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03.同級生は学校のアイドルで変態で残念なので応援中です
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オレ達のクラスには、学校イチのアイドルがいる。
葛城瑛は、その誰もが羨む爽やかなイケメンだ。
オレにその10%でもイケメン成分を分けてもらえれば人生が変わっていただろう。
葛城が歩けば女子が群がり他校にもファンクラブがある。
ここまでくると他の男子から嫉妬の目を向けられるはずだが、それはない。
周囲の事実として、葛城瑛はただ一人の女子生徒、織田翠にしか興味がないからだ。
彼が入学してきた時は、女子の黄色い声が凄かった。
新入生代表の挨拶もそつなくこなし、爽やかな笑顔と落ち着いた声。まるでどこかの物語から飛び出した王子様か少女漫画のヒーローか。性格もよさそうで誰の目から見ても“完璧な奴”だった。
本当に、こんな人間が同年代にいるんだという尊敬と嫉妬とが入り混じった目で葛城をオレは見ていた。
それも入学当日で崩れる。
教室では先生が来るまでの間、葛城の周りには色めきだった女子が群がっていた。
群がれない女子の視線の先にも葛城がいたし、同じく男子たちも、他の奴と話しながらも興味は葛城の方にあった。
ああ、イケメン。
何をしてもイケメン。
質問に爽やかに答える。何を答えてもイケメン。
甲高い声が教室に響いて煩い。(断じて、僻みじゃない)
なんて運がないんだ。せめてクラスが離れていたら比較されないだろうに。逆恨みにも等しい感情が、クラス中の男子の心に渦巻いていただろう。オレもその一人だった。
そこへ一人の女子が教室にやってきた。
「あーちゃん!!」
イケメンの顔が開花した。
今考えると、さっきまでの笑顔はただ綺麗なだけだった。
それが花開くような眩しい笑顔に変わった。あまりにもの落差に、戸惑い見惚れてしまう。
周囲の女子達を元からいないように押しのけて(おいっ!)
彼女の前に駆け寄る葛城。
「あーちゃん、心配したんだから! 一緒に教室に入ろうと思ったのに」
「あー、ごめん。お花を摘みに行ってた」
「入学して初めての女子トイレ!? なんで誘ってくれなかったの!!」
「誘わないから!」
「ちゃんと個室までついて行って。見ていたかったのに」
「な、ななな何を言ってるのよ! 変態! あーもう! 高校生になっても変態は治らないの? 不治の病なの? ちょっと草津温泉に行って来い。治るまで帰って来ないで!」
「も、もしかして、温泉旅行のお誘い!? ヤバイ。あーちゃんの浴衣姿とかって!! 鼻血でそう。そうそう、知っている? 浴衣ってどこから手を差し込んでも秘所に辿り……ゲフッ!!」
二人のやり取りに、周りが呆気にとられていた。彼女の華麗な回し蹴りが彼の鳩尾に決まる。
(その時、白い太ももが見えてドキッとしたのは内緒だ)
小動物のような小柄な外見からは考えられない。綺麗な回し蹴り。艶めく長い黒髪が揺れ、その鋭い瞳に目が惹きつけられる。
時間が止まったかに思えていた。
(オレ、こんなに綺麗なのを初めて見た)
彼女が「あ、しまった。高校デビューが!」とつぶやくと同時に、周囲の時間が動き出す。
「ちょっと!」
「瑛くん!! 大丈夫?」
「ひど―い! やば―ん」
蹴りに見とれていた女子達も葛城に駆け寄り、彼女に対しては敵意の視線を向け始めた。
その視線を受けての彼女は、臆するどころか少しため息交じりで女子達を見つめ返している。
彼女の真っ直ぐな瞳は痛快で格好良い。
(しかも、場慣れしてそう)
そこに、冷たい声が響いた。
「邪魔」
駆け寄ってきた女子達を邪険に振り払いながらも、左手で蹴られた鳩尾を愛おしそうに撫でていた彼の瞳は殺気立っていた。
呆然と佇む女子達に、再度冷たい視線を送る。
「何? ひょっとして、あーちゃんに文句を言っていたの? 死ぬ?」
さっきまで『葛城くんってどこ中?』『狭山中だよ』『キャー! 知ってるぅー』と和やかに会話をしていたはずなのに。何? この変貌? やだこの子怖い。
葛城は、ぐるりと周囲を見渡し、ドスの効いた声を教室に響きわたした。
「それに……お前ら、あーちゃんの太ももを見たよね?」
(うわー恐ろしいまでの不可抗力)
内心バクバク。思わず視線をそらす。
イエ、ボク。ミテマセン。
「あーちゃんのムチムチでスベスベの白い太ももを見てもいいのは僕だけ! アレで顔を挟まれたりするのも僕だけ! 今後は違うところも挟んでもらうんだから! わかった? あれは僕専用なの! だから今すぐ記憶を消せ! 消さないと実力行使に持っていくよ?」
腕を鳴らしながらの死亡予告宣言。
うわ、ボキボキなっているよ!!
