3 / 11
妖精の稲妻
しおりを挟む
リュカはさっとかまえ、かるくあごをひいた。
音が弾けると同時に、くっとリュカは身を引き絞る。
高い音が天をめざしかけのぼってゆく。
音の波を追いかけるようにリュカの身は跳ね、片足がリズミカルに地をはなれた。
右手は勇ましく素早い勢いでメロディを奏でて、左手は弦と一本になって、背筋をしならせる。
勇敢でありながらも切なく何かを追い求める狂おしい響きが、四方へ散るのではなく一心に天空へと突き抜けてゆく。
まるで龍を追う稲妻のように。
おれには、暗い闇をかけのぼるその閃光が見えた。
聞いたことがある。はるか高みのそのうえ、宇宙とこの星の大気圏が接するところでは、闇と青の光膜が火花を散らし、稲妻は地を裂くのではなく、宇宙へ高く吸い上げられて爆ぜるという。
妖精の火という名で呼ばれるその閃光は、この星と宇宙とが対等にせめぎ合って存在することのあかしであると。
リュカがその烽火を高くあげている。
彼はあくまで楽しそうに、身をしならせ、のびあがり、時に腰を折って硬質の音を弾きだす。
己の放つ音色のゆき先になどまるで頓着がないように、無邪気に髪をゆらし、足でリズムを刻んでいる。
薄い背中からにじみでているものは、音を奏でる初々しいよろこび以外の何ものでもなかった。けれどその音色は宇宙とつながってゆく。宇宙の暗闇へ吸いこまれていく。彼も知らないうちに、何か巨大なものの目を覚まさせてしまったみたいに。何かが彼に見入っている。何かと、リュカがしだいに一体となっていく。
胸の空洞を揺さぶられる。おれは気づいた。おれのなかにも宇宙があると。鳴き叫び踊りながら、なにかを追いもとめ、互いをけずりあう闇と光とが。
はるか彼方でこの星の大気をこすり、ひっかきながら鳴き声をあげる妖精の稲妻。
リュカが弓を持つ腕を高くあげたとき、すべての心象が花火のように弾け散った。
もう目をこらしても、そこにはいつものとおり、照れたように鼻の下をこすり、おどけた仕草でこちらに笑いかけるリュカがいるだけだった。
隣でイバラが目を大きくこぼれんばかりに見開いて、拍手をおくっている。
おれは何もできずに、ただリュカの目をのぞきこんだ。
どこを見ているのだろう。彼には何が見えていたのだろう。
リュカの目は、彼のしぐさ同様、いたって無邪気だった。
おれが口をあけたまま自分を見ているのに気づいた彼は、にやっと笑って目をすがめ、こう言った。
ー見たかっ!あ、いや。聴いたかっ、かな?
たしかに見た、とおれは思った。
音が弾けると同時に、くっとリュカは身を引き絞る。
高い音が天をめざしかけのぼってゆく。
音の波を追いかけるようにリュカの身は跳ね、片足がリズミカルに地をはなれた。
右手は勇ましく素早い勢いでメロディを奏でて、左手は弦と一本になって、背筋をしならせる。
勇敢でありながらも切なく何かを追い求める狂おしい響きが、四方へ散るのではなく一心に天空へと突き抜けてゆく。
まるで龍を追う稲妻のように。
おれには、暗い闇をかけのぼるその閃光が見えた。
聞いたことがある。はるか高みのそのうえ、宇宙とこの星の大気圏が接するところでは、闇と青の光膜が火花を散らし、稲妻は地を裂くのではなく、宇宙へ高く吸い上げられて爆ぜるという。
妖精の火という名で呼ばれるその閃光は、この星と宇宙とが対等にせめぎ合って存在することのあかしであると。
リュカがその烽火を高くあげている。
彼はあくまで楽しそうに、身をしならせ、のびあがり、時に腰を折って硬質の音を弾きだす。
己の放つ音色のゆき先になどまるで頓着がないように、無邪気に髪をゆらし、足でリズムを刻んでいる。
薄い背中からにじみでているものは、音を奏でる初々しいよろこび以外の何ものでもなかった。けれどその音色は宇宙とつながってゆく。宇宙の暗闇へ吸いこまれていく。彼も知らないうちに、何か巨大なものの目を覚まさせてしまったみたいに。何かが彼に見入っている。何かと、リュカがしだいに一体となっていく。
胸の空洞を揺さぶられる。おれは気づいた。おれのなかにも宇宙があると。鳴き叫び踊りながら、なにかを追いもとめ、互いをけずりあう闇と光とが。
はるか彼方でこの星の大気をこすり、ひっかきながら鳴き声をあげる妖精の稲妻。
リュカが弓を持つ腕を高くあげたとき、すべての心象が花火のように弾け散った。
もう目をこらしても、そこにはいつものとおり、照れたように鼻の下をこすり、おどけた仕草でこちらに笑いかけるリュカがいるだけだった。
隣でイバラが目を大きくこぼれんばかりに見開いて、拍手をおくっている。
おれは何もできずに、ただリュカの目をのぞきこんだ。
どこを見ているのだろう。彼には何が見えていたのだろう。
リュカの目は、彼のしぐさ同様、いたって無邪気だった。
おれが口をあけたまま自分を見ているのに気づいた彼は、にやっと笑って目をすがめ、こう言った。
ー見たかっ!あ、いや。聴いたかっ、かな?
たしかに見た、とおれは思った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ドグラマ ―超科学犯罪組織 ヤゴスの三怪人―
小松菜
ファンタジー
*プロローグ追加しました。
狼型改造人間 唯桜。
水牛型改造人間 牛嶋。
蛇型改造人間 美紅。
『悪の秘密組織 ヤゴス』の三大幹部が荒廃した未来で甦った。その目的とは?
悪党が跳梁跋扈する荒廃した未来のデストピア日本で、三大怪人大暴れ。
モンスターとも闘いは繰り広げられる。
勝つのはどっちだ!
長くなって来たので続編へと移っております。形としての一応の完結です。
一回辺りの量は千文字強程度と大変読みやすくなっております。
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
今夜、元婚約者の結婚式をぶち壊しに行きます
結城芙由奈
恋愛
【今夜は元婚約者と友人のめでたい結婚式なので、盛大に祝ってあげましょう】
交際期間5年を経て、半年後にゴールインするはずだった私と彼。それなのに遠距離恋愛になった途端彼は私の友人と浮気をし、友人は妊娠。結果捨てられた私の元へ、図々しくも結婚式の招待状が届けられた。面白い…そんなに私に祝ってもらいたいのなら、盛大に祝ってやろうじゃないの。そして私は結婚式場へと向かった。
※他サイトでも投稿中
※苦手な短編ですがお読みいただけると幸いです
色彩の大陸3~英雄は二度死ぬ
谷島修一
ファンタジー
“英雄”の孫たちが、50年前の真実を追う
建国50周年を迎えるパルラメンスカヤ人民共和国の首都アリーグラード。
パルラメンスカヤ人民共和国の前身国家であったブラミア帝国の“英雄”として語り継がれている【ユルゲン・クリーガー】の孫クララ・クリーガーとその親友イリーナ・ガラバルスコワは50年前の“人民革命”と、その前後に起こった“チューリン事件”、“ソローキン反乱”について調べていた。
書物で伝わるこれらの歴史には矛盾点と謎が多いと感じていたからだ。
そこで、クララとイリーナは当時を知る人物達に話を聞き謎を解明していくことに決めた。まだ首都で存命のユルゲンの弟子であったオレガ・ジベリゴワ。ブラウグルン共和国では同じく弟子であったオットー・クラクスとソフィア・タウゼントシュタインに会い、彼女達の証言を聞いていく。
一方、ユルゲン・クリーガーが生まれ育ったブラウグルン共和国では、彼は“裏切り者”として歴史的評価は悪かった。しかし、ブラウグルン・ツワィトング紙の若き記者ブリュンヒルデ・ヴィルトはその評価に疑問を抱き、クリーガーの再評価をしようと考えて調べていた。
同じ目的を持つクララ、イリーナ、ブリュンヒルデが出会い、三人は協力して多くの証言者や証拠から、いくつもの謎を次々と解明していく。
そして、最後に三人はクリーガーと傭兵部隊で一緒だったヴィット王国のアグネッタ・ヴィクストレームに出会い、彼女の口から驚愕の事実を知る。
-----
文字数 126,353
魔王の子育て日記
教祖
ファンタジー
若き魔王は、執務室で声を上げる。
「人間界行きてえ!」
「ダメです」
メイド長パイン・パイルにバッサリと切り捨てられた魔王の元に兵士長ネイビル・ディループが飛び込んできた。
「大変です魔王様! 城の前に捨て子がおりました!」
「「え!!」」
保護してみれば、どうやらその子は魔族ではなく人間のようであった。ミルクを求めて魔王は人間界へ。
時を同じく、人間界の村では赤子が行方不明となっていた。
村の悪餓鬼、聖護と源太は偶然にも魔王の開いた人間界と魔界を繋ぐ門を発見する。
交錯する二つの世界で赤子を巡り物語は動き出す。
波乱の異種族子育てバトルコメディここに開幕。
※プロットの変更が多く、加筆・修正により物語の変動が多いのでご容赦ください。疑問があれば読み返していただくかコメントいただければと思います。
【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~
中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。
翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。
けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。
「久我組の若頭だ」
一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。
※R18
※性的描写ありますのでご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる