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アルバイターガレイト
閑話 モニカとモーセと上と下
しおりを挟む「──あれ? いまグラトニーちゃんが言ってましたが、ガレイトさん、鴨を倒したってもしかして……」
「そう。あんたが食べてた鍋の肉は、さっきあんたが話してた熊と一緒、竜の影響を受けた動物だよ」
「ははあ。……ということは、あの大きな鳥を倒したのは、ガレイトさんだったのですか」
「なに? ギルドでも、大きい鴨の事は話題になってたの?」
「……鴨かどうか、まではわからなかったけど、目撃した人はいるみたいよ」
「へえ……?」
モニカが訝しむように、モーセの顔を見る。
「ですが、これで得心がいきました。脅威を排除してくれて、ありがとうございます、ガレイトさん」
モーセがガレイトに頭を下げる。
「ああ、いえ、自分で蒔いた種ですので、後始末は自分でつけなければ……」
「ふむふむ、さすがガレイトさんですね。まったく、騎士の鑑です」
「……あんた、さっきから嫌にニコニコしてるけど……なんかあった?」
「ギク!?」
「あんたさぁ、いまどき『ギク』はないって……」
「いや、そりゃまあ、脅威を排除してくれたんだし、喜びもするわよ」
「……ねえ、もしかして、その鴨の討伐依頼、ギルドに来てたんじゃないの?」
「ええっ!? そそそそ、そんなこと、ななな、ないわよ!?」
「いやいや……」
「バッカじゃない!?」
モニカにツッコまれて、滝のような汗をかき始めるモーセ。
「もう、答え合わせじゃん」
「だ、だれが百点満点よ、だれが!」
「……どうせ、この後またギルドに戻ったら、自分の手柄とかにするつもりなんでしょ?」
「そ、それは……しないもん」
「『しないもん』……て、いくら依頼が宙ぶらりんでも、自分のものにするとか、そういうのはどうかと思うけどね」
「ま、まぁ……それも合わせての、今回のお礼……的な?」
「どう聞いても、鴨の件は完全に後発でしょうが」
「あー! もう! わかったわよ! 今度また、調味料とかのルートを確保しとくから、それでいいでしょ?」
「許す!」
ビシッ。
モニカが勝ち誇ったような顔でモーセを指さす。
「……すみません、モニカさん。調味料のルートとは?」
「ああ、ガレイトさん、言ってなかったっけ? 食材の仕入れルートはずっと制限されてたけど、調味料やお酒なんかはモーセに横流ししてもらってたの」
「よ、横流し……ですか?」
「そ。食材は特にそう言う縛りはないんだけど、お酒とか、ある一部の調味料って結構特殊じゃない?」
「特殊……」
「うん、自分で作ってもダメだし、飲むにしても年齢制限もあるし。だから、本来はギルドを介して、〝問題なし〟と判断してから店頭に並ぶんだけど、モーセには、たまにその〝問題なし〟表記を、〝問題あり廃棄〟として流してもらってるの」
「そ、そんなことが……」
「だからうちは、調味料だけは結構揃ってるの。……ま、結局、調味料を使って料理をするモノがないんじゃ、どうしようもないんだけどね」
「で、ですが、それは犯罪では……?」
「え? 犯罪だよ?」
罪悪感など微塵もなさそうに、ケロリと言うモニカ。
「ギルドも、その選別作業を国から委託されてやっているので、これがもしバレれば、波浪輪悪の信用は失墜してしまうんです……だから、あたしも本当はモニカの言うことは聞きたくないんですけど……うぅ……」
「そ、そうでしたか……」
涙目になるモーセと、それに同情するガレイト。
「でもさ、役人を買収して、食材の流通も制限して、周りの店もどんどん潰してって、儲けを独り占めにするほうが、倫理的にも法律的にもアウトでしょ」
「た、たしかに……」
「五十歩百歩なんて言うけれどさ、悪い事でいえば、レンチンは一万歩、こっちはせいぜい一歩くらいだから、気にしなくてもいいんだよ。……要は、生き残りゃいいんだから」
「さ、さすが、モニカさん。逞しい……」
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