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第6章

1話 我欲の矛先~籠城戦と情報戦~

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 ザルツ村襲撃事件から、ひと月が経過した。山はすっかり秋の色に染まり、キノコや木の実、果物など、多種多様な山の幸が実りの時を迎えている。
 村的には、保存食作成の最盛期でもあります。
 今年は野イバラの実の干し果やジャムをいっぱい作ろう。
 特に野イバラのジャムは、爽やかな風味と甘酸っぱい味が癖になる至高の一品。是非とも多めに作っておきたい。

 ちなみに、あれからこの近辺にはずっと、定期的にクソ王の手先がやって来ていて、しつこく山への侵入を試み続けているようだが、今の所侵入してきた者は誰もおらず、施された結界も、小揺るぎもせず山を覆い続けている。
 安心安全な環境が問題なく維持されているのは、とてもいい事だよね。

 ただ、定期的にこちらへ顔を出していた数人の行商人まで、すっかり村に来なくなってしまったのは、多少頭が痛い出来事だった。
 クソ王が権力をかさにきて入山を禁じているのか、それとも逆に、クソ王に抱き込まれて村に悪意を持ったせいで、入山できなくなっているのか、はたまたその両方か。
 どっちにしても、実に嫌らしい真似をしてくれる。
 籠城している敵に対して取る戦法としては、ド定番の定石だけど。

 クソ王としては、外部からの食料供給などを寸断すると同時に、貨幣の獲得を阻害して、私達を多角的方面から日干しにする腹積もりなんだろうが、無駄無駄。
 元から村は、半数近くが自給自足に近い形で暮らしてるし、村内では貨幣を使った買い物より物々交換の方が活発だ。

 季節柄、今は山の恵みも豊富で食料には事欠いておらず、むしろ、山で採れたものを保存食作りに回すほどの余裕さえある。
 村の人達が、山の自然と森神様であるモーリンを大切にしているから、モーリンも気をよくして、山の環境を整える方向へ魔力を回してくれているのだ。

 そして何よりこっちには、『強欲』のスキル持ちにして、生粋の食いしん坊たる私がいる。自分や村の人達を、食うに困るような状況に陥らせるなど、この私が許すはずなかろう。

 今日だって、デュオさんの店にいつも通り全粒粉を卸したし、そうして手にしたお金も、デュオさんやカトルさんの店で買い物する事で定期的に一定額を消費・還元している。
 つまり、村内の一部限定ながら、経済活動もできてるって事。

 ぶっちゃけザルツ村を干上がらせるなんて、私が生きてる限り不可能なのだよ。
 むしろ、単純な籠城戦の能力だけで比較すれば、間違いなく王都よりザルツ村の方が圧倒的に有利だし、極端な話、10年単位で引き籠ったとしても痛くも痒くもありませんが何か。
 恨むなら、チート人間のいる村に喧嘩売った自分の浅はかさと、運のなさを恨むんだな。

 それから、王都の状況なんかも、今は手に取るように分かっている。
 情報収集がお得意だというデュオさんとカトルさんが、時々王都に行って色々な事を調べてくれているからだ。

 ついでに私も、情報収集のお手伝いと称して、ここぞとばかりにチートな『強欲』さんをフル活用、村のど真ん中に電波塔をおっ建て、通話機能だけ持たせたシンプルフォンを数台作成して、デュオさんとカトルさんに使い方を教えて持たせてみました。

 お陰で、今王都の中でどんな噂が流れてるのか、とか、兵の動きはどうなってるのか、とか、そういう情報がリアルタイムでこっちに筒抜けになっている。
 つか、この間なんて王城の中にまで入り込んで、上級士官の会話だの文官達の小会議だのを、シンプルフォン使って盗聴したらしいですよ。デュオさんとカトルさん。

 掃除係の使用人に化けて、通話状態にしたシンプルフォンを壺の中に入れたり、ズルズルに長いテーブルクロスがかけられたテーブルの下にセットしてみたんだって。
 そしたら思いがけず、あのクソ王が、来年の春を目安に村に攻め込む計画立ててるらしい、という特ダネを入手できたんだとか。

 やったね、超いい話聞けたわ。
 そうかそうか、来年の春か。
 そこまで猶予があるなら、こっちも対策取り放題じゃん。
 ありがとう、デュオさんカトルさん。
 雑貨屋と衣料品店の店主という、平穏な肩書に似合わぬ恐ろしいほどの有能ぶりだ。

 ……てかあの、ちょっといいですかお2人さん。
 私、シンプルフォンがそんな風に使えるなんて、教えた覚えないんですけど。
 なんなのその、異様な視野の広さと思考の柔軟さは。

 そもそも携帯電話ってさ、この世界の文明レベルからしたら、情報通信網においてパラダイムシフトを起こすくらい、画期的かつ想定外なブツのはずなのに、平然と使いこなしてるばかりか、自力で別口の使い方を発見するなんてどういう事よ。

 あと、そもそも王城に入り込んでくれなんて、誰にも言われてないでしょ、あんた方。
 なのに、敵地の本丸にしれっとした顔で足踏み入れて、情報収集に勤しんじゃうとか……。肝の太さも一般人のそれを遥かに超えてるよね。
 村に来る前は絶対後ろ暗い仕事してただろ。デュオさんもカトルさんも。
 お陰でめちゃ助かってるし、人様の過去をいちいちほじくり返す趣味もないから、突っ込んで訊いたりはしないけど。

 まあ、なにはともあれ、だ。
 クソ王の思考が戦吹っ掛ける方向にシフトしてるんなら、こっちもそれ相応の対処をさせて頂くとしましょうか。
 まずは、トーマスさんを中心に対策本部を設置し、それからレフさんに報連相。
 レフさんからのアドバイスを元に、基本的な作戦を立て、後は逐次入ってくる情報を元に、立てた作戦を柔軟に修正していけば問題ないはず。

 見てろよクソ王。
 暴力や権力で、なにもかも思い通りにできると思ったら大間違いだ。
 こうなったらどんだけ時間がかかっても、絶対にてめぇの鼻っ柱へし折ってやるからな。
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