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閑話:熊さんの昔話
転機②
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ライオネスに勧められ赴いた店の外観はどこにでもある普通の喫茶店だった。一体こんな店に何があるのかと扉を開けたら「開店はまだだよ」と店内にいるスタッフに言われてしまった。
「お? なんだ? えらく若い客だな。こんな場末の店には珍しい」
「まだやってないのか?」
「営業は夕方からだからな」
喫茶店のくせに夕方からの営業とは何という殿様商売だ、店をやる気があるのか? と少し不審気な表情を見せると店員が「坊主、ここをただの喫茶店だと思っているなら回れ右でもう二度とこの店に来るもんじゃない」と苦笑した。
「この店は店の従業員が客を選ぶのか?」
「そういう訳じゃないが、ここは君のような若いのが来る店じゃないって言ってるんだ。外観はただの喫茶店に見えるかもしれないが、ここはいわゆるおさわり喫茶、風俗だぞ?」
「!?」
驚いて言葉が出ない俺に「やっぱり知らなかったのか」と従業員は苦笑して「分かったら帰れ帰れ」と手を振った。
なるほど、ライオネスが合法的に発散させろと言った意味が理解できた、ここは商売でそういう事をさせてくれる店だという事だな。だったら話は早い。
「開店何時?」
「坊主、オレの話を聞いていたか?」
「金ならある、どういう店かも理解した。その上で開店は何時かと聞いている」
「はは、肝の据わった坊主だな。開店は一時間後だ、言っておくがうちの店は客の年齢層が高い、お前好みの接客ができるかは分からないぞ」
「構わない」と頷いて俺は一度店を出た。開店時間までまだ少し時間があったので近場の店をぷらぷらと何とはなしに眺めていたら視界の端によく見知ったもふりとした尻尾が横切っていった。
顔を上げたらもうその人影は道行く雑踏の中に消えていたのだが、あの尻尾はミレニアの物ではなかったか? 半獣人でファニーフェイスのミレニアだが、あの尻尾だけは誰よりも美しく魅惑的だ。
こんな場所で遭遇するとは……と思いはしたが、ここは繁華街だ、誰がいたとしても不思議ではない。まぁ、どうでもいいかと俺は踵を返し改めて店の前に行ってみると、店の前には半裸の獣人がセクシーポーズを取っているイラストが描かれた派手な看板が出ていて、最初からこの看板が出ていたら普通の喫茶店だなんて思わなかったのにと俺は苦笑した。
再び店の扉を開けると「いらっしゃいませ」と声をかけてきたのは薄絹を纏った小柄で年増のタヌキで、「あらやだ、本当に来たわ」とそのタヌキは笑いながら俺を店の奥へと通してくれた。
「で、あなたはここがどんなお店か知っていて来たのよね?」
「紹介されたからな」
そう言って俺が名刺を見せると、その名刺をまじまじと見たタヌキがまた笑った。
「もしかしてあなた、ベアードさんのとこの子?」
「知っているのか?」
「それは勿論、あなたのお父さんはこの界隈じゃ有名人ですもの。確かにあなた、あの方の若い頃によく似てる」
こんな場末の風俗店で自分の父親が有名人だと言われても正直微妙な気持ちにしかならないのだが、なるほどライオネスの紹介というよりは、この店は親父のおすすめ店であったか。
「うちのお店は風俗店だけど、基本はお触りだけで本番行為は無し。あとは食事とお酒とショーを楽しむお店。スタッフの年齢層は高いけど、綺麗所が揃っていてよ」
そう言ってタヌキが送った視線の先にはタヌキの言った通りにやはり年増なのだが妙に艶のあるスタッフ何名かが楽しそうにこちらへと手を振った。
「あなたみたいな若い子なんてこの店にはそうそう来ないから、逆に食べられちゃわないように気を付けて」
