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魔法少女派遣会社
ドキッ!☆禁断の師弟愛 ※百合要素有
しおりを挟む「あ、それについてはまだ話してなかったっスね」
「という事は、ちゃんと理由はあるんだ?」
「はい、あるみたいっスね。ウチはよくわかんないスけど」
みたい、か。
インベーダーが現れて今に至るまで、まだ数か月くらいしか経ってないし、そこまで解明されて無いんだろうな。
「今、普通の人が死んでも、魔法少女……つまり、半インベーダー化しない理由は、もう閉じちゃってるからっスね」
「……閉じてる? もしかして、次元の扉ってのが?」
「そス。だからもう〝ロストワールドからのなんやかや〟が、その死にかけてる人間を復活させるという事は起きないんスよ」
「え、でも、普通にインベーダーはこっちに来てるよね。……あ、もしかして、今こっちの世界にいるインベーダーって、迷子的なヤツ? ロストワールドに帰れなくなってるから、ここにいるの? ……あれ、でもそれじゃあ空がいきなり赤くなるのはおかしいか……」
「さっすがアネさん、鋭いっス! ちなみに、アネさんが〝迷子〟て言ったのも、あながち間違いではないんスけど、ほんのちょこっとだけ違うんス。次元の扉が閉じて向こうの世界に帰れなくなった……んじゃなくて、ロストワールドが無くなったから、帰れなくなったんスよ」
「……あ、ロストワールドって、そういう意味でのロストワールドだったの!?」
「直訳で消失した世界っスからね。そういう事になるんじゃないっスか? ウチは誰が名付けたのかまでは知らないっスけど」
「……え? じゃあ、つまり、どういうこと? インベーダーがロストワールドに帰れなくなってて……、それじゃあインベーダーって普段、どこにいるの?」
「それが……わからないんスよね。ちなみに、今の魔法少女の任務のひとつがそれなんス」
「任務?」
「まず、今日アネさんがやったみたいに、攻めてくるインベーダーの対処がひとつっス。それと、どっかにインベーダーが巣を作ってるみたいだから、見つけ出してそこを破壊する。主にこのふたつが当面の目標っスね」
「そ、そうなんだ」
目標って……なんでそんな言い方を……。
でも、魔法少女なんだから、それはそれで世界観(?)に合ってるのかな。
……うん、ダメだ。
こういうところにケチつけ始めるのって、なんかいよいよ年な感じがする。順応していかないと。
「……でもさ、そんな、シロアリとかじゃないんだから、すぐに見つかるんじゃないの? あんなに大きいカニみたいなのもいるんだし」
「うーん、それが、サッパリなんスよね……」
「ホントに? ちゃんと探してはいるんだよね?」
「はい。魔法少女になってから、そういう気配にも敏感になってるんで、ウチ含め、魔法少女全員、私生活でも『あれ? ここちょっと怪しいかも』って思うところは、みんな積極的に調べてると思うっス」
「へぇ、そうなんだ? 話を聞く限りだと、けっこうサッパリした……サバサバした組織かなって思ってたんだけど、やっぱりそこらへんは手は抜かないんだね」
「まあ、なにしろ、報奨金が現ナマで出るっスからね。みんなも必死なんスよ」
「げ!? ……高校生以下の年齢の少女たちに対して、報奨が現ナマ支給って、やっぱりおかしいよ、この組織……」
「まあまあ、やっぱり現物支給より、お金って事っスよ」
「……ね、ちなみになんだけど、どれくらい出るの?」
他意はない。
……他意はないよ?
