運命に花束を

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世界一メンドくさい君を想う

世界一メンドくさい君を想う⑥

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 数ヶ月前、バース性のフェロモンを抑制するという、きのこをその効能を理解もせず食べ続けていた俺とルークは、村の医者先生にきのこを食べる事を禁じられた。
 もしかしたら、それを食べる事を止める事で自分の性はΩに変わるかもしれないという事実に正直期待がなかった訳ではない。俺はルークが好きだったし、αにとって番えるのはΩのみ、βのままでもルークは俺を愛してくれるだろうが、それでも俺は自分がΩに変わる事を少し期待していたのだが、結局俺は何も変わらなかった。
 いや、変わった事も少しある。
 俺は気付いたら、いつの間にかバース性のフェロモンを感じる事ができるようになっていた。
 ルークがうちの村は匂いに溢れていて嫌だと言っていた事があったが、確かにあちらこちらから流れてくるその匂いに俺は慣れる事ができなかった。
 今まで無臭の中で暮らしてきた俺にとって、まるで大量の香水を振り撒いたような村の中での生活は正直かなりきつかったのだ。
 その中でルークの匂いだけが俺の安定剤で、俺は現在ルークに引っ付いて生活をする事を余儀なくされている。

「んふふ、役得役得」

 今日も買出しに出た後、匂いにやられて気分を悪くした俺をルークは膝の上に乗せるようにして介抱してくれている。

「役得とかふざけんな、こっちは本気で気分悪いってのに……」
「あはは、ごめんって」
「俺もう無理、この村無理、こんなんじゃ生活できない……」

 うちの村はバース性の人間が8割を占める特殊な村だ、バース性特有のこのフェロモンの匂いに慣れる事ができないようでは、この村の生活はかなり厳しい物になる。
 今までも決して居心地のいい村ではなかったが、この溢れんばかりの匂いの渦に嫌気のさした俺は涙目だ。

「今度、旦那のルーン派遣が決まったじゃん? 連絡係として拠点をどこに置こうか考えてたんだけど、ルーンに家借りる? あそこなら田舎だし、バース性の人間もほとんどいないから、かなり楽だと思うよ?」
「ルーンかぁ……町の人口も少ないからこの村で生活するよりマシかもな」

 俺はルークの肩に額を預けるようにして息を吸い込んだ。
 あぁ、本当になんでこいつの匂いだけは平気なんだろう……不思議だな。ルークからは爽やかなシトラスの薫りがする。それ以外はもう駄目だ、色々な匂いが混ざり合って判別もできない。

「それにしても、サクヤからは相変わらず何の匂いもしないねぇ」

 俺を抱きこんで、ルークは首を傾げる。

「βだったら普通だろ……?」
「それにしても体臭もしないのはやっぱりおかしいと思うんだけど、そういう体質なのかな?」

 匂いは感知できるようになっても、やっぱり俺はβだったのか俺からは何の匂いも湧いてはこなかった。がっかりする気持ちと、安堵の気持ちが半々で複雑な気持ちだ。

「でも、もう禁断症状も無くなったし、完全にきのこの効能なんて切れたと思うのに、やっぱり何の匂いもしないってのは、そういう事なんだろね」

 すんすんと俺の項の匂いを嗅いでルークは言う。

「俺がΩじゃなくてがっかりした?」
「元々βでも好きだって言ってるじゃん。サクヤはサクヤで何も変わらない、がっかりなんかしないよ」

 俺を甘やかすようにルークは俺の手を撫でる。あぁくそっ、最近ちょっとこいつが格好良く見える時が増えてて、なんか悔しい。

「そういえば、前にお前、お袋さんに会いに行くって言ってたのは、どうしたんだ? 止めたのか?」
「そんな事ないよ? サクヤの調子が悪そうだったから、先延ばししてるだけ。一緒に行くって約束だろ?」
「うん、そうだったな。場所はもう分かってるんだっけ?」
「親父にちゃんと聞いてあるよ、気分転換も兼ねて今度の休みに行く? この村にいるよりも楽かもしれないよ?」
「そうだな、うん。行くか」

