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第6章
9話 精霊の迷い家~第3領域・ザルツ村ファイターZERO 中編~
しおりを挟むまずは1戦目、兵士A&B対村人B&Cこと、フィデールさん&サージュさん。
最初は、味方側の魔力や筋力、敏捷性など、戦闘に関わるステータスを一切弄ってないノーマル状態からのスタートだ。果たして一体どんな戦いになるのかな。
と思ってたら、あっちゅー間に終わった。
フィデールさんが前面に出て、剣と土魔法で兵士2人をいなして足止めしてる間に、サージュさんが後方から魔法で水の槍を撃ち出し、それを兵士Aの頭にぶち込んで昏倒させたのち、フィデールさんが残りのBを剣で滅多打ちにしてゲームセット。
ナニコレ。ぶっちゃけ30秒かかってないんですけど。
うわあ。フィデールさんとサージュさん、強過ぎじゃね?
つか、フィデールさんの剣撃も凄まじかったが、サージュさんも大概だ。攻撃魔法一発カマすだけで、1000ポイントあるHPを削り切っちゃうってなに。
どんだけ高威力の魔法なのよ、さっきの水の槍。怖っ。
フィデールさんとサージュさんの圧勝ぶりを目の当たりにした、戦闘経験皆無な村の人達は大盛り上がりだけど、獣相手ながらも実戦齧ってる私やリトス、シエルなどは、ちょっぴり顔が引きつっている。
ええ。私達はあの2人の実力がいかにヤバいものであるのか、嫌でも理解できるんで。
一方相手方は、初戦から黒星ついちゃったせいで激凹み。
クソ王もめっちゃ怒ってます。初戦からそんなボルテージ上げてたら血管切れるよ、お前。
大体肝心の兵士2人はどっちも気絶してるから、怒りに任せて喚き散らして説教垂れた所で、ひとっことも聞こえてないし。意味ねー。
さて、将軍がクソ王を必死こいて宥めてる間に、兵士達は2戦目に挑むようだ。
得物は、1戦目でやられた兵士達が持ってた剣。どうやら勝手に借りて使用するみたいです。
今度も2体2のタッグ戦で、相手はアンさんとピアさんか。女相手なら勝てるだろ、とかいう、ゲスくて薄っぺらい思惑が丸見えだね。大変みっともないです。
ていうか……アンさんの得物はすりこぎの二刀流で、ピアさんの得物は……デッキブラシ1本? 最初にアバター作る時、「使いたい武器があったらモーリンに伝えてね」とは言ったけど、どういうチョイスなの、それ……。
対戦相手の兵士2人も小馬鹿にして笑ってるよ。地味にイラっとするな。
私や村の人達の冷ややかな眼差しにも気付かぬまま(そりゃそうだよね)、兵士C&Dはアンさん&ピアさんとのガチンコ勝負に挑み――今度も30秒以下の秒数で、あっという間に負けた。
すりこぎとデッキブラシで一方的にボコられて。
いや、ホント凄かった。
まずアンさんが、ほんの一瞬で敵との間合いを詰めたかと思うと、二刀流すりこぎの攻撃によって剣を立て続けにあっさり撥ね上げ、兵士2人を丸腰に。
その後、兵士Cは音もなく接近して来ていたピアさんの、デッキブラシ槍術でボコボコにされ、残りのDは案の定アンさんの、2本のすりこぎを巧みに用いた乱撃によって、同じようにボコボコにされた次第。
すりこぎとデッキブラシも、上手く使えば強力な武器に化けるんだな……。初めて知った。
ていうか、前から思ってたけど、アンさんとピアさんて何者……?
