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番外編

そして愛を知る⑦

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「何が? ウルは何も悪くない。だってみんなが同じように騙されていた、許すも許さないもないよ」
「だが、私は己の選択を見誤った、選択を誤りこの世界に危機を招いた」
「なに? そんな訳ないだろ、ウルは何も……」
「私が告げたのだよ、ヨセフ様にクローム様の子がこの世界にいる事を。シロウはシリウスをおびき寄せるエサだった、私はその片棒を担ぎ、結果的にこの街は魔物に襲われ世界は混乱し君の旦那も亡くなった……」
「それは違う! それはただの結果論だ! ウルだけが選択を誤った訳じゃない、この世界の誰もがそれに気付けなかった、それは誰のせいでもない!」
「それでも私は自分の招いたこの結果を懺悔せずにはいられない、私はあの混乱の渦中一人で中央から逃げ出したのだ、何が起こっているのかも知らずに己の保身だけを考えて逃げ出した!」

 僕は祈るようなウルの頭を抱き締め、何度も「許すよ」と繰り返す。だって彼は何も悪くない、僕なんかの許しでウルの心が晴れるのかどうかは分からなかったけれど、それでも大きな体躯を小さく縮こませた彼があまりにも哀れに見えて、僕は抱き締めずにはいられなかったんだ。

「私は君にも酷い事をした」
「なに? 僕はウルに酷い事なんてされてないよ」
「初めてだった君を私は優しく抱いてやる事もしなかったのにか?」

 瞬間僕の頬に血が上る。だって僕はそれを酷い事だなんて欠片も思っていなかったのだ、むしろそうされて当然の事を僕は言ったし、そもそも彼に怖い事は何もされていない。襲われて乱暴に身体を暴かれそうになる経験は何度もしていた、だけどウルはそれに比べたらずいぶん優しく抱いてくれたと僕は思うのだ。

「ウルは優しかったよ、現に僕はどこも怪我だってしてないだろ」
「それは当たり前だろう! あれは愛を紡ぐ行為で、とても神聖な儀式だ! そんな乱暴にするものじゃない、だが……」

 僕の腕に残る微かな青痣、それはもうだいぶ薄れて気にする程の事もないというのに、ウルはその青痣を撫でて眉間に皺を寄せる。

「僕、これ嬉しかったんだよ。僕にウルを刻み付けられた感じがしてさ、すごく嬉しかった」
「君はまたそういう事を……」
「だってホントの事だし」

 ウルはとても複雑な表情で「やり直させてはくれないか?」と僕に問う。

「なにを……?」
「私達の初夜を、そして君の気がまだ変わっていないのなら、私を君の家族にしてはくれないか?」

 ウルのその言葉を理解するのに時間を要した、そして理解すると同時に僕の涙腺は決壊して涙が止まらなくなってしまった。

「そっ……そんなのっ、っく、いいに、決まってる!」
「肯定と受け取っても……?」

 僕はもう言葉が出なくて、何度も何度も頷いた。するとウルの大きな手が僕の頬を優しく包んでまた僕の涙を舐め上げた。



 ウルの手が僕の後ろを頭を抱き寄せて僕の耳をさわりと撫でる、そのまま口付けられて彼の肉厚な舌が口内に入り込んでくるのだけど、そんな口付けをした事がない僕は呼吸もままならない。

「っ……ウル……いき、苦し……っ」
「あ……すまん、つい」

 慌てたように身を離す彼の瞳が不安そうに僕を見つめる。そんな叱られた子供みたいな顔しないでよ、もう本当に可愛いなぁ。
 そろりそろりと触られてその壊れモノを扱うような触れ具合がもどかしい僕はウルの首にぎゅっと抱きつく。