そう言ってタヌキがぱちんとウィンクを寄こすと「あら姐さん、まるで私達が節操なしみたいに! 姐さんこそ手を出すんじゃないわよ」なんてさざめくように笑いが零れた。
「お? なんだ? えらく若い客だな。こんな場末の店には珍しい」
「まだやってないのか?」
「営業は夕方からだからな」
喫茶店のくせに夕方からの営業とは何という殿様商売だ、店をやる気があるのか? と少し不審気な表情を見せると店員が「坊主、ここをただの喫茶店だと思っているなら回れ右でもう二度とこの店に来るもんじゃない」と苦笑した。
「この店は店の従業員が客を選ぶのか?」
「そういう訳じゃないが、ここは君のような若いのが来る店じゃないって言ってるんだ。外観はただの喫茶店に見えるかもしれないが、ここはいわゆるおさわり喫茶、風俗だぞ?」
「!?」
驚いて言葉が出ない俺に「やっぱり知らなかったのか」と従業員は苦笑して「分かったら帰れ帰れ」と手を振った。
なるほど、ライオネスが合法的に発散させろと言った意味が理解できた、ここは商売でそういう事をさせてくれる店だという事だな。だったら話は早い。
「開店何時?」
「坊主、オレの話を聞いていたか?」
「金ならある、どういう店かも理解した。その上で開店は何時かと聞いている」
「はは、肝の据わった坊主だな。開店は一時間後だ、言っておくがうちの店は客の年齢層が高い、お前好みの接客ができるかは分からないぞ」
「構わない」と頷いて俺は一度店を出た。開店時間までまだ少し時間があったので近場の店をぷらぷらと何とはなしに眺めていたら視界の端によく見知ったもふりとした尻尾が横切っていった。
顔を上げたらもうその人影は道行く雑踏の中に消えていたのだが、あの尻尾はミレニアの物ではなかったか? 半獣人でファニーフェイスのミレニアだが、あの尻尾だけは誰よりも美しく魅惑的だ。
こんな場所で遭遇するとは……と思いはしたが、ここは繁華街だ、誰がいたとしても不思議ではない。まぁ、どうでもいいかと俺は踵を返し改めて店の前に行ってみると、店の前には半裸の獣人がセクシーポーズを取っているイラストが描かれた派手な看板が出ていて、最初からこの看板が出ていたら普通の喫茶店だなんて思わなかったのにと俺は苦笑した。
再び店の扉を開けると「いらっしゃいませ」と声をかけてきたのは薄絹を纏った小柄で年増のタヌキで、「あらやだ、本当に来たわ」とそのタヌキは笑いながら俺を店の奥へと通してくれた。
「で、あなたはここがどんなお店か知っていて来たのよね?」
「紹介されたからな」
そう言って俺が名刺を見せると、その名刺をまじまじと見たタヌキがまた笑った。
「もしかしてあなた、ベアードさんのとこの子?」
「知っているのか?」
「それは勿論、あなたのお父さんはこの界隈じゃ有名人ですもの。確かにあなた、あの方の若い頃によく似てる」
こんな場末の風俗店で自分の父親が有名人だと言われても正直微妙な気持ちにしかならないのだが、なるほどライオネスの紹介というよりは、この店は親父のおすすめ店であったか。
「うちのお店は風俗店だけど、基本はお触りだけで本番行為は無し。あとは食事とお酒とショーを楽しむお店。スタッフの年齢層は高いけど、綺麗所が揃っていてよ」
そう言ってタヌキが送った視線の先にはタヌキの言った通りにやはり年増なのだが妙に艶のあるスタッフ何名かが楽しそうにこちらへと手を振った。
「あなたみたいな若い子なんてこの店にはそうそう来ないから、逆に食べられちゃわないように気を付けて」
そう言ってタヌキがぱちんとウィンクを寄こすと「あら姐さん、まるで私達が節操なしみたいに! 姐さんこそ手を出すんじゃないわよ」なんてさざめくように笑いが零れた。
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