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第3章
1話 目的の達成と、ひと時の休息
しおりを挟む私がランドセルもどきから出した……と言うか、勢いあまって床にブチ撒けたオリハルコンの量に驚いたのか、王様達はしばらく口を開けたまま茫然としていた。
あまりに反応がないので、「大丈夫ですか」と声をかけると、ようやく正気に戻ったようだ。
「あ……ああ。いえ、はい。申し訳ございません。あまりにもその、想定外の光景だったもので……。と、とにかく、計量を開始せよ」
「……は、ははぁっ!」
王様が、やや引きつった顔をしつつも控えていた兵士に命を下す。そこで兵士達もやっと我に返り、オリハルコンを計量すべくノロノロと動き出した。
だが、兵士さん達がそれぞれ適当に目に付いた、漬物石より少し大きいかな、くらいのサイズのオリハルコンに手をかけた、その時。
「うぐっ……! お、重い……っ、お、おい、手を貸してくれ」
「む、無理言わんで下さい。私も、このオリハルコンを、運ぶだけで、精一杯で……! 今床に下ろしたら、こ、腰が……!」
「お、俺も、手一杯、です……。と言うか隊長、これ、俺達だけじゃ、運び切れませんよ……。素直に、応援を呼びましょう」
「ぐ……。そ、そうだな。これでは計量以前の問題だ。陛下、計量の為に追加の兵を呼んでもよろしいでしょうか?」
「う、うむ……。持ち上げられぬのならば致し方あるまい。そなたが必要と思うだけ呼んで参れ」
「はっ、ありがとうございます。……聖女様、お待たせしてばかりで大変申し訳ございませぬ。その、もうしばらくお時間を頂いても……」
「……。分かりました……。どうか、お気になさらず……」
心底申し訳なさそうな顔をした兵士さん(なんか他の兵士さんとちょっと身なりが違うな、と思ったら隊長さんだったのか……)に、私はちょっとだけ沈んだ声で答えた。
……。あの、ねえ待って!? あのオリハルコン、鉄よりは軽かったはずだよ!?
いやホントだって! なのになんで持ち上げられないの!?
これじゃまるで、私が人間の枠から外れてる規格外の馬鹿力みたいじゃん!
内心で焦って騒いでいると、隣に立っていたエドガーが、呆れたような目で私を見てきた。
な、なんだよぅ! その目はさぁ!
「……お前さ、普段から息するみたいな気軽さで身体強化魔法使ってるから、感覚狂ってんじゃねえの?」
「へ? ……で、でも、あれ、鉄よりは軽かったと……」
小声で耳打ちしてくるエドガーに、私も小声で反論する。
「鉄より軽い? そりゃあくまでもお前の主観であって、実際に重さを量って確認した訳じゃねえだろ。
素人目の判断だけど、多分あのサイズの金属塊ともなれば、間違いなく6、70キロ超えてんぞ。モノによっちゃ100キロ近いかも知んねえ」
「…………」
……。マジっすか。あれ、そんなに重たいんすか。
鉄より軽いって思ったんだけど……。
でも、そういう風に具体的な数字を持ち出されると、途端に自信がなくなってくるな……。
エドガーから、今にも「ったくホントにお前はよ」……とかいう文句が聞こえてきそうな眼差しを向けられ、私は反射的に目を逸らす。
目を逸らした先に見えるのは、ひとまずサイズのあまり大きくないオリハルコンを手に持ち、秤に乗せ始めている2人の兵士さんの姿があった。
なんか、気まずい……。
それから1時間後に、計量は無事終了。
10人近い数に増員された兵士さん達が力を合わせて頑張った結果、私が持って来たオリハルコンの総重量は、約2400キロと判明した。
まあ要するに、軽く2.4トンを超えてた訳ですね。
よくもまあ、オリハルコンを一気に出した時、広間の床が抜けなかったもんだと感心する。
て言うか、本当になんか色々すみませんでした……。
ちなみに、オリハルコンの計量を見学に来ていた城の学者さんが仰るには、掘り出したばかりで、人の手が加わっていないオリハルコン鉱石には、大なり小なり不純物が混じっているものらしい。
だとすると……。ああ、なんかちょっと読めたぞ。
あのオリハルコンゴーレムに、なんで精霊が宿れてたのか。
一体どういう料簡でオリハルコン鉱石に宿ったのかまでは知らんけど、あいつらはオリハルコン鉱石に宿ってたと言うより、オリハルコン鉱石に混ざってる『不純物』の部分に、無理矢理宿ってたんだと思う。
しかし、不純物が混ざっていてもオリハルコンはオリハルコン。精霊達は構築した身体を維持し、動かすだけでキャパオーバー寸前で、攻撃喰らって崩された身体を、もう一度再構築する余力はなかった、と。
そう考えれば色々と辻褄が合う。
あー、はいはい。成程ね。だから弱かったんだ、アレ……。
てな訳で、オリハルコンゴーレムに襲われた事は秘密にしておこう。
別に黙っててもいいよね。これ以上城の人達を騒がせたくないし、あれなら普通の兵士さん達でも倒せる。いちいち報告して情報共有する必要もなかろう。
第一、普通の採掘現場では魔物避けの下準備を徹底してるんで、ゴーレムどころかゴーストさえ出ない。採掘現場で魔物に襲われるなんてのは、通常起こり得ない事なのだ。
つか、まずオリハルコン製のゴーレムが出現する事自体、有り得ない話だけど。
何はともあれ、私が持ち帰った大量のオリハルコン鉱石は、これから専用の炉がある場所へと運び込まれ、不純物を飛ばして純度を上げる為の精製作業に入るらしい。
不純物が飛ばされてなくなれば、重量も今の半分程度に減るだろう、と学者さんは言っていた。
だが、それでも最終的な重量は、約1.2トン前後になる計算だ。量としては十分過ぎるくらいです……。
◆◆◆
私がオリハルコン鉱石を持ち帰ってから3日が経った。
オリハルコンの精製には時間がかかるようで、まだ作業終了の報告は来ていない。
ついでに言うなら、王都の学園に通い始めたマグノリア様と違い、王家の賓客扱いになっている私とエドガーは、全くと言っていいほどやる事がなく、ただただ暇を持て余していた。
基本、王城内にある図書室と貴賓室、それから食堂を行ったり来たりするだけの、なんとも緩くて温い日々を繰り返している。
立場と身分、そして何より年齢的に、よその国のお城で騒ぐなんてみっともない真似、できませんので。
それと、セア達が管理してる気象制御衛星は、やはり今日も微妙に調子が悪いようだ。
今の所、突然大雨が降ったりカンカン照りになったりするような事はないが、その代わり1日おきに気温が乱高下して、初夏と初春を行ったり来たりするような陽気がずっと続いている。
そのせいで、体調を崩す人もちらほら出ている模様。
ちょっとばかりお気の毒な話だが、真冬から真夏になる、なんて事になってないだけ、まだマシだと思うしかない。
ていうか、いつ気象制御衛星が酷い動作不良を起こして、天災級の悪天候に襲われるか分からないし、出来たら早く帰りたいんだけど……私1人が焦ってモダモダしていた所で、オリハルコンの精製速度が上がる訳じゃないしなぁ……。
今やすっかり道順を憶え、その気になれば1人でも来れるようになった図書室(でも本当に1人じゃ来させてもらえないけどな)で、歴史の本など読みつつため息をついていると、図書室の入り口でスタンバってくれていた侍女さんが、「聖女様、失礼します」と声をかけてきた。
「? はい、何でしょうか」
「ティグリス王子殿下がお出でです。こちらへお通ししてもよろしいでしょうか」
「え? ティグリス王子殿下が、ですか? ……分かりました。お通しして下さい」
侍女さんの問いかけにそう答えると、侍女さんはすぐに、「かしこまりました」と私に述べて会釈し、踵を返して図書室の出入り口へ向かう。
それから、ややあって侍女さんが、ティグリス王子を連れて私の所へ戻って来た。
「お久し振りです、聖女様。読書中に申し訳ございません」
「いいえ、どうかお気になさらず。お久し振りです。殿下」
私は椅子から立ち上がり、歩み寄って来たティグリス王子にお辞儀する。
こうして直に会うのは数日振りだけど、なんだかティグリス王子、ちょっと痩せたような気がするの、私だけだろうか。
「所で、どうされたのですか? 先日、今後ティグリス王子殿下は、立太子に向けての準備などでお忙しくなるだろうと、聞いていたのですが……」
「はい、そうですね。正直、少し泣き言を言いたくなるくらいには忙しくしておりますが、今後の事もあるので身体を気遣うようにと、2日ほど休養日を頂きまして。それを利用して、こちらへ参らせて頂いた次第です」
「そうでしたか。でも、いいんですか? 貴重な休みですのに、わざわざこんな所へ来て」
「いえ。貴重な休みをもらったからこそ、ここへ来たのです。……その、唐突な事で申し訳ないのですが……聖女様がお嫌でなければ、一緒に城下へ行きませんか?
立太子の儀が行われる前に、一度でいいからお忍びで街を見て回りたいのです」
なぜだかティグリス王子は妙に緊張した面持ちで、私にそう切り出してきた。
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