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運命の子供たち
番外編:手紙
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俺の名前はノエル・カーティス、父親探しをしに来た首都イリヤでようやく父親も見付かり、その際に散々巻き込まれた事件も収まって明日には俺とじいちゃんはルーンへと帰る。
ここにはたくさんの事件もあったけど、たくさんの出会いもあった。もう明日にはこの地を離れる俺だけど、それを俺は少し寂しいと思ってしまっている。
「どうかしましたか、ノエル君?」
滞在させてもらっているのはファルス城、滞在先はカーティスの屋敷でも良かったのだが、俺は両手が使えなくて屋敷の片付けも手伝えない、だったらここで治療に専念しろと置いていかれて、分不相応にも俺はファルス城で客分扱いの待遇を受けている。
声をかけてきたのはイリヤ滞在中散々世話になり、現在も世話をかけまくっているユリウス・デルクマンさん、通称ユリ兄だ。
城の窓から城下町をぼんやり眺めていた俺に心配そうに寄って来た。
「ユリ兄、別に何でもないよ。この眺めも今日が最後だと思ったらちょっと感傷的になっただけ」
「ノエル君は明日にはルーンに帰ってしまうのですよね……」
「うん、マイラーさん家のローズさんも一緒だって」
ユリ兄は微かに微笑み頷くと「寂しくなります」とそう言った。
「短い間ですが、お世話になりました」
「本当に短かったですよ。私はもっとお世話がしたかった」
「はは、ユリ兄は本当に世話好きだね。いいなぁ、俺もこんな兄さん欲しかった。ヒナちゃん達が羨ましい」
「ノエル君の世話を焼くのは兄としてばかりでは、なかったのですけどねぇ……」
そう零すように言ってユリ兄は俺の横に並んで城下町を見やる。
「火傷の具合は如何ですか?」
「まだ少し引き攣れる感じはするけど、だいぶいいですよ」
「見せてもらっていいですか?」とユリ兄は俺の手を取る。俺は構わないとその手を彼に預けた。
包帯の巻かれた手、その包帯を取るとまだ火傷の跡は残っているが、だいぶ赤みも引いている。
「痕は残らなさそうですね」
「男なんで、多少残っても問題ないですよ」
「そういう問題ではないです。ノエル君の手は美味しい料理を作る事のできる魔法の手なのですから、大事にしないと」
「あはは、そうですね」
ユリ兄は何故か本当に俺の料理を気に入って食べてくれた。最後の最後に何も食べさせて上げられないのは少し残念。俺、ユリ兄が美味しいそうに食べてるの見るの、意外と好きだったんだよな。
「もし、ルーンに来る機会があったら、また料理ご馳走しますよ。それか、俺が騎士団に入隊しにイリヤに来る方が早いですかね」
「3年、ですよね。3年は長い……」
「3年後、俺が15でユリ兄は……」
「21ですね」
「意外とそんなもんなんだ」
俺の言葉にユリ兄は「やっぱり私の事、年相応に見てないでしょう?」と少し拗ねたような表情を見せた。
「だってユリ兄落ち着いてるから、妙に老けて見えちゃうんだよ」
「それはノエル君も同じでしょう。予想外に年齢が若すぎて、こっちはアプローチもできやしない」
「え……?」
「さすがに6歳も下の子に手を出していいものか、と思うのですよ。見た目も中身も同年代なのに、歳ばっかり幼くて、もっと早く育ってください」
言葉の意味を反芻して俺はぼっと顔を赤らめながら「無茶言わないでよ、ユリ兄」とその赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いた。
ユリ兄は本当に俺への好意を隠さない。今まで男同士など考えた事もなかった俺だけど、この街に来て色々な人を見て、バース性というものの存在を知って、人に対する見方も変わった。
「でもさ、ユリ兄、ユリ兄はそんな事言うけど、俺、女でもΩでもないんだよ?」