すげぇ、怖い。中学時代に不良にカツアゲされかけた時より何倍も怖いんですけど。
「お前が消えろ、この瞬間に消えろ!」と、両手で耳を抑えながらブツブツ言っている彼女。
初対面だが、これから一年間一緒に過ごさなければいけないクラスメートの前での絶賛公開羞恥プレイ中に、同情を禁じ得ない。
「あーちゃんは、僕の幼馴染で、僕がこの世で一番愛している人。あーちゃんに危害を加える奴は殺すからね。後、“あーちゃん”呼びは僕だけの特別だから、この呼び方はしないで。僕のことも名前で呼ばないでね。あーちゃんにしか許さないから。気持ち悪い」
さっき『瑛くん』呼びした女子は「ヒィ」と言って顔を真っ青にしている。可哀想に。
「ねえ? あーちゃん」
朗らかな笑顔で彼女に同意を誘う。
『ねえ?』って、本当、なんか彼女可哀想っ!
「あ、あ、あ、あ、」
「あ? ……愛している? うん! 僕もだよ! 僕の愛は、あーちゃんにだけだよ!」
両手を拡げて彼女を抱きしめようとしている。いや、絶対違うだろ。誰か! ここに耳鼻科を建ててあげて!
「アホか―!」
思考停止していた彼女が、顔を真っ赤にして容赦ない蹴りを繰り出す。
今度は、それを簡単に受け止めた彼は、厳しいけど愛情に溢れた顔で
「あーちゃんも! 生脚をサービスしない! メッ! だよ! メッ! 僕に技をかけるのは二人っきりの時でしよ!」
さらりと太ももをひと撫でして、スカートを整えてあげている。
「――っ!!」
うん。これは、羞恥で死ねるレベル。
でも流石イケメン。言っていることは変態だけど爽やかに聞こえる。これがイケメン補正か?
先程の鋭い瞳とは打って変わって、彼女は顔をこれでもかというくらい真っ赤にしてフルフルと瞳を滲ませながら「もう、いやだぁ~」と蚊のなくような呟き。
(?!)
この姿、声に、思わず『守ってあげたい!』というクラスメートの母性やら父性やらを刺激した。牽制していた女子達までも頬を赤らめている。“キュンキュン”ってオノマトペが飛び交っているだろう。
ヤバイ。
こ、これは可愛い。
パン!
葛城が教室に響きわたる大きな柏手を打った。
「はい! 今、あーちゃんに萌えた奴、気持ちはわかるけど、手を出したらわかるよね?」
「ふ、ふぇぇ。せめて、クラスが違っていたら」
「うーん。壊れ気味のあーちゃんって破壊力が半端ないなぁ。すぐに犯したいくらいだ。……それに無理だよ? 運命が僕たちの味方をしているんだ。あーちゃんと僕とが結ばれている赤い糸は絶対に切れないし。切らせもしないよ?」
黒い。
黒い笑顔で彼女に微笑みかける。背筋が凍ったな! 怖えぇわ! イケメン超怖えぇわ! それから、さっきからセクハラひでぇ!!
彼女は「中学の時の二の舞は嫌だったのに!」と叫び、教室から飛び出した。
「瑛のアホ―」
「あーちゃん! やっぱり、僕と二人っきりがいいんだね!」
その後をスキップするように追いかける葛城瑛。
残されたクラスメート達は悟った。
彼、葛城瑛はイケメンだがとてつもなく変態で、彼女、織田翠はそのイケメンに執着されている哀れな生贄であると。
ふと隣を見ると、まだ話した事もないクラスメートからのなんとも言えない笑み。
オレたちは同じ笑みで会話する。
(フッ)
何も言わずともわかるアイコンタクト。
まだ彼の本性を知らない他クラス、他学年からの妬みや嫌がらせが彼女にあるだろう。
それを乗り越える力が二人にはあるにせよ、せめて、このクラスでは楽しく過ごしてもらおう。
二人がいなくなった教室では、入学初日に関わらずクラスの結束力が固まった瞬間でもあった。
葛城瑛は、その誰もが羨む爽やかなイケメンだ。
オレにその10%でもイケメン成分を分けてもらえれば人生が変わっていただろう。
葛城が歩けば女子が群がり他校にもファンクラブがある。
ここまでくると他の男子から嫉妬の目を向けられるはずだが、それはない。
周囲の事実として、葛城瑛はただ一人の女子生徒、織田翠にしか興味がないからだ。
彼が入学してきた時は、女子の黄色い声が凄かった。
新入生代表の挨拶もそつなくこなし、爽やかな笑顔と落ち着いた声。まるでどこかの物語から飛び出した王子様か少女漫画のヒーローか。性格もよさそうで誰の目から見ても“完璧な奴”だった。
本当に、こんな人間が同年代にいるんだという尊敬と嫉妬とが入り混じった目で葛城をオレは見ていた。
それも入学当日で崩れる。
教室では先生が来るまでの間、葛城の周りには色めきだった女子が群がっていた。
群がれない女子の視線の先にも葛城がいたし、同じく男子たちも、他の奴と話しながらも興味は葛城の方にあった。
ああ、イケメン。
何をしてもイケメン。
質問に爽やかに答える。何を答えてもイケメン。
甲高い声が教室に響いて煩い。(断じて、僻みじゃない)
なんて運がないんだ。せめてクラスが離れていたら比較されないだろうに。逆恨みにも等しい感情が、クラス中の男子の心に渦巻いていただろう。オレもその一人だった。
そこへ一人の女子が教室にやってきた。
「あーちゃん!!」
イケメンの顔が開花した。
今考えると、さっきまでの笑顔はただ綺麗なだけだった。
それが花開くような眩しい笑顔に変わった。あまりにもの落差に、戸惑い見惚れてしまう。
周囲の女子達を元からいないように押しのけて(おいっ!)
彼女の前に駆け寄る葛城。
「あーちゃん、心配したんだから! 一緒に教室に入ろうと思ったのに」
「あー、ごめん。お花を摘みに行ってた」
「入学して初めての女子トイレ!? なんで誘ってくれなかったの!!」
「誘わないから!」
「ちゃんと個室までついて行って。見ていたかったのに」
「な、ななな何を言ってるのよ! 変態! あーもう! 高校生になっても変態は治らないの? 不治の病なの? ちょっと草津温泉に行って来い。治るまで帰って来ないで!」
「も、もしかして、温泉旅行のお誘い!? ヤバイ。あーちゃんの浴衣姿とかって!! 鼻血でそう。そうそう、知っている? 浴衣ってどこから手を差し込んでも秘所に辿り……ゲフッ!!」
二人のやり取りに、周りが呆気にとられていた。彼女の華麗な回し蹴りが彼の鳩尾に決まる。
(その時、白い太ももが見えてドキッとしたのは内緒だ)
小動物のような小柄な外見からは考えられない。綺麗な回し蹴り。艶めく長い黒髪が揺れ、その鋭い瞳に目が惹きつけられる。
時間が止まったかに思えていた。
(オレ、こんなに綺麗なのを初めて見た)
彼女が「あ、しまった。高校デビューが!」とつぶやくと同時に、周囲の時間が動き出す。
「ちょっと!」
「瑛くん!! 大丈夫?」
「ひど―い! やば―ん」
蹴りに見とれていた女子達も葛城に駆け寄り、彼女に対しては敵意の視線を向け始めた。
その視線を受けての彼女は、臆するどころか少しため息交じりで女子達を見つめ返している。
彼女の真っ直ぐな瞳は痛快で格好良い。
(しかも、場慣れしてそう)
そこに、冷たい声が響いた。
「邪魔」
駆け寄ってきた女子達を邪険に振り払いながらも、左手で蹴られた鳩尾を愛おしそうに撫でていた彼の瞳は殺気立っていた。
呆然と佇む女子達に、再度冷たい視線を送る。
「何? ひょっとして、あーちゃんに文句を言っていたの? 死ぬ?」
さっきまで『葛城くんってどこ中?』『狭山中だよ』『キャー! 知ってるぅー』と和やかに会話をしていたはずなのに。何? この変貌? やだこの子怖い。
葛城は、ぐるりと周囲を見渡し、ドスの効いた声を教室に響きわたした。
「それに……お前ら、あーちゃんの太ももを見たよね?」
(うわー恐ろしいまでの不可抗力)
内心バクバク。思わず視線をそらす。
イエ、ボク。ミテマセン。
「あーちゃんのムチムチでスベスベの白い太ももを見てもいいのは僕だけ! アレで顔を挟まれたりするのも僕だけ! 今後は違うところも挟んでもらうんだから! わかった? あれは僕専用なの! だから今すぐ記憶を消せ! 消さないと実力行使に持っていくよ?」
腕を鳴らしながらの死亡予告宣言。
うわ、ボキボキなっているよ!!
