257 / 455
君と僕の物語:番外編
子作り指南④
しおりを挟む
その晩、ナダールはいつものようにグノーに構って欲しそうに纏わりついては邪険に扱われていた。
「お前は本当に分かりやすいよな」
「何の事ですか?」
「最近アジェがエディが触ってくれないって悩んでてさ、色々話を聞いてるんだけど、エディが何を考えてそんな事してるのか話を聞いててもいまいち分からないんだよなぁ」
「へぇ、そんな事が……」
「その点、お前は何を考えてるのか分かりやすくていい。欲求が顔にそのまま出てる」
びしっと顔をグノーに指で指され「酷いっ」とナダールは嘆いた。
「褒めてるんだぞ? 話し聞いてるとさ、エディが何考えてそんな事してるのか本当に分からなくてさ、あれじゃあアジェが不安になるのも仕方ねぇよ。マジな話、あいつ浮気とかしてねぇだろうな? お前何か知らねぇ?」
「彼は浮気はしていませんよ」
だよなぁ……とグノーは首を傾げ、そんな彼を抱き寄せようとしたナダールだったのだが、ひらりと身をかわされて『今日は構ってくれない日か……』と悟り、諦めてソファーに腰掛けた。
「まぁ、言っても彼も考えている事は意外と単純ですよ」
「何か知ってるのか?」
「触るのに勇気がいる、だそうですよ」
「なんだそれ? 恋人触るのに勇気なんかいるかよ、意味分かんねぇ」
「あなたがそれを言うのですか?」
グノーの言葉にナダールは含み笑う。
「あなただって最初のうちは散々固まっていたでしょう、喉もと過ぎて熱さ忘れましたか?」
「う……そういえばそうか? でもさ、あいつ等だってもう番になって6年は経つんだぞ、それでソレっておかしくねぇ?」
「それでもそれ以上に主従の関係が長くて、エディ君はアジェ君に気を遣うのが心身共に染み付いてしまっているのではないですかねぇ、余計な気を回しすぎて空回っているのは否めませんけど」
「あぁ……確かに、あいつのアジェの前での猫かぶり大概だもんな、バレてないとでも思ってるのかね? 格好つけすぎだよな」
「そうですよねぇ、そういう所がアジェ君に気を遣わせているという事を困った事に彼は気付いていないのですよ」
「難儀な奴だな……」
呆れたようにそう言って寄って来たグノーをコレ幸いにと捕まえる。
「こらっ、今日は駄目!」
「何でですか?」
聞き分けの悪い旦那様は腰を掴んで離さない。
抱き寄せ膝の上に乗せ、服の上から乳首を甘噛みすれば、彼の身体はびくんと反応を返してくるので、それに満足したように更に背筋を撫で上げた。
「明日、大口の予約入ってるんだよ、絶対忙しくなるから今日は駄目!」
それでも頑なに拒んだ理由はそれで、グノーは両手でナダールを突っぱねるのだが、悪戯の手は止まらない。
「私、あなたの身体とても分かりやすくて好きですよ、こことか……」
言葉と共に首筋に息を吹きかけられ、またしても身体は反応を返してしまう。
「もういい加減にっ……!!」
「どこがいいのか分からないのですってよ」
本気で怒る直前のグノーにぱっと手を離して、降参のポーズで手を上げる。
「は? 何が!?」
「エディ君、アジェ君の身体のどこが感じるのかとか全然分からないってそう言うのですよ」
呆れたように言ったナダールの言葉に「初々しくていいじゃねぇか」とグノーは怒ったように乱れた服を直し立ち上がった。
「お前なんか最初っから全部分かってるみたいな顔して触ってきて、どんどん俺の身体作り変えていっちまったじゃねぇか! まるで俺が淫乱みたいで、ホント腹立つ!!」
「最初から私だって分かっていた訳ではありませんよ、全部あなたが教えてくれたんじゃないですか」
「あ?」
「寝惚けたあなたは積極的で、我慢するのに一苦労でしたよ」
「え? ちょっと待て……俺、覚えてねぇぞ?」
「うふふ、あなたに悪戯するのは楽しかったですよ」
確かにルイの妊娠中、グノーはムソンで過している間寝てばかりいたが、まさかあの時……? 赤くなったり青くなったりグノーの表情は忙しい。
笑うナダールに「嘘だろ……」とグノーは頭を抱えて思い出せない記憶を何度も反芻するのだが、そんな記憶はやはり欠片もなくて『過去の自分、何やらかしてくれてんだよ!』と思わずにはいられなかった。
※ ※ ※
一方その頃同時刻、エドワードとアジェは2人揃って膠着状態に陥っていた。
エドワードはどうやって触ればいい所を見付けられるのかと悶々と思い悩み、アジェはアジェでやってみろと言われた誘いのタイミングを計りかねていたのだ。
