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おたずねもの
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ペット可の物件を探し、飛び回っていた。
できれば金持ち一家が住むような。
キュルキュルと腹が鳴った。
昔、動物図鑑で読んだ鳥の生態を思い出した。
食べ物が少なくなると鳥たちは木の皮まで食べるそうだ。
柔らかそうな木の皮を見つけると、ひと口、ふた口とついばんだ。
なんて味気のない食事だろう。
実は鳥に転生するのは二度目で、一度目は野鳥のムクドリだった。
今回はなんとペット用のマメルリハという種類のインコになった。
やっと屋内での暮らしが叶いそうだ。
隣の高層マンションのどこかの窓からピアノの音色が聞こえてきた。
決して上手いとは言えない音色だった。
幾度も指がつっかえており、はっきり言ってボロボロの演奏だった。
とてつもない時間をかけてショパン『ノクターン』を弾き上げた。
私は懐かしい気持ちを感じた。
私も生前ピアノをやっていたことがあった。
ある日を境に罪人の道に走らなければ私も違う人生を歩み、天命を全う出来たのかもしれないが。
私は演奏の主が気になった。
これで放浪生活に終止符を打てるかも知れないとも思った。
マンションの上まで飛べる自信がなかったので、電柱から飛び移って、各階のベランダを少しづつ跳ね上がり、ピアノの音色のする方へ近づいて行った。
私はついにピアノの主を見つけ、彼女に向かいピーピーと鳴いた。
「あら、きれいな青い鳥さんね、迷い鳥かしら」
部屋の中を覗くと、電子ピアノと大量の楽譜や参考書。
彼女は何か訳あってピアノを練習しているのだろうか。
それにしても今のままの演奏力ではまだまだ相当の苦労をしそうだが。
「何か食べます?前に飼ってたインコのエサが残っているんですよ」
彼女は親切に飲み水とひえやあわの混じった色とりどりのエサを用意してくれた。
「恋人がいるんですが、長らくパリに音楽留学に行ったっきり戻ってこなくて」
彼女は繊細な持ち手のティーカップで紅茶を淹れて飲んだ。
私は差し出された鳥用の小皿でごくごくと水を飲んだ。
古びた鳥かごは部屋の隅にきちんと飾ってあった。
「私、本当に何もできなくて、教育大学の落ちこぼれでねー、飼ってる鳥も死んじゃったし、どうしようと思って。」
と、彼女は笑って見せたが、少しさみしそうだった。
私はそんな彼女の姿を見て譜面台に飛び乗り、ピーヨ!と高らかに鳴いた。
その声を聴いた彼女は笑顔になり、
「一緒に練習に付き合ってくれるの?」と言った。
私は彼女の弾く曲に合わせて揺れて見せた。
彼女は私の様子を見て笑いながら楽しそうに弾いた。
私たちは散々遊んだ。
夜になり、彼女は「泊まる場所はあるの?」と私へ問いかけた。
私は錆びた鉄格子の中に入れられ、上から毛布を掛けられた。
生前、鉄格子に長らく居たせいか、皮肉にもすぐ眠気はやってきた。
私には次の転生もきっとまたやってくる。
彼女の下手くそなピアノをいつまで見守れるのだろうと思いながら、私はすやすやと眠った。
できれば金持ち一家が住むような。
キュルキュルと腹が鳴った。
昔、動物図鑑で読んだ鳥の生態を思い出した。
食べ物が少なくなると鳥たちは木の皮まで食べるそうだ。
柔らかそうな木の皮を見つけると、ひと口、ふた口とついばんだ。
なんて味気のない食事だろう。
実は鳥に転生するのは二度目で、一度目は野鳥のムクドリだった。
今回はなんとペット用のマメルリハという種類のインコになった。
やっと屋内での暮らしが叶いそうだ。
隣の高層マンションのどこかの窓からピアノの音色が聞こえてきた。
決して上手いとは言えない音色だった。
幾度も指がつっかえており、はっきり言ってボロボロの演奏だった。
とてつもない時間をかけてショパン『ノクターン』を弾き上げた。
私は懐かしい気持ちを感じた。
私も生前ピアノをやっていたことがあった。
ある日を境に罪人の道に走らなければ私も違う人生を歩み、天命を全う出来たのかもしれないが。
私は演奏の主が気になった。
これで放浪生活に終止符を打てるかも知れないとも思った。
マンションの上まで飛べる自信がなかったので、電柱から飛び移って、各階のベランダを少しづつ跳ね上がり、ピアノの音色のする方へ近づいて行った。
私はついにピアノの主を見つけ、彼女に向かいピーピーと鳴いた。
「あら、きれいな青い鳥さんね、迷い鳥かしら」
部屋の中を覗くと、電子ピアノと大量の楽譜や参考書。
彼女は何か訳あってピアノを練習しているのだろうか。
それにしても今のままの演奏力ではまだまだ相当の苦労をしそうだが。
「何か食べます?前に飼ってたインコのエサが残っているんですよ」
彼女は親切に飲み水とひえやあわの混じった色とりどりのエサを用意してくれた。
「恋人がいるんですが、長らくパリに音楽留学に行ったっきり戻ってこなくて」
彼女は繊細な持ち手のティーカップで紅茶を淹れて飲んだ。
私は差し出された鳥用の小皿でごくごくと水を飲んだ。
古びた鳥かごは部屋の隅にきちんと飾ってあった。
「私、本当に何もできなくて、教育大学の落ちこぼれでねー、飼ってる鳥も死んじゃったし、どうしようと思って。」
と、彼女は笑って見せたが、少しさみしそうだった。
私はそんな彼女の姿を見て譜面台に飛び乗り、ピーヨ!と高らかに鳴いた。
その声を聴いた彼女は笑顔になり、
「一緒に練習に付き合ってくれるの?」と言った。
私は彼女の弾く曲に合わせて揺れて見せた。
彼女は私の様子を見て笑いながら楽しそうに弾いた。
私たちは散々遊んだ。
夜になり、彼女は「泊まる場所はあるの?」と私へ問いかけた。
私は錆びた鉄格子の中に入れられ、上から毛布を掛けられた。
生前、鉄格子に長らく居たせいか、皮肉にもすぐ眠気はやってきた。
私には次の転生もきっとまたやってくる。
彼女の下手くそなピアノをいつまで見守れるのだろうと思いながら、私はすやすやと眠った。
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