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リリスに抱かれて

前編

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 ミュンヘンの酒場のカウンター席で、男女が寄り添って飲んでいた。
 五百ミリリットルグラスのヴァイスピア。
 乾杯はとっくに交わしているが、会話は長いこと停滞していた。

 女のほうはようやく三十路を越えた歳の婉然とした美人で、イギリスから幼い頃に越してきて以来ドイツに定住しているリリスという名の未亡人だった。童顔の彼女は、薄い化粧に長い赤毛が特徴的で、洒落たツーピースを着ていた。
 男のほうは同年代くらいのスーツを着たほっそりとした警官で、この女性に密かに惚れていたが、それを口に出したことはなかった。

 故に、唐突に彼女から呼び出された彼は緊張していたが、リリスは取り留めのない世間話に終始するだけで、どうしてこんな場を設けたのか、その意図をなかなか明かそうとはしなかった。

 警官の脳裏には、一年前の出来事がちらついていた。最後にこうして会ったときには、彼と彼女を含めて三人がいたのだ。
 大学で意気投合して以来ずっと、こんな風に飲みに来る場合は、そこで親しくなった三人で訪れていた。去年までは――。
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