「そんなに簡単に壊れないって、言ってるのに」
「いや、でもな……私の手は今まで魔物を倒す事しかしてこなかった手だ、君を傷付けるのが怖い」

 ウルは大きな体躯をしているし、戦えばとても強いのに意外と繊細な心の持ち主だなと僕は思う。

「ウルの手は誰かを傷付けるような手じゃないよ、大きくて逞しくて、僕を守ってくれる優しい手だ」
「ビット……」

 僕はウルの手を取って僕の胸へと持っていき「ドキドキしてるの分かる?」と彼の瞳を覗き込んだ。

「ウルに触って欲しくてドキドキしてるんだ。僕ね、今まで誰にもこんな風になった事ないんだよ。僕はヨムの奥さんだし、恋なんかできない、しちゃダメだってずっと思ってきた。だけどね、僕はウルに助けてもらったあの日、ウルに恋をしちゃったんだと思う」
「ビット……」
「それにさっきから僕のお腹の奥が疼くんだ……僕って淫乱なのかな、ここ……ウルが欲しくてキュンキュンしてる」

 胸に当てた掌をそのまま下肢まで下げていくとウルがそれを凝視して息を呑むのが見て取れる。僕の身体はウルの身体を覚えてる、もう一度アレが欲しいと疼く僕の身体はどこかおかしいのかもしれない。

「煽らないでくれ、ビット」
「だって……」

 ズボンを履いたままのウルの股間の盛り上がり、アレがこの間、僕の中に入ったのだ。正直気持ちがいいとは思わなかったけど、欲しいと思うのは本能なのかな? 僕はウルのズボンに手を伸ばし、ソレを引っ張り出そうとして腕を掴まれた。

「ひとつだけ、君に言っておかなければいけない事がある」
「なに?」
「前回のアレな、全部入っていないんだ」
「……え?」
「君の中がとてもキツくて、自分も全く余裕がなくて挿入なかばで終わってしまった」

 初めてウルと抱き合ったのは一週間程前、後ろから突かれたから全然見えてなかったし、正直わりとあっけない感じで、交尾ってこんなモノなんだって思っていたけど、もしかしてアレ、ちゃんと出来てなかったの……?

「正直君のその華奢な身体に無体を働くのはどうかと思うのだが……」

 僕は掴まれていない反対の手でウルのズボンを下げる。

「あ、こら!」

 そこにぼろんと現れたウルの陰茎、それは僕の腕の太さ程もあって驚く。あれ? これ僕、大丈夫? 前回どの辺まで入ったの? それこそ先っぽしか入っていなかった可能性に僕は息を呑む。これ、全部僕の中に入ったら、僕、一体どうなっちゃうんだろう。
 だけど凄い、これ欲しい。
 僕の瞳は彼の陰茎に釘付けで、腹の奥がまたきゅんと疼いた。僕の中で何かのスイッチが入ったように下肢の疼きが止まらない。
 ウルのとは違って短く細い僕の陰茎はあまり立派ではないのだけど、そんな僕の昂りも持ち上がっているのが分かる。

「ねぇ……ウル、ここ触って」

 腰から下へ尻尾の付け根まで自分の指で肌をなぞっただけで僕の腰は勝手に揺れてしまう、どうしよう僕一人だけで勝手に発情してるみたいだ。
 やはり壊れモノを扱うようなウルの指が言われるがまま僕の肌を撫でていく。

「うは……きもちぃ」
「君はここが好きなのか?」

 尻の割れ目の辺りをすりっと撫でられ、またしても僕の腰は勝手に跳ねた。僕の尻は彼の両手でまるっと包み込まれ、柔々と揉まれたらもう駄目だった。

「あ、なんかきちゃう!」

 腹の奥が疼く、ウルが僕の尻を揉みながらべろりと僕の胸元から首筋を舐め上げたら、あまりの刺激に目の前がくらくらした。
 股の間が湿っぽい、これは前回あまり感じなかった感覚。

「おなか、キュンキュンするぅ」
「大丈夫か……?」
「だいじょうぶじゃ、ないぃ……なにこれぇぇ?」

 足を開いて自身でズボンの上から秘奥を探ると、そこはズボンまでびしょ濡れで何が起こっているのか僕にも分からない。足に張り付く布地が気持ちが悪くて、それを脱いでしまうと腿までたらりと何かが垂れてきて、それは僕の身体の内から溢れ出しているのだと分かる。
 前回はこんな事にはならなかった僕はウルを涙目で見やると、ウルの瞳は僕のそこに釘付けで顔を寄せられたと思ったらそのままぱくりと咥えられてしまった。

「やぁ……そんなとこ舐めないでぇ!」

 長く肉厚な舌が僕の中へと忍び込んでくる、僕のお腹は更にきゅんきゅんと疼いて仕方がない。がっちりと尻は掴まれたまま逃げる事も叶わなくて、くちゅりくちゅりと卑猥な水音が室内に響いた。

「はぁ、あっ、あっ……ひぅん!」

 声を抑える事が出来なくて僕は喘ぎ声を零し続ける。ウルのふわふわとした毛の触れている部分がこそばゆくて気持ち良くて、頭が変になりそう。

「もぅ、ちょうだい、ねぇ……ウルぅ」

 僕の声は聞こえているのだろうにウルは顔を上げない。耳だけが僕の声を拾っているのかこちらを向いていて、これ絶対意地悪だ。
 腹奥の疼きは留まるところを知らず、忍び込んでくる舌では届かない奥に欲しいと身体が疼く。

「ねぇ、ここぉ、ふぅ……ん」
「ああ、私ももう限界だ」

 舌なめずりするウルの鼻先が濡れている、彼の陰茎は更に太く逞しく屹立していてうっとりした。だけどちょっとだけ僕のと形が違っていて何故なのかと不思議に思う。僕の足の間に斜めに身体を割り込ませるようにして、彼のソレが僕の中に入ってくる。ねじ込まれる肉に僕の身体はずり上がるのだが、それを抑え込むように抱きしめられて息もできない。

「あっ、あっ、はいって……んぁっ!」

 それこそ前回は全部ではなかったと言われた通り内臓を持ち上げる圧迫感は半端ないのだけど、苦しいより気持ちいいの感覚が脳内を麻痺させていく。
 奥の奥まで蹂躙され、だけどそれが気持ち良くて仕方がない僕はどこか理性が壊れてしまったのだろうか? 本能ってすごい、それでも自分がどうすればいいのかちゃんと分かってる。

「ここっ、ここまで入れてっ!」

 自分の腹を撫でるようにそう言うと、僕の腰を掴んでウルは更に腰を進めた。

「おりてきてるからぁ、そこにちょうだいっ! はやくぅ!」
「? なにが……」

 戸惑い顔のウル。だよね、分からないよね、だって僕とウルとは種族が違う。ウサギの生存戦略なんて知るはずもない彼が戸惑うのも当然で、でも僕には分かるんだ、今ここで彼の種を取り込めばたぶん僕の腹には……

「いいからっ、あぁ!」

 戸惑いながらも夢中でウルを求める僕に彼も瞳をぎらつかせ腰を打ちつけた。僕の胎内は彼の種を搾り取ろうとうねり、僕は気持ちが良くて達してしまった。たぶんそれは彼も同じで胎内に広がる温もりに僕は笑む。
 はぁはぁと大きく息を吐き出す熱を逃がす、けれどウルは「まだだぞ」と僕の瞳を覗き込んだ。
 思いのほかウルの射精は長いのか揺さぶる腰が止まらない。それに何だろう? 陰茎の根本膨らんでる? いったばかりで快感に過敏になっている僕は頭がおかしくなりそうでずり上がるように逃げようとしてもその球状の膨らみが引っかかって全然抜ける気配がない。

「僕っ、いまイったぁ! ひんっ! ダメ、ダメ、あぁぁ……」
「すまん! あともう少し……っ」

 あともう少しと言われてからの数十分はとても長く、逃げようとするたびに身体中を甘噛みされた。ただでさえ敏感になっている僕の身体はきゅっと彼を締め付ける、すると逆にそれがまた刺激になって何度もウルは僕の中に精を放った。
 どうにかそれも終わって彼が僕の中から出ていった時にはお腹はぱんぱんに膨れていたし、胎内に収まりきらなかった分はどろりと零れてくる。