 俺が頷くとルークはにっこり笑みを見せた。

「じゃあ、いよいよもって新婚旅行だ」
「え……?」

 あぁ、そういえばそんな話もしてたっけ?
 結局、俺達はまだ結婚をしていない。親への挨拶も済ませて、もういつでも結婚できる状態なのだが、如何せん自分がこの村に滞在中は常にこんな調子でろくすっぽ家から出られないのだ。
 式だ、何だと言っていられる状態ではなくて、もう、そういうの全部止めようという所で話しは纏まりつつある。

「じいちゃんさぁ、いまだにサクヤのその体調不良はつわりじゃないのか? って疑ってるんだよ。オレ達まだ清い仲なのに、全然信じてくれないの。この辺でそろそろその誤解、本当にしてもいい頃合いだと思わない?」
「だから俺はβで、子供は生めないって言ってるのに……」
「そこは置いといて、その前段階の話だろぉ」

 額をくっ付けるようにして瞳を覗き込まれ、そのまま唇を奪われた。

「まだ、駄目?」

 小首を傾げて可愛い子ぶっても、それ全部演技だってもう知ってるんだからな。
 でも、実際ルークはよく我慢していると思う。禁断症状が出ていた間も、黙って俺が言う通りに何もしないで抱いていてくれたし、こうやって匂いにやられるようになってからも、やはり笑って俺の介抱をしてくれている。
 そして、こうやって時々お伺いを立てるように誘いをかけてきては俺が「駄目だ」と言えば引き下がるのだから、まるで本当に忠犬だ。
 恋人関係に持ち込むまでは割と強引だったのに、ルークがそんな態度なので俺もなんとなくずるずると甘え倒していて、最近は少し悪いなと思ってもいるのだ。

「触るだけじゃ、やっぱり駄目か……?」
「それも好きだけど、抱きたいよ。サクヤはオレと抱き合いたいとは思わないの?」
「それは思っても、実質的な質量がそれは無理だって言ってる気がしてな……」

 抱き上げられているので、その下にある彼のイチモツを感じずにはいられない俺は少しだけ彼から身を離す。

「慣らせば大丈夫だって」
「慣らすってどうやって?」
「指で少しずつ広げてったり、そういう道具も一応あるよ?」
「道具は嫌だな……」
「じゃあ、指で。大丈夫、絶対痛い事しないから!」

 あぁ、うん、本気でやりたいんだってのはよく分かるよ……だけどなぁ……
 少し俺が戸惑っていると「ちょっと待ってて」とルークはいそいそとソファーを離れ、どこからか何か液体の入った細長い瓶を持って戻ってきた。

「それ、何?」
「潤滑剤」

 瞬間、俺が眉を顰めると、ルークは慌てたように「念の為準備してあっただけだから!」と言い訳めいた言葉を口にした。
 まさか、そんな物まで準備しているとは思わなかったので少しばかり驚いた。

「それ、どうするんだ?」
「垂らして滑りをよくするよ、嫌ならオレが直接舐めてもいいけど、サクヤどっちがいい?」

 直接、舐める……?
 意味を理解するのに数秒を要して、理解した途端に真っ赤になって「絶対、無理!」と叫んでしまった。

「無理無理、そんなとこ見られるだけでも無理!」
「もう何度か見てるけど?」

 確かにルークの悪戯な手がそこに触れた事は何度かある、けれど、その度ごとに「それは無理」と拒否してきていて、よもやそこを直接舐めようなんて、ホント無理、絶対無理。

「それじゃあ、やっぱりこれは必要だと思うよ」

 そう言ってルークはずいっと俺の方へと迫ってきた。
 あ……なんかもう拒絶できる雰囲気じゃないな、これ。いや、いずれは、とは思ってたよ? だけど、急にこんな展開、心の準備が追いつかない。

「ここに、オレのが入るように慣らすの、分かるだろ?」

 ルークに抱き込まれ尻を掴まれ、耳元で囁かれた。
 分かる、分かるけど!

「大丈夫、サクヤは何もしなくていいよ。オレに体を預けてて、悪いようにはしないから」

 だから、耳元で囁くなってば!
 完全に抱き込まれて身動きが取れない。それを知ってか知らずか、ルークはそのままその瓶の中身を俺の尻へと直接垂らす。ひやりとしたその感触に瞬間身震いをした。
 見られるのは嫌だと言ったせいか、服は脱がさずそのままで液体は重力に逆らわず下へと流れていく、その感触にどうにも慣れない俺はルークの背に腕を回してその胸に縋りついた。

「なんか、冷たいし、気持ち悪い」

 液体はさらさらとはしておらず、少し粘り気を帯びて肌へと絡みつく。
 そして、その液体を塗り広げるように彼の手が俺の尻を撫で上げ、そして、今まで散々拒み続けたその秘奥へと辿り着いた。
 液体を塗り込むように指はそこを突くのだが、ルークの言うようにそんな簡単に慣らして広げるなんて事ができる気は全くしない。

「足、もう少し広げられる?」

 言われた通りに足を広げると、指が一本ぬめりを纏って差し込まれた。

「んっ……ふ」
「痛い? 大丈夫?」

 痛いのは、痛いし、入ったとは言ってもまだ指先がほんの少しだけだけど、そこに指が入った事にびっくりだ。
 ルークは更にぬめりを足すように液体を尻へと流し込む。

「無理そうなら言ってね、止められるうちは止めるから」

 そんな逆に言えば『止められなくなったら止めない』宣言をされても困るのだけど、今はそれ所ではない。

「あ、んまり、動かさないで……っ、っふ」

 俺の中でゆるゆると指が蠢き、少しずつ少しずつ奥へと入っていくその感覚はどう表現した物かも分からない。
 入るはずのない場所に、入るはずのない物が入っていく異物感に、思わず涙が零れる。
 けれど、それと同時に腹の底からじわりじわりと這い上がってくるような快感にも俺は気付いていた。

「そんなに息詰めたら駄目だよ、ちゃんと息して」
「そんな事っ、言われても……」

 なんだか慣れた様子のルークに腹が立つ、俺は何もかもお前が始めてだというのに、なんなんだよ、その余裕。
 指が一本、届く最奥まで入ったのだろう、ルークもひとつ息を吐いた。

「サクヤ、オレの指分かる?」
「だからっ、動かすなって……ひうっ!」

 奥まで入れられた指を一気に引き抜かれて、悲鳴のような声が零れた。
 指先まで引き抜かれた指は、今度はまたゆるゆると差し込まれる、何度かそんな事を繰り返されて、だんだんその動きに妙な快感を覚え始めて吐息を零す。
 そんな頃を見計らったように下着ごとズボンを脱がされ、押し倒された。

「なに……?」
「やっぱり見ないとよく分からなくて」
「え……? やぁっ!」

 広げていた足を更に広げられ、彼の前に全てを曝け出す格好に羞恥の朱が上る。

「ここ、ヒクつき始めたの分かる? 物欲しそうに咥えてる」

 ぐちゅりと下肢で卑猥な音が零れた。

「今日は最後までは無理かと思ったけど、これ意外といけるかも……」

 ルークの視線は完全に俺の下肢に注がれて、恥ずかしくて足を閉じようとするのだが、そんな抵抗は予想済みなのだろう、彼はそれを許してくれない。

「見るなって言った! 見ないって言ったっ!」

 隠すように手を伸ばしたら、その手を取られてその秘部へと導かれる。

「ここにオレのが入るんだよ? ほら、触って、サクヤの指も入れてみようか?」

 いやいやをするように首を振っても、ルークは許してくれず、指は自身の秘部に触れ、その場所のぬめり具合に言葉を無くした。
 なんなんだろう、まるで自分から下肢を濡らしているようで恥ずかしい。

「ほら、指、簡単に入るだろ?」

 さすがに奥まで入れる事はできなかったのだが、自分の指先が自分の中に何の抵抗もなく入っていく、それはどうにも背徳的だ。

「ふふ、いい眺め。そのまま動かして、自分の良い所探してみてよ、オレじゃ加減がきかないから」
「やぁ……だ、むりぃぃ……」

 もう止めどもなく涙が零れる、恥ずかしい。無理矢理入れられた指をどうしていいかも分からない。抜きさろうとするだけで、身の内を快感が走って身を震わせる。
 どうにか、自分の中から指を抜きさったら、中からどろりと潤滑剤が零れ出してきた。
 すると突然ルークが「あれ?」と小首を傾げる。

