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第一章

3-4.望まぬ手助け ♥

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「っ、う゛……!」

 引き出された舌の痛みに呻き、跳ねた身体は押さえつけられたまま。このまま根元から引きちぎられてしまうことを恐れるのに、やはり藻掻くことはままならず。
 涙ににじむ視界で、金が揺らめく。
 冷たく、強く。笑みはなく。

「淫魔である僕が、君たち人間で、わざわざ、遊んであげるって言ってるのに?」

 ギチギチと肉が悲鳴をあげている。呼吸がままならないのは痛みだけが理由ではないことを、誰よりもクラロ自身が理解している。
 引き攣る喉をどうすることもできず、唾を飲み込むことだって。なにもできず、視線に貫かれたまま。
 本能的な恐怖に背が震え、それでも、目蓋を伏せることさえも、

「――なぁんてね!」

 パッ、と離れた指と舌を繋ぐ銀色の糸。それがフツリと途切れ、鈍い痛みだけがそうされていた事実を残す。
 冷たい瞳は面影もなく、満面の笑みが見下ろしている。最初からそうであったように、ただの戯れであったように。

「そんな非国民がお城に勤めるなんてありえないッスもん、ね?」

 そうだろうと淫魔が笑う。理解したうえで。そうであると知ったうえで、まだ見逃してやるのだと。まだ遊ばせてくれるのだろうと笑う。嗤い、同意を求める。
 お前は、ただの玩具なのだと。

「……っは、はは、ほんと、淫魔様は、ご冗談がお好きで……」

 肯定以外に道は無い。まだ見逃すというのなら、まだ遊ぶというのなら、それに便乗してなにが悪い。
 クラロは犯される訳にはいかない。こんなことをされるわけにもいかない。だが、非国民として晒されるぐらいならば、今の方が何百倍もマシだ。

「ペーター君があんまりにも可愛いことを言うもんッスから、ついつい……まぁ、でも」
「いっ……ぁ、あ!」

 それは痛みか、それとも痺れだったのか。あるいはその両方であり、区別できぬほどに混ざり合っていたのか。
 露わになった胸元。隠したくとも隠せない胸の、刺激されて膨らんだその頂点。
 摘ままれ、引き攣る痛みとジワリと伝わる甘さに、口を押さえようとした腕は変わらず下敷きにされて動けないまま。

「乳首をこぉんなに固くさせているのに、嫌な訳ないッスよねぇ」

 まるで絞り出すように緩急をつけて引っ張られる左と、シャツ越しに引っかかれる右と。異なる刺激になんとか唇を結び、それでも息が弾むのを止められない。
 踵は地面を滑り、制止は音にすらできず。
 嫌がる素振りを見せてはいけないと、理解していても到底耐えられるものなんかじゃない。

「っ、ま……て、くだ、さ……!」
「あはは。ちょっとしか触ってないのに、もうそんなふにゃふにゃになっちゃうんッスか? 可愛いッスね~」

 摘ままれたまま捻られ、かと思えば引っ掻く指の本数が増える。
 痛みしか感じない一歩手前まで引き上げられ、痛覚にだけ意識を傾けようとすれば、くすぐるように引っ掻いてくる三本の爪に快楽を叩き込まれる。
 疼く腰。わだかまる熱に翻弄され、貞操帯に押さえ込まれた下腹部が圧迫感を抱き始める。

「声我慢しようとしてるんッスか? でも、乳首もこんなガチガチで、腰も跳ねてるし、身体は正直ってやつッスかね。ふふ、ほんとペーターくんって僕らを喜ばせるのが上手!」

 いい子いい子と褒めるように凝りを捏ね、されど見下ろす瞳は嗤うものだ。
 無駄なのにと。それでも抗うのが哀れで、だからこそ可愛いのだと。

「それにしても、仕込みもないのにこんなに感じるなんて……本当に今までお勤めしたことがないんッスか? あ、自分で弄ってたとか」
「誰がっ……ふ、ぅう……!」
「うんうん、こんな気持ちいい乳首、自分で弄らないわけないッスもんねぇ」

 咄嗟の否定が、乳首を捻られて遮られる。反論できぬのをいいことに決めつけてくる苛立ちも、胸元の刺激で消えていってしまう。
 腕は押さえられたまま、足もろくに動かせず。できるのは首を反らして唇に力を込めることだけ。だが、目の前の男はそれすらも許さないらしい。
 前髪に指が差し込まれ、そのままかきあげられる。見下ろす金を遮るものはなく、眼鏡一つでなにを隠せたというのか。

「感じてる顔も可愛いッスね! うーん、でも押さえてないとよく見えない……あ、ちょっといいッスか?」
「……へっ、えっ!?」

 おいでと手招かれ、驚いたエリオットの声は哀れに思うほどに裏返ったもの。
 話しかけられるなんて思っていなかったのだろう。それはクラロも同じこと。
 今この時まで、この醜態が全員に見られているという事実を忘れていた。誤魔化すのに必死すぎて、それどころではなかったのだ。
 だが、一度意識してしまえば忘れたままではいられない。腕が拘束されていなければ、咄嗟に胸を隠してしまっただろう。
 お勤め中に恥ずかしがるなど、奴隷としてはあり得ないのに。自慢こそすれ、隠すような真似などしないのに。

「髪押さえててもらえるッスか? イってる顔見たいんッスよね」
「ぼ、僕がっ……!?」

 別の奴隷が奉仕中の奴隷の補助をするのは珍しいことではない。
 だが、今組み敷かれているのは田舎者と蔑まれているクラロであり、見目麗しいエリオットではない。
 これが逆なら見物にもなったのにと残念がる者も存在せず。あんなに騒いでいた同僚たちは驚き固まったまま。
 自分たちの持ち場でご奉仕が始まるなんて思っていなかったのだろう。クラロだってそれは同じだったのに、どうして。

「嫌ならそこの……」
「や、やりますっ! やらせてくださいっ!」

 もう上級奴隷として認められているのだから、顔を売る必要もないはずだ。なのにエリオットの返事は勢いよく、されど跪く動作は比例せず遅く。
 震える指に髪を押さえられ、そのまま頬まで固定される。
 真上からも胸元からも凝視され、もはやどこを睨むも耐えられず。咄嗟に目をつむるクラロには、エリオットの瞳が熱で潤む様子さえも映らない。

「先輩……っ……」
「ほら、ペーター君。後輩にお勤めしてる姿を見てもらわないと」

 両胸を摘ままれ、引っ張られたまま捏ねられて。跳ねた腰は体重で押さえつけられ、誤魔化せなかった痺れが頭の先まで駆け上がってくる。
 溜まり続けた痺れが解放を願って疼き、頬をエリオットの手に押しつけたのは首を振りたかった名残でしかない。
 ダメだと理解しているのに、与えられる刺激から逃げる方法がない。
 それを自覚させられる度に与えられる刺激は強く、深いものへと変わっていってしまう。

「ま、って、くださ……っだ、め……だめ、で……!」
「ダメじゃなくて、気持ちいいッスよね? ほんと嫌がるフリが上手ッスね! そんなに煽らなくてもちゃんと弄ってあげるのに」

 解放された乳首が、何本もの指に弾かれて爪先が仰け反る。くすぐるように連続して引っかかれて、共に掻かれる乳房の刺激さえ追い詰めてくる。
 首も、腕も、足さえも動かせず。唯一自由であった口さえ、指を差し込まれて閉じられなくなればいよいよ涙が滲みだす。

「っ……ぁ、ふ……! えひぃ、ぉ……っ指、ひゃめっ……!」
「もう限界ッスかね。ほら、いつでもイっていいッスよ」

 まるで世間話と変わらぬ口調。否、淫魔にとっては日常と変わらない。クラロがどれだけ拒もうと、嫌がろうと、それは犬の躾と同じ。
 それが普通なのだと。お前が異様なのだと、そう刻みつけるように指は動き、視線は注がれ、声は囁く。
 これは許可ではなく、命令なのだと。
 頭の中が空白になっていく。思考が回らない。ただ一つの欲求に向かって全身が戦慄いていく。
 ダメなのに。ダメだと、わかっている、のに、

「っぁああ……ふ――っ!」

 アモルの身体が僅かに浮くほど仰け反る身体に走る強烈な波。わだかまっていた快楽が弾け、血流に沿って全身を支配する幸福感に世界が白く点滅している。
 まるで両方の乳首が性器に成り果てたようにジクジクと疼くのに、それすらも心地良く。
 射精を伴わない絶頂により、開放感を味わう胸元と、達することのできなかったペニスの閉塞感で頭の中が乱されていく。
 一瞬のような、数分のような。あまりにも長い余韻に呼吸が整わない。
 頬にはりつく手がやたらと熱くて、気持ち悪いのか、気持ちいいのか。もうそれすら考えられず。
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