72 / 113
第三章:出産編
占い師
しおりを挟む
繁華街にある占い師の館はひっそりとしていた。以前ここに来た時には客が長蛇の列で並んでいて、ずいぶん人気の占い師なのだなと思っていたのだが、今はもうそんな雰囲気はかけらも感じられない。やはり占いはインチキだったのだろうと店内を覗き込むと中にいた受付と思われるスタッフに「予約の受付ですか?」と声をかけられた。
「予約?」
「現在当店は完全予約制となっております、予約チケットをお持ちでないお客様はまずご予約を……」
「私は占いをしてもらいに来た訳ではない! 聞きたい事があるんだ、占い師に会わせてくれ!」
「ですからそれが予約制だと言っているのですよ」
受付は胡散臭そうな表情でこちらを見やる。どうやら占い云々ではなく占い師に会う事自体が予約制という事らしい受付の言葉に眉根を寄せる。こちらは急いでいるのになんという事だ。
確かに占い師はずいぶんと美しい容貌をしていた。占いにではなく、占い師自身に惚れる人物が現れても不思議ではない。だからこそのこの予約制か……
「予約も何も現時点ここには誰もいないじゃないか!」
「それはまぁ、本日は予約受付のみで先生は休暇を取っていますしね」
休暇……どうりで待ち合いに人の一人もいない訳だ。
「占い師は今何処にいる?」
「プライベートな事はお答えできません」
それもまぁ、当然か。ここで時間を潰しても埒があかないとライザックは踵を返した。手掛かりが完全に途絶えてしまったなと店舗の外に出ようとした時、外からの来客で扉が開く。ライザックが道を譲る様に脇によけると恐らく出入りの業者と思われる人物が店内を見渡し受付に「今日も先生はお出掛けかい?」と苦笑した。
「先生も物好きだね、あんな何もない物騒な森に一体何の用があるんだか」
「あ、ちょ……駄目ですよ!」
受付が慌てたように業者の言葉を遮った。森? 今、占い師は森に行っているとそう言ったか?
「森と言うとどこの森ですか?」
「ん? 先生が通っているのは西の森だろ?」
西の森……そこは私とカズとの出会いの場でもあり、そして触手の生息地でもある。その言葉を聞いて私は駆け出した。カズは恐らくそこにいる。それはただの直感でしかなかったのだが、私は妙な確信を持って西の森へと足を向けた。
オーランド国首都クリスタ、そこから西へと進んだ場所にその森はあった。盗賊が出るという事もない比較的危険の少ない森なのだが生息しているワームが厄介で、普通の人間はあまり寄り付かない場所。お陰で森は鬱蒼としていて自然の宝庫となっている。
商売人などが手つかずの自然の中でしか手に入らない希少品を探しに入ってワームに襲われるという事件もままあって、仕事柄その森には何度か足を踏み入れた事もあるが、正直好き好んで踏み入りたいとは思わない。占い師に言われここへ訪れた時には着いたと同時にカズの助けを呼ぶ声が聞こえて、私は訳も分からずカズを助けに森へと飛び込んだ。本当にカズは運が良かったと思う、あの時あのタイミングで自分がこの森を訪れなければ彼は今頃触手の苗床だっただろう。
ワームの体液は人間にとって媚薬のような働きをするらしく、人を侵し快楽の内にその体内に種を植え付ける。植え付けられた方は快楽の中で死ぬ事が出来るとかで自殺を考えここを訪れる人間もいると聞くが、いくら気持ちよく死ぬ事が出来ても触手の苗床などごめんだなと私などは思ってしまう。
しかも中途半端に助かってしまえばその毒が身体に残り淫売に堕ちるというのだから余計にだ。毎夜誰かに抱かれなければ死ぬほどの苦しみに苛まれるなんて、そんな事想像するだけでぞっとする。
慎重に森の中を窺い見ると森の奥で微かに動く影が見えた。
「カズ!」
思わず叫び森の中に飛び込むと、森が奇妙にざわめいた。しまったと思った時にはもう遅い、ワームは樹々に擬態して人が訪れるのを待ち構えている、足を取られ、それを剣で振り切りほうほうの体で森から逃げ出した、こんな森にあの占い師は一体なんの用事があるというのか……また森はしんと静まり返ったが、本当にここにカズがいるのか? と不安になった。なんとなくの直感でここまで来てしまったが、もしや自分の早合点の可能性も……と不安になった時、またしても森の奥に動く影が見えた。
またワームかと、今度は慎重に瞳を凝らすとそれは紛れもない人影で、私はもう一度剣を構え直した。まだその辺にワームはいるはずだ、基本的にワームは動きが鈍い、だから人を誘い込み人が来るとその触手で獲物を一気に絡め取る。
「近くにワームがいる、気を付けろ!」
人影に声をかけると「あれ? ライザック?」と呑気な返答が返ってきて、ぱたぱたとカズが小走りに駆けてきた。その腕の中にはシズクも連れ去られたままの姿で収まっていて、安堵と同時に身体から力が抜けた。
「カズ! 心配したんだぞ!」
「ごめん、でもなんでここが分かったんだ?」
「それは――」
返事を返そうと思った瞬間、また森の空気がざわりと揺れた。カズの背後にもう一人いる。
「誰だ!」
カズを抱き寄せ目を凝らす、そこに立っていたのは件の占い師、けれど奇妙な事に風も吹いていないのにその長い髪がたなびいている。私は思わずカズを抱き寄せ身構えた。何かがおかしい。ワームが獲物を前にして襲ってこないのもおかしいし、カズが何故この占い師と共に居たのかも分からない。
「来るな!」
私がカズを片腕に抱き剣を構えると、占い師は静かに微笑んだ。
「予約?」
「現在当店は完全予約制となっております、予約チケットをお持ちでないお客様はまずご予約を……」
「私は占いをしてもらいに来た訳ではない! 聞きたい事があるんだ、占い師に会わせてくれ!」
「ですからそれが予約制だと言っているのですよ」
受付は胡散臭そうな表情でこちらを見やる。どうやら占い云々ではなく占い師に会う事自体が予約制という事らしい受付の言葉に眉根を寄せる。こちらは急いでいるのになんという事だ。
確かに占い師はずいぶんと美しい容貌をしていた。占いにではなく、占い師自身に惚れる人物が現れても不思議ではない。だからこそのこの予約制か……
「予約も何も現時点ここには誰もいないじゃないか!」
「それはまぁ、本日は予約受付のみで先生は休暇を取っていますしね」
休暇……どうりで待ち合いに人の一人もいない訳だ。
「占い師は今何処にいる?」
「プライベートな事はお答えできません」
それもまぁ、当然か。ここで時間を潰しても埒があかないとライザックは踵を返した。手掛かりが完全に途絶えてしまったなと店舗の外に出ようとした時、外からの来客で扉が開く。ライザックが道を譲る様に脇によけると恐らく出入りの業者と思われる人物が店内を見渡し受付に「今日も先生はお出掛けかい?」と苦笑した。
「先生も物好きだね、あんな何もない物騒な森に一体何の用があるんだか」
「あ、ちょ……駄目ですよ!」
受付が慌てたように業者の言葉を遮った。森? 今、占い師は森に行っているとそう言ったか?
「森と言うとどこの森ですか?」
「ん? 先生が通っているのは西の森だろ?」
西の森……そこは私とカズとの出会いの場でもあり、そして触手の生息地でもある。その言葉を聞いて私は駆け出した。カズは恐らくそこにいる。それはただの直感でしかなかったのだが、私は妙な確信を持って西の森へと足を向けた。
オーランド国首都クリスタ、そこから西へと進んだ場所にその森はあった。盗賊が出るという事もない比較的危険の少ない森なのだが生息しているワームが厄介で、普通の人間はあまり寄り付かない場所。お陰で森は鬱蒼としていて自然の宝庫となっている。
商売人などが手つかずの自然の中でしか手に入らない希少品を探しに入ってワームに襲われるという事件もままあって、仕事柄その森には何度か足を踏み入れた事もあるが、正直好き好んで踏み入りたいとは思わない。占い師に言われここへ訪れた時には着いたと同時にカズの助けを呼ぶ声が聞こえて、私は訳も分からずカズを助けに森へと飛び込んだ。本当にカズは運が良かったと思う、あの時あのタイミングで自分がこの森を訪れなければ彼は今頃触手の苗床だっただろう。
ワームの体液は人間にとって媚薬のような働きをするらしく、人を侵し快楽の内にその体内に種を植え付ける。植え付けられた方は快楽の中で死ぬ事が出来るとかで自殺を考えここを訪れる人間もいると聞くが、いくら気持ちよく死ぬ事が出来ても触手の苗床などごめんだなと私などは思ってしまう。
