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47 ダンスレッスンの妥協
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「アラン、お待たせ! 明後日には父がセフィロース領に到着すると連絡があった。歓迎の夜会を開くから用意しておけ! だって。君たち踊れる?」
朝食の席で、ほがらかにジリオ様がきりだした内容に衝撃を受ける。『聖者の手記』を持ってエバンティス侯爵が到着するのはいい! それがアラン様の目的だったから。でも……踊る? ……誰が? 私? 無理でしょう!
ガラナミア伯爵夫人の行儀作法の実地訓練は厳しかった……だから食事のマナーとか、基本的なことはクリアしていると思う……けれど、あのときは怪我のため、運動系の練習はしなかった……ダンスなんて無理無理無理!
ぶんぶん、いきおいよく首を横に振りながら「私は踊らなくていいですよね?」と、懇願してみる。
「あら? リオ様のための夜会よ。主賓が踊らないと始まらないわ」
レディ・ピアディがにっこり微笑む。――レディ・ピアディが明け方、徘徊している姿を、あのあとからも数回見かけた。ジリオ様がぴったり着いて歩いているので、声をかけないようにしている。
伯爵邸の使用人の態度もあいかわらずで、私をジリオ様の正妻としてあつかいだしているし……夢遊病になってしまうぐらいレディ・ピアディにストレスがかかっているのだろう。
朝になれば、なにごともないように明るく元気になるレディ・ピアディの悩みが早く解決するよう、『聖者の手記』を解読し、すぐさま伯爵邸から出る! これが最優先事項だと思っている。
ダンスの練習をするより、伯爵邸の書庫で聖者の痕跡をたどるほうが私たちには大切です! まだ、なんの成果もないけれど……
「……踊れません」
「練習すればよろしくてよ」
「……踊る練習より、書庫にいたいです」
「なんの成果もないのでしょ? 夜会の席でならお酒の力も借りて、エバンティス侯爵の口も軽くなるかも知れなくてよ」
「…………」
「練習しますわよね。リオ様」
「…………」
涙目で、アラン様を見つめた。
「俺は踊れる」
あ、裏切り者!
はりきるレディ・ピアディに手をひかれ、アラン様をパートナーにダンスの練習をするも、インドア派だったんです私! 踊りという名がつくものは、中学生の頃踊った盆踊りが最後で! 男女ペアは、さらに年齢がさがって小学校の運動会のマイム・マイムが最後です! フォークダンスレベルで終わっているんです~
――泣ける。
「……これは1日、2日では無理ですわね」
レディ・ピアディ、あきらめるの早いです。後ろでジリオ様、大笑いするのやめて! アラン様も無言で足に治癒魔法かけるのやめて!
「こうしましょ! リオ様の足の位置はここですわ」
にこやかに指定された位置は、アラン様の靴の上?
「手は普通にここ、あとはアラン様が踊ってみせてくださる」
アラン様の靴の上に乗っかっているだけの私は……アラン様のたくましい腕に抱かれながらまるで空を舞っているようにクルリ、クルリとドレスをひるがえした。
スゴイ! 私、踊れているわー!
「これ、アランや私なら対応してあげられるけれど、ことわれない来賓者がきたらどうするの?」
「あら、来訪者の世界のダンスはこの姿勢だから、失礼と言って踏めばよろしいですわ。どうどうとしていれば、それが事実になりますわ。ちゅうちょされるかたは誘わないでしょうし、あえて誘うかたは、リオ様に踏まれたい殿方なのだから、遠慮することなくてよ」
――泣ける。
数曲の練習で足腰ガクガクです……床にへたりこんでしまった。
「リオ、回復魔法をかけよう、このままではリオの体が持たない」
「い、嫌です~。人目がある場所なんて絶対嫌」
「なら、別室に……」
私を横抱きして移動しようとしたアラン様の手をレディ・ピアディがとめた。
「わたくしに、まかせていただける? リオ様に恥ずかしい思いをさせることなく、回復してさしあげるわ」
「え! 僕のウーニャ、ちょっと待って! 一体、なにを……」
ジリオ様の問いかけもむなしく、レディ・ピアディは私の首筋に顔をよせ、したたる汗をペロリと舐めた!
「「「!」」」
三者三様の声にならない悲鳴がこだまする。レディ・ピアディは汗だくの私にそのまま抱きつき、その全身から清涼な水が流れこむような血族魔法を私の全身に巡らせる。涼しい~! 気持ちいい~! 体力、気力が回復し、体調がととのっていくのがわかる。
……でもね、レディ・ピアディ……私の乙女の部分のなにかが、なにかがゴリゴリッと削られたような……汗臭い自分にスリスリと頬をよせる美少女を泣きたい気持ちで見下ろした。
「さすがですわリオ様! なんて純然たる魔力、わたくし腰が抜けてしまいそうですわ」
あああ~! やめてレディ・ピアディ、そんな潤んだ瞳を向けないで! 頬を染めるのもダメ! 絶対!
レディ・ピアディを鬼の形相で睨みつけているアラン様も落ちついて、相手は美少女よ……その嫉妬に燃える瞳は、ちょっと嬉しいけれど。
ジト目で私を見ているジリオ様も、その目はやめて! 見ないで! 私は悪くないと思うの!
朝食の席で、ほがらかにジリオ様がきりだした内容に衝撃を受ける。『聖者の手記』を持ってエバンティス侯爵が到着するのはいい! それがアラン様の目的だったから。でも……踊る? ……誰が? 私? 無理でしょう!
ガラナミア伯爵夫人の行儀作法の実地訓練は厳しかった……だから食事のマナーとか、基本的なことはクリアしていると思う……けれど、あのときは怪我のため、運動系の練習はしなかった……ダンスなんて無理無理無理!
ぶんぶん、いきおいよく首を横に振りながら「私は踊らなくていいですよね?」と、懇願してみる。
「あら? リオ様のための夜会よ。主賓が踊らないと始まらないわ」
レディ・ピアディがにっこり微笑む。――レディ・ピアディが明け方、徘徊している姿を、あのあとからも数回見かけた。ジリオ様がぴったり着いて歩いているので、声をかけないようにしている。
伯爵邸の使用人の態度もあいかわらずで、私をジリオ様の正妻としてあつかいだしているし……夢遊病になってしまうぐらいレディ・ピアディにストレスがかかっているのだろう。
朝になれば、なにごともないように明るく元気になるレディ・ピアディの悩みが早く解決するよう、『聖者の手記』を解読し、すぐさま伯爵邸から出る! これが最優先事項だと思っている。
ダンスの練習をするより、伯爵邸の書庫で聖者の痕跡をたどるほうが私たちには大切です! まだ、なんの成果もないけれど……
「……踊れません」
「練習すればよろしくてよ」
「……踊る練習より、書庫にいたいです」
「なんの成果もないのでしょ? 夜会の席でならお酒の力も借りて、エバンティス侯爵の口も軽くなるかも知れなくてよ」
「…………」
「練習しますわよね。リオ様」
「…………」
涙目で、アラン様を見つめた。
「俺は踊れる」
あ、裏切り者!
はりきるレディ・ピアディに手をひかれ、アラン様をパートナーにダンスの練習をするも、インドア派だったんです私! 踊りという名がつくものは、中学生の頃踊った盆踊りが最後で! 男女ペアは、さらに年齢がさがって小学校の運動会のマイム・マイムが最後です! フォークダンスレベルで終わっているんです~
――泣ける。
「……これは1日、2日では無理ですわね」
レディ・ピアディ、あきらめるの早いです。後ろでジリオ様、大笑いするのやめて! アラン様も無言で足に治癒魔法かけるのやめて!
「こうしましょ! リオ様の足の位置はここですわ」
にこやかに指定された位置は、アラン様の靴の上?
「手は普通にここ、あとはアラン様が踊ってみせてくださる」
アラン様の靴の上に乗っかっているだけの私は……アラン様のたくましい腕に抱かれながらまるで空を舞っているようにクルリ、クルリとドレスをひるがえした。
スゴイ! 私、踊れているわー!
「これ、アランや私なら対応してあげられるけれど、ことわれない来賓者がきたらどうするの?」
「あら、来訪者の世界のダンスはこの姿勢だから、失礼と言って踏めばよろしいですわ。どうどうとしていれば、それが事実になりますわ。ちゅうちょされるかたは誘わないでしょうし、あえて誘うかたは、リオ様に踏まれたい殿方なのだから、遠慮することなくてよ」
――泣ける。
数曲の練習で足腰ガクガクです……床にへたりこんでしまった。
「リオ、回復魔法をかけよう、このままではリオの体が持たない」
「い、嫌です~。人目がある場所なんて絶対嫌」
「なら、別室に……」
私を横抱きして移動しようとしたアラン様の手をレディ・ピアディがとめた。
「わたくしに、まかせていただける? リオ様に恥ずかしい思いをさせることなく、回復してさしあげるわ」
「え! 僕のウーニャ、ちょっと待って! 一体、なにを……」
ジリオ様の問いかけもむなしく、レディ・ピアディは私の首筋に顔をよせ、したたる汗をペロリと舐めた!
「「「!」」」
三者三様の声にならない悲鳴がこだまする。レディ・ピアディは汗だくの私にそのまま抱きつき、その全身から清涼な水が流れこむような血族魔法を私の全身に巡らせる。涼しい~! 気持ちいい~! 体力、気力が回復し、体調がととのっていくのがわかる。
……でもね、レディ・ピアディ……私の乙女の部分のなにかが、なにかがゴリゴリッと削られたような……汗臭い自分にスリスリと頬をよせる美少女を泣きたい気持ちで見下ろした。
「さすがですわリオ様! なんて純然たる魔力、わたくし腰が抜けてしまいそうですわ」
あああ~! やめてレディ・ピアディ、そんな潤んだ瞳を向けないで! 頬を染めるのもダメ! 絶対!
レディ・ピアディを鬼の形相で睨みつけているアラン様も落ちついて、相手は美少女よ……その嫉妬に燃える瞳は、ちょっと嬉しいけれど。
ジト目で私を見ているジリオ様も、その目はやめて! 見ないで! 私は悪くないと思うの!
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