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51 壊された!
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リオたちの後ろ姿が夜の闇に消えるのを見届け、深く息を吐く。乱れた髪のリボンをはずし、ローズピンクのレースのリボンを指の腹で撫でた。これを私にわたしながら「無事に帰ってきて……」と泣いた愛しい人の面影が、荒んだ心に染みわたる。そっとリボンに口づけを落としてから髪をしばりなおした。
さぁ、僕のウーニャを迎えに行こう。むしょうに愛しい彼女に慰めてほしかった。
夜会のホールは、いつもならもっとダンスを楽しんでいるころだろうに、妙に人けがなく、静まりかえっている。夜会は、もう終わったのか? まさか早すぎる……なにか、ようすが変だ……まさかリオたちの脱出がバレたのか?
まばらに談笑しながら、かたづけをする使用人をつかまえる。
「夜会は終わったのか?」
「あ、旦那様、いえ、帝国の王太子殿下が、見世物をするとおっしゃられて、皆様、外の演舞場へ移動されました」
「見世物? 演舞場?」
「はい」
「僕のウーニャは?」
少し意地悪そうに笑いながらメイドが答える。
「主演でございます」
メイドを突き飛ばし、演舞場へ走った。
エバンティスの未婚の血族は政治のコマだ。高い魔力をともなう性交は、相手の魔力を高めると共に、強い快楽をあたえる。自国の皇族、他国の王族や高位貴族へ外交手段のひとつとして使われる。
ただ、数世代前の血族が抱きつぶされ疲弊し自死を選ぶ事件がおこり、以降、一夜に相手はひとりと取り決めがされた。無茶なことをされないよう、守役もつく。最近ではその守役が閨の指導をするためと、大義名分をかかげ参戦してくることが多くなってきていたが……
一夜の相手も、血族の親兄弟が吟味し、了承した相手しか選ばれない。婚姻すれば、一夜の相手を選ぶのは配偶者の権利になった。
私と僕のウーニャの婚姻がととのいさえすれば、彼女をよその男の閨に送ることを拒否できる。お互い、血族の繁栄のための犠牲になることは、しなくてよくなるはずだった……彼女に子供さえできれば、ふたりで幸せになれるはずなんだ……
相手はひとりだ! きっと観衆の視線に曝し、閨事を見世物にする気なんだ。僕のウーニャを貶めるな!
走りこんだ演舞場には、大勢の裸の男女が睦みあっていた……その中央舞台に帝国の王太子の姿が見える。彼の上で人形のように跳ねている白いものは? 体をのけぞらせ、他の男の肉棒を口にくわえさせられている。両手にも他の男のモノが握らされているようだ……短い髪がくわえている男の陰部にカサカサとあたっていた。あれは僕のウーニャじゃない。
真っ白い長い髪を探し、蠢く男女のなかに視線をさまよわせた。
――? 壁際に立つ、あれは私が僕のウーニャにつけている護衛? 彼が手に持っているのはなんだ? 白く長いあれは……
ふらふらと彼に近づくと、護衛はビシッと礼をする。
「――その手に持っているのは?」
「はい。帝国の王太子殿下が自国の妃の土産にちょうどよいと、ファリアーナ神のような髪のカツラをかぶせた妃と楽しみたいからと、自分に切らせました」
彼の足元には、私が僕のウーニャに送った紫水晶の髪飾りがバラバラになって散っていた……
「あっ……僕のウーニャ?」
帝国の王太子の上で、むりやり腰を持ち揺さぶられている人形をふりかえる。その口に欲望を吐きだした男が離れ、人形と目があった……
涙に濡れぐちゃぐちゃになったその顔は……ローズピンクの瞳には光はなく、表情が抜け落ちた人形のように、ただガクガクと揺さぶられている愛しい人の顔……
――僕のウーニャの変わり果てた姿がそこにあった。
「……ああああ……ああああああああ……あああああああああああ!」
雄叫びをあげながら、僕のウーニャのもとへ裸の人垣をかきわけてすすむ。視線は僕のウーニャから離せない。彼女はモノのように帝国の王太子の上からズルリとおろされると、その足を別の男が高くかかげ密口に己の肉棒を突っこみ抽挿をはじめた。
舞台の上に新たな男があがり、彼女の唇に舌を這わせ、その唇を奪った……
えっ……唇を……奪った…………?
――僕たちの力はあまりにも弱くて、今はまだ血族の呪われた枷をはずすことはできないけれど、君を大切に愛すると誓うよ。愛しい僕のピジュ、大きくなったら僕の花嫁になって。口づけだけは、接吻だけは君だけのものと誓うから、君も口づけだけは僕に捧げて! 僕への愛の証にして! お願いピジュ――
――大好きよ! わたしのジリィ~、ジリィの言っていることはよくわからないけれど……口づけだけじゃなく、わたしのすべてはジリィのものよ! でも、あなたがそう望むなら、ジリィ以外のだれにも接吻は許さないって誓うわ――
幼い日の花畑……ふたりで交わした初めての接吻……まねごとの婚約の儀……
心の拠り所だった美しい思い出が、音を立てて崩れていく……
壊された! 壊された! 壊された! 壊された! 壊された! 壊された!
『成人の義』で汚され、どうにか繋ぎとめていた、彼女の心が、今完全に壊されたことを知る……
さぁ、僕のウーニャを迎えに行こう。むしょうに愛しい彼女に慰めてほしかった。
夜会のホールは、いつもならもっとダンスを楽しんでいるころだろうに、妙に人けがなく、静まりかえっている。夜会は、もう終わったのか? まさか早すぎる……なにか、ようすが変だ……まさかリオたちの脱出がバレたのか?
まばらに談笑しながら、かたづけをする使用人をつかまえる。
「夜会は終わったのか?」
「あ、旦那様、いえ、帝国の王太子殿下が、見世物をするとおっしゃられて、皆様、外の演舞場へ移動されました」
「見世物? 演舞場?」
「はい」
「僕のウーニャは?」
少し意地悪そうに笑いながらメイドが答える。
「主演でございます」
メイドを突き飛ばし、演舞場へ走った。
エバンティスの未婚の血族は政治のコマだ。高い魔力をともなう性交は、相手の魔力を高めると共に、強い快楽をあたえる。自国の皇族、他国の王族や高位貴族へ外交手段のひとつとして使われる。
ただ、数世代前の血族が抱きつぶされ疲弊し自死を選ぶ事件がおこり、以降、一夜に相手はひとりと取り決めがされた。無茶なことをされないよう、守役もつく。最近ではその守役が閨の指導をするためと、大義名分をかかげ参戦してくることが多くなってきていたが……
一夜の相手も、血族の親兄弟が吟味し、了承した相手しか選ばれない。婚姻すれば、一夜の相手を選ぶのは配偶者の権利になった。
私と僕のウーニャの婚姻がととのいさえすれば、彼女をよその男の閨に送ることを拒否できる。お互い、血族の繁栄のための犠牲になることは、しなくてよくなるはずだった……彼女に子供さえできれば、ふたりで幸せになれるはずなんだ……
相手はひとりだ! きっと観衆の視線に曝し、閨事を見世物にする気なんだ。僕のウーニャを貶めるな!
走りこんだ演舞場には、大勢の裸の男女が睦みあっていた……その中央舞台に帝国の王太子の姿が見える。彼の上で人形のように跳ねている白いものは? 体をのけぞらせ、他の男の肉棒を口にくわえさせられている。両手にも他の男のモノが握らされているようだ……短い髪がくわえている男の陰部にカサカサとあたっていた。あれは僕のウーニャじゃない。
真っ白い長い髪を探し、蠢く男女のなかに視線をさまよわせた。
――? 壁際に立つ、あれは私が僕のウーニャにつけている護衛? 彼が手に持っているのはなんだ? 白く長いあれは……
ふらふらと彼に近づくと、護衛はビシッと礼をする。
「――その手に持っているのは?」
「はい。帝国の王太子殿下が自国の妃の土産にちょうどよいと、ファリアーナ神のような髪のカツラをかぶせた妃と楽しみたいからと、自分に切らせました」
彼の足元には、私が僕のウーニャに送った紫水晶の髪飾りがバラバラになって散っていた……
「あっ……僕のウーニャ?」
帝国の王太子の上で、むりやり腰を持ち揺さぶられている人形をふりかえる。その口に欲望を吐きだした男が離れ、人形と目があった……
涙に濡れぐちゃぐちゃになったその顔は……ローズピンクの瞳には光はなく、表情が抜け落ちた人形のように、ただガクガクと揺さぶられている愛しい人の顔……
――僕のウーニャの変わり果てた姿がそこにあった。
「……ああああ……ああああああああ……あああああああああああ!」
雄叫びをあげながら、僕のウーニャのもとへ裸の人垣をかきわけてすすむ。視線は僕のウーニャから離せない。彼女はモノのように帝国の王太子の上からズルリとおろされると、その足を別の男が高くかかげ密口に己の肉棒を突っこみ抽挿をはじめた。
舞台の上に新たな男があがり、彼女の唇に舌を這わせ、その唇を奪った……
えっ……唇を……奪った…………?
――僕たちの力はあまりにも弱くて、今はまだ血族の呪われた枷をはずすことはできないけれど、君を大切に愛すると誓うよ。愛しい僕のピジュ、大きくなったら僕の花嫁になって。口づけだけは、接吻だけは君だけのものと誓うから、君も口づけだけは僕に捧げて! 僕への愛の証にして! お願いピジュ――
――大好きよ! わたしのジリィ~、ジリィの言っていることはよくわからないけれど……口づけだけじゃなく、わたしのすべてはジリィのものよ! でも、あなたがそう望むなら、ジリィ以外のだれにも接吻は許さないって誓うわ――
幼い日の花畑……ふたりで交わした初めての接吻……まねごとの婚約の儀……
心の拠り所だった美しい思い出が、音を立てて崩れていく……
壊された! 壊された! 壊された! 壊された! 壊された! 壊された!
『成人の義』で汚され、どうにか繋ぎとめていた、彼女の心が、今完全に壊されたことを知る……
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