しかも中途半端に助かってしまえばその毒が身体に残り淫売に堕ちるというのだから余計にだ。毎夜誰かに抱かれなければ死ぬほどの苦しみに苛まれるなんて、そんな事想像するだけでぞっとする。
慎重に森の中を窺い見ると森の奥で微かに動く影が見えた。
「カズ!」
思わず叫び森の中に飛び込むと、森が奇妙にざわめいた。しまったと思った時にはもう遅い、ワームは樹々に擬態して人が訪れるのを待ち構えている、足を取られ、それを剣で振り切りほうほうの体で森から逃げ出した、こんな森にあの占い師は一体なんの用事があるというのか……また森はしんと静まり返ったが、本当にここにカズがいるのか? と不安になった。なんとなくの直感でここまで来てしまったが、もしや自分の早合点の可能性も……と不安になった時、またしても森の奥に動く影が見えた。
またワームかと、今度は慎重に瞳を凝らすとそれは紛れもない人影で、私はもう一度剣を構え直した。まだその辺にワームはいるはずだ、基本的にワームは動きが鈍い、だから人を誘い込み人が来るとその触手で獲物を一気に絡め取る。
「近くにワームがいる、気を付けろ!」
人影に声をかけると「あれ? ライザック?」と呑気な返答が返ってきて、ぱたぱたとカズが小走りに駆けてきた。その腕の中にはシズクも連れ去られたままの姿で収まっていて、安堵と同時に身体から力が抜けた。
「カズ! 心配したんだぞ!」
「ごめん、でもなんでここが分かったんだ?」
「それは――」
返事を返そうと思った瞬間、また森の空気がざわりと揺れた。カズの背後にもう一人いる。
「誰だ!」
カズを抱き寄せ目を凝らす、そこに立っていたのは件の占い師、けれど奇妙な事に風も吹いていないのにその長い髪がたなびいている。私は思わずカズを抱き寄せ身構えた。何かがおかしい。ワームが獲物を前にして襲ってこないのもおかしいし、カズが何故この占い師と共に居たのかも分からない。
「来るな!」
私がカズを片腕に抱き剣を構えると、占い師は静かに微笑んだ。
25
お気に入りに追加
2,770
あなたにおすすめの小説
美しい側近は王の玩具
彩月野生
BL
長い金糸に青目、整った顔立ちの美しい側近レシアは、
秘密裏に奴隷を逃がしていた事が王にばれてしまった。敬愛する王レオボールによって身も心も追い詰められ、性拷問を受けて堕落していく。
(触手、乱交、凌辱注意。誤字脱字報告不要)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
天涯孤独な天才科学者、憧れの異世界ゲートを開発して騎士団長に溺愛される。
竜鳴躍
BL
年下イケメン騎士団長×自力で異世界に行く系天然不遇美人天才科学者のはわはわラブ。
天涯孤独な天才科学者・須藤嵐は子どもの頃から憧れた異世界に行くため、別次元を開くゲートを開発した。
チートなし、チート級の頭脳はあり!?実は美人らしい主人公は保護した騎士団長に溺愛される。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
主神の祝福
かすがみずほ@11/15コミカライズ開始
BL
褐色の肌と琥珀色の瞳を持つ有能な兵士ヴィクトルは、王都を警備する神殿騎士団の一員だった。
神々に感謝を捧げる春祭りの日、美しい白髪の青年に出会ってから、彼の運命は一変し――。
ドSな触手男(一応、主神)に取り憑かれた強気な美青年の、悲喜こもごもの物語。
美麗な表紙は沢内サチヨ様に描いていただきました!!
https://www.pixiv.net/users/131210
https://mobile.twitter.com/sachiyo_happy
誠に有難うございました♡♡
本作は拙作「聖騎士の盾」シリーズの派生作品ですが、単品でも読めなくはないかと思います。
(「神々の祭日」で当て馬攻だったヴィクトルが受になっています)
脇カプの話が余りに長くなってしまったので申し訳ないのもあり、本編から独立しました。
冒頭に本編カプのラブシーンあり。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる