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番外編:その後のある幸せな家庭
講義
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「僕は獣人類学者のシノックという者です。獣人類学者の立場から僕の意見を言わせてもらえるのなら、君はとても獣人らしい獣人であると言えると思う。自分の遺伝子を残したい、それは本来獣人が持っていて当たり前の野生の部分、それは人も獣人も変わらないけれど知性を持つ事で置き忘れてきた本能の部分なんだ。獣人は人間よりまだ野生に近い、それだからこその欲求ではあるけど理性ある生き物としてはあまり良くない傾向だと僕は思うね。あと老婆心ながら言わせて貰うなら、僕個人の感想としては本命の目の前で浮気はいただけないな、せめて隠れてやるもんだ」
「隠れてやったら完全な裏切りだろう!」
「そう思っているのならそれがダメな事だって君も分かっているのだろう? 頭で理解しているのなら行動で示すのが理性ある生き方ってものだよ」
あまりでしゃばる事をしないシノックさんだけど、言いたい事は言う人なんだな。確かに野生動物は子孫を残す事が使命みたいな所があるしシノックさんの意見には一理ある。でも獣人は獣ではない知性を持った動物だと考えるなら、そんな野生動物みたいな行動はどうかと思う。
「ほらみろ、お前の常識は一般的には非常識なんだ。これでよく分かっただろう、大馬鹿者」
「ううっ……だったら俺はどすればいいんだ?」
「本気で許して欲しいなら土下座でも何でもして誠心誠意謝ればいいだろう、ついでにちゃんと愛していると伝えろよ」
「え……」
「お前、婚約者殿に一度でもお前の正直な好意を伝えた事があったか? 俺の知らない所で伝えているなら別にそれでもいいが、伝わっている気が全くしないのだが?」
バートラム様が上を向いて、横を向いて、下を向いて、もう一度上を見てから「そういえば、ないな」と呟いた。
「バートラム様サイテー、そんなんだからミレニアさんに信用されないんですよ。もしかしてミレニアさんのコンプレックスに関しても今まで一度もフォロー入れてないんですか?」
「? コンプレックス?」
「自分は半獣人だからあなたの隣には相応しくない、釣り合わない、自分の顔は醜いからって、そう言ってミレニアさん泣いてましたよ」
「!?」
「まさかお前、気付いてなかったのか?」
「なっ、え? 何をだ?」
「婚約者殿が自分の顔を嫌っていた事を、だ。自分が半獣人である事に関しては呪ってすらいたぞ」
心底ビックリ顔のバートラム様。あ、これ絶対全く気付いてなかったやつだ。
ライオネスさんは「呆れた奴だ」と大きな溜息を吐いてる、この人が気付いてて婚約者であるバートラム様が気付いてないってどういう事だよ……
「もしかしてあなた、半獣人が獣人国でどんな扱いを受けているか知らないのですか?」
シノックさんの瞳がきらりと光る。そして蹲るバートラム様の目の前に歩いて行き、彼の肩をぽんと叩いた。
「え……いや、多少は分かっているぞ。ミレニアを見ていれば生き辛そうだなと感じていたし、だからこそ嫁に来いと散々言っていた訳で……」
「それは差別の前では根本的な解決にはなりません。あなた御自身は半獣人にさほど差別意識は持っていないようですが、これは由々しき問題ですね」
「え……なっ、なんだ?」
「聞けばあなたはズーランドの大臣の御子息とか? 少し僕とお話しませんか?」
なんか急にシノックさんがグイグイいったぞ、一体何が起こっているんだ?
「あんたは一体何なんだ……?」
「僕は先程も言ったように獣人類学者のシノックと申します。けれど僕は見ての通りの半獣人でいわばあなたの婚約者殿と同じ立場、世間の風は半獣人には冷たいのですよ、知っていましたか? あなたは半獣人である婚約者の方と結婚するにあたって何か考えはお持ちですか?」
「は? 考え……?」
「そう、例えば産まれてくるであろう子供の事とか」
「や、まぁ、子供は五体満足であればそれだけで……」
「ええ、ええ、そうですね、それは素晴らしいお考えです、けれどあなたの奥様は半獣人、産まれてくる子供はクォーター、かなり高い確率であなたのお子さんは半獣人として産まれてくる訳ですが、その辺の事はどうお考えで?」
「いや、別にいいんじゃないか? どんな子供だって可愛い我が子だ」
「おお、その考えはとても素晴らしいですね! ですが半獣人に産まれてしまった我が子をあなたは獣人国で守り通す事ができますか?」
「え、っと……おい、本気でこいつは何なんだ!」
バートラム様が戸惑ったようにこちらを見やる。
「獣人国では人との婚姻を禁じています、それが何故だかあなたは御存じで?」
「知るかっ! そもそも禁じていても例外は幾らでもあるし、ここオーランドでは禁じられていないんだからどうという事もないだろう!?」
「ではあなたはこのオーランドに移住されると?」
「や……それは」
「僕は人と獣人の婚姻は大いに推奨しています、半獣人が増えれば僕達の苦労も差別も減っていくでしょうし、人類及び獣人の進化の過程をこの目で見られるのは素晴らしい事だと思うからです。けれどそれを安直に考えてはいけません、進化の過程というのは認められるまでが長いのです、新しく生まれた異端を受け入れる土壌が育っていなければその子供は生まれた瞬間から苦労を背負い込む。愛しい我が子にその苦労を背負わせることをあなたはどうお考えか、その辺もう少し詳しくお聞きしたいのですけれど、お時間いただけますか?」
有無を言わせぬシノックさんの畳みかけにバートラム様があっけに取られて頷いている。
