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42 癒しのウーニャの庭園

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「僕のウーニャは、私に嫉妬させたいのかな? リオに接吻しようとするなんて……」
「魔力の高めあいをともなわない、女性との接吻は数にはいらないって、お聞きしたの。リオ様は女性だし、魔法をかけてあげるためですから、数にはいらないのではなくて?」
「誰だい? 僕のウーニャにそんなこと吹きこんだのは? セフィロース領、出入り禁止案件だよ!」
「――嘘……なのですか?」
「接吻は、接吻だよ。どんな形でもね」
「まぁ、なんてこと! わたくしったら騙されて……とんでもないことをしてしまうところでしたわ」

 ジリオ様は、優しくレディ・ピアディの髪を撫でている。彼女は騙されていた事実を知ったショックからか? ローズピンクの瞳に涙をうかべて、フルフルふるえていた。

「あやまちに気づいたのなら、もういいよ――僕のウーニャ……」
「ごめんなさい。気をつけるわ――わたくしのジリィ……」

 ふたりは抱きあい、口づけを交わす。レディ・ピアディの頬がほんのり赤く染まっていった。

「んっ……はぁ……」

 口づけは深くなっていき、レディ・ピアディの唇から甘い声が漏れだす……

 ――これは……なにを見せられているのでしょうか?

 回復魔法をかけてもらい、戻ってきた部屋で展開されている、あっまっあああぁぁぁぁい雰囲気に硬直する。自分たちのを見られるのも嫌ですが、他人のを見せられるのも、辛いものがある……
 ――でもこれだけ仲がよい婚約者同士なら、『約定の証書』の件も破棄してもらえそう。私を正妻にって単語、ちらほら聞こえてきたけれど、意味がわからなすぎて頭にはいってこなかった。
 その件も、婚約者のレディ・ピアディがジリオ様に嫁げば解決しそう……

「おい! 回復魔法、かけてきたぞ」

 ええ――――! アラン様、この甘い雰囲気を前にして、声をかけるとか!
 ――勇者なの? それとも鈍感なの?

「まぁ、ではウーニャを見に行きましょう! リオ様!」
「ふ~ん、もっと時間がかかるかと思ったけど……案外、早かったね」

 満面の笑顔のレディ・ピアディと、どこか不満げなジリオ様が、ふたりそろって顔をあげる。
 ――レディ・ピアディはジリオ様に押し倒された格好のままなので……おふたりとも、早く起きあがってください。目のやり場に困ります。
 ゴシック・アンド・ロリータなドレスの美少女と麗しい貴公子の睦言……本当に、うしろめたさMAXです……





 ――ウーニャは、ぬいぐるみにそっくりなウサギでした。あのぬいぐるみ、抱き枕サイズかと思っていたけれど、実物大! 巨大ウサギ・ウーニャは、白い毛が軟らかそうで、可愛い! 目を輝かせている私に、レディ・ピアディは、満足そうに胸をはった。

「このウーニャたちは、わたくしの成人のお祝いに、ジリィがプレゼントしてくれましたの。その日からジリィったら、わたくしのことを僕のウーニャ、僕のウーニャって、呼ぶようになったのですけれど――成人のお祝いにしては、子供ぽすぎると思いませんこと?」

 ウーニャたちを嬉しそうに見せびらかしている姿と、不満げなセリフが噛みあっていない――そんなちょっとワガママだけれど、憎めないレディ・ピアディが、好きになってきていた。

 20匹ほどいるウーニャたちは庭園を好き勝手に走りまわっている。小さいのは子供かな? ガゼボから、その可愛らしい姿を堪能しつつ、レディ・ピアディとお茶を楽しむ。
 姿は見えるけれど声は聞こえない、微妙な位置に護衛とメイドが数人、控えていた。けれど、アラン様とジリオ様のことは「女性限定のお茶会よ、殿方は遠慮して!」と、レディ・ピアディが追い払ってしまった。
 ジリオ様は基本、彼女の言うことはすべて叶えているようで、あっさり退散。
 アラン様は粘っていたが、レディ・ピアディには強くでられないみたいで……しぶしぶ引きさがった。
 私より背は多少、高いのだけれど、小柄なゴスロリ美少女だからね……仕草や言動も少し幼いし、勝てないよね。

「わたくしの成人を待って、婚姻する予定でしたのに、ジリィが宰相補佐として戦場に出陣することになり、1ヶ月後やっと戻ってこられましたの。でも、戦後処理で忙しいって2年も待たされて……今度は、貿易開発会議の使節団長だとおっしゃるじゃないですか! わたくし、いつまで待てばいいの! って、怒ってみたんですの」

 レディ・ピアディが、ついっとある建物に扇子を向けた。可愛らしい建物が見える。でも、なんか小さいような? 子供の秘密基地みたいなサイズ感の小さなお屋敷だ――なんだろう?

「ウーニャのお家ですの。わたくしのご機嫌取りにジリィが作らせましたの」
「え? あれ、ウーニャのお家……ですか? レディ・ピアディのご機嫌取りになんでウーニャのお家?」
「変……ですわよね?」
「……変ですね」

 よく見ると、ウーニャのいる庭園も、人なら跨いで終わりな小川に、小さな橋がかかっていたり、低木のアーチのトンネルや迷路のようになっている場所もある。あの緑の丘みたいになっているところは、山のつもりかな? 花壇部分には、ウーニャが好きな花が植えられているのか? 何匹かが、ムシャムシャ花壇の花を食べていた。ここはウーニャのためのミニチュア庭園なんだ!
 顔を見あわせて笑ってしまった。ジリオ様、やることの規模が大きいんだか、ズレているんだか!

 ひとしきり笑ってから気がつく……なんとなく、レディ・ピアディとジリオ様の婚約がととのったのは、私がシャルナ王国でジリオ様の『聖女の伴侶』の申し込みをことわったからだと思っていたけれど……今の話では婚姻まぎわだ。
 ――婚約はもっと前にととのっていたんだ……
 レディ・ピアディがジリオ様を好きなのは見ていてわかる。ジリオ様が私を押し倒したことがあるって知ったら、傷つくよね……

「その……ジリオ様との婚約はいつお決まりになったのですか?」
「ジリィが9歳。わたくしが0歳のときよ」

 予想外の年齢に思考がかたまる。9歳? 0歳? それって政略結婚? でも遠縁でも親戚間での政略結婚って必要なものなの? 貴族社会の常識か? この世界の常識か? わからなくて、返答に困っていると、彼女はニッコリ微笑んでつづけた。

「リオ様にとっておきの秘密を教えてさしあげるわ」

 彼女はパッと扇子を広げ、自分と私の顔を扇子の影にかくす。

「ジリィとわたくしは、1世代前の聖者の血族ですの。わたくしたちは、この世界の誰よりも高い魔力を持っていますの。
 だからリオ様、あなたがたとえ聖女様になれなかったとしても、同じ高い魔力を内包した身。わたくし、初めてお仲間ができたみたいで、嬉しいの」

 そう秘密をうちあけて、はればれとした笑顔を見せた。
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