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自分には盗撮の才能がある。
この仮面さえあればほしい写真がすべて手に入る。
そう思うと興奮してなかなか眠ることができなかった。
何度も寝返りを打ち、薄目を開けて机の上に置いてある仮面に視線を向ける。
次に視線は壁に貼り付けられているリナのポスターへと移動した。
「リナ……。僕のリナ」
ぶつぶつと呟いている内に眠気が襲ってきて、恵一はようやく眠りについたのだった。
☆☆☆
「じゃあ、仕事に行ってくるから。なにかあったらすぐに連絡するのよ?」
「わかってる」
恵一は布団を頭までかぶって母親に返事をした。
今日は体調が優れないので学校を休むことにしたのだ。
そう伝えたときの両親の顔は蒼白で、すぐにでもかかりつけの病院へ電話しそうな勢いだった。
恵一はどうにかそれを止めて、1人で大丈夫だと説得した。
母親はパートを休もうとしていたが、それも断った。
出勤時間ギリギリまで渋っていた母親をどうにか送り出した恵一は大きく息を吐き出して、布団から顔を出した。
ベッドの中から母親の車が遠ざかっていく音を聞いた恵一はゆっくりと起き出した。
体調が悪いというのは嘘だった。
そういえば自分の両親ならすぐに学校を休ませてくれるとわかっていたからだ。
多少の申し訳なさを感じるが、それでも期待のほうが大きかった。
恵一はクローゼットを開けると昨日盗撮したときと同じ服を取り出し、それを自分の意思で身に着けた。
どんな犯罪でも地味で目立たない服のほうがいいに決まっている。
次に家の鍵とデジタルカメラをズボンのポケットに入れる。
スマホやサイフが使うつもりがないのでそのまま置いていく。
準備が終わった頃にはちょうどいい時間になっていたので、恵一は私服姿のまま学校へと向かったのだった。
☆☆☆
自分の通っている学校に侵入するのは簡単だった。
生徒用の入り口は遅刻してきた生徒のために開放されているし、来客用の入り口から入ることもできる。
遅刻した生徒は学校内に入ることができないなんてシステムにはなっていなかった。
恵一はただ先生たちの目をかいくぐって男子トイレまで隠れればいい。
そしてそこまで到達すると、個室に入って持ってきた仮面をつけるのだ。
そこまでできれば恵一はもうなにも心配する必要がなかった。
恵一が学校に到着したのはちょうど1時間目の授業が始まったときだった。
まだあと40分は誰も教室から出てこない。
堂々と正門から学校内へ入った恵一は、昇降口の一番近くにある男子トイレに侵入することに成功した。
毎日通っている学校なのに、こうして侵入するとまた違う景色に見えてくるから不思議だった。
個室に入った恵一は深呼吸をして仮面を取り出した。
相変わらず真っ白で無表情な仮面。
だけどこの仮面をつけると自分は最強になれる。
どんなリナの姿だって、誰にもバレずに自分のものにすることができるのだ。
自分の言葉も行動も奪われた機能の恐怖はいつの間にか消え去り、恵一の中には大きな期待だけが鎮座していた。
その期待は誰がどう押しのけようとしても、簡単にはいなくなってくれそうにない。
恵一は期待に身を任せ、仮面を自分の顔にはめたのだった。
☆☆☆
今日1日の授業は頭に入っている。
3時間目は体育の授業で、女子生徒はグラウンドで持久走をやるはずだ。
着替えは外のロッカールーム。
恵一が今日一番狙っているのはそこだった。
だけど仮面をつけた恵一が最初に向かったのはB組の教室だった。
教室内から先生の話し声が聞こえてきて、周囲はとても静かだ。
換気のためか廊下側の窓が少しだけ開けられていて、そこから覗き込めば教室内の様子がわかりそうだ。
しかし、窓の向こうにはすぐに生徒の席があり、近づけばバレてしまう。
普段の恵一なら決してこんな危険なマネはしないだろう。
だけど今は違った。
仮面をつけた恵一はプロの盗撮魔なのだ。
体は勝手に動き、ほしい写真を手に入れてくれる。
開いている窓の下に身を屈めて恵一は息を潜めた。
そっと確認してみると一番近くにいる生徒は机に突っ伏して寝息を立てている。
これはチャンスだ。
恵一の右手が勝手にデジタルカメラを取り出し、窓の隙間から教室内を移し始めた。
リナの机は中央あたりだから、それまでに生徒たちの机が障害として立ち塞がっている。
更に恵一は自分の目ではカメラを確認していないので、どんな写真が撮れているのかもわからない。
それでも恵一は自分の体が動くがままに任せていた。
そして5分ほど写真を撮影すると、体は勝手に近くのトイレへと駆け込んだ。
うまく撮れているだろうか?
