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運命に花束を①
運命と共に堕ちる④
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一方で小屋の中のグノーの方は薬が効いたのか動悸が治まりひとつ溜息を落とした。自分とした事が油断した。誰もいないと思っていたので、山小屋の中になんの躊躇いもなく足を踏み入れてしまった。
ナダールと二人で旅をしていて、無闇にαも寄ってこなくなっていたので自分のフェロモン自体に無頓着になっていたのだ。
いつも一緒にいるナダールが自分のフェロモンにやられる事もなく傍にいてくれているお陰でそこまで匂いが強くなっている事にも気付けなかった。
「あ~ぁ、ホント嫌になる」
こんな事は一度や二度ではない。最後までやられた事はないけれど危険な目には散々遭った。居心地が良すぎて油断した。
それにしても今回のヒートは少しおかしい。いや、これは本当にヒートなのか? と、グノーは冷えた頭で考える。
本来ヒートを起こしている場合は例え薬を飲んだとしてももっと身体の変調は続くはずだ。だが、今の自分はもうすっかり元の自分に戻っている。まだ、少し不安定なので出て行くことはしないが、こんなに簡単に熱が引くのはおかしい……そう思いつつもその原因は分からない。
そもそもヒートの時期が少し遅いのだ。いつもならもうとっくに来ていてもおかしくない頃合だ。
αと一緒にいるせいで自分の中で今は駄目だとストッパーがかかっているのかも知れない。なんとなくそんな事もあるのかな……と思っていたのだが、先程一気に溢れたフェロモンにいつもならそのままヒートに突入するのに、それが来ない事に不安を覚える。
おかしい。
先程のフェロモン放出はおそらく無意識でナダールを呼んだのだ、これはヒートではない。
ヒートがこない、Ωにとってこれ程嬉しいことはないが、やはり不安になる。ヒートがこない理由で考えられることはひとつしかないからだ。
子供ができた?
まさか、と心の声を打ち消す。そもそもナダールに抱かれたのは一度だけ、しかもちゃんとしたヒートの時期ですらない。そんな事はある訳がない……そう思おうとするのに、考えるたびに心が震える。
『子供の生めないΩなんて、家畜以下だな』
蔑むように言い放たれた言葉。自分を見つめるたくさんの感情の無い瞳。自分にはΩとしての機能すらないのだとそう思っていた。今もまだ分からない、このまるで膨らみのない腹の中に子供がいるのかなんて、知りようもない。
怖い、嬉しい、でも……怖い。
自分は本当に子供が生めるのか? こんな欠陥品の人間に本当に? いや、まだ決まった訳じゃない。たまたま少し遅れているだけで、そんな事ある訳ない。
いくら否定しても心の中は、でも、もしかしてと自問自答を繰り返す。ナダールと自分の子供……彼は喜んでくれるのだろうか?
『君、自分がナダールに釣り合ってると思うの?』
カイルに投げられた言葉が今更また心に刺さる。それでも子供ができたのなら生みたいと思うのがΩの本能だ。
もしナダールに望まれなかったら……
正直怖い。彼の恋人になるのも、番になるのも拒んでいるのは自分の方なのに、それでも子供は欲しいだなんて、なんて都合の良いことを考えているのだろう。
自分が望まれない子供だったから、本当はこんな形で子供を生むべきではないと分かっている、それでももしこの腹の中に子供がいるのなら……
まだ何者も存在を主張しない腹を撫でる。妊娠を告げたらナダールはなんと言うだろう? おろせと言われたら自分はどうする?
まだ確証がない以上彼に言うべきではない。抱えた膝に顔を埋めて、少し休もうと瞳を閉じた。
季節は冬を迎えようとしていた。
ナダールと二人で旅をしていて、無闇にαも寄ってこなくなっていたので自分のフェロモン自体に無頓着になっていたのだ。
いつも一緒にいるナダールが自分のフェロモンにやられる事もなく傍にいてくれているお陰でそこまで匂いが強くなっている事にも気付けなかった。
「あ~ぁ、ホント嫌になる」
こんな事は一度や二度ではない。最後までやられた事はないけれど危険な目には散々遭った。居心地が良すぎて油断した。
それにしても今回のヒートは少しおかしい。いや、これは本当にヒートなのか? と、グノーは冷えた頭で考える。
本来ヒートを起こしている場合は例え薬を飲んだとしてももっと身体の変調は続くはずだ。だが、今の自分はもうすっかり元の自分に戻っている。まだ、少し不安定なので出て行くことはしないが、こんなに簡単に熱が引くのはおかしい……そう思いつつもその原因は分からない。
そもそもヒートの時期が少し遅いのだ。いつもならもうとっくに来ていてもおかしくない頃合だ。
αと一緒にいるせいで自分の中で今は駄目だとストッパーがかかっているのかも知れない。なんとなくそんな事もあるのかな……と思っていたのだが、先程一気に溢れたフェロモンにいつもならそのままヒートに突入するのに、それが来ない事に不安を覚える。
おかしい。
先程のフェロモン放出はおそらく無意識でナダールを呼んだのだ、これはヒートではない。
ヒートがこない、Ωにとってこれ程嬉しいことはないが、やはり不安になる。ヒートがこない理由で考えられることはひとつしかないからだ。
子供ができた?
まさか、と心の声を打ち消す。そもそもナダールに抱かれたのは一度だけ、しかもちゃんとしたヒートの時期ですらない。そんな事はある訳がない……そう思おうとするのに、考えるたびに心が震える。
『子供の生めないΩなんて、家畜以下だな』
蔑むように言い放たれた言葉。自分を見つめるたくさんの感情の無い瞳。自分にはΩとしての機能すらないのだとそう思っていた。今もまだ分からない、このまるで膨らみのない腹の中に子供がいるのかなんて、知りようもない。
怖い、嬉しい、でも……怖い。
自分は本当に子供が生めるのか? こんな欠陥品の人間に本当に? いや、まだ決まった訳じゃない。たまたま少し遅れているだけで、そんな事ある訳ない。
いくら否定しても心の中は、でも、もしかしてと自問自答を繰り返す。ナダールと自分の子供……彼は喜んでくれるのだろうか?
『君、自分がナダールに釣り合ってると思うの?』
カイルに投げられた言葉が今更また心に刺さる。それでも子供ができたのなら生みたいと思うのがΩの本能だ。
もしナダールに望まれなかったら……
正直怖い。彼の恋人になるのも、番になるのも拒んでいるのは自分の方なのに、それでも子供は欲しいだなんて、なんて都合の良いことを考えているのだろう。
自分が望まれない子供だったから、本当はこんな形で子供を生むべきではないと分かっている、それでももしこの腹の中に子供がいるのなら……
まだ何者も存在を主張しない腹を撫でる。妊娠を告げたらナダールはなんと言うだろう? おろせと言われたら自分はどうする?
まだ確証がない以上彼に言うべきではない。抱えた膝に顔を埋めて、少し休もうと瞳を閉じた。
季節は冬を迎えようとしていた。
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