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運命に花束を①
運命との旅立ち⑫
しおりを挟む「で、お前は何時まで俺についてくるつもりだ?」
その言葉はメルクードを離れてから一昼夜が経った頃だった。グノーはただもくもくと歩いていた。一刻も早くメルクードを離れなければとそう思ったのだ、自分が姿をくらませば追っ手は自分を追うだろう。少しでもアジェに対する追っ手の目が減るのならそれでいいと思って、闇雲に道を急いだ。
「何時まで、と言われましても、私あなたの護衛ですから」
ナダールはへらりと笑う。
「必要ない、っていうか今更護衛とか意味もないだろ! さっさと帰れ!!」
「嫌です」
「なんでだよ!」
「帰るのならあなたも一緒に、ですよ」
ナダールは笑みを返すのだが、グノーはそれに苛立ったように髪を掻き回す。
「帰れる訳ないだろ、馬鹿か。どんだけ暴れまわって出てきたと思ってんだよ。今頃メルクード中俺の人相書きで溢れかえってるだろうよ」
「大丈夫ですよ、その髪切りましょう。絶対ばれませんよ」
「それはお断りだ」
言い切って歩き出すと、やはり彼も付いてくる。
「お前、このままじゃ帰れなくなるぞ」
「何故ですか?」
「何故もくそもあるか、城に不審者、手引きしたのは誰だ? って話になった時、明らかに不自然に消えた騎士団員がいたら怪しまれるに決まってるだろうが!」
「あぁ、それは確かに」
「今ならまだ帰れる。不審者を追いかけたけど、まかれたとか言っておけば誤魔化せる」
「そんな簡単にいきますかね?」
「いくかどうかは分からねぇが、一緒にいるより幾分かマシ……」
その言葉にナダールはまたへらりと笑う。
「私のこと心配してくれてるんですか?」
「んなっ、別に心配とかじゃねぇよ! お前の家族には世話にもなったし、迷惑かけたくないだけだ!」
「照れなくてもいいんですよ?」
ふふふ、とナダールは含み笑う。
「お前のそういう所、嫌い」
「え、そんな……」
彼の考えている事がまるで分からない。自分はナダールの言う事をきかず城に不法侵入をした挙句、問題を起こして今こうして逃げている。説教をされて、連れ戻そうとするのが本来の彼の役目だろうに、ナダールはにこにことグノーの後を付いてくるのだ。まるで意味が分からない。
「グノーはどこに行く気なんですか?」
「別に、決めてない。あ……でも、お守りなくしたからな、一度ブラックの所……ってブラックそう言えばルーンにいねぇじゃん、どこにいるか分かんねぇ」
はたと気付いて途方に暮れる。お守りは匂いを辿られない為に逃亡途中に捨ててしまった。あれが無いとΩだとばれる可能性が格段に上がるのにと、ひとつ溜息を落とす。
「別に私がいるんですから、いらなくないですか?」
「本気で付いてくるつもりか?」
「それは、もちろん」
ナダールはこの状況にそぐわない満面の笑みだ。
「今までの経歴とか全部棒に振ることになるんだぞ?」
「最初からたいした経歴なんてないんで大丈夫ですよ」
「お前が大好きな食事もまともに出来なくなるかもしれないぞ、そもそも金が無い」
「そこは自分でやりくりするんで、気にしないで下さい」
「俺は面倒くさいぞ?」
「ふふ、知ってます」
「お前は本当に物好きだな」
「自分に素直なだけですよ」
暖簾に腕押しという言葉があるが、まさにそれはこの事かとグノーは呆れてしまう。
アジェがエディの腕に飛び込んだ瞬間、もうこの世は終わったと思った。結局自分の手には何も残らないのだと、何も掴めないまま、また一人で生きていくのだとそう思ったのに何故だかアジェの変わりににこにこと大きな番犬が付いて来た。
「分かった、でも一緒に旅をするからにはある程度のルールは必要だ」
「ルール、ですか?」
「俺はお前と恋人にも、番にも、なる気はない」
「え? そうなんですか?」
心底驚いたという顔をしているが、俺は最初からそう言っていたはずなんだがな。
「そうなんだよ、お前がもしその気でいるなら話はここまで、ここでお別れ」
「それは嫌です」
即答の応えに笑ってしまう。
「だったら無闇に俺に触るな。フェロモンでどうにかしようとか問題外だからな、そんな素振り一度でも見せたら速攻で関係解消だから」
「恋人でも番でもないなら一体なんの関係が解消されるのでしょう?」
「旅の連れ認定解消?」
「関係が希薄すぎて泣きそうです、せめて友人とか言ってください」
「友人……友人かぁ。俺さぁ、アジェに会うまで友達って一人もいなかったんだ」
なんだよ、そのやっぱり心底驚いたって顔。
「だから、友達がどんなモノか俺には分からない。お前はそれを俺に教えてくれる?」
「私でよければいくらでも」
彼はまたへにゃりと笑った。
悔しいけど、その顔好きなんだよ……絶対言わないけどな。
「じゃあ、よろしくな、相棒」
「いいですねソレ。ふふ、よろしくお願いします」
こうしてちぐはぐな二人の旅は始まった。だが、これはまだ、この後に起こる事件の幕開けに過ぎない事をこの時のグノーもナダールもまるで知るよしもなかった。
運命の歯車は回り始めた。それはもう誰にも止める事はできない。
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