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第二章:妊娠編

小さな薔薇①

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 城に到着して周りを見回す。そこには既にたくさんの招待客なのだろう着飾った人々が一様にこちらを窺っている。これ全員親戚なのかな? 俺、全員の顔を覚えられる気がしないんだけど……しかも場違い感半端ない。

「ライザック……」

 不安に駆られて傍らのライザックを見上げた刹那「ライザック!」とかけられた声に声の主を見やると、向こうから血相を変えて駆けて来たのはミレニアさんで俺は首を傾げる。
 上下関係に厳しいミレニアさんは本当はライザックのいとこなのだと聞いている。けれどずっと頑なに彼はライザックの事を「ご主人様」と呼び続けていて、ミレニアさんは馴れ合いは駄目だとでも思っているのかな? なんて勝手に思っていたので彼がライザックを名前で呼んだ事にはちょっとびっくりだ。

「ミレニア、そんなに慌ててどうした?」
「ハメられた! 私達は奥様にハメられたんですよ! 今回のこれはあなた達のお披露目会なんかじゃない!」

 え……? なに? どういう事? ハメられたって、どういう意味?

「おや、ようやく大本命のご登場だ。遅かったね、ライザック」

 またしても別の方向からかけられる声、そこに立っていたのは恐らく護衛と思われる厳つい男を背後に従えた細身のいかにも品の良い一人の男性。護衛と思われる男性と共に煌びやかな衣装を身に纏って、何と言うか二人とも華がある。

「叔父上、ご無沙汰しております。ですが大本命とは?」

 叔父さん? という事はこの人がオーランドルフの本家の長、ハロルド様の弟か? 確かに少し面影が似ている気がする。細身な体躯もよく似ていて、ちょっとイメージと違うかな? 色好みの当主だって聞いてたからもっと軽薄そうなのを想像していたのに、とても物腰が柔らかそうだしぱっと見は良い人っぽい。

「はは、何を惚けているのか? 今回の見合いの大本命だよ」
「……見合い?」
「うちの可愛い小さな薔薇ロゼッタがそれはもう楽しみに君の参加を待っていたのだよ?」
「ちょっと待ってください、叔父上の言っている意味が全く分からないのですが……」
「君こそ何を言っている? 今回のこの催しはうちのロゼッタの婿選びのお見合いパーティなのだぞ?」
「!? ちょ……え?」
「まさか聞いていない、などとは言わないだろうな? ロゼッタは君が来てくれると聞いてそれはもう大喜びしていたのだぞ? 他にも候補は何人も呼んではいるが、大本命はライザックお前だというのに……」

 待って? どういう事? 今回のこれって俺とライザックのお披露目会じゃなかったの? お見合いパーティ? ロゼッタって、ライザックが言ってた仲の良かったいとこの事? ライザックがそのお見合い相手の大本命って……
 叔父さんの背後に立っている護衛にまで睨まれて俺もライザックも言葉が出てこない。ミレニアさんがハメられたって言ったのはそういう意味?

「すみません、叔父上……私にはもう心に決めた人が……」
「……何をふざけた事を言っている?」

 場に響く超低音。叔父さんの背後に立った厳つい男性がこちらを睨む。怖いよ! なんだよっ! あんた護衛じゃないのかよっ!

「やめなさい、ローズ。お前はただでさえ威圧感があるのだからすごんではいけませんよ」
「ですが、旦那様! うちの可愛いロゼッタが無碍にされるのは耐えられない!」

 えっと……ローズ? って、この人の名前? いや確かに厳ついわりに華のある人だなとは思ったけど、ローズ? 似合わねぇ……

「ローズ様、これは何かの間違いです。私はそんなつもりでは……」
「父様! 母様!」

 今度はまた別の方向から声がかかる。涼しげな声だけど、嫌な予感しかしやしない。傍らのライザックが「ロゼッタ」と呟く声が聞こえた。はいはいはい、そんな気はしてましたけど御本人登場なんですね。
 でも待って、ロゼッタって「小さな薔薇」って意味らしいのだけれど、そこに立っていたのはライザックよりも大きな筋骨隆々の大男で、俺はどうにも困惑を隠せないよ!
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