すげぇ、怖い。中学時代に不良にカツアゲされかけた時より何倍も怖いんですけど。
「お前が消えろ、この瞬間に消えろ!」と、両手で耳を抑えながらブツブツ言っている彼女。
初対面だが、これから一年間一緒に過ごさなければいけないクラスメートの前での絶賛公開羞恥プレイ中に、同情を禁じ得ない。
「あーちゃんは、僕の幼馴染で、僕がこの世で一番愛している人。あーちゃんに危害を加える奴は殺すからね。後、“あーちゃん”呼びは僕だけの特別だから、この呼び方はしないで。僕のことも名前で呼ばないでね。あーちゃんにしか許さないから。気持ち悪い」
さっき『瑛くん』呼びした女子は「ヒィ」と言って顔を真っ青にしている。可哀想に。
「ねえ? あーちゃん」
朗らかな笑顔で彼女に同意を誘う。
『ねえ?』って、本当、なんか彼女可哀想っ!
「あ、あ、あ、あ、」
「あ? ……愛している? うん! 僕もだよ! 僕の愛は、あーちゃんにだけだよ!」
両手を拡げて彼女を抱きしめようとしている。いや、絶対違うだろ。誰か! ここに耳鼻科を建ててあげて!
「アホか―!」
思考停止していた彼女が、顔を真っ赤にして容赦ない蹴りを繰り出す。
今度は、それを簡単に受け止めた彼は、厳しいけど愛情に溢れた顔で
「あーちゃんも! 生脚をサービスしない! メッ! だよ! メッ! 僕に技をかけるのは二人っきりの時でしよ!」
さらりと太ももをひと撫でして、スカートを整えてあげている。
「――っ!!」
うん。これは、羞恥で死ねるレベル。
でも流石イケメン。言っていることは変態だけど爽やかに聞こえる。これがイケメン補正か?
先程の鋭い瞳とは打って変わって、彼女は顔をこれでもかというくらい真っ赤にしてフルフルと瞳を滲ませながら「もう、いやだぁ~」と蚊のなくような呟き。
(?!)
この姿、声に、思わず『守ってあげたい!』というクラスメートの母性やら父性やらを刺激した。牽制していた女子達までも頬を赤らめている。“キュンキュン”ってオノマトペが飛び交っているだろう。
ヤバイ。
こ、これは可愛い。
パン!
葛城が教室に響きわたる大きな柏手を打った。
「はい! 今、あーちゃんに萌えた奴、気持ちはわかるけど、手を出したらわかるよね?」
「ふ、ふぇぇ。せめて、クラスが違っていたら」
「うーん。壊れ気味のあーちゃんって破壊力が半端ないなぁ。すぐに犯したいくらいだ。……それに無理だよ? 運命が僕たちの味方をしているんだ。あーちゃんと僕とが結ばれている赤い糸は絶対に切れないし。切らせもしないよ?」
黒い。
黒い笑顔で彼女に微笑みかける。背筋が凍ったな! 怖えぇわ! イケメン超怖えぇわ! それから、さっきからセクハラひでぇ!!
彼女は「中学の時の二の舞は嫌だったのに!」と叫び、教室から飛び出した。
「瑛のアホ―」
「あーちゃん! やっぱり、僕と二人っきりがいいんだね!」
その後をスキップするように追いかける葛城瑛。
残されたクラスメート達は悟った。
彼、葛城瑛はイケメンだがとてつもなく変態で、彼女、織田翠はそのイケメンに執着されている哀れな生贄であると。
ふと隣を見ると、まだ話した事もないクラスメートからのなんとも言えない笑み。
オレたちは同じ笑みで会話する。
(フッ)
何も言わずともわかるアイコンタクト。
まだ彼の本性を知らない他クラス、他学年からの妬みや嫌がらせが彼女にあるだろう。
それを乗り越える力が二人にはあるにせよ、せめて、このクラスでは楽しく過ごしてもらおう。
二人がいなくなった教室では、入学初日に関わらずクラスの結束力が固まった瞬間でもあった。
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