部屋に来たのに何をするでもなく黙り込んでしまっているエドワードに、アジェは恐る恐る声をかける。
「ねぇ、エディ……ちょっと手、触ってもいい?」
「え? 手? 別にいいけど……」
この1週間割と素直にアジェに甘える事ができていたのに、ハードルを上げられ色々と考え過ぎなエドワードは完全に身動きが取れなくなっており、今日はまだ一度もアジェに触れる事すらできずにいる。
アジェはエドワードが差し出した手をおずおずと取って指を絡ませてくるのだが、エドワードはそれを不思議な物を見るような目で眺めていた。
「エディの手って大きいよね。指も長くて綺麗だし、羨ましい」
「そうか? 今までそんな事思った事もないけど……」
「そうだよ、僕の手なんか小さいし、力も弱いし、本当情けないったらないよ」
そう言ってアジェは両手でエドワードの手を撫でるようにして持ち上げ「エディの手、好きだな」とその甲に軽く口付けた。
エドワードの頭の中はその瞬間何が起こったのか分からず大混乱だったのだが、驚いて何もできず思わず硬直してしまい、アジェはエドワードのそのあまりの反応の無さにがっかりした。
「エディ、今日は疲れてる? もう寝る? 膝枕しようか? 頭撫で撫でしてあげる」
アジェはこの数日でエドワードが膝枕を気に入っている事を見抜いていた、頭を撫でてあげると本当に安心しきった顔で気持ち良さそうに寝入ってしまうので、それが嬉しくて仕方がなかったのだ。
「えっと、今日は、その……もっとお前に触りたい……かな」
「本当? 嬉しい」
目を輝かせるアジェとは対照的に、エドワードの表情は優れない。
覗き込んだ瞳をそっと逸らされ、アジェは一瞬違和感を抱き、不安気な表情を覗かせたのだが、瞳を逸らしたままのエドワードがそれに気付く事はない。
『エディは疲れてるんだ、目を逸らされたのもきっと気のせい……』アジェはそう自分に言い聞かせるように心の内で思うのだが、触りたいと言った割に全く乗り気でなさそうなエドワードの様子に悲しくなる。
「アジェは触られるの好きか?」
そっと抱き寄せられて、そう耳元で囁かれると擽ったくてアジェは思わず赤面しつつも小さく頷いた。
「どこが好き?」
そう聞きながら優しく頬に触れてくるエドワードに、やはりさっきの違和感は気のせいだったと思うのだが、それでも彼のその態度と、いつもと違う触り方にもやもやしたものが心に残り困惑する。
別に嫌な事をされている訳ではない、むしろいつも以上にエドワードの触れてくる手は優しいのにどうにもその違和感が拭いきれない。
「エディ、何かあった?」
「えっ? 何が?」
言われた言葉に本気で戸惑っている風の彼の態度に『やはり気のせいか……?』と思いはするのだが、どうにもアジェの心は晴れない。
「エディ、何かいつもと違う。よく分からないけど、僕に何か隠し事してない?」
「別に隠し事なんて……」
瞳を覗き込めばやはりついと目を逸らされてアジェは確信する。
「やっぱり何か隠してる。何? 僕に言えないこと?」
「いや、本当に隠し事なんか……」
「嘘、絶対隠してる。言えない事があるの? 僕、何かした?」
アジェの感じる場所が分からなくて困っている……などと、勿論言えるわけもなくエドワードはうろたえた。『なんでバレた?!』と心の中は大騒ぎだ。
それはこの1週間アジェの方がエドワードの事をよく観察しており、ちょっとした行動の変化に敏感に反応してしまった結果だったのだが、エドワードにそんな事が分かる訳もない。
「僕、エディが何を考えてるのか全然分からないよっ」
そのエドワードのうろたえ方に完全に隠し事をされている事が分かってしまったアジェはついにボロボロと泣き出してしまう。
「なっ、泣くな。俺はお前に泣かれるとどうしていいか分からなくなる」
慌てたようにエドワードはアジェを抱きすくめようとするのだが、アジェは首をふってその腕を拒んだ。
「急にっ、優しくしてみたり……でも全然触ってもくれないしっ、僕、エディのなんなの? 抱き枕? それなら本物の枕でも抱いて寝てればいいだろう! 僕は枕でもぬいぐるみでもないよっ!」
「違うアジェ、そんな事思ってない! 泣くな、アジェ、俺が悪かった」
「何が悪いかなんて全然分かってないくせにっ、謝れば全部無条件に許されるなんて思わないでよ!」
アジェのその言葉にエドワードは「うっ」と言葉を詰まらせた。
実際の所、エドワードは何故アジェが突然怒り、泣き出したのかまるで分かってはおらず、それでも自分が悪いのだろうという事だけは分かって謝っただけなので、それも綺麗に見透かされて言葉が出てこなかったのだ。
「やっぱり全然分かってないっ! エディは僕をどうしたいの? どうなりたいの? 何をしたいの? 今のままじゃ僕だってどうしていいか分からないよっ、もう僕を抱くのが嫌ならそう言ってよ、無理強いなんてしないからっ」
「そんな事は思っていない!」
むしろ触りたくて撫で回したくて、人目も憚らず抱いてしまいたいといつも思っているくらいなのに。
「だったら……」
泣き伏せていたアジェはゆらりと身体を起し、エドワードに向き合い、彼の首に腕を伸ばし抱きついた、そしてその首元に顔を寄せ「その言葉に嘘がないなら、今、ここで僕を抱いてよ……」とそう囁いた。
そのアジェの吐息にエドワードはビクリと反応を返しはしたのだが、抱き返す事もせずに完全に凍りついた。
彼の心の中はやはり大騒ぎで、情けない話だが本当にどうしていいのか完全に分からなくなっていたのだ。
『自分本位にしては駄目ですよ』というナダールの言葉と、このまま押し倒して滅茶苦茶に犯してしまいたいという気持ちが拮抗して、その心の葛藤がエドワードの動きを縛っていた。
だが、その躊躇いがその時2人の間に致命的な距離を作ってしまった。
「……もう、いいよ」
アジェはそう言ってエドワードから身を離す。
「出てって、しばらくエディの顔、見たくない」
「アジェ……」
「出てって!」
顔を伏せ、扉を指差しアジェは叫ぶ。こんな風に声を荒げる彼を見る事は皆無に近い。
エドワードは完全に言葉も失い、ただ肩を落として彼の言葉に従うしか術はなく、アジェの言う通りに彼の部屋を出た。
扉を閉めた瞬間から部屋の中からは彼の泣き声が聞こえてきて、自分の不甲斐なさが情けなくて自分も泣いてしまいそうだった。
「お前は本当に分かりやすいよな」
「何の事ですか?」
「最近アジェがエディが触ってくれないって悩んでてさ、色々話を聞いてるんだけど、エディが何を考えてそんな事してるのか話を聞いててもいまいち分からないんだよなぁ」
「へぇ、そんな事が……」
「その点、お前は何を考えてるのか分かりやすくていい。欲求が顔にそのまま出てる」
びしっと顔をグノーに指で指され「酷いっ」とナダールは嘆いた。
「褒めてるんだぞ? 話し聞いてるとさ、エディが何考えてそんな事してるのか本当に分からなくてさ、あれじゃあアジェが不安になるのも仕方ねぇよ。マジな話、あいつ浮気とかしてねぇだろうな? お前何か知らねぇ?」
「彼は浮気はしていませんよ」
だよなぁ……とグノーは首を傾げ、そんな彼を抱き寄せようとしたナダールだったのだが、ひらりと身をかわされて『今日は構ってくれない日か……』と悟り、諦めてソファーに腰掛けた。
「まぁ、言っても彼も考えている事は意外と単純ですよ」
「何か知ってるのか?」
「触るのに勇気がいる、だそうですよ」
「なんだそれ? 恋人触るのに勇気なんかいるかよ、意味分かんねぇ」
「あなたがそれを言うのですか?」
グノーの言葉にナダールは含み笑う。
「あなただって最初のうちは散々固まっていたでしょう、喉もと過ぎて熱さ忘れましたか?」
「う……そういえばそうか? でもさ、あいつ等だってもう番になって6年は経つんだぞ、それでソレっておかしくねぇ?」
「それでもそれ以上に主従の関係が長くて、エディ君はアジェ君に気を遣うのが心身共に染み付いてしまっているのではないですかねぇ、余計な気を回しすぎて空回っているのは否めませんけど」
「あぁ……確かに、あいつのアジェの前での猫かぶり大概だもんな、バレてないとでも思ってるのかね? 格好つけすぎだよな」
「そうですよねぇ、そういう所がアジェ君に気を遣わせているという事を困った事に彼は気付いていないのですよ」
「難儀な奴だな……」
呆れたようにそう言って寄って来たグノーをコレ幸いにと捕まえる。
「こらっ、今日は駄目!」
「何でですか?」
聞き分けの悪い旦那様は腰を掴んで離さない。
抱き寄せ膝の上に乗せ、服の上から乳首を甘噛みすれば、彼の身体はびくんと反応を返してくるので、それに満足したように更に背筋を撫で上げた。
「明日、大口の予約入ってるんだよ、絶対忙しくなるから今日は駄目!」
それでも頑なに拒んだ理由はそれで、グノーは両手でナダールを突っぱねるのだが、悪戯の手は止まらない。
「私、あなたの身体とても分かりやすくて好きですよ、こことか……」
言葉と共に首筋に息を吹きかけられ、またしても身体は反応を返してしまう。
「もういい加減にっ……!!」
「どこがいいのか分からないのですってよ」
