10 / 39
いじめっ子再び
しおりを挟む「蠅村さんってどの学校から来たの?」
「蠅村って珍しい名前だよね」
「蠅村さん可愛いよね」
「彼氏いんの?」
「あんまり喋らないけど、もしかして恥ずかしがり屋さん?」
「なあ高橋、おまえの姉ちゃんって何歳?」
「たしか昔、この学校で生徒会長とかやってたんだっけ?」
「大学生だし、あんだけ綺麗なんだから彼氏とかもいるよなー……」
「今度、高橋ん家遊びに行っていいか?」
「頼む高橋! おまえの姉ちゃんのナインのアカウント教えてくんね?」
昼休み。
教室内は、今朝やってきた二人の話題でもちきりになっていた。
『蠅村鈴』と『高橋奏』の両名である。
蠅村の席の周りには、男子と女子が取り囲んでおり、ここからでは確認できないくらいだった。そして俺はというと、今までたいして話したことのないクラスの男子から、姉ちゃんの事について質問攻めに遭っていた。
蠅村はまあ、わかる。
ベルゼブブの時に比べたら、上手く可愛い女の子に擬態しているからな。無口だけど、無駄に表情が豊かなのもギャップがあっていいのだろう。
だけど、姉ちゃんはわからん。
弟だからってのもあるかもしれないけど、アレに異性としての魅力を感じているクラスの男子を趣味趣向が理解できない。
「なあ、高橋聞いてんの~?」
急に男の顔がドアップになる。
男にしては少し長めの金髪に、ユルく着崩されている制服。俺の顔を覗いてきたこのチャラい男は野茂瀬 南。この学校のカースト上位勢だ。しかし、三柳みたいなヤンキー寄りではなく、どちらかというと純粋に学校生活を楽しんでいるリア充……というか、陽キャだ。
けど、この見た目のクセにその女遍歴はまっさららしく、たまに女子と話しているところは見かけるものの、基本的に目は合っていない。
俺がこれだけ野茂瀬の情報を知っているのは、野茂瀬自身、女子以外なら比較的誰とでも話すからだ。
「あ、ごめん。なんだっけ?」
「奏さんの、高橋の姉ちゃんのナインアカウントだよ。弟なんだし、知ってるんだろ?」
「そりゃ知ってるけど……、勝手に教えたら怒られそうだし……」
「マジかよ。お、怒られてぇ……!」
正気かこいつ。
「頼む! 情報元は伏せるからさ! この通り!」
そう言って野茂瀬は手をパン、と合わせて懇願してきた。
「……ほんとうに伏せてくれるならいいんだけどさ、どうやって伏せるの?」
「それは、ほら……あの……アレだ……道端に落ちてました……とかさ」
「バカだ。マジモンのバカ」
「やっぱコイツなんも考えてねー」
「おい高橋、コイツにだけはゼッテー教えねェほうがいいぞ」
「う、ウルセーよ! 今のは冗談だっての! 本当はきちんと考えてんだよ、すげえやつをな」
「なら聞かせろよ」
「どうせロクなモンじゃねえんだろ?」
「道端の犬が咥えてましたーとか、言うつもりなんじゃね?」
「な、なんでわかった!?」
ここぞとばかりに野茂瀬をいじる男子。……と、それを笑って見てる俺。
なんというか、今までの学校生活では考えられないような光景だ。
「つーかさ、高橋、なんかおまえ変わった?」
野茂瀬から飛んできた鋭い指摘に、思わず固まる。
「え? ど、どこが?」
「なんていうか……なあ?」
野茂瀬はそう言って、他の男子に同意を求めた。
「まあな、前はオロオロしてる感じっつーか……」
「話しかけてくんなってオーラみたいなのあったよな」
「ていうか、いつも休み時間になると机に突っ伏して寝てたろ?」
「そうそう! それもあって話しかけづらかったけど、いまの高橋はなんていうか……目が死んでない!」
「いや、それは言い過ぎだろ」
「言い方考えろよ、野茂瀬」
「バカだからオブラートを知らねえんだろ」
影が薄くて、視界にも入れられてなかったと思ってたけど、意外と見られてたんだな。
それと、自分自身の変化にも少しびっくりしている。前まではこういったノリを煩わしいというか、無意識的に忌避していた節があるんだけど……、今はそれに『楽しい』という気持ちも混在している。これが、野茂瀬たちや姉ちゃんが言っていた俺が『変わった』という事なんだろうか。
──しん……。
クラス全体が急に静まり返る。何事かと思い、見てみると、クラス全員の視線が教室の前方の扉に集まっていた。そこにいたのは三柳と昨日会ったその取り巻き。
やがて三柳たちは俺を見つけると、クラスの視線など意に返さない様子で、俺の席までぞろぞろとやってきた。
三柳たちは俺の席の真ん前までやってくると、そこに座っていた野茂瀬を押しのけ、俺を睨みつけるように見下ろしてきた。
今朝の画鋲の件からなんとなく予想はついていたけど、まさかここまで露骨に来られるとは思ってもいなかった。
すこしだけ──ほんのすこしだけだけど、心拍数が速くなるのを感じる。でも、昨日みたく息が苦しくなったりという事はない。
大丈夫。
普通に振舞える。
「ようマコト……ちょいツラ貸せや。なあ」
「……え?」
「『え?』 じゃねえよ。理由はわかってんだろ? ああ?」
三柳はそう言うと、包帯が巻かれている手を見せてきた。三角巾で固定されていない事から、骨折はしていないようだけど、負傷するまで強めに握った覚えもない。俺はしばらく、考えていると──
「待てよ、おい」
押しのけられ、尻もちをついていた野茂瀬が立ち上がり、三柳の肩を掴んだ。
「おまえ、二組の三柳だろ? 高橋に何の用──」
ボコッ!
鈍い音。骨と骨とがぶつかって鳴る、不快な音。
野茂瀬が言い終えるよりも前に、三柳が負傷していないほうの手で野茂瀬の顔面を殴りつけた。野茂瀬は何も声を発さないまま、教室の床に倒れ込む。
「……へへへ、なに、リュウちゃん、このザコ?」
三柳の取り巻きが、ゴミを見るような目で野茂瀬を見下ろして言う。
「知らねえよ。正義のヒーロー気取りのカスかなんかだろ。……立てマコト、行くぞ」
「ど、どこに……?」
三柳は俺の質問を無視して、俺の隣にいた男子の髪の毛を掴んで引っ張り上げた。
「来いっつったら来いな?」
「いだだだだ……! や、やめてくれ、三柳……!」
男子が涙目になりながら、三柳ではなく俺に訴えかけてくる。
「わ、わかった。ついて行くから、放してあげて……」
俺がそう答え、三柳が手を放すと、その手から髪の毛がパラパラと落ちた。かなり強い力で、微塵の加減もなく掴んだのだろう。昨日の事で相当腹が立っているのだろう。三柳は、頭をおさえて痛がっている男子には目もくれず、ただ俺だけを睨みつけている。
「ついて来い」
三柳はそれだけを言うと、踵を返し、取り巻きを連れて教室から出ていった。俺はすこし申し訳なさそうに立ち上がると、そのまま三柳の後ろについて行った。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~
石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。
ありがとうございます
主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。
転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。
ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。
『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。
ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする
「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました
平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。
しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。
だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。
まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる