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第2章

11話 エクシア王室の顛末

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 お待たせしました。今月から投稿を再開させて頂きます。
 およそ、週に1~2回ほどのペースで投稿していく事になるかと思いますので、今後もよろしくお願いします。






 王様が裁判官を務める裁判の序盤も序盤、そこで王太子があり得ない自爆をかまして有罪になってから、数日が経過した。
 こちらの学園への入学準備があるマグノリア様以外、つまり、私とエドガーは現在それぞれ、お世話になっている王宮の貴賓室で大人しく過ごしている。
 例の、セアから押し付けられたオリハルコンの大量採掘の為、お城の方々が情報を集めてくれているのだ。
 なんでも、オリハルコンの鉱脈がある場所の目星は付いているのだが、そこへちょっとでも安全に向かう為のルートが、まだ出せていないのだとか。
 調査隊の方々が言うには、バカみたいに幅が広くて底も見えない断崖絶壁とか、魔物がウヨウヨしてる樹海みたいな森とか、地獄の針山みたいに岩が尖りまくってる険しい山とか、そういう危険地帯ばっかが周りにあって、近づくのも容易じゃない場所なんだそうです。

 デスヨネー。
 オリハルコンを簡単に採れる場所なんてモンがあるなら、とっくの昔にエクシア王が先遣隊だの何だのを送り込んで、オリハルコンの採掘を開始しているはず。
 聞いた話によると、オリハルコンってのは、それこそ数十キロかそこらの量が採れるだけで、向こう数年分の国家予算がまかなえてしまうような代物らしいから。
 そんなとんでもねえブツを、予備の分含めて100キロくらい採って来て☆ とか言い出す女神様、ツラの皮が分厚いにもほどがあるんじゃないすか?
 つか、正直に言うなら、うちのロゼちゃんと私だけでそこに行くのであれば、別に安全なルートなんて出してもらわんでも平気なんだけどな。
 戦闘能力や身体能力、果ては魔力までバカ強な軍用魔獣がいてくれれば、魔物も自然環境の劣悪さも恐れるに足らず。
 風の魔法を付与した状態で移動すりゃ、あっちゅー間に行って戻って来れますよ。マジで。

 え? じゃあなんで、調査隊がルート出すのを待ってるのかって?
 私が到着するその前に、王様が私のオリハルコン回収を助ける為、という名目で個人資産から費用を出して調査隊を結成させてて、その人達の半数が調査に出た先からまだ、こっちに戻ってないからです。
 幾ら女神から使命を与えられてこっちへ来てるとはいえ、国の頭である王様がポケットマネー使ってまで厚意でやってくれてる事を、全部まるっと無視して動くってのは、流石にちょっと良識的な部分で問題がある。
 こっちに戻って来てる調査隊の人曰く、そろそろ一度、全員調査先から引き揚げてくるはず、という事なので、とりまエドガーと話し合った結果、多少なりとも王様の顔を立てる為にも、その程度の時間くらいは待っておこうじゃないか、と、そう結論付けた次第だ。

 てか、面と向かってハッキリそうと言われた訳じゃないが、ぶっちゃけエクシア王も、ちょろっとでいいからオリハルコンが欲しいんだと思う。
 でも、聖女の私が使命を果たす為に単独でその場所へ行き、1人で採ってきたブツの扱いに関して横から口挟んで、上前撥ねるような真似をするのは、色んな意味で怖い。
 だからせめて、オリハルコンを入手する際に少しでも手を貸して、分け前を頂戴するに相応しい成果を上げたい、というのが、王様の本音なんだと推察される訳です。
 そんでなくてもこの国、聖女の事でセアから睨まれた挙句、バチという名のペナルティを科されてるからなぁ……。ちょっとでも私の不興を買うような事は避けておきたいと、そう考えているはずだ。

 そして私も、この国にいる間は、できるだけ大人しく過ごしておきたいと考えている。
 オリハルコンの回収という任務が終わってしまえば、私がこの国に足を踏み入れる機会は恐らくもうない。私の所属する国と身分と立場から鑑みれば、それは容易に想像のつく話だ。
 友達というにはだいぶ身分がかけ離れてるけど、それでも折角ティグリス王子と親しくなれたのだから、その友好関係にひびを入れるような行動は取りたくなかった。
 人との出会いは一期一会、築いた信頼と繋いだご縁は大切にしなさい、と、前世でばあちゃんも言ってたしね。
「聖女様、お客様がお見えでございます」
「? お客様ですか? 分かりました、お通しして下さい」
 昼食が済んで1時間程度たった頃。
 やおら室外から、世話役をしてくれている侍女さんに声をかけられ、ベッドにだらしなく寝っ転がって本を読んでいた私は、素早く体勢を取り直して起き上がった。

「聖女様、お初にお目にかかります。私はマニエール公爵家の娘、エスカローラと申します。先触れも出さずに突然聖女様の元を訪れました事、お許し下さいませ」
 とても見事なカーテシーを披露しながら、謝罪のお言葉を述べられたそのお客様は、よくざまぁモノの小説に出てくるピンクブロンドの髪をお持ちの、けれどキリッとした面立ちと、知性を宿したエメラルドグリーンの瞳が特徴的な、絵に描いたような知的美人でいらっしゃいました。
 それからすぐ、気を利かせた侍女さんがお茶の用意をして下さり、私はエスカローラ様と少しばかり話をする事になった。
 彼女はなんと、あのバカな王太子の元婚約者で、罪人をとっ捕まえ、罪状を洗い出す捜査部を統括してるお家の一人娘さんらしい。ここの捜査形態とか組織図とかよく分からんけど、多分日本で言う所の、警視総監のお子さんって感じだろうか。
「――まずは、このたび私の元婚約者であるトリキアス様が、御身に対して多大な無礼並びに蛮行を働きました事、かの方に代わって謝罪させて頂きたく思います。大変申し訳ございませんでした」
「どうかお気になさらず。エスカローラ様が謝罪されるような事ではございません」
「いいえ。あのおバカさんの事です、聖女様に謝罪などなさっていない事は容易に想像がつきますし、おバカさんのお母君である第1王妃様は、此度の事で寝込んでしまわれ、今やすっかりベッドの住人。国王陛下もその事で頭とお心を痛められ、周囲にきちんと目を向ける事ができていない状態です。聖女様の事を慮っているようでいて、肝心な所が抜け落ちておられます。
 恐らく王家の方の中で、聖女様に対して明確な謝罪のお言葉を述べられたのは、精々ティグリス王子殿下くらいのものなのではありませんか? 身内の愚行を謝罪すべく、自主的に頭を下げる者が1人しかいないだなんて、恥もいい所ですわ」

 うわ鋭っ。大当たりだわ。
 流石は、犯罪捜査をする組織の頭張ってる人のお嬢さん。大変洞察力に優れていらっしゃる。
 そしてエスカローラ様だけじゃなく、エスカローラ様のお父さんも、王様に対してもめっちゃお怒りなんですね。
 私が何も言わず曖昧な笑みを浮かべると、エスカローラ様は渋いお顔で眉尻を下げた。
「……やはりそうなのですね。はぁ……。なんと情けない事でしょう……。元より好ましい心根の持ち主だとは思っておりませんでしたが、まさかそこまで無神経だなんて。
 もう既に、次期王太子妃の身分は私の父が陛下に直接叩き返し…ん、こほん、返上しておりますが……。やはり、もはや無関係だなどと思わず、謝罪に来てよかった……」
「……。ええと、その……。私はもう正直、王太子殿下の事はどうでもいいので……。大変失礼ですが、そのお話はもう終わりにして頂ければ、と……」
「ああ……。左様でございますか。それもそうでしょうね。こちらこそ、ご興味のない輩の話などを持ち出してしまい、大変失礼しました」
 エスカローラ様が、一層申し訳なさそうな顔で私に頭を下げる。
 ってか、輩て……。自分の元婚約者を捕まえて、輩呼ばわりっすか……。
 どんだけあの王太子の事嫌ってたんだ、この人。
 つか、この口振りから察するに、王太子どころか王様の事も嫌ってるっぽいな。エスカローラ様……。