「なんかサクヤからいい匂いがする」

 すんすんと何かを嗅ぎ出したルークが、俺の下肢へと顔を埋める。

「それっ、ヤダって言ったっ!」
「でも、本当に何かいい匂いがするんだよ?潤滑剤の匂いかと思ったけど、違うなぁ。こっちかな?」

 そう言ってルークはすっかり立ち上がっている、俺自身を撫でてまたすんと匂いを嗅ぐ。

「だからっ、そういう事するなっ! そんな所嗅いだっていい匂いなんかする訳ないだろっ!?」
「えぇ……でも絶対いい匂いしてるってば」

 くんくんと犬のようにルークは俺の匂いを嗅いでいく。そしてついでみたいに俺は全部の服を剥がれてしまった。お前は一枚も脱いでないくせに、ずるいっ!
 匂いを嗅ぐルークに裸体を晒して、居心地悪くへたり込むと下肢からまたとろりと液体が流れ出た。
 もう、どれだけ、塗りこんだんだよ! しかもなんだか下肢はじんじん疼くし、変な薬とか入ってたりしないだろうな?

「あぁ、やっぱりここなのかな?」

 最後にルークは俺の肩口に顔を埋め、大きく息を吸い込んだ。

「うわっ、効く……ヤバイ、理性飛びそう……」
「何が……?」
「分からない?サクヤからフェロモン、流れ出してきてる」

 へ? フェロモン? 嘘だろ?
 完全にあのきのこを断って、もうずいぶん経っている。だけど今までフェロモンの発露なんて感じたこともなかったのに。
 きょときょとと周りの匂いを嗅いでみるも、よく分からない。すると、ふいにルークの匂いががつんと俺にぶつけられた。

「な……ん、うっ、やぁ……」
「サクヤはあんまり強い匂い駄目みたいだから、今まで加減してきたんだけど、これ無理だわ。ごめんな、ちょっとキツイ? 大丈夫?」
「なに、これ……」

 下肢の疼きが酷くなった、そして思考に霞がかかる。
 また己の秘部からとろりと液体が流れ出すのが分かる。これはもしかして、潤滑剤じゃなくて、自分の中から溢れ出してる……?
 身体が疼く、なんで?怖い……

「やっぱりサクヤはΩだったんだ。意外ともうこれで番契約完了しちゃってたのかな?」

 ルークが俺の項を撫でた。そこにはもう数ヶ月も前にルークに噛まれた傷痕が残っている。
 番契約? でもだって、俺はβでそんなの無効……あれ? 今こいつ俺がΩだって言ったか?

「元々サクヤは匂いが無いし、番契約完了しちゃってたんなら、オレ以外にそのフェロモンが分からないのも当然だよな。だけど、こんな時だけフェロモン出してくるとか反則だ、オレの抑えが効かないよ……」

 そんな事言われたって俺にだって何がどうなってるのかさっぱり分からない。
 ルークに再び押し倒されて、キスを何度となく繰り返される。
 彼の手は俺の下肢を弄って、そこへとまた指を差し入れた。

「はは、すごく柔らかくなってる。しかも凄く濡れてるよ、さっきまでのが嘘みたいだ」

 指を2本同時に差し入れられて、中をぐにぐにと掻き回された。けれど、確かに先ほどまでの身体の強張りを感じない、そこは彼が欲しくて疼いている。
 急に淫乱な身体にでも変わってしまったようで戸惑いを隠せない。指は2本から3本へと増やされて、それでもそこは僅かな抵抗も見せる事はなかった。
 己の中から溢れるようにとろりとした液体が零れ落ちる、もうこれは間違いなく潤滑剤ではありえない。
 酷く身体が疼く、俺の雄もあと一歩の刺激を求めて蜜を零し始めた。
 まだ、服を脱ごうとしないルークに焦れて、そこに手を伸ばすと彼のイチモツも完全に勃ち上がっているのが分かる。

