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第2章

9話 転生令嬢、絆を再確認する

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 どうも皆さんこんにちは。
 調子に乗って無茶やらかして、倒れてみんなに心配かけたバカたれこと、プリムローズです。
 今私は、村の外にある自分の家に担ぎ込まれ、ベッドで寝込んでいる所だったりする。つい1時間ほど前に目を覚ましたんだけど、まだ身体がだるいし、頭も痛い。

 無論、私はスキル『暴食』の権能が使えるから、なんか食べればこの不調もすぐに治ると思う。でも、今はどうにもそんな気になれない。
 なんつーか、ご飯食べる気力が湧かないってやつ。
 今世でここまで体調崩したのは初めて。
 絵に描いたようなバッドコンディションだ。
 でもどうせ私の事だから、色々考えてりゃそのうちお腹が空くだろう。

 なお、リトスから聞かされた話によると、私はあれから丸2日、意識が戻らないまま眠り続けていたらしい。お陰で目覚めた途端、リトスからめったくそに叱られる羽目になった。
 つか、綺麗なご尊顔をくしゃくしゃにしてギャン泣きし、今度倒れたらドアに鍵つけて家から出れなくする、ベッドに括り付けて動けなくしてやる、みたいな事を激ギレしながら言われた時は、内心猛省しつつも、少し冷や汗が出たよ……。
 私の意識がない間に、ちゃっかりうちの家の中に居座って、室内の一角に自分の寝床まで作らせていたおキツネ様は、素知らぬ顔でまったりしてるだけで全然助けてくんないし。

 いやまあね? 確かにどっからどう見ても、悪いのは調子に乗った私だし? 割って入って説教止めてくれとまでは言いませんよ?
 でもさあ、我欲に走ってやらかした訳じゃないんだから、せめてこう、ちょっとやんわり口挟むとか、リトスをなだめるとかくらいは、してくれてもいいんじゃないですかね? 
 ああ。もう色んな意味でため息しか出ない……。

 ちなみにリトス君、今も看病の名目でベッド脇に椅子持って来て座ってて、そこから梃子でも動こうとしないです。何だか拗ねたような、恨みがましそうな目でじっとりこっちを見据えてくるお顔が、可愛いけど微妙に怖い。
 目が合うと余計に怖いから今は寝た振りしてるけど、それでも視線がガッツリ突き刺さってるのがよく分かる。ぶっちゃけ完全に見張られています。
 人からの信用をなくすのなんて一瞬なんだって事を、まざまざと眼前に突き付けられてる気分だ。

 ていうか――今思ったんだけど、ちょっとこの子、今のうちに思想や考え方の軌道修正してやらないと、将来好きな子ができた時、ちょっとヤバいんじゃないだろうか。
 下手すりゃ、ヤンデレ監禁男一直線、なんて事もあり得そうで怖い。
 なまじ顔がいいだけに、想像するだけでゾッとする。

 あああ、もしそんな事になったりしたら、私は相手の方のご家族になんと言って詫びればいいんだ!
 イカンぞリトス! そういうのは、物語の中で見たり読んだりするから面白くて萌えるのであって、現実世界には持ち出しちゃいけないヘキだから! 犯罪行為だから! リアルでンな事やらかす奴なんて、マジでロクなもんじゃないからな!

 寝た振りしているのを忘れてあれこれ嫌な想像をして、うっかり顔をしかめて唸ってしまったからだろう。リトスが慌てて私の身体を揺さぶってくる。

「プリム! 大丈夫!? プリム!」

「――はっ!? あ、り、リトス……。ごめん、びっくりさせちゃったよね」

「……ううん。気にしないで。……。ごめんねプリム。さっき僕が怒って怒鳴って、八つ当たりなんてしたから、怖い夢見ちゃったんだね。プリムはただ村の人達の為に、自分にできる事を精いっぱいやっただけなのに……。ごめんなさい……」

 元から小さな身体を更に縮こまらせて、泣きそうな顔で謝ってくるリトス。
 ああ。ホントやっちゃったな。こんな小さな子に、こんな痛ましい顔させるなんて。
 いい歳してつくづくバカだ、私は。
 小さな子と一緒に暮らしてるんだって自覚が薄過ぎる。頭のどっかに、全然手のかからない子だから大丈夫、なんて、甘ったれた考えがあったのかも知れない。

「リトス……。いいのよ。ていうか、あんたが謝る必要なんかないからね。後先考えないで突っ走っちゃった私が悪いんだし、さっきリトスは怒ってよかったんだよ。誰かを心配して怒るのは、何もおかしな事じゃないからね。
 もう一回、ちゃんと謝るわ。ごめんねリトス。もうこんな事にはならないようにするから。本当にごめんなさい」

