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君と僕の物語
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その日の朝、僕が部屋にいると何処からか声がした。
「本日は危険ですのでこの部屋から出ないようにお願いします」
「危険? 何があるの?」
「メリア王家を完全に叩き潰し、あなた方を奪還します」
「……メリア王を、殺すの……?」
「あなたはそれを聞いてどうするのですか?」
そのいつもの声は静かに僕に告げた。
恐らく彼女は知っている、もしかしたらあの日の夜の出来事を何処かから見ていた可能性もある。僕が彼に対して抱いている言葉にならない感情を彼女はきっと知っている。
「もっと話し合いの場を設けるべきです」
「計画はもう止まりません」
「この計画は、もしかしてグノーが首謀者なんですか……?」
僕は考えていた、メリア王家に誰より通じているのはグノー自身だ、だったらこの計画に一番精通しているのはグノーなのではないかとそう思った。
「そうですよ、この計画はあの方を中心にして立てられた計画です」
「グノーがメリア王を殺す……?」
「あなたはそれを知ってどうするのですか? あなたが彼に対して並々ならぬ感情を持っている事は見ていて分かりましたが、それは彼を、エドワード様を裏切る行為ではないのですか?」
はっきりと言われてしまった、これは、この感情はエディに対する裏切り……やはりそうなるのか……
「僕は、あの人を殺させたくはないし、グノーに殺して欲しくもない。2人共僕の大事な人だから、和解の道があるのなら僕はそれに賭けたい」
「もう……この計画は止まりません。この計画には多くの時間と人間が関わっています、あなたがしようとしている事はその多くの人間を危険に巻き込む行為ですよ」
エディやグノーが僕やルネちゃんを助ける為にやってくれている事、それは僕だって分かっている、だけど……!
「僕は目の前で不幸になる人を見るのは嫌です!」
メリア王の娘はそれでも彼を慕っている、あの紅い瞳のグノーの偽者だった少年だってきっと彼の死など願っていない。
僕は部屋を飛び出した、彼はきっとあそこにいる、テラスから見上げれば彼はいつだってそこにいた。
道順がよく分からない、お城の中は複雑で何処をどう行けばいいのか僕には分からなかったけれど、僕は王様に伝えないといけないと思ったんだ。
「あなたは困った人ですね」
いつの間にか、黒髪の女の人が僕の隣を並走していた。
全身真っ黒の黒尽くめ、ブラックさんと同じだ。
「止めないでください」
「止めようにも私にその力はありません。私はあなたを極力危険から遠ざける事くらいしかできませんから」
彼女はこっちですよ、と僕に道を指し示してくれた。
「教えてくれるんですか?」
「あなたのする事で事態が何か変わるのなら、無駄な争いは避けるべきです。これは越権行為なので私も叱られるかもしれませんけどね」
「ごめんなさい、お姉さん。そういえばお名前聞いてないですね」
「どこで誰に聞かれるかも分からない場所では名乗らない事にしています。この事件がすべて片付いたらお教えしますよ」
そう言って彼女は笑った。
彼女は警備の目をかいくぐる道順を僕に示し、僕はメリア王の執務室の前に立っていた。
深呼吸をして、僕はその扉を叩く。中には彼以外にも働いている者達がいるのだろう、知らない男の人の声で入室を許可する声が返ってきた。
僕は静かにその扉を開ける。
「ん? お前は?」
僕を見詰める不審気な幾つもの瞳。
「国王陛下に会わせてください」
「何を……陛下はお忙しい、要件なら私が聞こう」
男が一人そう言って立ち上がった。
「いいえ、国王陛下に会わせてください。僕は陛下にお話があるのです」
「陛下は多忙だと言っておるだろう。お前は誰だ? あまり見かけない顔だが」
「僕の名前はアジェ・ド・カルネ。陛下に大事な話があるのです、どうか陛下に会わせてください」
「陛下は誰にもお会いにはなられない、用件を言え。私が伝えて必要とあらば私が伝える」
男は立ちはだかるように僕の前に立つ。
「大事な話なのです、どうか陛下に会わせてください!」
「駄目だ、駄目だ。そのように喚くだけなら摘み出すぞ、ここは子供の遊び場ではない」
しばらく僕とその人が押し問答を続けていると、その部屋の更に奥の扉が開いた。
「なんだ、騒々しい。小僧、私に何か用か?」
「陛下!」
僕を追い返そうとしていた男はその場に膝を折って傅く。
「この小童めが陛下に会わせろと……すぐに追い払います」
「いや、いい。なんだ? こんな所まで私に何用があって来た?」
「グノーが、今日ここへ来ます」
メリア王は「ほぅ」と目を細めた。
「ようやくか、待ち焦がれておったぞ」
「彼はあなたを殺害しにここへ来るのです」
周りの者達がざわりと動揺する中、メリア王はにっこり笑みを見せた。
「望む所だな、あれの手にかかって死ねるのなら本望だ」
「陛下!」
僕の前に立ち塞がっていた男が、咎めるようにそう叫んだ。
「僕はあなたに死んで欲しくはない。グノーにあなたを殺させるのも嫌です。だからどうか、今は逃げてください」
「逃げる? 私が何故? 一体どこへ逃げろと言うのか。お前はおかしな奴だな」
彼は心底愉快だと言うように笑みを零す。
それはここに来てから始めてみるような清々しい笑みだった。
「あなたとグノーにはもっとちゃんとした話し合いが必要です! 僕は嫌だ、僕の大事な人達が死ぬのも、殺すのも僕は見たくない!」
「お前にとって私はただの極悪非道なメリアの王だろう?」
「あなたは僕にとって大事な友人です。グノーも同じ、だから嫌です。二人が憎しみ合うのも殺し合うのも僕は見たくない」
「私はあれを憎んでなどおらんよ。私を殺したいのであればそうする権利があれには有る。私はあれに酷い事ばかりしてきたからな。話がそれだけならもう戻るがよい、私は逃げない」
そう言って彼は僕に背を向けた。
「陛下!」
「あぁ、そういえばお前の名はなんというのだったかな?」
「え?」
「名など呼ぶ必要もないと思っていたので忘れてしまった」
「……僕の名前はアジェ。アジェ・ド・カルネです、陛下」
「ふむ、アジェか。もう帰っていいぞ、アジェ」
初めて名前を呼ばれた。
こんな日に、こんな時なのに……
「僕にも、あなたの名前を教えてください」
「知っておるだろう? メリア王家の人間に名は無いのだよ、私は『一番目』そして『メリア国王陛下』だ。自分で付けた名はグノーシスだけの物だ、お前には教えてやらぬよ。ふむ、そうだな代わりと言ってはなんだが、お前にこれをやろう」
言って手渡されたのは小さな鍵、何か特殊な鍵なのか形状が一般的な鍵と少し異なっている。
「これは?」
「そのうちすぐに分かる」
彼はまたくるりと僕に背を向けてもう振り向かない。そして僕はその部屋を追い出された。
「アジェ様」
「結局、僕には何もできなかった……」
「間もなく時間です、部屋に戻りましょう」
促されるままに歩み出そうとしたら何処かで爆発音がした。
城が揺れる。
「あぁ、始まってしまった。アジェ様急いで。ここは危ない」
兵士が右へ左へ走り出し、使用人も落ち着かない様子で爆発音のした方角を眺めている。
部屋へ戻ろうと思うのだが、たくさんの人達が右往左往していてなかなか思うように進めない。
怒号と爆音が近付いてくる。
僕は黒髪の女性に手を引かれるがまま、ただ走っていた。
※ ※ ※
グノーとナダールの2人はメリア王殺害の為、俺達とは別の場所へと駆けて行った。
俺とクロードはアジェ、ルネーシャ、マリアの3人の救助をしつつこの城を破壊するのが仕事だ。
破壊とは言っても、それをするのはグノーが設計した玩具というには些か物騒なからくりだ。投げれば自走して人の体を麻痺させる薬品を撒き散らし、そして動けなくなった所で爆発する。
それがどういう風に動くか分かってしまえば後は皆逃げ惑うばかりだ。
まず俺達はルネーシャとマリアの部屋を目指している、ルネーシャは一人で逃げる事もできるかと思うのだが、クロード一人に2人の救出は荷が重いという判断だ。
というか、一番の大問題はマリアが妊婦であるという事実である。
それを俺達が知ったのは数日前、しかもその父親がクロードであると聞いた俺は耳を疑った。
最初はマリアが妊娠しているという情報だけだったのだが、それを聞いたクロードが「それならばその父親は自分だ」と爆弾発言をかましてくれたのだ。
「お前、いつの間に!」
「私に人とのお付き合いの方法を教えてくれたのはあなたですよ、何を驚く事がありますか」
「いや、でも子供って。そんな時間どこにあった?!」
クロードがルネやマリアと友人になった直後にアジェ捕縛の報が入り、クロードは俺に付いて来たのだからクロードとマリアが親密になるような時間はどこにもなかったはずだ。
しかも今までそれを黙っていたのだから多少の後ろ暗さがあるに違いない。
けれどクロードはけろりと「そんなものはない」と言い放った。
「言えなかったのは、まだお互い両家に挨拶も済ませていなかったというそれだけですよ。それさえ済んでしまえば隠す必要もなかったのですが、まさか挨拶に行く前にメリアに連れて行かれてしまうとは思いませんでしたので。それにしても子供ですか、素晴らしいですね。私が父親……感無量です」
マリアの妊娠に対してクロードに慌てた様子は一切なく、俺は言葉を失った。
そんな事がなければクロードがルネとマリアを、俺がアジェをそれぞれ助けに行くだけで済んだのに、どうにも不安が拭いきれなかったのだ。
「ルネ!」
部屋の鍵をこじ開けて、妹達の部屋に飛び込むと、そこにはワクワク顔の妹が待ち受けていた。
「お兄ちゃん、いらっしゃい。なんか凄い音してるけど、あれ何?」
「そんな事はどうでもいい、時間がない、行くぞ」
「えぇ~もうお兄ちゃんはせっかちなんだから」
部屋に駆け込んだクロードはマリアのもとへ直行しており、戸惑ったような表情の彼女をクロードは問答無用で抱き上げた。
「しっかり捕まっていてください、あなたに怪我でもされたら私が困ります」
相変わらず彼女は戸惑いの表情だ。
「私、行けません。ここに残ります」
「何故そんな事を言うのですか? ここは危険です、お腹の子に大事があったら困るでしょう」
「なんで知って……」
「あなたこそ何故黙っていたのですか! 私を妻子も守れないような惨めな男にさせるのはやめてください!」
彼女は驚いたように目を見開いてぼろりと涙を零した。
「私は、クロード様にとって自分なんかただの遊びかと、そう……」
「馬鹿なことを! 何故そんな事を思ったのか私には理解できません」
「え?! ちょっと待って、マリアの相手ってクロードさんなの? 私聞いてない! 聞いてないわよ!!」
部屋の中は別の意味で阿鼻叫喚の図だ。
「お前等話しは後だ! 時間がないと言ってるだろう!!」
「ルネ、お前は自分の足で走れるな、外でレオンが待ってる。クロード、ちゃんと2人を連れて行けよ」
「分かっています」
「外にレオン様もいるの?! それなら大急ぎで行かなくちゃだわ」
ルネーシャは案の定と言うか完全に楽しんでいるのが見て取れて、我が妹ながら肝の据わった娘だと呆れるばかりだ。
三人を手筈通りに送り出し、俺は対角線上の向こう側にあるアジェの部屋を目指す。
アジェはその部屋で俺が来るのを待っているはず……待っているはずだったのだが……
「なんでいない!?」
部屋をぐるりと見回しても彼の姿は見付けられない。
何処だ? 何処にいる!?
アジェの行動範囲が限られているのは報告から分かっている。今日の計画も事前に連絡が入っているはずで、彼はここで俺の迎えを待っているはずだった。
城の外ではレオンが民衆を扇動して騒ぎを起している、そちらに目を向けている隙を狙って自分達は城内を破壊する計画で、この部屋とルネーシャのいた部屋付近だけは一番最後まで安全な筈だった、しかしそこにアジェがいないのならば意味がない。
あちらこちらから火薬の爆発する音とたくさんの人間の叫び声や怒号が聞こえる。
俺はもう一度部屋を見渡してから部屋を出た。
何処だ? アジェ!!
安全な方に逃げているのなら問題ない、だがもし危険な方角、即ちメリア王の近くにいるのなら……そう考えて血の気が引いた。
城内の地図は完全に頭に叩き込んできた、爆発音の大きくする方へ俺は歩を向ける。
早く! 早く見つけなければ!!
自分の駆けている通路の奥から煙が上がった、こっちの道はもう駄目か……と足を止めると、その煙の中から飛び出してくる人影が二つ。
一人がもう一人を庇うように手を引いてこちらに向かって駆けてくる。
向こうもこちらに気が付いたようで、手を引いている黒装束の人物は「戻れ!」と身振りで合図して寄越した。
煙にはカイル仕込の薬も混じっている、2人は完全に口元を覆っていたが、その連れられたもう一人がアジェだという事はすぐに分かった。
「こっちはもう駄目です! 戻って!!」
「分かってる、アジェ! 来い!!」
爆音の響く中、手を差し伸べればアジェもこちらに気付いて一瞬泣きそうな瞳をこちらに向けた。
だが、そんな表情を見せても彼はこちらに駆け寄っては来なかった。
いや、駆けては来ている、だが彼は瞳を伏せたのだ。
ランティス城で彼を見付けた時は彼はグノーの手を振り解き、俺だけを見詰めて駆けて来てくれた、なのに今アジェは俺から目を逸らした。
頭を掠める違和感、だが今はそんな事に構っている暇はない。
親父の配下と思われる黒装束はアジェを俺に押し付けると先導するようにまた駆け出した。
アジェの手を握って俺も駆ける、爆発音は更に顕著にあちこちで響き渡り、城は地響きを立てるように揺れていた。
着いた先はアジェが捕らえられていた部屋、そのまま黒装束は部屋に飛び込み、突っ切ってテラスから飛び降りるように俺達を誘導する。
「え? ここから?」
アジェの戸惑ったような声。
「そうです、下には植木もあるので大怪我はしないはずです、早く」
俺やこの黒装束はたぶんその程度の高さに慣れているので躊躇もなく飛び降りる事ができるが、アジェは二の足を踏むように俺を見上げた。
また何処かから爆音が響き、その音に彼はびくっと身を震わせた。
「本日は危険ですのでこの部屋から出ないようにお願いします」
「危険? 何があるの?」
「メリア王家を完全に叩き潰し、あなた方を奪還します」
「……メリア王を、殺すの……?」
「あなたはそれを聞いてどうするのですか?」
そのいつもの声は静かに僕に告げた。
恐らく彼女は知っている、もしかしたらあの日の夜の出来事を何処かから見ていた可能性もある。僕が彼に対して抱いている言葉にならない感情を彼女はきっと知っている。
「もっと話し合いの場を設けるべきです」
「計画はもう止まりません」
「この計画は、もしかしてグノーが首謀者なんですか……?」
僕は考えていた、メリア王家に誰より通じているのはグノー自身だ、だったらこの計画に一番精通しているのはグノーなのではないかとそう思った。
「そうですよ、この計画はあの方を中心にして立てられた計画です」
「グノーがメリア王を殺す……?」
「あなたはそれを知ってどうするのですか? あなたが彼に対して並々ならぬ感情を持っている事は見ていて分かりましたが、それは彼を、エドワード様を裏切る行為ではないのですか?」
はっきりと言われてしまった、これは、この感情はエディに対する裏切り……やはりそうなるのか……
「僕は、あの人を殺させたくはないし、グノーに殺して欲しくもない。2人共僕の大事な人だから、和解の道があるのなら僕はそれに賭けたい」
「もう……この計画は止まりません。この計画には多くの時間と人間が関わっています、あなたがしようとしている事はその多くの人間を危険に巻き込む行為ですよ」
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「僕は目の前で不幸になる人を見るのは嫌です!」
メリア王の娘はそれでも彼を慕っている、あの紅い瞳のグノーの偽者だった少年だってきっと彼の死など願っていない。
僕は部屋を飛び出した、彼はきっとあそこにいる、テラスから見上げれば彼はいつだってそこにいた。
道順がよく分からない、お城の中は複雑で何処をどう行けばいいのか僕には分からなかったけれど、僕は王様に伝えないといけないと思ったんだ。
「あなたは困った人ですね」
いつの間にか、黒髪の女の人が僕の隣を並走していた。
全身真っ黒の黒尽くめ、ブラックさんと同じだ。
「止めないでください」
「止めようにも私にその力はありません。私はあなたを極力危険から遠ざける事くらいしかできませんから」
彼女はこっちですよ、と僕に道を指し示してくれた。
「教えてくれるんですか?」
「あなたのする事で事態が何か変わるのなら、無駄な争いは避けるべきです。これは越権行為なので私も叱られるかもしれませんけどね」
「ごめんなさい、お姉さん。そういえばお名前聞いてないですね」
「どこで誰に聞かれるかも分からない場所では名乗らない事にしています。この事件がすべて片付いたらお教えしますよ」
そう言って彼女は笑った。
彼女は警備の目をかいくぐる道順を僕に示し、僕はメリア王の執務室の前に立っていた。
深呼吸をして、僕はその扉を叩く。中には彼以外にも働いている者達がいるのだろう、知らない男の人の声で入室を許可する声が返ってきた。
僕は静かにその扉を開ける。
「ん? お前は?」
僕を見詰める不審気な幾つもの瞳。
「国王陛下に会わせてください」
「何を……陛下はお忙しい、要件なら私が聞こう」
男が一人そう言って立ち上がった。
「いいえ、国王陛下に会わせてください。僕は陛下にお話があるのです」
「陛下は多忙だと言っておるだろう。お前は誰だ? あまり見かけない顔だが」
「僕の名前はアジェ・ド・カルネ。陛下に大事な話があるのです、どうか陛下に会わせてください」
「陛下は誰にもお会いにはなられない、用件を言え。私が伝えて必要とあらば私が伝える」
男は立ちはだかるように僕の前に立つ。
「大事な話なのです、どうか陛下に会わせてください!」
「駄目だ、駄目だ。そのように喚くだけなら摘み出すぞ、ここは子供の遊び場ではない」
しばらく僕とその人が押し問答を続けていると、その部屋の更に奥の扉が開いた。
「なんだ、騒々しい。小僧、私に何か用か?」
「陛下!」
僕を追い返そうとしていた男はその場に膝を折って傅く。
「この小童めが陛下に会わせろと……すぐに追い払います」
「いや、いい。なんだ? こんな所まで私に何用があって来た?」
「グノーが、今日ここへ来ます」
メリア王は「ほぅ」と目を細めた。
「ようやくか、待ち焦がれておったぞ」
「彼はあなたを殺害しにここへ来るのです」
周りの者達がざわりと動揺する中、メリア王はにっこり笑みを見せた。
「望む所だな、あれの手にかかって死ねるのなら本望だ」
「陛下!」
僕の前に立ち塞がっていた男が、咎めるようにそう叫んだ。
「僕はあなたに死んで欲しくはない。グノーにあなたを殺させるのも嫌です。だからどうか、今は逃げてください」
「逃げる? 私が何故? 一体どこへ逃げろと言うのか。お前はおかしな奴だな」
彼は心底愉快だと言うように笑みを零す。
それはここに来てから始めてみるような清々しい笑みだった。
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「え?」
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というか、一番の大問題はマリアが妊婦であるという事実である。
それを俺達が知ったのは数日前、しかもその父親がクロードであると聞いた俺は耳を疑った。
最初はマリアが妊娠しているという情報だけだったのだが、それを聞いたクロードが「それならばその父親は自分だ」と爆弾発言をかましてくれたのだ。
「お前、いつの間に!」
「私に人とのお付き合いの方法を教えてくれたのはあなたですよ、何を驚く事がありますか」
「いや、でも子供って。そんな時間どこにあった?!」
クロードがルネやマリアと友人になった直後にアジェ捕縛の報が入り、クロードは俺に付いて来たのだからクロードとマリアが親密になるような時間はどこにもなかったはずだ。
しかも今までそれを黙っていたのだから多少の後ろ暗さがあるに違いない。
けれどクロードはけろりと「そんなものはない」と言い放った。
「言えなかったのは、まだお互い両家に挨拶も済ませていなかったというそれだけですよ。それさえ済んでしまえば隠す必要もなかったのですが、まさか挨拶に行く前にメリアに連れて行かれてしまうとは思いませんでしたので。それにしても子供ですか、素晴らしいですね。私が父親……感無量です」
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「ルネ!」
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「そんな事はどうでもいい、時間がない、行くぞ」
「えぇ~もうお兄ちゃんはせっかちなんだから」
部屋に駆け込んだクロードはマリアのもとへ直行しており、戸惑ったような表情の彼女をクロードは問答無用で抱き上げた。
「しっかり捕まっていてください、あなたに怪我でもされたら私が困ります」
相変わらず彼女は戸惑いの表情だ。
「私、行けません。ここに残ります」
「何故そんな事を言うのですか? ここは危険です、お腹の子に大事があったら困るでしょう」
「なんで知って……」
「あなたこそ何故黙っていたのですか! 私を妻子も守れないような惨めな男にさせるのはやめてください!」
彼女は驚いたように目を見開いてぼろりと涙を零した。
「私は、クロード様にとって自分なんかただの遊びかと、そう……」
「馬鹿なことを! 何故そんな事を思ったのか私には理解できません」
「え?! ちょっと待って、マリアの相手ってクロードさんなの? 私聞いてない! 聞いてないわよ!!」
部屋の中は別の意味で阿鼻叫喚の図だ。
「お前等話しは後だ! 時間がないと言ってるだろう!!」
「ルネ、お前は自分の足で走れるな、外でレオンが待ってる。クロード、ちゃんと2人を連れて行けよ」
「分かっています」
「外にレオン様もいるの?! それなら大急ぎで行かなくちゃだわ」
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三人を手筈通りに送り出し、俺は対角線上の向こう側にあるアジェの部屋を目指す。
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「なんでいない!?」
部屋をぐるりと見回しても彼の姿は見付けられない。
何処だ? 何処にいる!?
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あちらこちらから火薬の爆発する音とたくさんの人間の叫び声や怒号が聞こえる。
俺はもう一度部屋を見渡してから部屋を出た。
何処だ? アジェ!!
安全な方に逃げているのなら問題ない、だがもし危険な方角、即ちメリア王の近くにいるのなら……そう考えて血の気が引いた。
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早く! 早く見つけなければ!!
自分の駆けている通路の奥から煙が上がった、こっちの道はもう駄目か……と足を止めると、その煙の中から飛び出してくる人影が二つ。
一人がもう一人を庇うように手を引いてこちらに向かって駆けてくる。
向こうもこちらに気が付いたようで、手を引いている黒装束の人物は「戻れ!」と身振りで合図して寄越した。
煙にはカイル仕込の薬も混じっている、2人は完全に口元を覆っていたが、その連れられたもう一人がアジェだという事はすぐに分かった。
「こっちはもう駄目です! 戻って!!」
「分かってる、アジェ! 来い!!」
爆音の響く中、手を差し伸べればアジェもこちらに気付いて一瞬泣きそうな瞳をこちらに向けた。
だが、そんな表情を見せても彼はこちらに駆け寄っては来なかった。
いや、駆けては来ている、だが彼は瞳を伏せたのだ。
ランティス城で彼を見付けた時は彼はグノーの手を振り解き、俺だけを見詰めて駆けて来てくれた、なのに今アジェは俺から目を逸らした。
頭を掠める違和感、だが今はそんな事に構っている暇はない。
親父の配下と思われる黒装束はアジェを俺に押し付けると先導するようにまた駆け出した。
アジェの手を握って俺も駆ける、爆発音は更に顕著にあちこちで響き渡り、城は地響きを立てるように揺れていた。
着いた先はアジェが捕らえられていた部屋、そのまま黒装束は部屋に飛び込み、突っ切ってテラスから飛び降りるように俺達を誘導する。
「え? ここから?」
アジェの戸惑ったような声。
「そうです、下には植木もあるので大怪我はしないはずです、早く」
俺やこの黒装束はたぶんその程度の高さに慣れているので躊躇もなく飛び降りる事ができるが、アジェは二の足を踏むように俺を見上げた。
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※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。
自衛お願いします。
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