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運命に花束を①
運命との出会い①
しおりを挟むどこかから微かな甘い薫りがする、どこから薫ってくるのかと首を捻り辺りを見回すと、一緒にいた同僚に不審げな顔を向けられた。そこは、街から街へと続く街道の一本道。首を捻った男は大柄な体躯で、身長は見上げる程に大きく威圧感がありそうなものだったが、彼の表情は柔和で「何かあったか?」と尋ねた同僚にまるで威圧感のない笑顔でへにゃりと笑った。
「いえ、何ということはないのですけど、何かいい匂いしませんか?」
同僚はその言葉に首をかしげ、鼻をくんと鳴らす。
「なんの匂いも感じないがなぁ……」
そんな事はないと思うのだ、確かにほんの微かな匂いなのだが、その薫りは自分の好きな匂いだった。
「腹が減りすぎてんじゃないか? 食い物の匂いでも嗅ぎ付けたか?」
別の同僚に、そんな風にからかわれ更に首を捻った。確かに薫りは甘いのだが、食べ物の匂いではない。どちらかといえば薔薇の匂いたつような甘さなのだが、自分以外にその匂いは感じとれてはいないらしい。
あぁ、これはもしかして……と首をふり、やはり気のせいみたいですと男は彼等に笑みを見せた。
元来自分は鼻が利くのだ。それは普通に鼻が利くのも勿論だが、ある種特殊な人間の匂いを嗅ぎ分けてしまうという能力だった。恐らくそんな体質を持った自分自身も相手方には気付かれている、それはこういった特殊な人間を嗅ぎ分けるという能力と言ってもいいかもしれない。
能力的には特に役に立つものではないし、相手がどんな人間なのかも分かりはしない、だが稀にいるのだそういう人が。
彼の名はナダール・デルクマン。ここランティス王国の騎士団員で今は同僚と一緒に城壁外の近隣の街を周り、最近ここいらで頻発している事件の調査にあたっていた。
彼の風貌は言ってしまえば大男だ。身長は190を超えている。だが、そんな大きな体躯にもかかわらず表情はとても穏やかでいつもニコニコしているのでまるで威圧感がない。がっちりはしているが横にはさして大きくないので、どちらかと言えばひょろりとした印象である。
金髪碧眼のその容姿は騎士団員といういかにも肉体派といった職業にはあまり向いていないのではないかと思ってしまうくらいの優男ぶりで、かといって軽薄な感じはまるでなく、ある種独特な空気を纏った男だった。
ナダールがその匂いを嗅ぎ分ける能力に気が付いたのは、幼い頃父母の匂いたつような薫りに周りの人間が何も気付いていないと気が付いた時だった。
「父さんと母さんからいつも凄くいい匂いがするのに、なんでみんな分からないの?」
幼い頃にそう母に尋ねると、「それは神様からの贈り物よ」と母は言った。
「特別に何かが有るわけではないけれど、匂いのする人には気を付けて。嫌な匂いのする人には絶対近付いては駄目、だけど、自分の好きないい匂いのする人はきっと貴方とは相性がいいはずよ。そしてきっとその中に……」
いたずらっ子のような瞳で母は笑みを零して「貴方の運命の相手もいるはずよ」と、彼女は幸せそうに微笑んだのだ。
運命の相手……それが具体的に何を指すのか分からなかった、けれど母のその言葉は幼い自分の中に興奮を呼び起こさせた。
その後自分はその言葉を信じて街中を探索したが、自分の運命の相手には出会えなかった。そもそもが両親ほどに薫り立つほどいい匂いの人間に出会えなかったのだ。こうやって薫る人というのは圧倒的に数が少ないのだと気付くのにそう時間はかからなった。
幼い自分はがっかりしたが、運命はそう簡単に見付かるものじゃないよ、と父に笑われた。
だったら両親はどうだったのかと尋ねたら、自分達は幼馴染みだったからなぁと苦笑され「ズルい!」と拗ねる自分に父は少し困った顔をしたが、それでも絶対お前にも見つかるよと笑った。
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