本気で怒る直前のグノーにぱっと手を離して、降参のポーズで手を上げる。
「は? 何が!?」
「エディ君、アジェ君の身体のどこが感じるのかとか全然分からないってそう言うのですよ」
呆れたように言ったナダールの言葉に「初々しくていいじゃねぇか」とグノーは怒ったように乱れた服を直し立ち上がった。
「お前なんか最初っから全部分かってるみたいな顔して触ってきて、どんどん俺の身体作り変えていっちまったじゃねぇか! まるで俺が淫乱みたいで、ホント腹立つ!!」
「最初から私だって分かっていた訳ではありませんよ、全部あなたが教えてくれたんじゃないですか」
「あ?」
「寝惚けたあなたは積極的で、我慢するのに一苦労でしたよ」
「え? ちょっと待て……俺、覚えてねぇぞ?」
「うふふ、あなたに悪戯するのは楽しかったですよ」
確かにルイの妊娠中、グノーはムソンで過している間寝てばかりいたが、まさかあの時……? 赤くなったり青くなったりグノーの表情は忙しい。
笑うナダールに「嘘だろ……」とグノーは頭を抱えて思い出せない記憶を何度も反芻するのだが、そんな記憶はやはり欠片もなくて『過去の自分、何やらかしてくれてんだよ!』と思わずにはいられなかった。
※ ※ ※
一方その頃同時刻、エドワードとアジェは2人揃って膠着状態に陥っていた。
エドワードはどうやって触ればいい所を見付けられるのかと悶々と思い悩み、アジェはアジェでやってみろと言われた誘いのタイミングを計りかねていたのだ。
部屋に来たのに何をするでもなく黙り込んでしまっているエドワードに、アジェは恐る恐る声をかける。
「ねぇ、エディ……ちょっと手、触ってもいい?」
「え? 手? 別にいいけど……」
この1週間割と素直にアジェに甘える事ができていたのに、ハードルを上げられ色々と考え過ぎなエドワードは完全に身動きが取れなくなっており、今日はまだ一度もアジェに触れる事すらできずにいる。
アジェはエドワードが差し出した手をおずおずと取って指を絡ませてくるのだが、エドワードはそれを不思議な物を見るような目で眺めていた。
「エディの手って大きいよね。指も長くて綺麗だし、羨ましい」
「そうか? 今までそんな事思った事もないけど……」
「そうだよ、僕の手なんか小さいし、力も弱いし、本当情けないったらないよ」
そう言ってアジェは両手でエドワードの手を撫でるようにして持ち上げ「エディの手、好きだな」とその甲に軽く口付けた。
エドワードの頭の中はその瞬間何が起こったのか分からず大混乱だったのだが、驚いて何もできず思わず硬直してしまい、アジェはエドワードのそのあまりの反応の無さにがっかりした。
「エディ、今日は疲れてる? もう寝る? 膝枕しようか? 頭撫で撫でしてあげる」
アジェはこの数日でエドワードが膝枕を気に入っている事を見抜いていた、頭を撫でてあげると本当に安心しきった顔で気持ち良さそうに寝入ってしまうので、それが嬉しくて仕方がなかったのだ。
「えっと、今日は、その……もっとお前に触りたい……かな」
「本当? 嬉しい」
目を輝かせるアジェとは対照的に、エドワードの表情は優れない。
覗き込んだ瞳をそっと逸らされ、アジェは一瞬違和感を抱き、不安気な表情を覗かせたのだが、瞳を逸らしたままのエドワードがそれに気付く事はない。
『エディは疲れてるんだ、目を逸らされたのもきっと気のせい……』アジェはそう自分に言い聞かせるように心の内で思うのだが、触りたいと言った割に全く乗り気でなさそうなエドワードの様子に悲しくなる。
「アジェは触られるの好きか?」
そっと抱き寄せられて、そう耳元で囁かれると擽ったくてアジェは思わず赤面しつつも小さく頷いた。
「どこが好き?」
そう聞きながら優しく頬に触れてくるエドワードに、やはりさっきの違和感は気のせいだったと思うのだが、それでも彼のその態度と、いつもと違う触り方にもやもやしたものが心に残り困惑する。
別に嫌な事をされている訳ではない、むしろいつも以上にエドワードの触れてくる手は優しいのにどうにもその違和感が拭いきれない。
「エディ、何かあった?」
「えっ? 何が?」
言われた言葉に本気で戸惑っている風の彼の態度に『やはり気のせいか……?』と思いはするのだが、どうにもアジェの心は晴れない。
「エディ、何かいつもと違う。よく分からないけど、僕に何か隠し事してない?」
「別に隠し事なんて……」
瞳を覗き込めばやはりついと目を逸らされてアジェは確信する。
「やっぱり何か隠してる。何? 僕に言えないこと?」