「ルーク、早く、これちょうだい」
「はは、サクヤの口からそんな言葉を聞く日が来るなんて、まるで夢みたいだ。いいよ、ちょっと待ってて」

 ルークが前を寛げると、飛び出すようにそれは目の前に現れて、思わずそれに口付けた。
 あぁ、なんでこんな事してるんだろう、でもなんかもう色々どうでもいいような気持だ。

「そんな事したら、入れる前に達っちゃうよ。サクヤもいい具合に理性が飛んでるみたいだね? おいで……」

 腕を引かれ、抱え上げられルークの上に乗り上げる。

「最初はね、自分で入れた方が痛くないと思うから……」

 そんな事を言われても、初めてで自分で入れろとか酷くない? 勝手も分からないのに、どうしていいのか分からなくて、ふるふると首を横にふった。

「無理? できない?」
「どうしていいか、分からない……」
「大丈夫ほら、ちゃんと支えてるから、サクヤはゆっくり座るだけでいいよ」

 立て膝で跨っている状態の俺の腰を抱いて、彼は彼自身を俺の尻へとあてがった。

「ゆっくり、うん……上手」
「んっ……ふっ……」

 少しずつ、俺の中に入ってくる熱くて大きな塊。縋るようにルークの首筋に抱きついて、ゆっくりゆっくり中へと迎え入れるのだがそれはなかなか全部は収まらない。

「はぁ、キツイ……むりぃ……」

 涙がぼろぼろ零れ落ちる。

「大丈夫、あと少し……あぁ、サクヤの中あったかい……」

 抱き支えてくれていたルークの腕が弛んで、へたりと腰の上に座り込むように、彼の全部が自分の中に収まった。

「っはぁぁ……」

 凄い、絶対無理だと思っていたのに、全部入った。でも入ったからといってそれで終わる訳ではない。

「サクヤ、動ける?」

 無理だと首をふったら「分かった」とルークは頷き、腰を下から一度突き上げられた。
 突き上げに跳ね上がった身体が、自身の体重で下へと落ちる。

「っ……ひっ!」

 物凄い刺激に、立ち上がっていた俺自身から蜜が滴るように零れ落ちた。

「ルーク、駄目っ!」
「なんで? 気持ちいいんだろ? こんなにやらしい蜜が零れてきた」

 ぐりぐりとその蜜を撫で込まれるように亀頭を責められ、頭の芯から足の指先まで痺れるような快感が走り抜けた。こんな感覚、俺は知らない。

「怖いっ、ルーク、止めっ!」
「怖い? 何が怖いの?」

 彼の瞳は楽しそうに細められていて、俺だけが余裕をなくして彼の上で喘いでいるのかと思うと少しばかり腹が立つ。
 けれど今主導権は完全にルークの側にあって、俺はそれに逆らえない。
 ゆるゆると彼が腰を揺すれば、その動きにまた知らず喘ぎ声が零れてしまう。

「待って、ルーク、動いちゃ……あぁ」
「んっ……」

 堪らず達ってしまい、ビクンビクンと断続的に射精を繰り返すと「きっつ……」とルークも眉間に皺を寄せた。

「っは……搾り取られるかと思った……気持ちよかった?」

 達ったばかりで、まだ敏感なままのそこをルークはさわりと撫で上げた。

「触るなってばぁ……」

 まるで身体中が性感帯に変わったかのように、刺激のひとつひとつに敏感に吐息を漏らして、俺は彼に縋りつく。

「まさかここまで感じてくれると思わなかったな。オレ達身体の相性も良かったみたいだね」

 俺を抱えあげたまま、ルークはやはりゆるりゆるりと身体を揺らす。

「こんなの怖いっ、ルークぅ……」
「怖くないってば、泣かなくても大丈夫。サクヤは気持ちいいだけ感じてればいいんだよ」

 どろりと身体中が溶け出すように、彼の言葉に溺れていく。
 彼の匂いが纏わり付いて、どんどん思考も奪われていく。

「愛してるよ、サクヤ。これで全部オレの物だ」

 お前の物? 全部? 俺の全部……お前に持ってかれちゃったのか。
 ゆるゆると動いていたルークもそのうち少し焦れたのか「ごめんね」と一度全部を抜きさって、身体を反転させられた。
 その際、ぬめった液体が太ももを零れ落ちて、それがもうどうにも恥ずかしくて仕方がない。多少潤滑剤も残っているのだろうけど、そのほとんどが彼を受け入れる為に、自分の中から溢れ出した物だともう分かってしまった。

「顔見えないの、やだぁ」
「うん、でもごめんね、もう一度だけちゃんとやっておきたいから……」

 一体何を? と問う暇もなく、後背位で彼を突き立てられた。先程までよりも一層深いその挿入にまた涙が零れ、また、ぱたりぱたりと自身からも雫が零れ落ちる。
 激しくなる律動、その動きひとつひとつに喘ぎ声を零して、身も世もなくすすり泣いた。

「あっ、んん、あん、あぁ……またぁ……」

 這い登る快感に身体が震えた。自身の肉壁のうねりを感じる、彼の種を搾り取ろうと浅ましく纏わり付いているのが分かる。
 初めてなのに、こんな感覚知らなかったのに、もうそれは本能だと言わんばかりに彼の男根を締め付けた。

「っはぁ、サクヤ……っ!」

 腰を激しく打ち付けられると同時に、思い切り項を齧られた。

「いっつ……やぁ……」

 激しい痛み、噛み千切られるかと思った、なのに身体の中を競り上がってくるのは止めどもない快感と溢れんばかりの喜びの感情だ。
 身体が疼く、まだ足りないと叫んでいる。
 ルークは達ったのだろう、身の内に生暖かい物を感じるけれど、でも足りない、まだ足りない。
 息を吐いて出て行こうとした彼を「ダメっ!」と思わず締め付けた。

「つっ……ちょ、サクヤ?!」
「まだっ、ダメっ……いっちゃ……あうっ」

 言葉にぐりっとまた腰を押し付けられた。

「このまま続けていいの? そんな事言うと、もう自制なんか効かなくなるよ?」

 俺の中で彼の勢いが戻っていくのが分かる。

「いいから、もっとぉ……」

 浅ましい、この感情はなんだ? 欲しくて欲しくて堪らない。
 この男を離しては駄目だと本能が身体を支配する。

「っく、ふ……誘ったのはサクヤの方だからね、どうなっても責任取れないよ?」

 どうなっても? 俺は一体どうなってしまうのだろう? なんだか、もう自分が自分じゃないみたいにふわふわしてる。

「いいからぁ、離さないで……」
「っ、ホント、これ堪らない……」

 俺の匂いを嗅ぐようにルークはまたひとつ大きく深呼吸をして、そして彼は俺をまた奥深くまで貫いた。

「はぁ、あぁ……もっとぉ」



 もうその後の記憶は曖昧で、俺達はお互いの身体を貪るようにまぐわい続けた。完全に理性はどこかに置き去りで、自分が何をしでかしたのかもよく分からない。
 これがバース性のSEXか? まるで獣の交尾のようにそこには本能しかなくなるのだろう。
 ぱかりと瞳を開けると真夜中だった。月明かりに隣で眠るルークの寝顔が見えた。
 俺の体は本当にΩの身体に変わったのだろうか? 相変わらず自分の匂いは分からないし、今は情事の匂いが立ち込めて、本当によく分からない。
 身体が重い、初めての体験にしては少しばかりハードだったその行為が恥ずかし過ぎて身悶えた。
 腕を付いて起き上がろうとしたら、やはり身体が重くて持ち上がらない。
 もがくようにもぞもぞしていたら、それに気付いて目を覚ましたのだろうルークに「起きたの?」と頬を撫でられた。

「まだ真夜中だよ? もう少し寝ようよ」
「身体中、べたべたするから……」
「あぁ……気持ち悪い?」

 寝惚け眼の彼に抱きこまれ、また身動きが取れなくなった。

「起きたら洗ってあげるし、もう少し寝よ」
「別に1人で平気だし、離せ」
「えぇ、やだよぉ。分かってる? 今日はオレ達の初夜なんだよ? そんなムードもへったくれもない事言わないでよ」
「でも……」

 こいつの腕の中は安心するし、落ち着くけど、それ以上に今は自身の下肢のべたつきが気になって仕方がない。
 下肢だけではない、身体中舐め回されるように抱かれたその身体中に違和感が残っていて、それを洗い流さない事には落ち着いて寝られない。

「やっぱり無理、風呂……」
「せっかくサクヤの身体からオレの匂いがしてるのに、流しちゃうの?」
「匂い付けはいつもしてるだろ、は・な・せ」
「匂い付けの匂いじゃなくてさぁ、サクヤの中からオレの匂いがするの、凄く興奮するのに。いい具合にサクヤの匂いと混じっていい匂い」

 俺の中から……?

