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エピローグ

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 ベッドに横たわる愛しいリオの頬に口づけを落とす。リオは幸せそうに微笑みながら、まだ夢のなかにいる。静寂な朝の空気が、ほてった体に気持ちいい。

 ふたりでシノアの聖域にかくれ住むようになってから、世界は少しずつ変化した。

 シャルナ王国は「聖女を追放した愚かな国」と、周辺諸国から非難をあびた。孤立したシャルナ王国は国力を落とし、西の城壁都市ラキアは完全にシノアの森にのまれている。
 街に危険がおよんだときにしか出動しない西翼城壁部隊をもてあまし、ラキア領主・ガラナミア伯爵はみずからの領を捨て、王都へ移り住んだ。街に残った民たちは、今やシノアの森の民と呼ばれている。
 シノアの森に住む魔獣たちは、俺の増えつづける魔力に恐れをなしたのか? 俺の前に頭を垂れた。
 そして同じ森に住むものは、仲間と認識するようだった……森の民は魔獣と仲良く共存している。
 シノアの魔獣を配下にもち、俺は名実共に『魔獣王』となった。はからずも、魔獣たちも守ることになったため、彼らの体内に宿る魔石も守ることになった。
 新たな結界石はもう作られない……結界石の腕輪で苦しめられた身としては、嬉しい誤算だ。

 セフィロース領はシシーリア聖皇国から独立した。美しいドレスを着せ、宝石や花で飾った白骨を抱いた、若き骸骨伯爵が領主となっている。彼はウーニャをひきつれ、街を散策する。腕に抱いた白骨に愛おしそうに語りかけながら……
 その異様な光景に市井の人びとは怯えたが、自分たちに危害がおよばないとわかると、彼を受け入れた。
 彼は街へおり、食事を楽しみ、仕立て屋でドレスを注文し、白骨とウーニャと共に、今もなお炎の壁にかこまれた伯爵邸へ帰っていく。

 シシーリア聖皇国は多くの成人皇族が死去されたため、後継者争いがおこっている。幼い皇族の摂政の座を狙い、醜い争いはつづいていた。
 近く、帝国との戦いもおこるらしい……そんな噂も聞こえてきていた。

 宰相を努めていたエバンティス侯爵も亡くなり、エバンティス血族は『血族』の名を捨て、市井に散った。聖者の血も薄まり、魔力の低い市井のなかで、その力も消えていくことだろう……彼らは『血族』の名を捨て、皇室に支配されない自由を手にいれた。

 そして『魔獣王』の名をひろめ、ファリアーナ神の力を、率先して貶めたのは、あろうことか神殿だった。彼らは弱まる女神の力を見捨て、より強大な力にすがりつきたかったのかも知れない……
 俺が神になれるはずもないのに……彼らの神になるつもりもないのに……『約定の証書』が消え去る日も近いことが、喜ばしい。聖者の復讐は目前だ……

「んっ……」

 リオが目覚める気配を感じ、そっと髪を撫でた。パチリとひらいた瞳が俺の姿をうつす。

「おはよう……アラン」
「おはよう、リオ」
「なにか、元気な声が聞こえる、なに?」
「ああ、森の民の子供たちが滝壺で魚をつかまえようとしているんだ」

 リオは嬉しそうに窓辺へよると、朝食をつかまえようと奮闘している子供たちを眺めた。

「ねぇ、アラン。私もあなたの子供が欲しいわ」
「ああ、そのうちにな。だがまだダメだ」

 リオに口づけをし、浄化魔法をかける。

「まだファリアーナ神の力が強いから心配なの?」
「いや、俺がまだリオを独り占めしたいからだよ」
「しかたがない魔王様ね」

 笑いあいながら、再び口づけを交わす。
 前例がないほど大規模な彩雲と共に降臨したリオの魔力は、すべて俺ひとりに捧げられている。小さな小屋だった家は、森の民の力を借り、立派な城に建て替えられた。人びとは、ここを魔王城と呼んでいる。

 ――異世界からきた聖女と呼ばれるはずだった彼女は、魔王の唯一と呼ばれ、幸せそうに微笑んでいた。


                                  (完)
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