「いや、本当に隠し事なんか……」
「嘘、絶対隠してる。言えない事があるの? 僕、何かした?」
アジェの感じる場所が分からなくて困っている……などと、勿論言えるわけもなくエドワードはうろたえた。『なんでバレた?!』と心の中は大騒ぎだ。
それはこの1週間アジェの方がエドワードの事をよく観察しており、ちょっとした行動の変化に敏感に反応してしまった結果だったのだが、エドワードにそんな事が分かる訳もない。
「僕、エディが何を考えてるのか全然分からないよっ」
そのエドワードのうろたえ方に完全に隠し事をされている事が分かってしまったアジェはついにボロボロと泣き出してしまう。
「なっ、泣くな。俺はお前に泣かれるとどうしていいか分からなくなる」
慌てたようにエドワードはアジェを抱きすくめようとするのだが、アジェは首をふってその腕を拒んだ。
「急にっ、優しくしてみたり……でも全然触ってもくれないしっ、僕、エディのなんなの? 抱き枕? それなら本物の枕でも抱いて寝てればいいだろう! 僕は枕でもぬいぐるみでもないよっ!」
「違うアジェ、そんな事思ってない! 泣くな、アジェ、俺が悪かった」
「何が悪いかなんて全然分かってないくせにっ、謝れば全部無条件に許されるなんて思わないでよ!」
アジェのその言葉にエドワードは「うっ」と言葉を詰まらせた。
実際の所、エドワードは何故アジェが突然怒り、泣き出したのかまるで分かってはおらず、それでも自分が悪いのだろうという事だけは分かって謝っただけなので、それも綺麗に見透かされて言葉が出てこなかったのだ。
「やっぱり全然分かってないっ! エディは僕をどうしたいの? どうなりたいの? 何をしたいの? 今のままじゃ僕だってどうしていいか分からないよっ、もう僕を抱くのが嫌ならそう言ってよ、無理強いなんてしないからっ」
「そんな事は思っていない!」
むしろ触りたくて撫で回したくて、人目も憚らず抱いてしまいたいといつも思っているくらいなのに。
「だったら……」
泣き伏せていたアジェはゆらりと身体を起し、エドワードに向き合い、彼の首に腕を伸ばし抱きついた、そしてその首元に顔を寄せ「その言葉に嘘がないなら、今、ここで僕を抱いてよ……」とそう囁いた。
そのアジェの吐息にエドワードはビクリと反応を返しはしたのだが、抱き返す事もせずに完全に凍りついた。
彼の心の中はやはり大騒ぎで、情けない話だが本当にどうしていいのか完全に分からなくなっていたのだ。
『自分本位にしては駄目ですよ』というナダールの言葉と、このまま押し倒して滅茶苦茶に犯してしまいたいという気持ちが拮抗して、その心の葛藤がエドワードの動きを縛っていた。
だが、その躊躇いがその時2人の間に致命的な距離を作ってしまった。
「……もう、いいよ」
アジェはそう言ってエドワードから身を離す。
「出てって、しばらくエディの顔、見たくない」
「アジェ……」
「出てって!」
顔を伏せ、扉を指差しアジェは叫ぶ。こんな風に声を荒げる彼を見る事は皆無に近い。
エドワードは完全に言葉も失い、ただ肩を落として彼の言葉に従うしか術はなく、アジェの言う通りに彼の部屋を出た。
扉を閉めた瞬間から部屋の中からは彼の泣き声が聞こえてきて、自分の不甲斐なさが情けなくて自分も泣いてしまいそうだった。
0
お気に入りに追加
300
あなたにおすすめの小説
傾国の美青年
春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。
もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。
天海みつき
BL
何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。
自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
手切れ金
のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。
貴族×貧乏貴族
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
ハッピーエンド保証!
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。
※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる