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第2章
12話 聖女流採掘作業は危険がいっぱい
しおりを挟む切り立った断崖の周囲には、何かの唸り声にも似た不気味な風鳴りを伴う強風が、絶え間なく吹き荒び続けている。
うっわぁ……高い……。一応覚悟はしてたけど、マジで高いなぁ……。落ちたら死ぬわ、これ……。
つか、よくロゼはこんな足場の悪い所で、欠片もバランス崩さずに立ってられるよな。四足歩行の動物にも、やっぱ体幹の良し悪しってのはあるんだろうか。
どうも皆さんこんにちは。
私は現在、第2王妃様のお言葉に甘えてロゼに飛び乗り、単身王都ラトレイアを飛び出して、オリハルコンの採掘をしに来ています。
地図を見て確認した限り、草木どころかコケすら生えていない、見渡す限り尖った淡い灰白色の岩肌ばかりが連なっているこの場所こそ、エクシア王の調査隊が調べ上げた、オリハルコンの眠る辺境の山岳地帯・ベロネー山脈という事で間違いなさそうだ。
ちなみに今、私(というかロゼが)立っているのは、ベロネー山脈の山頂部。
冒頭でも言ったけど、真下をチラ見するだけで思わずクラッとするくらいの、すんげぇ高所です。別に私は高所恐怖症って訳じゃないけど、足場がめったくそ悪いし、めっちゃ強風吹いてるしで、結構怖いんだよ。ここ。
なんもせんと、ただロゼの背中に乗ってるだけなのにね……。
はぁ……。こんな時、エドガーがいたらなぁ。
気心の知れた相手と軽口叩き合えるだけで、心理的にも精神的にもだいぶ違うんだけど。
実の所、本当はエドガーも一緒に来たがっていたのだけど、ロゼの負担がデカくなるという理由から、断らざるを得なかった。
エドガーには申し訳ないが、幾ら5メートル以上の体高を持つ軍用魔獣とは言え、大の大人を2人――つまり、トータルで100キログラム超になる重量物を背中に乗っけた格好で、王都から遠く離れた場所(およそ250キロメートル先)まで延々と走らせるだなんて、動物虐待みたいで私の良心が保たない。そんなのロゼが可哀想じゃないか。
いつの間にやら習得していた、風魔法と光魔法の合わせ技、重量軽減魔法を使い、トップスピードを維持した状態で森まで疾駆、森から先は風魔法を使ってひとっ飛びで来たので、ここへ来るのに1時間程度しかかからなかったし、今も全然疲れた様子を見せず、涼しい顔で私を背中に乗せ続けてるんですけどね。ウチの子すげぇ。
ともあれ、どういう理屈なのかまでは聞いてないが、調査隊の人達の話によると、こういう白に灰色を混ぜたような色をした岩石の下には、オリハルコンやミスリルといった、魔法に関連付けられる特殊な鉱石が埋もれている事が多いのだそうな。
「んじゃ、向こうに見える針山みたいな場所に、早速極大魔法をぶち込んでみるとしましょうか」
私は改めて腹を括り、正面に見える針山を睨むように見据えながら独り言ちる。
使用するのは風属性の極大魔法、プレステル・ブロンテ。
目標地点に高密度のエネルギーを圧縮しながら収束させ、それを一気に解き放つ事で大爆発を起こす、火属性の極大魔法、エクリクシス・ノヴァよりも、単純に、目標地点と定めた場所へ雷を落とすプレステル・ブロンテの方が、指向性持たせやすいし、コントロールもしやいんじゃないか、と考えた次第だ。
この期に及んで、まだ腰が引けてる自分の身体を叱咤して、両手で頬を叩き、気合を入れて深呼吸。
おーし! やるぞ! やるったらやる! 私は絶対、成し遂げる!
以前禁書で読んだ通り、魔力を全力で練り高めつつ、術式の構築を始めると、徐々に空が暗い雲に覆われ始めた。典型的な雷雲という奴だろう。
よし、ここまでは順調だ。
雷が近い時によく聞こえてくる、あの、ゴロゴロ、という音の不定期な発生を頭上に感じながら、発動イメージを頭の中でしっかりと固め――
「――プレステル・ブロンテ!」
目標地点を指差して、声高らかに魔法を解き張った、次の瞬間。
凄まじい光が弾けて視界がゼロになり、そこから一拍遅れで、耳をつんざくような轟音を伴いながら爆風が吹き付けてきた。
「~~~~っつ!」
もうなんつーか、みっともない悲鳴を上げないように、歯を食いしばって耐えているだけで精一杯。
ロゼが張ってくれた結界があるから、爆風の影響は全く受けないし、大丈夫だと分かっているが、それでも、極大魔法で粉砕され、こっち目がけて吹っ飛んでくる岩石の破片やなんかが結界にぶつかって、目と鼻の先で派手な破砕音を立てて砕けたり、縮こまってる身体の脇スレスレをすげぇ速度で通り抜けていく光景ってのは、非常に怖いモンがある。
ヤダもうお家に帰りたい……!
最新の絶叫マシンも裸足で逃げ出す事請け合いの、恐怖の時間をどれほど耐え凌いだか。
多分、リアルではものの数秒程度だったんだろうけど、体感では数分にも思えるその時間が過ぎ去ると、急激に視界が開けた。集まっていた雷雲は綺麗さっぱりどこかへ消え、ついでに正面にあった針山も、丸ごと消えてなくなっている。
目の前にあるのは、急角度のすり鉢状に、大きく深く抉れた大穴ひとつ。いわゆるクレーターと呼ばれるものだけだ。
つか、肝心のオリハルコンはどこ?
こっからだとクレーターの中がよく見えないんだけど、もしかして、底に溜まる形で集まってるんだろうか。
……どっちにしても、下まで降りなきゃダメなパターンだよね、これは……。
私は小さくため息をつくと、「向こうに見える、クレーターの底まで連れてって」とロゼにお願いした。
頑張れ私。あともうひと踏ん張りだ。多分。
◆◆◆
バカでかいクレーターを滑るように降りて行き、やがて底まで辿り着くと、そこには、光を受けた部分だけが黄金のように輝く白金色の鉱石が、山のように転がっていた。
それこそ、直径50メートル以上はあるんじゃないか、という広さの、真円に近い形をした底の部分を埋め尽くす勢いの数だ。足の踏み場を探す方が大変な感じです。
でも――うん。間違いない。これ全部、オリハルコン鉱石だ。前もってセアから聞いていた特徴と一致する。
まあ中には、クレーターの底部や側面に半分埋まってる物なんかも結構あるけど、地面をほじくりながら拾うのは大変だし、とりま普通に転がってるヤツだけ拾ってみて、それで足りなきゃ掘り出しを考えるって事でいいだろ。
私は、小さなオリハルコンの欠片を踏んづけて転ばないよう、注意しつつロゼの背中から飛び降り、再び気合を入れる。
それにしても……地面の大半が、金と白金の輝きで溢れ返ってる光景ってのは、実に壮観だ。物凄く綺麗。
なんだか、光の海の中に佇んでいるような、そんな錯覚に陥りそうになる。
でも、あんま長い事凝視してると目がチカチカして、それはそれでしんどいから、見物はほどほどにして回収作業に入ろう。
――と、思った矢先。
足元に転がっている、大小幾つものオリハルコン鉱石が、いきなりカタカタ震え始めた。
え!? ちょ、なになに!? 今度はなんなの!?
精神的に色々と疲れ気味だった私は、思考回路をすぐに切り替えられず、何が起きているやら全く分からないままうろたえ、ロゼはやや姿勢を低くして、臨戦態勢を取って唸り声を上げる。
やがてオリハルコン鉱石は、ガチャガチャと音を立てながら、そこかしこで寄り集まり始め――
最終的に、武骨な人型を取った人形に変化した。
これは……。そうだ、だいぶ前の話だけど、魔物図鑑で見た事がある。
人の悪意に中てられ染まり、堕ちた精霊が無機物に宿って動き出したもの。
正式名称は魔人形。一般的には、ゴーレムと呼ばれる類の魔物だった。
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