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魔法少女派遣会社
ドキドキ☆全面戦争の予感
しおりを挟む「──というワケで、私、どうしたら……」
S.A.M.T.事務所内。
霧須手さんが、レンジの会見について──ではなく、レンジの会見中に出てきた、〝元同僚〟について、皆と相談していた。
たぶん、霧須手さんとしては、事を大きくしたくないと思っていたから、こっそり私に相談しに来たのだろうけど、ぶっちゃけ、私如きでは処理し切れなかったので、とりあえず霧須手さんの了承を得て、この問題を事務所に持ち帰り、今いるダブル田島さんと、クロマさんに相談する運びとなっていた。
まあでもどのみち、遅かれ早かれ元心臓破坂のメンバーで、有名人だから、バレてはいたと思うけど……、それほど霧須手さんも動揺していたという事なのだろう。口調も標準語というか、普通になってるし。
「これは……困ったきゃとね……」
クロマさんが着ぐるみを着たまま、腕組みをしている。
いい加減脱げよ。と、ツッコみたくなったけど、とりあえず、そんな空気でもなさそうなので自重しておこう。クロマもいい加減自重しろ。
「そもそも、の話なのですが──」
岬さんが口火を切る。
「霧須手さん、貴女の所属していた心臓破坂のメンバーについてなのですが、その方たちは元々、あの日、インベーダーが侵攻を開始した日に、亡くなっておられたのでしょうか?」
「いえ、たぶん、それはないかと……あの時、私たちはテレビに出演していて、私はそこで歌を歌っている途中で、過労で倒れて死んでしまったんですけど……他に倒れた人はいない、と後からPさんから聞きました……。なので、みんな、生きていたと思います」
どうでもいいけど、〝みんな、生きていたと思います〟という言葉の力強くない?
「ふぅむぅ……。という事は、会見時に映っていた心臓破坂のメンバーは、能力者……つまり、魔法少女ではない、という事きゃとかねぇ……」
「私もクロマさ……プリン・ア・ラ・モードと同意見で、その可能性は高いと思っています」
喜咲さんが続ける。
「魔遣社の声明の中には、〝娯楽を提供する〟という文言がありました。プリン・ア・ラ・モードがさきほどおっしゃっていた事と、これを繋ぎ合わせて考えると、ミス・ストレンジ・シィムレスや、ひろみさんが、外敵との戦闘要員で、元心臓破坂のアイドルたちは、娯楽提供担当、という事になるのではないでしょうか?」
「……でも喜咲、あなたがさっき私たちにスマホで見せた、〝無個性な方たち〟も魔法少女という括りの中に入っていたわよ?」
「無個性云々は、私ではなく、貴女が言った事だと私は記憶しているんだけど。……って、それホントなの!?」
「ええ。全員の名前と顔はさすがに覚えていないけど、何人かはあの会見場にいた子たちと合致するわ」
「な、なんということ……全員特徴がないから、わからなかったわ……」
この二人、一見喜咲さんがツッコミ担当かと思いきや、喜咲さんのほうが平気でひどい事言ってるよね。
「……とはいえ、現時点では、この問題についての結論は出せないわ。あの子たち全員、何らかの理由で能力を得て魔法少女になったのかもしれないし、魔遣社に所属している社員(?)は全員、魔法少女と呼称されているだけかもしれない。だから霧須手さん、悪いんだけど、いまはこれくらいしか、私たちのほうから言うことは出来ないの」
「そ、そう、ですよね……」
霧須手さんが岬さんにそう言われて、シュンと肩を落とす。ここは何かしら年上としてフォローしておいたほうがいいよね。……でも、なんて言えば──
「──あ、でも! 魔遣社も直接戦わないって言ってたし、組織として敵対している事には変わりないけど、たぶん殺し合いに発展することはない、かも……」
あーあ。
なんとかして霧須手さんを励まそうとするものの、空回りしてしまう私。考え無しに話したら、そりゃこういう事になるよね。
「わ、わかったでござる。とりあえず、皆に相談できてよかったでござる。かたじけない」
いつものござる口調に戻った霧須手さんは、皆にお辞儀をすると、そのまま着席した。逆に気を遣われてしまう私は肩身が狭い。
「──ああ、そうきゃと。二人がいない間に、こちらのほうで結論を出したのきゃとが、これからS.A.M.T.は魔遣社に攻撃をしかけるきゃと」
「……はい?」
私の声と霧須手さんの声が、ピッタリ同じタイミングで重なる。
「キューティブロッサム風に言い直すと、〝カチコミ〟白鞘之紅姫風だと〝討ち入り〟という表現になるきゃとか」
「それはどうでもいいです」
「それはどうでもいいでござる」
「……要するに、今から魔法少女派遣会社を潰しに行くんきゃと」
「い、今!? このタイミングにござる?!」
「あ、あはは……お、おもしろい冗談ですねぇ。今日って四月一日でしたっけ?」
「このタイミングだし、四月馬鹿でもないきゃと」
「いやいやいや、向こうは武力によって訴えないって言ってましたし、こっちもきちんと〝魔法少女を擁する対インベーダー組織〟として、真正面から張り合いましょうよ!」
「そんな悠長の事は言ってられないきゃと」
「悠長って……でも、だったら、どうするんですか? ここで本当にカチコミかけて、魔遣社をぶっ潰したとしても、私たちが世間の批判に遭うのは、目に見えてるでしょ。『魔遣社は正々堂々、組織としてS.A.M.T.に戦いを挑んだのに、S.A.M.T.は無理やり武力で叩き潰した』って……」
「まあ、とりあえず話を聞くきゃと。ミス・ストレンジ・シィムレスという切り札を魔遣社が切ってきたという事は、事実上、武力による宣戦布告に他ならないきゃと」
「……どういう事ですか?」
「キューティブロッサム、会見はちゃんと見たきゃと?」
「会見って、レンジのですよね。見ましたけど……冒頭は見逃しちゃったかも」
「じゃあ知らないみたいだから言うきゃとが、魔遣社がミス・ストレンジ・シィムレスを雇ったのは、対インベーダー用ではなく、対魔法少女用なのきゃと」
「……え? 霧須手さん、知ってた?」
「い、いえ……拙者はとりあえず、無我夢中だったゆえ……知っている事といえば、キューブロ殿とあまり変わらないでござる」
「──ま、早い話が番犬きゃと。魔遣社は我々S.A.M.T.が、魔遣社に対して武力を行使する事を見越した上で、インベーダーであるミス・ストレンジ・シィムレスを抑止力として雇ったのきゃと。おそらく、ミス・ストレンジ・シィムレスの様子を見る限り、キューティブロッサムとの関係性を上手く利用して、口車に乗せたと思うきゃとが……」
「……あ、だから、これ以上余計な事を言う前に、あのタイミングで会見を中断させたんですか?」
「そういう事きゃと。ミス・ストレンジ・シィムレスも言っていたきゃとね? 『先に殴ってこい』と。我々はこれを暗喩だと受け取ったきゃと」
「暗喩……ですか」
「『魔遣社の戦力は整った。来るなら潰す。やれるもんならやってみろ』と。……ミス・ストレンジ・シィムレス自身が意図していないかもしれない発言とはいえ、彼女は魔遣社の意思をある程度汲み取っているはずきゃと」
「つまり、その発言は、上の意向を知った上での失言だったんじゃないかと……?」
「そういう風に捉えたきゃと」
「言いたい事はわからなくもないけど、そう結びつけるのは強引じゃ……?」
「──いえ、そうとも言い切れないのです。鈴木さん」
喜咲さんが、割り込んでくる。
「まず、今回出された魔遣社の声明ですが、〝武力を行使しない〟という主張を些か強調し過ぎているような気がしませんか?」
「あ、はい。そこは私も気になっていました。声明でも会見でも、何度も出て来てましたし……」
「はい。おそらくこれは、世間に向けての免罪符であると考えられます」
「免罪符……」
「何度も繰り返しになりますが、〝我々に害意はないが、向かって来るなら容赦はしない〟という意思の表れです。これにより、さきほど鈴木さんが先ほどおっしゃった通り、先に手を出したほうに世間の非難が集中するでしょう。……ですが、これは、ある事実と大きく矛盾しているのです」
「事実、ですか……?」
「芝桑司さん。S.A.M.T.に所属している魔法少女です。鈴木さんとも面識があると思うのですが……」
「──あ! ツカサの怪我!」
「はい。すでに魔遣社所属の魔法少女が、我々に攻撃を加えてきています。それも、芝桑さんから聞くところによると、とても一般人の目には捉えきれない速度で……」
「あ、じゃあ……あいつら! 自分たちからは攻撃しないとか言っといて、攻撃してくる気満々なんですね!? それも、普通の人にはわからない方法で!」
「はい。そして、それはこれからも続くでしょう。だからこそ、早めに対策を講じる必要があるのです。それと、最後に──」
「まだあるんですか!?」
「──キューティブロッサムと、白鞘之紅姫しか戦力がいない、このタイミングでの会見きゃと。要するに、僕たちはいま、大きく分けて、二つの選択肢を突き付けられているきゃと。沈黙か攻勢か」
「沈黙と攻勢……?」
「沈黙は、このまま増長していく魔遣社を、蚊帳の外から指をくわえて見ている事。メリットは、今すぐ何かしらの被害を我々が被る事が無い事。デメリットは、魔遣社が完全に成長しきってしまったら、こちらから手を出すのが困難になってしまう事。そして攻勢が──」
「……さっき言ってた、魔遣社を潰す事、ですね?」
「そうきゃと。こっちのメリットは、早いうちに危険な芽を摘むことが出来る事。そしてデメリットは、こちらが逆に潰されるかもしれないという事。そして、魔遣社はうちと戦って、本気で勝つつもりでいるきゃと」
「戦力が私と霧須手さんしかいないから、ですか?」
「もちろんそれもあるきゃとが、無視できない要因がもうひとつ。……もうわかるきゃとね?」
「ミス・ストレンジ・シィムレスの存在、にござるか?」
「そうきゃと。これは大きすぎる壁きゃとね。皆知っていると思うきゃとが、ミス・ストレンジ・シィムレスは、キューティブロッサムが出てくるまで、誰の手にも負えなかった、正真正銘のバケモノきゃと。──以上の事から、魔遣社は自分たちが負けるとは微塵も思っていないと思うきゃとが……言い換えれば、このミス・ストレンジ・シィムレスさえどうにかすれば、僕らにも勝機はあるのきゃと」
「あ、じゃあ、何か考えがあるんですか?」
「じつは、とっておきの策があるきゃとよ……きゃときゃときゃと!」
クロマさんはそう言うと、気持ち悪く笑ってみせた。
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