「しかしながら、聖女様は此度の事件の被害者でいらっしゃいますし、案件の結果だけはお伝えしてもよろしいでしょうか?」
「え、あ、はい。そういう事でしたら、よろしくお願いします」
「かしこまりました。あまり長くお話ししては、聖女様の精神的なご負担が大きいかと思いますので、できる限り簡潔にご説明致しますわ。
 まず、トリキアス王太子殿下は、廃太子の上廃嫡となります。しかしながら、このまま適当な爵位を与えて他の領地へ放り出しては、そこの領地の者達に多大な迷惑が降りかかるであろう事は明白ですので、種を残せないよう去勢したのち、王城の敷地の片隅にある離宮で、終生飼い殺しとする事になりました。
 陛下が仰るには、そこで内職でもさせて、食い扶持の一部を自力で稼がせるおつもりのようですわ」
「そうですか。いいご判断なのではないかと思います」
 うん、ホントそれでいいと思います。
 去勢して飼い殺しってのは、個人的にも程よいざまぁ感があってとってもナイスな判断だ。流石に、処刑とかそういう話にまで発展しちゃうと、ちょっとばかり重たいし、後味もよくないからね。

「ありがとうございます。なお、今後王太子には、順当に第2王子であらせられるティグリス王子殿下が指名される事と思われます。
 ただ、そうなりますと、ティグリス王子殿下の臣籍降下を見越して婚約者となった、今の伯爵令嬢では教育や持参金の面で問題が発生しますので、現在の婚約は白紙とし、新たに王太子妃、つまり次代の王妃としての教育を施せるご令嬢を、一から探す事になるでしょう。
 今後しばらくの間、ティグリス王子殿下はお忙しい身になられるかと思いますので、聖女様に置かれましては大変申し訳ないのですが、もしティグリス王子殿下に個人的なお話や確認事項がおありでしたら、今のうちに済ませて頂きますよう、お願い申し上げますわ」
「分かりました。丁寧なご説明、ありがとうございます。ティグリス王子殿下には、これまでの道中友人のように親しくして頂きましたし、エドガー共々、多少のお話などさせて頂きたく思います」
「そうでございましたか。であるならばきっと、ティグリス王子殿下もお喜びになるでしょう」
 エスカローラ様が優しい微笑みを浮かべる。

「ああ。それからもうひとつ、ティグリス王子殿下のお母君、第2王妃様からの言伝ことづてがございますので、お聞き頂けますか?」
「第2王妃様からですか?」
「はい。…「尊き女神より直々に使命を与えられた聖女様を、こちらの個人的事情でいつまでも王宮へ留め置くなど、大変恐れ多き事と愚行致します。もしお急ぎであられると言うならば、調査隊の帰還を待たず、目的の地へお向かい下さい。王への気遣いは無用にございます。世界の命運を背負う御身に比べれば、我が国の王の意向など些末な事にございましょう。
 地図などを含め、現地へ向かう為に必要な物がございましたら、どうぞ遠慮なく目の前におりますエスカローラにお申し付け下さいませ」……との事ですわ」
 穏やかに微笑んだまま言うエスカローラ様。
 本当に有り難い。王第2王妃様もエスカローラ様も、王様よりよっぽど視野が広く、懐深い方のようだ。
 嬉しいし、心から感謝しているけれど、突然の申し出に少しばかり驚いたせいか、気の利いた言葉がすぐに出てこなかった私は、やむなくただ、ありがとうございます、とだけ言い、深々と頭を下げたのだった。
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