「好きになったら、そんなものは関係ない」
「ユリ兄は俺のどこがそんなに気に入ったの?」
赤くなった顔を掌で仰ぐようにして、俺は尋ねる。
「一番は料理上手な所ですよ」
「あっは、色気より食い気じゃん」
「一番は、と言ったでしょう。他にもたくさんありますよ、真面目で素直で頑張りやな所も大好きです」
「買いかぶりすぎ」
「そんな事ないです」
少しむきになったようにユリ兄は俺の良い所をあげつらうのだが、俺はそれがなんだかくすぐったい。
「あはは、もういいよ、ユリ兄、ありがとう。そんなに俺の事見ててくれたの嬉しいなぁ」
「まぁ、ほぼ一目惚れですからね」
「はは、それは嘘だね。だって最初は俺のこの赤髪をお姉さんと間違えたんでしょう?」
「本当に最初だけじゃないですか、その後ノエル君の傍にいたのはどうしても気になったからですよ」
「そりゃ父親の隠し子とか、気にならない訳がない」
俺が笑うとユリ兄は何故か憮然とした表情を見せる。いつも笑顔のユリ兄が珍しい。
「うちの両親に限ってそれはないと最初から思っていましたよ、それでも貴方に付き合ったのはやはり貴方が気になったからです」
「そんなにむきにならなくてもいいのに」
「むきになんてなってません」
あはは、可笑しなユリ兄、だけどこんなやり取りも、もうしばらくはできないんだな。
「あぁ~あ、帰りたくないなぁ……」
「いっそイリヤに留まったら良くないですか? 私もしばらくはイリヤにいる予定ですし、ウィルもヒナもきっと喜びますよ」
「はは、母さんがそれは絶対駄目だって。じいちゃんも渋い顔してたから、たぶん無理」
「そうですか」とユリ兄が肩を落とす、俺より凹んでるように見えるのちょっと嬉しい。
「だったら手紙を書きます。いいですよね?」
「俺、文章書くのあんまり得意じゃないですよ?」
「私も同じですよ、だけどこのままノエル君と疎遠になるのは嫌です」
ユリ兄は自分達の家はまだ決まっていないと言うので、俺は彼に手紙を書けないのに、ユリ兄は「必ず手紙を出します」と笑みを零した。そういえば俺と母さんが住んでる家って元々ユリ兄達が住んでたんだっけ?
「ユリ兄はあの家の事覚えてる?」
「勿論覚えていますよ。楽しかったですからね。いつでも誰かがいる賑やかな家でした。猫も飼っていたのですけど、引越しの時、猫は家に付くからって連れて行けなかったのですよ、お店の看板猫でしたからね」
「それって、もしかして『ミーちゃん』?」
「そうです! ミーちゃん、懐かしい……まだ元気ですか? さすがにもう無理ですかね……」
「うん、すごい年寄りで去年……だけど今は孫猫が店番してますよ!」
「あぁ、そうなのですね……きっとルーンの町並みもあの頃とは変わってしまっているのでしょうねぇ」
「どうかな? 田舎だからあんまり変わってないかも」
ユリ兄が城下町を眺め、遠い目で昔を思い出しているように瞳を細めた。
「そういえばノエル君の部屋ってどこですか?」
「俺の……? 廊下の一番隅の角部屋ですよ」
「あはは、私達と同じだ。そこ私達の部屋でもあったんですよ」
不思議な縁もあったものだ、そんな事とは露知らず、俺はユリ兄の育った部屋で暮らしていたらしい。
「ノエル君はその部屋の隅、天井が一枚はがれるの知ってます?」
「え? そうなんですか?」
「窓側の端ですよ、そこに引越しの時に置いてきた私の宝物があるはずです、誰にも見付かってなければそのまま置いてあると思うので、もし良かったら見てみてください」
「あは、何だろう? すごく気になる」
俺の言葉に「帰ってからのお楽しみです」とユリ兄は笑みを零した。
後日俺がルーンに戻り、部屋の天井を確認すると、そこは本当に軽く押しただけで板が外れた。恐る恐る天井裏を覗き込んだら、そこにあったのは小さな箱と傍らに置かれた卵のような物。
埃を被ったそれらを下ろして、埃を払って箱を開けると、そこにはいかにも小さな子が好みそうな形のいい石ころや、小さく細々した工作等が入っていた。
「あはは、これユリ兄が作ったのかな? 意外と不器用、ふふ」
箱と一緒に置かれた卵は何だか分からなくて、埃を払って振ってみたり転がしてみたりもしたのだが、結局用途が分からなかった。
そうこうしている内に我が家にユリ兄からの手紙が届き、その手紙には幾つかの矢印の書かれた謎の手紙が入っていて、俺は首を傾げる。
意味が分からなくてすぐに返事を返したら、手紙はまたすぐに返ってきた。
『卵を開けてみてください』
そんな短いメッセージ、この卵はやはり開くらしい。
なるほど、矢印は卵の開け方か? 卵をひねり回してどうやら矢印通りに回す事ができると分かった俺は卵をワクワクしながらユリ兄の指示通りに回していく。
「右、左、右、右、左!」
卵があっけないほど簡単にぱかりと開いた。その卵の中には小さなメッセージカードが詰まっていた。子供の文字は読みづらく解読するのに時間がかかったが、それはルーンの町のどこかの場所を示している様子だ。
それは幾つか入っていて、俺はそのメッセージカードを持って町を散策した。その指し示された場所は勿論知っている場所もあったのだが、俺の知らない隠れた遊び場のような場所もあって、俺はそこに小さなユリ兄を見たような気がした。
自分の住んでいる町、そんな中で自分の知らない場所を、今ここにいない人に教えてもらう、それはなんだかとても不思議な感覚だ。
俺はその全ての興奮を手紙に綴って送り返す、すると今度はユリ兄があそこはどうなっているか? ここはどうなっているのか? と聞いて返してくる。そんなやり取りを続けていたら、手紙なんて書くのは得意じゃないのにと思っていた俺がいつの間にか手紙を書く事を苦にも思わなくっていた。それどころか彼からの手紙を心待ちに待つようになっている自分に驚く。
ある意味これも彼の作戦だったのかな? と思うと、彼の作戦は大成功だったという事だ。
『拝啓ユリ兄、お元気ですか? 今日は町で面白い物を見ましたよ……』
俺は日々の町の暮らしを綴って彼に送る、ユリ兄も俺のこの手紙を俺のように心待ちにしてくれていたらいいな、と思いながら……
ここにはたくさんの事件もあったけど、たくさんの出会いもあった。もう明日にはこの地を離れる俺だけど、それを俺は少し寂しいと思ってしまっている。
「どうかしましたか、ノエル君?」
滞在させてもらっているのはファルス城、滞在先はカーティスの屋敷でも良かったのだが、俺は両手が使えなくて屋敷の片付けも手伝えない、だったらここで治療に専念しろと置いていかれて、分不相応にも俺はファルス城で客分扱いの待遇を受けている。
声をかけてきたのはイリヤ滞在中散々世話になり、現在も世話をかけまくっているユリウス・デルクマンさん、通称ユリ兄だ。
城の窓から城下町をぼんやり眺めていた俺に心配そうに寄って来た。
「ユリ兄、別に何でもないよ。この眺めも今日が最後だと思ったらちょっと感傷的になっただけ」
「ノエル君は明日にはルーンに帰ってしまうのですよね……」
「うん、マイラーさん家のローズさんも一緒だって」
ユリ兄は微かに微笑み頷くと「寂しくなります」とそう言った。
「短い間ですが、お世話になりました」
「本当に短かったですよ。私はもっとお世話がしたかった」
「はは、ユリ兄は本当に世話好きだね。いいなぁ、俺もこんな兄さん欲しかった。ヒナちゃん達が羨ましい」
「ノエル君の世話を焼くのは兄としてばかりでは、なかったのですけどねぇ……」
そう零すように言ってユリ兄は俺の横に並んで城下町を見やる。
「火傷の具合は如何ですか?」
「まだ少し引き攣れる感じはするけど、だいぶいいですよ」
「見せてもらっていいですか?」とユリ兄は俺の手を取る。俺は構わないとその手を彼に預けた。
包帯の巻かれた手、その包帯を取るとまだ火傷の跡は残っているが、だいぶ赤みも引いている。
「痕は残らなさそうですね」
「男なんで、多少残っても問題ないですよ」
「そういう問題ではないです。ノエル君の手は美味しい料理を作る事のできる魔法の手なのですから、大事にしないと」
「あはは、そうですね」
ユリ兄は何故か本当に俺の料理を気に入って食べてくれた。最後の最後に何も食べさせて上げられないのは少し残念。俺、ユリ兄が美味しいそうに食べてるの見るの、意外と好きだったんだよな。
「もし、ルーンに来る機会があったら、また料理ご馳走しますよ。それか、俺が騎士団に入隊しにイリヤに来る方が早いですかね」
「3年、ですよね。3年は長い……」
「3年後、俺が15でユリ兄は……」
「21ですね」
「意外とそんなもんなんだ」
俺の言葉にユリ兄は「やっぱり私の事、年相応に見てないでしょう?」と少し拗ねたような表情を見せた。
「だってユリ兄落ち着いてるから、妙に老けて見えちゃうんだよ」
「それはノエル君も同じでしょう。予想外に年齢が若すぎて、こっちはアプローチもできやしない」
「え……?」
「さすがに6歳も下の子に手を出していいものか、と思うのですよ。見た目も中身も同年代なのに、歳ばっかり幼くて、もっと早く育ってください」
言葉の意味を反芻して俺はぼっと顔を赤らめながら「無茶言わないでよ、ユリ兄」とその赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いた。
ユリ兄は本当に俺への好意を隠さない。今まで男同士など考えた事もなかった俺だけど、この街に来て色々な人を見て、バース性というものの存在を知って、人に対する見方も変わった。
「でもさ、ユリ兄、ユリ兄はそんな事言うけど、俺、女でもΩでもないんだよ?」
「好きになったら、そんなものは関係ない」
「ユリ兄は俺のどこがそんなに気に入ったの?」
赤くなった顔を掌で仰ぐようにして、俺は尋ねる。
「一番は料理上手な所ですよ」
「あっは、色気より食い気じゃん」
「一番は、と言ったでしょう。他にもたくさんありますよ、真面目で素直で頑張りやな所も大好きです」
「買いかぶりすぎ」
「そんな事ないです」
少しむきになったようにユリ兄は俺の良い所をあげつらうのだが、俺はそれがなんだかくすぐったい。
「あはは、もういいよ、ユリ兄、ありがとう。そんなに俺の事見ててくれたの嬉しいなぁ」
「まぁ、ほぼ一目惚れですからね」
「はは、それは嘘だね。だって最初は俺のこの赤髪をお姉さんと間違えたんでしょう?」
「本当に最初だけじゃないですか、その後ノエル君の傍にいたのはどうしても気になったからですよ」
「そりゃ父親の隠し子とか、気にならない訳がない」
俺が笑うとユリ兄は何故か憮然とした表情を見せる。いつも笑顔のユリ兄が珍しい。
「うちの両親に限ってそれはないと最初から思っていましたよ、それでも貴方に付き合ったのはやはり貴方が気になったからです」
「そんなにむきにならなくてもいいのに」
「むきになんてなってません」
あはは、可笑しなユリ兄、だけどこんなやり取りも、もうしばらくはできないんだな。
「あぁ~あ、帰りたくないなぁ……」
「いっそイリヤに留まったら良くないですか? 私もしばらくはイリヤにいる予定ですし、ウィルもヒナもきっと喜びますよ」
「はは、母さんがそれは絶対駄目だって。じいちゃんも渋い顔してたから、たぶん無理」
「そうですか」とユリ兄が肩を落とす、俺より凹んでるように見えるのちょっと嬉しい。
「だったら手紙を書きます。いいですよね?」
「俺、文章書くのあんまり得意じゃないですよ?」
「私も同じですよ、だけどこのままノエル君と疎遠になるのは嫌です」
ユリ兄は自分達の家はまだ決まっていないと言うので、俺は彼に手紙を書けないのに、ユリ兄は「必ず手紙を出します」と笑みを零した。そういえば俺と母さんが住んでる家って元々ユリ兄達が住んでたんだっけ?
「ユリ兄はあの家の事覚えてる?」
「勿論覚えていますよ。楽しかったですからね。いつでも誰かがいる賑やかな家でした。猫も飼っていたのですけど、引越しの時、猫は家に付くからって連れて行けなかったのですよ、お店の看板猫でしたからね」
「それって、もしかして『ミーちゃん』?」
「そうです! ミーちゃん、懐かしい……まだ元気ですか? さすがにもう無理ですかね……」
「うん、すごい年寄りで去年……だけど今は孫猫が店番してますよ!」
「あぁ、そうなのですね……きっとルーンの町並みもあの頃とは変わってしまっているのでしょうねぇ」
「どうかな? 田舎だからあんまり変わってないかも」
ユリ兄が城下町を眺め、遠い目で昔を思い出しているように瞳を細めた。
「そういえばノエル君の部屋ってどこですか?」
「俺の……? 廊下の一番隅の角部屋ですよ」
「あはは、私達と同じだ。そこ私達の部屋でもあったんですよ」
不思議な縁もあったものだ、そんな事とは露知らず、俺はユリ兄の育った部屋で暮らしていたらしい。
「ノエル君はその部屋の隅、天井が一枚はがれるの知ってます?」
「え? そうなんですか?」
「窓側の端ですよ、そこに引越しの時に置いてきた私の宝物があるはずです、誰にも見付かってなければそのまま置いてあると思うので、もし良かったら見てみてください」
「あは、何だろう? すごく気になる」
俺の言葉に「帰ってからのお楽しみです」とユリ兄は笑みを零した。
後日俺がルーンに戻り、部屋の天井を確認すると、そこは本当に軽く押しただけで板が外れた。恐る恐る天井裏を覗き込んだら、そこにあったのは小さな箱と傍らに置かれた卵のような物。
埃を被ったそれらを下ろして、埃を払って箱を開けると、そこにはいかにも小さな子が好みそうな形のいい石ころや、小さく細々した工作等が入っていた。
「あはは、これユリ兄が作ったのかな? 意外と不器用、ふふ」
箱と一緒に置かれた卵は何だか分からなくて、埃を払って振ってみたり転がしてみたりもしたのだが、結局用途が分からなかった。
そうこうしている内に我が家にユリ兄からの手紙が届き、その手紙には幾つかの矢印の書かれた謎の手紙が入っていて、俺は首を傾げる。
意味が分からなくてすぐに返事を返したら、手紙はまたすぐに返ってきた。
『卵を開けてみてください』
そんな短いメッセージ、この卵はやはり開くらしい。
なるほど、矢印は卵の開け方か? 卵をひねり回してどうやら矢印通りに回す事ができると分かった俺は卵をワクワクしながらユリ兄の指示通りに回していく。
「右、左、右、右、左!」
卵があっけないほど簡単にぱかりと開いた。その卵の中には小さなメッセージカードが詰まっていた。子供の文字は読みづらく解読するのに時間がかかったが、それはルーンの町のどこかの場所を示している様子だ。
それは幾つか入っていて、俺はそのメッセージカードを持って町を散策した。その指し示された場所は勿論知っている場所もあったのだが、俺の知らない隠れた遊び場のような場所もあって、俺はそこに小さなユリ兄を見たような気がした。
自分の住んでいる町、そんな中で自分の知らない場所を、今ここにいない人に教えてもらう、それはなんだかとても不思議な感覚だ。
俺はその全ての興奮を手紙に綴って送り返す、すると今度はユリ兄があそこはどうなっているか? ここはどうなっているのか? と聞いて返してくる。そんなやり取りを続けていたら、手紙なんて書くのは得意じゃないのにと思っていた俺がいつの間にか手紙を書く事を苦にも思わなくっていた。それどころか彼からの手紙を心待ちに待つようになっている自分に驚く。
ある意味これも彼の作戦だったのかな? と思うと、彼の作戦は大成功だったという事だ。
『拝啓ユリ兄、お元気ですか? 今日は町で面白い物を見ましたよ……』
俺は日々の町の暮らしを綴って彼に送る、ユリ兄も俺のこの手紙を俺のように心待ちにしてくれていたらいいな、と思いながら……
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