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魔法少女派遣会社

ちょびっと☆罪悪感

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「な、何やってんだよ、姉ちゃん……そんな痛い格好して、今年何歳だと思ってんだよ。もう止めてくれ、恥ずかしいよ」

「う、うるっさいな! お姉ちゃんだってべつに、好きでこんな格好したいわけじゃないんだ……って、女装してるあんたには言われたくないわ!」

「お、俺が女装してるのは、姉ちゃんには関係ねえだろうが! 俺だって、別に好きでやってるわけじゃ……ねえよ!」

「はン、嘘だね! いまあんた、ノリノリだったよ!? 写真撮ってあげようか!? 流し目なんかしちゃってさ、普通に〝女の子である事〟を楽しんでたじゃん!」

「は、はあ!? う、うるせーし! た、楽しんでねーし! むしろ脱ぎたかったし! こんな服!」


 ひろみはそう言うと、止めていたフロントのボタンをぶちぶちと引きちぎった。このままではひろみの貧相な胸板が、白日の下、晒されてしまう事になってしまう。そう考えた私は、急いでそれを止めさせると、ひろみの頭を軽く叩いた。


「あ、あいたっ!? な、何すんだよ!」

「ちょっとあんた! なにこんなとこで半裸になろうとしてんの! 半裸になりたいなら、もっと鍛えてから脱ぎな!」

「誰も半裸になりたくてなろうとしてたねえし! しかも、姉ちゃんの好みを押し付けて来てんじゃねえ!」

「だ、誰が筋肉好きだ! 誰が!」

「つか、服脱ごうが俺が何しようが、勝手だろうが! オカンかよ!」

「お母さんが放任気味だから、こんな事になってんでしょうが!」

「姉ちゃんが口うるさいから、ほとんどオカンと変わんねえよ!」

「誰がオカンと呼ばれる年頃だ!」

「誰も言ってねえよ! そんな事!」

「……ていうかね、周りの迷惑も考えな? 誰もあんたの貧相な胸板なんて見たくないんだよ? 霧須手さんも見てるんだよ? ちょっとは自重しな?」


 私はひろみの胸元を押さえながら、霧須手さんを指さした。
 しかし、霧須手さんはなぜか眼鏡をかけており、口をだらしなく開けたまま、ひろみをじっと見ていた。


「……霧須手さん?」

「ジュルリ……あっ! その……! 拙者の事はお構いなく……どうぞ、微笑ましい姉弟喧嘩を続けてください……」


 今、霧須手さんの口癖である〝デュフフ〟が〝ジュルリ〟に変わってた気がするけど、ここは聞かなかったことにしておこう。


「つか、いい加減離せよ! 服が伸びるだろうが!」

「じゃあせめて何か着なって! このままじゃ胸板どころか、乳〇も出るよ!? ポロリって!」

「お、男なんて乳〇だしてなんぼだろうが! そんなのいちいち気にしねえよ!」

「男が乳〇出してなんぼっていうのは、語弊があるよね!? ていうか、マジ服着な! まだ肌寒いし、お姉ちゃんの服貸してあげるから!」

「ば……ッ!? や、やだよ! 誰が姉ちゃんの服なんか着るか! そんなフリフリしたやつ!」

「いや、お姉ちゃんのとひろみの服あんまり変わらないじゃん。……てか、いい加減素直になりなって、『僕は女装が大好きです』って言いな? お姉ちゃん、ひろみの事、バカにしないから。ちゃんと受け止めてあげるから」

「だから違うっての! これは趣味じゃなくて……、その、やらされてるだけ!」

「そんな事言って、化粧までしてるじゃん。自分でやったんでしょ、それ?」

「は、はあ!? ちがうし! これも無理やりされただけだし!」

「だれに?」

「と、友達だし!」

「はい、うそ! あんた友達いないじゃん!」

「い、いるし! 小学生の時点で100人いました! 今ではもうその10倍はいます!」

「ふぅん……でも、化粧上手いよね。ちゃんと可愛くなってると思うよ。てか、私よりも上手いんじゃない?」

「え? ま、マジで!? ……自分なりに色々調べて頑張ってみたんだけど、やっぱカワイイよな!? 上手く出来てるよな!? 俺的には、もっとこう、目元のほうを明るく──はッ!?」

「やっぱり。自分から率先してやってるんじゃん」

「だ、騙したのか……? この俺を?」

「ああ、嘘だよ! でも、マヌケは・・・・見つかったようだけどね!」


 まあ、ちゃんと可愛く出来てるのは本当だけど、悔しいから言わない。


「よくも騙したァァァァァ!! 騙してくれたなァァァァァ!!」

「いや、ほら、そういうのはもういいから、さっさと家に帰りな? お母さんとお父さん、心配してたよ? 手紙しか寄越さないって」

「そんな事言ったら、姉ちゃんのほうが心配されてたわ! 今までどこほっつき歩いてたんだよ! ずっと連絡寄越さないで、みんなすげえ心配してたんだぞ!? じいちゃんなんてボケちゃったし」

「おじいちゃんは元々ボケてたと思うんだけど。どこに居た、て訊かれると……留置場?」

「はあ!? ……また、姉ちゃん適当な事ばっか言ってる。そんなんだから、男出来ないんじゃないの?」


 イラ。
 私は掴んだままのひろみの服を、さらに強い力で握って、ひろみの首を絞めた。


「ぐええええ……! ごめ……ごめんって……姉ちゃ……苦し……!」

「ごめーん、聞こえなかったんだけどさあ! なんて言ったのかなあ!? うーん? もっかい言ってくんない?」

「キ、キューブロ殿、その辺にしておいたほうが……弟殿の顔が、すでにどどめ色にござる」


 霧須手さんに言われて、私は手の力を緩めた。
 ひろみは地面に膝をついて崩れ落ちると、大きく肩を動かして息をした。


「はぁ……っ! はぁ……っ! はぁ……っ! ……っく、し、死ぬかと思った……!」

「次なんか余計な事言ったら、白目剥いて、気絶するまで締めるからね」

「ず……ず……ずびばぜん……でじた……! もう生意気、言いません……!」


 ひろみは跪いたまま、さめざめと泣き始めた。


「こ、これが……鈴木家においての力関係……にござるか」

「──ね、ひろみ。もう一度訊くよ? 女装、自分からやってるんだよね?」

「はい……」

「好きでやってるんだよね?」

「………………ぐすっ」

「ひろみ? 答えなさい」

「大好きです……! 今度は、嘘じゃないです……!」

「やっぱりか。これは……困ったな……」

「いやいや、キューブロ殿、正直に話したら受け止めるって言ったんじゃ……」

「あ、いや、その事については受け止めるよ。けど……うーん……」


 ひろみのカミングアウトに、私は思わず頭を抱えてしまう。


「いや、べつに私の弟が女装好きだとか、化粧が私よりも上手だとか、そういうのはぶっちゃけ、どうでもいい(どうでもはよくない)んだけど……たぶん、弟がこうなっちゃった責任の原因の一端は、私にあるんだよね……」

「ど、どういう事でござる?」

「……えーっと、たしかあれは、まだ私が不りょ……学生をやっていた頃の話で」

「あ、拙者、キューブロ殿がヤンキーやってたのは、普通にクロマ殿から聞いてるでござるよ。だから隠さなくてもいいでござる」

「プライバシー! なんで、何でもかんでも話すんですか!? バカなの!?」

『ごめんきゃと。けど、魔法少女間での隠し事って、良くないと思うきゃと』

「かといって、なんでもかんでもさらけ出すこともいいとは言えませんがね!?」

『反省、きゃと』

「あとでぶっ飛ばすので、そのつもりでお願いします」

『ええ!? そんな殺生きゃと!』

「……話を戻すけど、その頃、近所にはツカサも住んでて、私の学区にも私にまだ、私に対してナメた態度をとるヤツらがいた頃の話なんだけど、私はひと回り年下の弟、つまり、ひろみを着せ替えして遊んでたんだよね……」
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