる」
あちこちで、私はこの人、僕はあの人と品定めが始まって、最初は鼻が高いと思っていたのだが、どうにも落ち着かなくなった。自分の旦那がよその奴等に品定めされるのってなんか落ち着かない。
「シロさんは僕のなのに……」
昴の言葉がまさに俺の心を代弁してくれる、これは嫉妬か……俺もずいぶんロウヤに惚れこんだものだな。それにしても、ここに居る者達は全員獣人の子を孕める奴等ばかりで、俺だけが異質で俺だけがこの世界に溶け込めない。
「大樹さん、大丈夫? 顔色悪いよ?」
「俺さぁ、ロウヤの嫁、やってていいのかな?」
昴が心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「? どうしたの、突然? ロウヤさんと喧嘩でもした?」
「喧嘩はしてない、けど……俺はどう頑張ってもあいつの子供は産んでやれないし、なんかそういうの考えると俺はあいつの嫁でいる資格はないんじゃないかって……」
「子供……って、大樹さんが産みたくなったんなら産めば良くない?」
「!!? 昴、お前までそういう事言うのか!!? 無理に決まってんだろぉぉ!!!」
まさかの昴にまでさらっと言われて、俺は動揺が隠せない。お前は、お前だけは俺と常識を分かち合ってると思ってたのに!!
「え……だって、その為にパパに話し通してあるんじゃないの?」
「へ……?」
「あれ? もしかして大樹さん聞いてない?」
何をだ? 昴は一体何を言っている??
「僕は大樹さんがまだこっちの世界に慣れてないから、子作りはもう少し時間を置いてって聞いてたんだけど、それってもしかして大樹さん通した話じゃなかったんだ?」
「何の話だが全く分からんのだが!!?」
困惑顔の昴、けれど混乱してるのは俺も同じだ。
「うちの母さんって元々医者だし人体の造りには精通してるんだよね、それで、パパはわりと何でもできちゃう魔術師だから、2人の知識を総動員すれば子供ができるように大樹さんの胎内を創りかえる事は可能だろうって話……聞いてない?」
「全然まったく一ミリも聞いてねぇ!!!」
「ロウヤさんには話、通ってるはずなんだけどな……っていうか、ロウヤさんがシロさんとパパに相談持ち掛けて、そういう話しになったって僕は聞いてたんだけど」
それで『できるかできないかで言われたら、できる』だったのか……でもロウヤ、あの野郎どういう了見だ!? 俺はそんな話ちっとも聞いてねぇ。俺がこの1年どれだけそれで悩んでたと思ってんだよっ! そういう大事な話は俺をちゃんと通しやがれっ! というか、産むのは俺なんだからそういう事を勝手にお前が決めてんじゃねぇぇ!!
ふつふつと怒りを募らせる俺と困り顔の昴、だけど事これに関して俺は怒ってもいいはずだ。
そもそもあいつはいつでも俺を置いて自分勝手に物事を進めようとする、結婚式の時もそうだった。別に今更別れようとは思わないが、あの時も俺1人が蚊帳の外で勝手に式を挙げられたのだ。あれは義母のコテツさんが暴走した結果でもあるのだろうが、あの親子の暴走癖はどうにかしないといけないなと妙な使命感が湧いてきた。
しばらくすると大体の後処理を終えたのだろう、ロウヤ達がこちらへとやって来る。すると、それに群がるように周りで待機していた人々が彼等に寄っていく。
「あのっ! もし良かったら私とお付き合いしてくれませんか!」
「ああ、抜け駆け! それより僕と結婚前提でお付き合いしませんか!?」
そう言って彼等は口々にお目当ての獣人達に言い寄っていく。おいおい、お前等積極的だな……いや、でもそういえばこんな光景前にも見たぞ、それは大賢者ヨセフとの決闘の直前、中央管理棟での事だ。あの時も人は独身であろう獣人達に群がって自分を選べと迫っていた。
「悪いが私にはすでに妻がいる、スバル」
真っ白な狼獣人のシロウがこちらに腕を伸ばすと、スバルはぱっと笑みを見せてその腕の中に飛び込んだ。くそっ、お前等仲良いな!
「だったら……」
「悪いが俺も妻子持ちだ」
別の奴がさくりと顔色も変えずに言い切ると、人々はあからさまに不満顔を見せる。お前等そういうところだぞ!
「ここに独身はいないの?」
「グレイ、どうやらよりどりみどりのようだぞ? この中から番相手を選んだらどうだ?」
シロウが腕の中に昴を抱いたまま自分の背後に立つ一際大きな銀灰色の狼獣人に声をかけると、そいつは一言「ミオが泣くぞ」と返事を返した。
「ミオはやらんと何度も言っている」
「それはミオが決める事だ」
ぐぬぬと苦虫を噛み潰したような表情のシロウ、昴は苦笑している。澪って昴のとこの子の名前だよな? まだ年端もいかない子供のはずなのに既にお手付きなのか? ってか、この大きな獣人が相手って犯罪もいい所だろ? 大丈夫なのか?
「じゃあ……」
人々の向かう視線の先、そこには腕を組んでロウヤが立っている。視線はこちらを向いているが、シロウのように腕を伸ばす事も名を呼ぶ事すらしやしない。ただ黙って俺の方を向くロウヤは俺の動きを窺っていた。
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