「たくさん中に出したからねぇ、んふふ……」

 ルークは俺の腹に顔を埋めるようにして、そんな事を言った。
 って、それって俺の中から零れた蜜とルークの放った精液が混じった匂いか!? いやいや、いい匂いとかありえないからっ!
 悪戯な指がまた俺の秘奥を撫で上げる。

「ここに、たくさん出しちゃった。まだ濡れてるね」
「もうっ、触るな!」
「さっきまでもっと、もっとって誘ってたのはサクヤの方なのに、そんな事言うの?」

 理性が飛んでいたとはいえ、恥ずかしい言葉を大量に口走った記憶は残っていて赤面した。

「っ……意地悪言うな」
「意地悪じゃないよ、嬉しいって言ってるのに。あんなにサクヤがオレを欲しがってくれるなんて予想外だったからね。無理させるつもりもなかったんだけど、身体大丈夫?」
「……ん」

 ルークはむくりと起き上がって、俺の唇にキスをした。

「一生大事にするからね。病める時も健やかなる時も、ずっと一緒に居るよ」
「結婚の誓いか……?」
「そう、楽しい時も困った時も嫌な事があった時も、ずっとずっと傍にいる」
「嫌な事の原因がお前だった場合は?」

 瞬間ルークは言葉を無くし「そこは『俺も……』って応えてくれると思ったのに、予想外」と呟いた。

「いやだって、そういう事もありうるだろ? 元々俺はお前に振り回されがちだしな」
「そんな時でも、どんな時でも一緒に居るから! 離れないから! 喧嘩してても付き纏うってもう決めてるから!」
「そういうの、ストーカーって言うんだぞ?」
「サクヤはオレが嫌いなの!? 本当に結婚してくれる気あるのっ!?」

 そこはまぁ、うん、するけどな?
 俺は「酷いっ!」と嘆くルークの額を小突く。

「俺がこういう人間だって事はお前だって分かってるだろ? それでもいいって言ったのお前だし、そもそも嫌いだったら、こんな風にお前に抱かれたりしてねぇっての」
「だったらサクヤも『愛してる』って言って!」
「…………」

 ルークの言葉に俺は無言で彼の額を指で小突き続ける。

「ちょっと、なんでそこで黙っちゃうのさ! しかも小突かないで、痛いからっ、もう……」
「そういうのは強制されて言う事じゃない」
「オレ、何度も言わされてる気が……って、痛いってば、サクヤぁ……」

 俺の性格なんて分かってるだろ? 付き合おうが結婚しようが、そこは変える気ないからな。

「もう痛いってば。いいよ、いいよ、言いたくなるまでオレの方が言い続けるから、サクヤはどっぷりオレの愛に浸ってればいい。愛してるよ、サクヤ」
「……あんまり、簡単に言ってると言葉が安っぽくなるぞ?」
「そんなに簡単に安っぽくできるほど、オレの愛は軽くないから。というか、オレの愛はめちゃくちゃ重いから覚悟して」

 小突いていた腕を取られて、また口付けられた。
 俺だって半端な気持ちでお前の腕の中に収まってる訳じゃないんだけどな……
 その時、ふふふとルークが笑みを見せる。

「サクヤ自身は意地っ張りだけど、サクヤの匂いは素直でいいね」

 言葉の意味を理解できずに首を傾げると「勿体ないから教えない」と笑われた。
 後日、その制御の利かない俺の微かなフェロモンがルークの所有を主張するように、ルーク自身に纏わり付いてると聞かされ、恥ずかしすぎて悶絶したのはまた別の話。

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