新しく生まれる『異端』か、それってシズクにも同じ事が言える気がする。半獣人の数より触手持ちの子供の数の方が圧倒的に少ないだろし、そういう意味ではシズクの生き辛さは群を抜いている訳で、そういうの考えると俺もちょっと辛くなるな。
シノックさんの半獣人に関する講義は続く、それに何故かロゼッタさんも興味津々で聞き入っているけど、俺はなんだかシズクに会いたくて仕方がないよ。
「隠れてやったら完全な裏切りだろう!」
「そう思っているのならそれがダメな事だって君も分かっているのだろう? 頭で理解しているのなら行動で示すのが理性ある生き方ってものだよ」
あまりでしゃばる事をしないシノックさんだけど、言いたい事は言う人なんだな。確かに野生動物は子孫を残す事が使命みたいな所があるしシノックさんの意見には一理ある。でも獣人は獣ではない知性を持った動物だと考えるなら、そんな野生動物みたいな行動はどうかと思う。
「ほらみろ、お前の常識は一般的には非常識なんだ。これでよく分かっただろう、大馬鹿者」
「ううっ……だったら俺はどすればいいんだ?」
「本気で許して欲しいなら土下座でも何でもして誠心誠意謝ればいいだろう、ついでにちゃんと愛していると伝えろよ」
「え……」
「お前、婚約者殿に一度でもお前の正直な好意を伝えた事があったか? 俺の知らない所で伝えているなら別にそれでもいいが、伝わっている気が全くしないのだが?」
バートラム様が上を向いて、横を向いて、下を向いて、もう一度上を見てから「そういえば、ないな」と呟いた。
「バートラム様サイテー、そんなんだからミレニアさんに信用されないんですよ。もしかしてミレニアさんのコンプレックスに関しても今まで一度もフォロー入れてないんですか?」
「? コンプレックス?」
「自分は半獣人だからあなたの隣には相応しくない、釣り合わない、自分の顔は醜いからって、そう言ってミレニアさん泣いてましたよ」
「!?」
「まさかお前、気付いてなかったのか?」
「なっ、え? 何をだ?」
「婚約者殿が自分の顔を嫌っていた事を、だ。自分が半獣人である事に関しては呪ってすらいたぞ」
心底ビックリ顔のバートラム様。あ、これ絶対全く気付いてなかったやつだ。
ライオネスさんは「呆れた奴だ」と大きな溜息を吐いてる、この人が気付いてて婚約者であるバートラム様が気付いてないってどういう事だよ……
「もしかしてあなた、半獣人が獣人国でどんな扱いを受けているか知らないのですか?」
シノックさんの瞳がきらりと光る。そして蹲るバートラム様の目の前に歩いて行き、彼の肩をぽんと叩いた。
「え……いや、多少は分かっているぞ。ミレニアを見ていれば生き辛そうだなと感じていたし、だからこそ嫁に来いと散々言っていた訳で……」
「それは差別の前では根本的な解決にはなりません。あなた御自身は半獣人にさほど差別意識は持っていないようですが、これは由々しき問題ですね」
「え……なっ、なんだ?」
「聞けばあなたはズーランドの大臣の御子息とか? 少し僕とお話しませんか?」
なんか急にシノックさんがグイグイいったぞ、一体何が起こっているんだ?
「あんたは一体何なんだ……?」
「僕は先程も言ったように獣人類学者のシノックと申します。けれど僕は見ての通りの半獣人でいわばあなたの婚約者殿と同じ立場、世間の風は半獣人には冷たいのですよ、知っていましたか? あなたは半獣人である婚約者の方と結婚するにあたって何か考えはお持ちですか?」
「は? 考え……?」
「そう、例えば産まれてくるであろう子供の事とか」
「や、まぁ、子供は五体満足であればそれだけで……」
「ええ、ええ、そうですね、それは素晴らしいお考えです、けれどあなたの奥様は半獣人、産まれてくる子供はクォーター、かなり高い確率であなたのお子さんは半獣人として産まれてくる訳ですが、その辺の事はどうお考えで?」
「いや、別にいいんじゃないか? どんな子供だって可愛い我が子だ」
「おお、その考えはとても素晴らしいですね! ですが半獣人に産まれてしまった我が子をあなたは獣人国で守り通す事ができますか?」
「え、っと……おい、本気でこいつは何なんだ!」
バートラム様が戸惑ったようにこちらを見やる。
「獣人国では人との婚姻を禁じています、それが何故だかあなたは御存じで?」
「知るかっ! そもそも禁じていても例外は幾らでもあるし、ここオーランドでは禁じられていないんだからどうという事もないだろう!?」
「ではあなたはこのオーランドに移住されると?」
「や……それは」
「僕は人と獣人の婚姻は大いに推奨しています、半獣人が増えれば僕達の苦労も差別も減っていくでしょうし、人類及び獣人の進化の過程をこの目で見られるのは素晴らしい事だと思うからです。けれどそれを安直に考えてはいけません、進化の過程というのは認められるまでが長いのです、新しく生まれた異端を受け入れる土壌が育っていなければその子供は生まれた瞬間から苦労を背負い込む。愛しい我が子にその苦労を背負わせることをあなたはどうお考えか、その辺もう少し詳しくお聞きしたいのですけれど、お時間いただけますか?」
有無を言わせぬシノックさんの畳みかけにバートラム様があっけに取られて頷いている。
新しく生まれる『異端』か、それってシズクにも同じ事が言える気がする。半獣人の数より触手持ちの子供の数の方が圧倒的に少ないだろし、そういう意味ではシズクの生き辛さは群を抜いている訳で、そういうの考えると俺もちょっと辛くなるな。
シノックさんの半獣人に関する講義は続く、それに何故かロゼッタさんも興味津々で聞き入っているけど、俺はなんだかシズクに会いたくて仕方がないよ。
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