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第5章
10話 束の間の平穏に休息なし
しおりを挟む国境警備隊による、ザルツ村襲撃事件発生の翌日。
村の立て直しが終わった所で、私はレフさんとモーリンに相談して、村をより強固な形で守る事にした。
要するに、モーリンが張ってくれた『忌み人避け』の結界の範囲を、レフさんの力と知恵を借りて、村を覆う形から山そのものを覆う形に拡大してしまおう、と考えたのである。
だってねえ。
あのクソ王が、1回の失敗で諦めて村から手を引くなんて、絶対有り得ないと思うし。
むしろあの野郎の事だから、よその国に戦争吹っ掛けるくらいの数の兵士を搔き集めて、全力で叩き潰しにかかってきそうな気がするんだよね。
てな訳で、早速作業開始です。
モーリン曰く、魔力を溜めておける結界石を山の周囲に一定数配置し、そこに定期的に魔力を補給すれば、広範囲の結界を維持するのはさほど難しくない、との事らしいので、私は早速作業に取り掛かる事にした。
作業自体はごく単純なものだという。
私が『強欲』で結界石のベースにできる宝石――モーリンの力と相性のいい琥珀を出して、そこにモーリンからもらった魔力と、『忌み人避け』の結界術の基礎となる魔法術式を刻んで組み込めば、結界石の出来上がり。
魔法術式の組み込み作業は、魔力とよく反応するミスリルでできた針に魔力を込め、それで大本の宝石をつつくようにして刻んでいく、という事らしいが、手持ちにミスリルがないので、今回は代替品の銀で針を作り、それで作業した。
銀はミスリルより魔力の通い方が弱いんで、ミスリルの針でやるより時間かかるって言われたけど、そこは我慢するしかない。
つか、そもそも作業自体、細々した針仕事みたいで私の性に合わなくて、更に余計な時間がかかった。
前世の頃から裁縫やるのは好きじゃないんで、こういう仕事はしんどいです……。
ともあれ、ひとりイライラしながら作業を続ける事丸2日。
どうにか完成した結界石×5を、五芒星の形になるよう山のふもとの各所に台座を設置して、その台座の上に結界石を置いた。あとは結界石に刻まれた魔法術式が、自身に込められた魔力を消費して勝手に結界を構築してくれる、との事らしい。
ちなみにこの結界石の台座、レフさんがユークエンデへの帰り際に、お土産寄越すような感覚で軽く出してくれたんだけど、子供の身の丈くらいの高さの、屋根がない石灯篭みたいな形をしている。
モノによっては、形だけでなく細かい構造まで理解しておかないと、『強欲』さんを使っても出せない事があるから、こんな風に完成品をポンと寄越してもらえるのって、ホント助かる。
あと、イマイチどういう理屈なのか分からないが、五芒星型に結界石を配置する事によって、守りの力を底上げする魔法陣も併せて発動し、結界石の魔力消費を抑えてくれるそうな。
一応レフさんから、どういう理屈でそうなるのか聞いたけど、だいぶややこしい専門的な話だったので、ここでの説明は割愛させて下さい。
ぶっちゃけ、分かりやすく掻い摘んで話す自信、皆無です。
それから念の為、別口の魔法結界に使う結界石も準備しておく事にした。
モーリンが言うには、例の屋根なし石灯篭の台座を設置しておけば、台座の上に置く結界石の種類を変えるだけで、全く違う効果の結界をパパッと張り直せるらしいんで。
便利っちゃ便利だよね。
てな訳で、スキルで出したダイヤモンド(これもモーリンの魔力と相性がいいらしい)に、一定量の魔力を込めて魔石へと変え、そこにモーリンから教わった魔法術式を、チョイチョイッと組み込んでいく……んだけど、最初に作った『忌み人避け』の結界より、こっちの魔法術式の方が細かくてややこしいから、余計に時間がかかる。
それこそ、1つ目の結界石を作るだけで3日もかかった。
この作業をあと4回も繰り返さなきゃならんと思うと、なんか眩暈がしてくる。
精霊の魔力を引き出して使えるのは私だけだから、他の誰かにバトンタッチもできないし、マジしんどい。
自分とみんなの命がかかってるし、どんだけしんどくたってやるけどさ。
おまけにその間にも、北の関所や王都から、斥候と思われる兵士が小隊組んで山まで来たりしたもんだから、ちょっとヒヤヒヤした。山には入って来れないと分かってても、やっぱ目と鼻の先に敵の影があるってのは落ち着かないもんだよね。
その中には、山の下生えや木々に火を点けようとしやがったカスもいたが、無法行為にキレたモーリンに結構マジな勢いでボコられて、全員這う這うの体で逃げ帰っている。ざまあ。
足を踏み入れる事もできなければ攻撃も通らない、堅固な結界が張られていると分かっていてなお、諦め悪く山の周りに寄ってくる兵士達の姿を尻目に、時々めげそうになったり、もうダメ、無理、と泣き言を吐いたりしながら作業を続ける事12日。
精も根も尽きかけた状態ながら、私はようやく結界石5つを作り終えた。
ていうか、作業を続けている間、料理を含めた家の仕事を全部丸投げしてごめん。リトス。そして毎日美味しいご飯をありがとう。
心身共にくたびれ果てた私は、自室のベッドに倒れ込みつつ、寛容さと包容力の権化とも言うべき幼馴染兼同居人に、心からの感謝と謝罪を述べた。
本当、リトスがいなかったら途中で折れてたよ。
おまけにリトスは、そんな私に暖かい労いの言葉をかけ、腕によりをかけて色々なご馳走を作ってくれさえした。
え、なにこの子、優し過ぎるんじゃない?
緩みがちな涙腺が刺激されちゃうから、ほどほどにしておくれよ。
翌日までだらけてゴロゴロしてたら、流石に怒られたけど。
でもあれだね。
顔よし性格よしで、家事能力も高い上に腕も立つなんて、いっそ出来すぎなくらいだ。
これが世に言うスパダリ属性持ちという奴なのか……。
近い将来、リトスのスペックを知った女の子達が、リトスを巡って骨肉の争いを繰り広げないように祈っておこう。
ていうか、せめてあと今日1日だけでいいんで、自分の部屋でゴロゴロさせて下さい。
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