日々の言動から滲み出る品の良さを鑑みれば、元貴族令嬢なのは間違いなさそうなんだけど、さっきの身のこなしと技の切れはちょっと異常だ。
それこそ、子供の頃から10年単位で研鑽を積んだとしても、あの域にまで到達できる女性はそういないだろう。
アンさんもピアさんも、絶対に単なる元貴族令嬢じゃない。
なんか怖いから、昔の話とか突っ込んで訊く気にはなれないけど。
まあ、細かい話は脇に置いておくとして、一層不機嫌になってギャーギャー喚くクソ王のがなり声をBGMに、対戦は続く。
3戦目は、兵士Eとシエルのタイマンバトル。
先手必勝とばかりに間合いを詰め、積極的に斬りかかってくる兵士の剣を、シエルが手持ちの剣で受け弾いていたのはたったの数合。
どうやらシエルは、兵士の攻撃を迎え撃っている間に魔法の詠唱をしていたらしく、詠唱完了と同時に、兵士のどてっ腹に蹴りを入れる事で大きく間合いを広げ、その隙に足元から火柱が吹き上がる派手な火魔法をぶち込んだ。
哀れ兵士Eは、火魔法一発の直撃だけでHPがなくなり、そのまま試合終了。
これもさっきの水魔法同様、相当な高威力だったようだ。えぐい。
4戦目は、兵士Fとリトスのタイマンバトル。
しかし兵士Fは今までの兵士と違い、槍を持ち出してきた。しかもハルバードときた。
対するリトスの得物は、ごく普通のロングソード。一般的に、剣で槍を持った相手に勝つには、槍の使い手の3倍の技量が必要だと言われているし、ハルバードは普通の槍より攻撃パターンが多彩だ。
こりゃ流石に分が悪いか、と思ったが、そんな事はなかった。
なんとリトスは、相手が振り下ろしてきたハルバードを最小限の動きで回避すると、ハルバードを斜め下からロングソードでぶっ叩いて撥ね上げたのち、即座に間合いを詰め、がら空きになった兵士の胴を薙ぎ払ったのだ。
そして、その一撃によって大きくバランスを崩した兵士は、ハルバードの利点を活かすどころか防戦さえままならなくなり、1分と保たず床に転がる事となったのである。
絵に描いたような圧勝だった。
うわ強ッ! うちの子めっちゃ強ッ!
いつの間にあんな強くなってたの!? リトス君!
道中のクソッタレゲームで心身を擦り減らした影響から、完全な本調子じゃない状態だとはいえ、相手は曲がりなりにも戦場へ出る王に、突入時の共連れとして選ばれた、軍内部でも精鋭の位置づけにある兵士だよ? しかも槍装備!
そんな奴相手に真っ向からぶつかった末、危なげなく勝っちゃうとか! 凄いなんてもんじゃないぞこれ!
これには私のみならず、村の人達もみんな揃ってスタンディングオベーションの大喝采。
私もつい興奮のまま、アバターの操作をやめて椅子から立ち上がったリトスに抱き付いて、思い切り頭をワシャワシャしながら、思いつく限りの賞賛の言葉を並べ立て、めっちゃ褒めちぎってしまったよ。
リトス君ときたら、途端に「んぐっ」とか言う声上げて、硬直して動かなくなっちゃって。
兄妹同然に育った幼馴染みとはいえ、やはり人前で頭ヨスヨスされたり、褒められまくったりすると恥ずかしいのかな。この照れ屋さんめ。今夜は赤飯出しちゃるからな。
何はともあれ、これ以降も私達ザルツ村チームの快進撃は途切れる事なく続いた。
5戦目に登場したアステールさん&フィデールさんのタッグは、敵を倒すだけに留まらず、相手方の剣までへし折ってのけるという大活躍を見せてくれたし、6戦目でタイマンバトルの相手に選ばれたサージュさんは、単独戦闘やらせても滅茶苦茶強かった。
勿論私もステゴロで頑張りましたよ。
アステールさんとフィデールさんが剣をへし折ってくれたお陰で、相手も素手だったから特に苦労しなかった。
私にお呼びがかかったのは、ゲーム開始から数える事11戦目。
戦闘開始直後、相手が身構える前に全力で間合いを詰め、腹と顎に一発ずつ拳を叩き込み、最後に胸倉掴んでパチギ決めたら、なんかもうそれだけで片が付いちゃったんだよね。
やっぱり正規兵の皆さんは、決まり切った型がない、喧嘩殺法を使う私のような相手をいなすのは苦手だったようだ。
私達ザルツ村チームの、ここまでの対戦成績は11戦0敗。
まだレフさんの力もモーリンの力も借りてないのに、なんとも見事な勝ちっぷりだ。
さてさて、今度はどいつが出てくるのかな?
なんて思ってた矢先、ついにクソ王が将軍を伴って前へ出てきた。
対戦相手として指名されたのは私とリトス。
へえ。ここにきて私とリトスを指名するとは、なんとも因縁めいた展開だ。
こいつはなんだか波乱の予感がするね、と言いたい所だが――
残念ながら、この領域内での戦いはある意味出来レースみたいなモンなんで、クソ王達がどうあがこうと、波乱なんて起こる訳ないのである。
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