けど、ほら、やっぱり気になるし。お金なんて、あっても困らないし、もちろんそういうのも抜きでちゃんと私も探すけど、金額は訊いておきたいから。
私がそう尋ねると、ツカサは、人差し指、中指、薬指を立てて見せてきた。
「三万……かぁ、なるほど。けっこうなお小遣い稼ぎには──」
「桁っス」
「……ん?」
「三百万っスね。……有力情報で」
「へ、へぇ……?」
よし、探そう。そして削ろう、睡眠時間。二時間くらい。
肌はちょっと荒れるかもだけど、三百もあったらおつりがくる。
「けど、たぶん、そうそう見つからないんスよね」
「ええ!?」
「そ、そんなにビックリしなくても……」
「ごめん。……やっぱそうなんだ?」
「はい。ウチらからは感知できないように、インベーダーも上手く隠してるとかなんとか……」
「だよねぇ……、三百はダテじゃないよね……。たしかに……あのカニも突然空から降ってきたしね」
「そうなんスよ。巣が見つからない以上、ウチらのほうから攻め込む! ……みたいなことが出来ないから、いつも後手後手に回ってるってのが、今の現状っスかね」
ツカサは「はぁ……」とため息をつくと、憂いを帯びた眼をした。気のせいか、顔が赤い気がする。そろそろ未成年の前でお酒飲むのは止めとこう。
「……うん、これで大体、現状についてはわかったかな。ありがとね」
「いえいえ! ウチもアネさんの役に立ててうれしいっスよ! どんどん頼ってくださいっス」
「ありがとう。これからも頼りにしてるよ……てことで、今日はお開きにするかな。ツカサはまだ怪我の関係で、しばらく出られそうにないんだよね?」
「ふぅむむむ……」
「ん? どうかした? 急に黙り込じゃって?」
「お、おお……! なんというか、ようやく実感がわいてきたっス!」
「実感? なんの?」
「これからアネさんと同じチームで戦えるって実感ス! あの頃の、ガキのウチに聞かせてやりたいっスよ! 『おまえは将来、アネさんと同じ所で戦えるんだぞ』って!」
「大袈裟……って、ワケでもないかな。私もあの時の子と一緒に働けるんだし、そう考えると、なんか感慨深いね。てことは、ツカサは私の先輩って事になるのかな」
「せ、センパ……!?」
「おす! ツカサ先輩! よろしくお願いいたしますっス! うす!」
私はすっと立ち上がると、ビシッと姿勢を正し、額の前に手を持ってきて敬礼をした。
酔ってるな。
酔ってるわ。
でも、まだ素の自分が、酔ってる自分を俯瞰で見れてるだけマシか。
そんな事を考えていると、ツカサの顔が、目に見えて赤くなっていくのがわかった。
「う、うううう、ウチが、アネさんの……せせ、先輩……!?」
──ポタポタポタ。
なんか、ツカサの鼻から変なの垂れてない?
──いや、よく見てみると、赤い液体がツカサのふとももの上に、ポタポタと落ちていた。
血だ、コレ。
「ちょ、なにいきなり!? どうしたの? 大丈夫!?」
「た、たま……た……たまらん……ウチがせんぱい……アネさんがこうはい……職権乱用で……アレコレ……!」
「何言ってんの!? いや、それよりも血! ティッシュどこ!?」
「だ、大丈夫っス。こんくらい……」
ツカサはそう言って、ぐしぐしと腕で強引に鼻を拭った。
……が、もちろん鼻血は止まらない。
「だからダメだって刺激しちゃ! 鼻血はなかなか止まらないし、中にあるから患部を直接止血することも難しいんだから!」
「さ、さすがっス。何でも知ってるっスね、アネさん」
「もう、まったく、この状況でフガフガ言ってる場合じゃないでしょ。とりあえず鼻の付け根押さえて。それとティッシュどこ?」
「す、すんません。たしかスカートのポケットの中に……」
「ポケットの中ね? 私が取り出してあげるから、ツカサは鼻押さえてて」
「お、お手数をおかけするっス……」
私はツカサの前までやってくると、その場にしゃがみ込──
「──うわわ!?」
どしーん!
腕で鼻を拭ったからだろうか、フローリングにまで垂れていた鼻血を踏んでしまい、私はそのまま、ツカサを押し倒すように転んでしまった。
ツカサは私のマヌケ加減に驚いてしまったのか、私の体のすぐ下で、大きな目をパチパチとさせている。
「あ、アネさ……さねあん!?」
「いったた……ご、ごめんツカサ。いますぐどくか……ら……」
ガシっ。
突然、ツカサの足で上半身をホールドされ、手で肩を掴まれる。
「え? 何? 寝技の練習!?」
「す、すんません、アネさん……なんか、体とか顔とか熱くて……」
「いや、そりゃ血が出てるからで……ていうか、遊んでる場合じゃないでしょ! さっさと離して! 鼻血拭かなきゃ……え!?」
ツカサの顔がゆっくりと近づいてくる。
目はとろんとしていて、頬は紅潮し、うーっと口をすぼめている。鼻血はすっかり止まってしまったのか、もう流れ出ていない。
よかった止まってる。
「──じゃない! ちょっとツカサ! からかってるなら怒るよ!」
「アネさん、ウチ、本気っスから」
「……え?」
──トゥンク。
て、アホか!
なにこの状況!? 酔ってるの!? この子、お酒飲んでなかったよね!?
そう考えている間にも、ゆっくりとツカサの顔が、唇が近づいてくる。
あ。
でも、ツカサって、やっぱり近くで見ると、可愛い顔してるし、私も今、ちょっと酔ってるしで、変な気分に……じゃなくて!
はやくツカサを酔いから覚まさないと!
私はなんとかして拘束を振りほどこうとしたが、かなり力が強い。さすが現役の番長。
だったら私も本気で振り解こう……としたらどうなるかわからない。でも、加減してても抜け出せないしで……わああああ、近い近い……顔近いって……!
ちょ、マジでどうしたらいいの!?
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