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番外編:橘大樹の受難は続く
脱走
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狼の集落から南の方角にノースラッドという街はある。徒歩で向かえば3日ほどかかる距離だが、この世界には転移魔法と言う便利な魔術があり、俺もロウヤもその転移魔法は使えないし商売にしている魔術師に頼めば結構な金額がかかるらしい。だが、なんせロウヤの母親が魔導士なので、その辺はいくらでも融通がきくのがとても便利だ。
ここノースラッドには昴が住んでいるので何度か訪れた事もあるのだが、狼の集落と違って多種多様な獣種の獣人がいて面白い。
この世界ではわりと大型種であるらしい狼の集落は建物も家具も何もかもが大きいけれど、この街には小さな獣種の獣人も多く住んでいるので、なんとなくほっとする。
やっぱり常に子供に語りかけるように屈まれるのは妙な気持ちなんだよな、向こうの世界では大きな方だったから余計に、まるで女子供扱いされてるみたいで腑に落ちない……というか、この世界では人間は女子供扱いなのだから当然なのかもしれないけれど。
「ダイキ、キョロキョロしてると迷子になるぞ」
ぐいと腕を掴まれ、ロウヤに抱き上げられそうになった俺は全力でそれを拒否する。
「子供扱いするな、はぐれた所で自分で対処できる! 俺だってノースラッドは初めてじゃないんだから!」
歩幅の違う俺とロウヤでは当然歩く速度が違ってくる、そんな事は二人で旅をしていた時から分かっている事なのに、こちらに戻ってからロウヤはすぐに俺を抱き上げようとするので本当に困る。家から出なくてもいいような生活を送っている俺ははっきり運動不足だ、こんな時くらい自分で歩きたい。幸いこの街は俺のサイズに合っている、狼の集落より気が楽だ。
「ダイキ、本来『人』というのは外出時にはこうするもんなんだぞ? そもそも嫁を家の外に出すのも非常識だと言われるのに……」
「あぁ!?」
確かに狼の集落ではそういう習慣がある事は知っている、なにせあの町は人にはデカすぎる。義母であるコテツさんはわりと自由にほいほい出歩いているが、それは彼が半獣人で、かつ彼自身の戦闘能力がとても高いから許されている事なのだと聞いた事もある。人は獣人に対してとても無力で、だからこそ守られる存在として扱われているというのも分かるのだけれど、この街は狼の集落とは違うだろう? なにせ、草食系の小型獣人は俺とサイズもそう変わらない、危険なんてそうそうないと思うのだ。
それに昴だって自由に行動している。何度かこの街に遊びに来ている俺はそれも知ってるんだからな!
「うっせ! よそはよそ、うちはうち! 俺は嫌だって言ってんだ!」
ロウヤは少し困ったように「そういうのもダイキらしくて俺はいいと思うが、外は危険なんだって事だけは頭に入れといてくれよ」と苦笑する。
俺はロウヤのその物言いが気にいらず不満が顔に出てしまう。確かにこの世界では獣人と人の命の長さが違う、ロウヤは俺の十倍以上の時を生きていて(その割には言動が子供っぽくもあるのだが)彼にとって俺は幼い子供のようなものなのだろう。
いっそこのまま駆け出して、こいつをまいてやろうかという悪戯心が湧いてくる。俺を子供扱いするのなら子供のようにふるまうのもまた一興。俺は自由が欲しいんだ!
「あ!」
何かに気付いたというようにロウヤの背後を見やり声を上げると「なんだ?」とロウヤが振り返る。その隙を狙って俺は踵を返し駆け出した。久しぶりの自由時間だ、俺は好きにさせてもらうぜ!
ここノースラッドには昴が住んでいるので何度か訪れた事もあるのだが、狼の集落と違って多種多様な獣種の獣人がいて面白い。
この世界ではわりと大型種であるらしい狼の集落は建物も家具も何もかもが大きいけれど、この街には小さな獣種の獣人も多く住んでいるので、なんとなくほっとする。
やっぱり常に子供に語りかけるように屈まれるのは妙な気持ちなんだよな、向こうの世界では大きな方だったから余計に、まるで女子供扱いされてるみたいで腑に落ちない……というか、この世界では人間は女子供扱いなのだから当然なのかもしれないけれど。
「ダイキ、キョロキョロしてると迷子になるぞ」
ぐいと腕を掴まれ、ロウヤに抱き上げられそうになった俺は全力でそれを拒否する。
「子供扱いするな、はぐれた所で自分で対処できる! 俺だってノースラッドは初めてじゃないんだから!」
歩幅の違う俺とロウヤでは当然歩く速度が違ってくる、そんな事は二人で旅をしていた時から分かっている事なのに、こちらに戻ってからロウヤはすぐに俺を抱き上げようとするので本当に困る。家から出なくてもいいような生活を送っている俺ははっきり運動不足だ、こんな時くらい自分で歩きたい。幸いこの街は俺のサイズに合っている、狼の集落より気が楽だ。
「ダイキ、本来『人』というのは外出時にはこうするもんなんだぞ? そもそも嫁を家の外に出すのも非常識だと言われるのに……」
「あぁ!?」
確かに狼の集落ではそういう習慣がある事は知っている、なにせあの町は人にはデカすぎる。義母であるコテツさんはわりと自由にほいほい出歩いているが、それは彼が半獣人で、かつ彼自身の戦闘能力がとても高いから許されている事なのだと聞いた事もある。人は獣人に対してとても無力で、だからこそ守られる存在として扱われているというのも分かるのだけれど、この街は狼の集落とは違うだろう? なにせ、草食系の小型獣人は俺とサイズもそう変わらない、危険なんてそうそうないと思うのだ。
それに昴だって自由に行動している。何度かこの街に遊びに来ている俺はそれも知ってるんだからな!
「うっせ! よそはよそ、うちはうち! 俺は嫌だって言ってんだ!」
ロウヤは少し困ったように「そういうのもダイキらしくて俺はいいと思うが、外は危険なんだって事だけは頭に入れといてくれよ」と苦笑する。
俺はロウヤのその物言いが気にいらず不満が顔に出てしまう。確かにこの世界では獣人と人の命の長さが違う、ロウヤは俺の十倍以上の時を生きていて(その割には言動が子供っぽくもあるのだが)彼にとって俺は幼い子供のようなものなのだろう。
いっそこのまま駆け出して、こいつをまいてやろうかという悪戯心が湧いてくる。俺を子供扱いするのなら子供のようにふるまうのもまた一興。俺は自由が欲しいんだ!
「あ!」
何かに気付いたというようにロウヤの背後を見やり声を上げると「なんだ?」とロウヤが振り返る。その隙を狙って俺は踵を返し駆け出した。久しぶりの自由時間だ、俺は好きにさせてもらうぜ!
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