 ベッドの上で身体を起こした格好で、深々と頭を下げて謝罪する。
 そうして下げた頭を上げた途端、リトスが思い切り抱き付いてきた。

「……ひっく、あの、あのね……。僕、怖かったんだ……。プリムが、このままっ、いなくなっちゃうんじゃないかって……!」

「うん。そうだよね。2日も寝込んだまま目を覚まさないんだもん、嫌な想像しちゃうよね……」

「う、うん……っ、怖かったよ、プリム……っ」

「だよね……。私だって、あんたがいなくなったらって思うと、凄く怖いもん。
 ……約束する。もう二度と、魔力切れで倒れたりなんて事には、絶対ならないからね」

「……っ、うんっ、絶対、絶対だからね……っ!」

 そう言って、私を一層強い力で抱き締めてくるリトスを、私も思い切り抱き締め返す。
 ごめん、リトス。もう今日から本当に反省して、本気で心を入れ替える。
 あと、将来ヤンデレになるかも、なんて考えた事も反省します。マジごめん。
 こんな優しい子がヤンデレるなんて有り得んわ。

 とにもかくにも、今後はもっとしっかりして、リトスが私のせいで悲しい思いや辛い思いをしないように、気を払う事を念頭に置いてやっていこう。
 そう遠くない未来、この子が巣立っていく日の事なんて、今は考えなくていい。
 それは大人の悪い癖。つまらない感傷でしかないんだから。



 それからしばらく後。
 案の定元気に腹の虫が鳴いて自己主張してくれたので、少し早めのお昼ご飯を頂いた。頂き物の小振りな田舎パンに、これまた頂き物のハムとチーズを挟んで作った、お手軽ハムサンド田舎風です。
 当然、文句なしに美味しい。

 そしてリトスはご飯の後、あっという間に夢の中へと旅立った。
 今まで気を張っていた反動が出たのと、私が予想より遥かに元気だった事、それからお腹が膨れた事で気が緩んだのだろう。寝てる間にどっか行ったりしないから、ゆっくりお休み。

 そして、スキルの恩恵があるからとはいえ、食べた途端に頭痛もだるさもあっという間に吹っ飛んでしまう、現金極まりない造りをしてる我が身体に、苦い笑いが止まらない。
 おまけに力も強けりゃ魔力も強いし、更に言うなら我も強い。

 この先どんだけ年を取ろうが、誰に寄りかからんでも元気に生きていけるであろう事は明々白々な上、矯正できない口と柄の悪さもオプションで付きます。
 あーあ。こりゃ前世のみならず今世でも、嫁のもらい手は現れないだろうな。私。

 一瞬思い浮かんだ、そんな切ない未来予想図を頭の端っこへ押しやって、庭でのんびり日向ぼっこしていると、雑木林の中に通った道の向こうから、見知った人達がそれぞれ大きなバスケットを下げ、こちらへ歩いてくるのが見えた。

「――プリム! もう起き出して大丈夫なの?」

「あ、セレネさん! うん、もう平気! ていうか、アンさんとデュオさんも一緒なんだ。どうしたの?」

「どうしたの、じゃないでしょう。セレネやデュオと一緒に、あなたのお見舞いに来たのよ。ねえ?」

「ああ」

 私の言葉を聞いたアンさんが呆れたような顔で言い、傍らのデュオさんも小さくうなづく。
 ちなみに、セレネさんはアステールさんの奥さんで、シエルとシエラのお母さん。シニヨンにまとめた綺麗なピンクブロンドの髪と、深緑色の瞳が印象的な、料理上手の上品美女だ。
 おっとりしてるけどしっかり者で、場合によってはアステールさんより頼りになる。確か、アステールさんは元貴族って事らしいし、セレネさんも、元はどっかの貴族令嬢だったのかも知れない。

 その隣にいるのが、私のお得意先になってくれた雑貨屋の店主、デュオさんの奥さんで、トリアのお母さんでもあるアンさん。
 腰まで伸びたサラサラストレートな焦げ茶の髪と、澄んだ青い瞳をお持ちの美女です。セレネさんとはお友達なんだとか。
 ちょっとやそっとでは動揺しない、とても肝の太い女性だが、そのくせなんだか言動に品があるので、もしかしたらアンさんも、元はどっかの下位貴族のご令嬢で、セレネさん付きの侍女だったのでは、と睨んでいる。
 その辺の事情を掘り下げて訊くつもりは全くないけど。

 ていうか、デュオさんって仕事の上では結構よく喋るのに、プライベートになるとほとんど喋らないんだよね。ホントもう、驚きの無口っぷり。
 しばらく前、偶然村の道端で会った時なんて、あんまりにも会話が弾まなくてビビッたくらいだもん。
 そりゃ村の寄り合いで、周りの人から『空気』なんてあだ名付けられちゃう訳だよ。

 まあそれはともかく、折角私を心配してこんな所まで足を運んでくれたんだから、歓迎しておもてなししなくちゃね。
 私はまずリトスを起こすべく、家の中へ戻る事にした。
 さあ、何を出そうかな。
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