「これ、絶対あかちゃんできた……」

 お腹を撫でながら呟いた僕の言葉に瞬間驚いたような表情のウルがこちらを凝視するので、不安になった。

「子供が……できるのか?」
「……嫌なの?」

 もしそんな事を言われたら僕は泣いてしまう。思わず涙ぐみそうになった僕をウルは慌てたように抱きしめた。

「嫌じゃない! そうじゃないんだ……ただ、今までそういう事を考えた事がなくて、子供か……はは、そうか、子供か!」

 僕を抱きしめウルは笑い、改めて「結婚してくれ」と僕に告げる。それに否がある訳がない僕は嬉しくて、彼の腕の中で何度も頷いた。



 僕は自分の妊娠を確信していたけれど、それでもそれが確定するのにはひと月ほどを要した。僕達はもうその頃には結婚を決めていたけど、いざお披露目という段になってウルが難色を示す。
 別に番になる事を嫌がっている訳ではない彼なのだが、彼にはどうにも顔を合わせにくい人がいるようで「わざわざそんな周りに言って回らなくても……」と及び腰になってしまったのだ。

「こういうのはお祝い事だよ、周りに言って回るのは当然だろ? それに子供もできたんだもの、いつまでも隠してなんていられないよ。僕とスバル君が仲良いの、ウルだって知ってるだろ?」
「それはそうなのだが……」

 この街に帰ってきたというスバルは当然のようにうちのお店にも買い物に来てくれたりしてたんだけど、その度毎にウルが何かと用事を見付けてはそそくさと姿を隠すのを変だなと思っていたのだ。それはスバルだけに留まらずシロウやシリウスが来た時も同じで、どうやらそれはウルが彼等から逃げ回っていたせいなのだと合点がいった。

「ウルはそんなにスバル君が苦手なの? まだ憎い? 顔も合わせたくない? だったら無理強いはしたくないけど……」
「もう憎いなどとは思っていない、だが合わせる顔がないだろう……私が彼等に何をしたかを思い出せ」
「え~……もうスバル君も皆も気にしてないと思うよ? それに仲間の何人かがまだ見付からなくて探してるって、その中にウルも入ってるんじゃないのかな?」
「そんな訳がない、私は裏切り者だぞ!?」
「ん~?」

 普段の姿はとても格好いい彼だけど、仲間の事となると途端に及び腰になって逃げ隠れする彼が僕はとても不思議で、だけどいつまでも逃げおおせるとは思わないんだけどなぁ。
 僕はウルに抱きついてウルの顔を見上げる。

「僕は僕の格好いい旦那さんをスバル君に自慢したいなぁ~」
「んんっ、それは! いや、しかしだな!」
「問答無用! 今度お披露目会するからね! この子の為にも腹決めてよね、パ~パ」

 うぐっと言葉に詰まったウルは渋々と頷いたけど、これ事前にやる日を伝えておいたら当日見張っておかないと逃げ出しそう。いっそサプライズで当日伝えればいいのかな?
 うん、そうしよう。さっそくスバル君達に招待状を送らないと、だってぐずぐずしてたらお腹の子が生まれちゃう。僕、妊娠出産初めてだし、それに関してはスバル君の方が先輩だもの、教えを乞いたい事はいくらもあるんだ。子供は悠長に待っててなんてくれないからね。
 ヨムの遺してくれた家系図にはそのうちこの子の名前も刻んでもらおう。当然、僕の横にはウルの名前も書いてもらう。だって僕の隣は空いたまま、ヨムは自分の名前を刻んではくれなかった。
 まぁ、今となってはヨムの気持ちも分からなくもない、さすがに孫よりもずっと年下の、しかも血縁のある僕に手なんか出せなかったよね。
 家族に縁のなかった僕達だけど、これからはもっと家族が増える。半獣人としては僕はもうだいぶ年増で色々心配事がない訳じゃないけど、僕がいなくなった後もウルが寂しい想いをしないように子供はたくさん産んであげたいな。
 多産はウサギ族の特徴だし、ウルが落ち込む暇なんてないくらい頑張るつもりだから頑張ってよね、パパ♡

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