仮面を取り、はやる気持ちを抑えきれずに恵一はデジタルカメラの保存写真を確認した。
その中にはしっかりとリナの授業を受ける姿が保存されていた。
リナは右手にシャーペンを持ち、小首をかしげて先生の話を聞いている。
いつの間にかアップでも撮影していたようで、それははっきりとリナだとわかるように撮影されていた。
「すごいぞこれ」
思わず興奮した声が漏れて、慌てて右手で自分の口を塞いだ。
同じクラスになってからリナのこういう姿は幾度となく見てきている。
しかし、写真に収めたことは一度もなかった。
そんなリスクの高いことできないからだ。
このレアな写真を撮れただけでも恵一は興奮していた。
だけど今日の目的はこんなもんじゃない。
体育の授業はまだ先だ。
それまで休憩していよう。
恵一はそう考えてトイレを出たのだった。
この仮面さえあればほしい写真がすべて手に入る。
そう思うと興奮してなかなか眠ることができなかった。
何度も寝返りを打ち、薄目を開けて机の上に置いてある仮面に視線を向ける。
次に視線は壁に貼り付けられているリナのポスターへと移動した。
「リナ……。僕のリナ」
ぶつぶつと呟いている内に眠気が襲ってきて、恵一はようやく眠りについたのだった。
☆☆☆
「じゃあ、仕事に行ってくるから。なにかあったらすぐに連絡するのよ?」
「わかってる」
恵一は布団を頭までかぶって母親に返事をした。
今日は体調が優れないので学校を休むことにしたのだ。
そう伝えたときの両親の顔は蒼白で、すぐにでもかかりつけの病院へ電話しそうな勢いだった。
恵一はどうにかそれを止めて、1人で大丈夫だと説得した。
母親はパートを休もうとしていたが、それも断った。
出勤時間ギリギリまで渋っていた母親をどうにか送り出した恵一は大きく息を吐き出して、布団から顔を出した。
ベッドの中から母親の車が遠ざかっていく音を聞いた恵一はゆっくりと起き出した。
体調が悪いというのは嘘だった。
そういえば自分の両親ならすぐに学校を休ませてくれるとわかっていたからだ。
多少の申し訳なさを感じるが、それでも期待のほうが大きかった。
恵一はクローゼットを開けると昨日盗撮したときと同じ服を取り出し、それを自分の意思で身に着けた。
どんな犯罪でも地味で目立たない服のほうがいいに決まっている。
次に家の鍵とデジタルカメラをズボンのポケットに入れる。
スマホやサイフが使うつもりがないのでそのまま置いていく。
準備が終わった頃にはちょうどいい時間になっていたので、恵一は私服姿のまま学校へと向かったのだった。
☆☆☆
自分の通っている学校に侵入するのは簡単だった。
生徒用の入り口は遅刻してきた生徒のために開放されているし、来客用の入り口から入ることもできる。
遅刻した生徒は学校内に入ることができないなんてシステムにはなっていなかった。
恵一はただ先生たちの目をかいくぐって男子トイレまで隠れればいい。
そしてそこまで到達すると、個室に入って持ってきた仮面をつけるのだ。
そこまでできれば恵一はもうなにも心配する必要がなかった。
恵一が学校に到着したのはちょうど1時間目の授業が始まったときだった。
まだあと40分は誰も教室から出てこない。
堂々と正門から学校内へ入った恵一は、昇降口の一番近くにある男子トイレに侵入することに成功した。
毎日通っている学校なのに、こうして侵入するとまた違う景色に見えてくるから不思議だった。
個室に入った恵一は深呼吸をして仮面を取り出した。
相変わらず真っ白で無表情な仮面。
だけどこの仮面をつけると自分は最強になれる。
どんなリナの姿だって、誰にもバレずに自分のものにすることができるのだ。
自分の言葉も行動も奪われた機能の恐怖はいつの間にか消え去り、恵一の中には大きな期待だけが鎮座していた。
その期待は誰がどう押しのけようとしても、簡単にはいなくなってくれそうにない。
恵一は期待に身を任せ、仮面を自分の顔にはめたのだった。
☆☆☆
今日1日の授業は頭に入っている。
3時間目は体育の授業で、女子生徒はグラウンドで持久走をやるはずだ。
着替えは外のロッカールーム。
恵一が今日一番狙っているのはそこだった。
だけど仮面をつけた恵一が最初に向かったのはB組の教室だった。
教室内から先生の話し声が聞こえてきて、周囲はとても静かだ。
換気のためか廊下側の窓が少しだけ開けられていて、そこから覗き込めば教室内の様子がわかりそうだ。
しかし、窓の向こうにはすぐに生徒の席があり、近づけばバレてしまう。
普段の恵一なら決してこんな危険なマネはしないだろう。
だけど今は違った。
仮面をつけた恵一はプロの盗撮魔なのだ。
体は勝手に動き、ほしい写真を手に入れてくれる。
開いている窓の下に身を屈めて恵一は息を潜めた。
そっと確認してみると一番近くにいる生徒は机に突っ伏して寝息を立てている。
これはチャンスだ。
恵一の右手が勝手にデジタルカメラを取り出し、窓の隙間から教室内を移し始めた。
リナの机は中央あたりだから、それまでに生徒たちの机が障害として立ち塞がっている。
更に恵一は自分の目ではカメラを確認していないので、どんな写真が撮れているのかもわからない。
それでも恵一は自分の体が動くがままに任せていた。
そして5分ほど写真を撮影すると、体は勝手に近くのトイレへと駆け込んだ。
うまく撮れているだろうか?
仮面を取り、はやる気持ちを抑えきれずに恵一はデジタルカメラの保存写真を確認した。
その中にはしっかりとリナの授業を受ける姿が保存されていた。
リナは右手にシャーペンを持ち、小首をかしげて先生の話を聞いている。
いつの間にかアップでも撮影していたようで、それははっきりとリナだとわかるように撮影されていた。
「すごいぞこれ」
思わず興奮した声が漏れて、慌てて右手で自分の口を塞いだ。
同じクラスになってからリナのこういう姿は幾度となく見てきている。
しかし、写真に収めたことは一度もなかった。
そんなリスクの高いことできないからだ。
このレアな写真を撮れただけでも恵一は興奮していた。
だけど今日の目的はこんなもんじゃない。
体育の授業はまだ先だ。
それまで休憩していよう。
恵一はそう考えてトイレを出たのだった。
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