12 / 100
第一章
2-6.策に溺れる ♥
しおりを挟む
片方は巻き付いてくるなにかに、もう片方は繋いだままの男の手によって。捕まえてくるモノは違っても、その力強さも曲げられる方向も同じ。
思わず漏らしそうになった悲鳴が柔らかい感触で塞がれる。否、塞がれる前に閉ざしたのだ。あまりにも近すぎる顔に、本能的に。
まるで表面をついばむように何度も唇が合わさる間、後ろに組まされた両腕に巻き付く感覚。
抵抗が遅れたのは口付けのせいでも、対処できなかったのはクラロ自身。ちゅ、と吸い付く音に紛れる布擦れの音は背後と胸元から途切れることなく。
なにが起きているのかわからぬまま、くすぐったい感覚が首元を這う。その正体に思い至るよりも先に、戒めから解放されたはずの胸に襲いかかる圧迫感。
呻き、藻掻き、されど緩まぬ拘束に触れる唇が歪むのを感じてもどうしようもなく。上から臓器を押し潰さんばかりに締め直され、吐いた息はあまりにも浅いもの。
「……うん、こんなものかな」
やがて音が止まり、唇が離れ。先ほどと同じように襟元を引っ張り確認した男が満足そうに頷くのを、睨むなというのが無理な話。
「っ、なに、を……!」
話そうとすれば、首が緩やかに締め付けられる。後ろ手にされた腕を動かそうとしても同じく。
なにをされた、なんて。クラロの胸を隠していた布で縛られたとしか考えられない。
着脱不可の魔術はかかっていたはずなのに、なぜ。
「発想としてはよかったけど、ソレって肌から離れなければ位置自体は変えられるから、やり方次第でどうにでもなるんだよね」
混乱するクラロを眺めながら本は元の位置に戻され、赤は柔らかく笑む。微笑ましさを感じるそれは、本当にその通りなのだろう。
浅知恵で頑張ったと、幼い子どもに対するものと同じように。
「触手の寄生とか相性がいいんだよね。ふふ、懐かしいなぁ」
あの時は楽しかったと、無邪気に笑うそれに嫌悪感。
あの時、というのは一つだけだ。十数年前、人間たちを征服した時の……その抵抗を思い出しているのだろう。
言葉自体に反応しなかったのは、それよりも締め付けられた肺が苦しかったからだ。
背後は見えず、どのように戒められているかは不明。背を丸めようとすれば腕に繋がった首が絞まり、突き出したままの姿勢を強要される。
何重にも巻き直された胸板は変わりないように思えても、無視できない違和感がそうではないと伝えてくる。
隙間無く覆われていたはずだった。どれだけ触れようとしても阻めるように丁寧に。
だが、最も守りたかった場所はその布から唯一露出し、男に向かってピンッと勃ってしまっている。
クラロの意思ではない。上下から寄せられ、避けるように巻き直されたせいだ。ギチギチと音がなりそうなほどキツイのに、そこだけが自由で、無防備。
再び裾から手を入れられ、確かめるように撫でられる胸に触れられた感触はない。感覚遮断の魔法がまだかかっていることに、どうして安心できただろうか。
他が感じないせいで、意識が乳首に集中してしまう。見ていなければどこを触れられているかわからないが、見ていれば弄られているところも視界に入る。
使用した魔術を理解した上で逆手に取られたのだと。そう気づいたところで、捕まった獲物になにができたというのか。
「っ……腕、まで、巻く必要、はっ……!」
締め付けのせいで上手く息が吸えず、声だって弱々しい。それを理解して笑う男の、なんと性格の悪いことか。
「それ以上胸に巻いたら息ができないし、かといって余ったのは目障りだし……どこかに括っておくのが一番綺麗と思うけど」
片手は素肌に。もう片手は、服の上から。
手をあてがわれただけなのに先端がシャツに擦れ、それだけで息が弾む。意識しては駄目だ。感じては、いけない。いけないのに。
「それに、これは巻き方を間違えていた君のお仕置きでもあるしね。だめだろう? 可愛いところを隠すなんて」
本当に乳首の幅しかない隙間。そこから僅かに露出した乳輪を指の背でスリ、と撫でられ、咄嗟に抑えたはずの悲鳴が漏れる。
ぎゅ、と腹の奥が搾られるような、擽られるような。そんな感覚が腰元に流れて、無意識に首を振っても息苦しさが増すだけ。
否、それは。その反応は、目の前の男をより愉しませるもの。
「ほら、ここだって苦しかったって言ってるよ」
「――っあ!」
シャツの上から、軽く一撫で。たったそれだけと理解しているのに、耐えきれない痺れが先端から頭の上に駆けていく。
じわりと染み出すような、弾けるような。なんとも言えない感覚は、そのまま背筋を通って腰へと下る。
慌てて唇を噛んでも遅い。それに耐えられないことは、たった今証明されてしまったのだから。
「ほら、喜んでる」
「っ……!」
違うと否定すれば、その途端にまた喘いでしまう。故に固く閉ざしたままでいたくとも、それが続かないことはクラロ自身が理解していた。
スリスリと、シャツの繊維に擦られ息が弾む。その間も片手で外されていくボタンを留め直すことはできず、あっという間に胸元が晒される。
「よしよし、楽になれてよかったね。意地悪された分、いっぱい撫でてあげよう」
きつく戒める白、その合間に見える薄桃色から目を逸らしたくて。だが、それよりも先に唇がそこへ下りてしまえばそうもいかず。
見上げる赤がニマリと笑う。そうしてゆっくりと開く口。覗く犬歯の合間から、ずるりと這い出る舌はまるで蛇のよう。
他人の舌などまざまざと見たことはないが、少なくともクラロのものよりも分厚く、長いそれ。
下唇に乗せたまま吐かれた息はジトリと湿気を帯び、それだけで突起が湿る錯覚を抱く。
外気に触れて冷やされたそこが熱に煽られ、余計に固さが増したのはそれこそ気のせいだ。
「舌でも、よしよし、してあげようか」
笑う息と共に舌が伸びる。ぷくりと膨らんだ乳首の、そのすぐそばまで。決して触れず、掠めず。寸前のところで蠢く先端。
単純な上下運動に合わせて、指も下から跳ねるような動きに。指がクルリと一周すれば、舌先も同じく、見せつけるように。
否定しても弄られる。肯定など、それこそ口が裂けたって言うものか。
故にどちらもできず、なにもできず。目を逸らすことだってできない。
「……可愛いね、本当に」
「っ、ん!」
触れるだけのキスが一つ。そこに滑りも熱さもないのに、柔らかさだけで喘ぎ、跳ね、硬直してしまったのを笑う吐息が離れていく。
「このまま舐めてもいいけど、今日は指にしておこうか」
楽しみは少しでも取っておかないとと、口に出さずとも聞こえる狙いに安堵も怒りも抱く間もなく、指は直接乳首の上に。囁く唇は耳元へ、再び。
「じゃあ、お勤め頑張ろうね?」
「ん――っあぁ、んっ!」
耳穴に舌先を捻じ込まれ、左は直接摘まみ、右はカリカリと引っかかれる。
いくら来ると分かっていたって。否、来ると分かっているからこそ、こんなの耐えられるはずがない。
首と腕を繋ぐ布が張り詰め、逸らしたかった顔は繋ぎ止められたまま。気道が狭まり、息苦しさを感じながらも唇を閉ざしたのは意地からだ。
声を抑えようと抵抗する間も、シャツ越しにも直接にも弄られる乳首の刺激は止まない。
揉み込むように捏ねられ、掻かれ。と思えば逆側を弾かれて、跳ねたところをグリグリと押し潰される。
一つ一つの反応を楽しむように、どれに一番弱いかを見極めるように。瞳はクラロの顔から離れず、見つめられたまま。
「どれが一番好き? 右と左と、どっちが気持ちいい?」
ねぇねぇと、甘えるような声が聞こえる。それだけなら子どもの無邪気な問いにも聞こえただろう。赤と青、クッキーとドーナツ、コーヒーと紅茶、人形と模型。
だが、実際に問うているのはそんな可愛らしいものではないし、指先の動きは全く愛らしくもなんともない。
比べやすいようにと同じ動きで、同じ速さで、ゆっくりと引っかけられる乳首。
かり、かり……かり。
焦らすタイミングまでも合わせられて、鼻から漏れる息は長く、深く。抜けた声が出ないよう必死に、隙を見ながら繰り返される。
嘘など通用しない。適当など、それこそ。どちらにせよ両方弄られるし、どうであろうとクラロの意思は関係ないのだ。
この男が満足するまで遊ばれる。それこそ、何十分、何時間。飽きるまでずっと、ずっと。
ならば早々に快楽に堕ちたフリをして、興味を削ぐのが最善だとわかっている。わかっているのにできない。したくない。するわけには、いかない。
気持ちよくなんてない。違う。これは、気持ちよくなってるわけじゃ、ない……!
くぷ、と抜き差しされる舌の水音に紛れるのは笑う気配。くすぐる吐息が頬へかかり、それすらもゾクゾクと肌を粟立たせる。
「声、我慢できて偉いね。でも、これはお勤めなんだから声は出さなくちゃ……ね?」
かり、かり、かり。指は止まらない。耳を嬲る舌先だって止まってくれない。
痺れは強くなり、押し寄せる波が大きくなって、今にも呑み込まれてしまいそうになる。
腰が重く、足が震える。それなのに後ろにもたれかかることはできず、男に支えてもらうなど、それこそ。
「ほら、あー……って。口開けて?」
真似するようにと、形の良い唇が開いていくのを耳元で感じる。
耳を包み込むような吐息。チロチロと舌先で突かれ、また舐られ。そうしながらも、指は口元ではなく乳首を弄ったまま。
そうするとクラロの口はより固く閉ざされ、息まで止めそうな勢い。
「本当に可愛いね」
暫く……といっても、おそらくは数秒。そうして待っていた男が、やはり笑う。
無駄なのにと。まるで子どもの我が儘を許すように、最後にはどうなるか分かっているだろうにと、そう言い聞かせるように。
「じゃあ、今日はこっちも弄ってあげようかな」
直接撫でていた指が下に滑っていく。乳房から臍、それからズボンのベルトへ。
擦れる音の後、片手でどう外されたのか。目視できないまま締めつけが緩まり、裾から差し込まれる指に分かっていても腰が動いてしまう。
それをどう捉えたか、クスクスと笑う声が鼓膜を擽って……すぐに、固い感触と共に止まった。
「……ん?」
顔が離れ、中を覗き込まれる。もう片方の乳首も解放され、両手はズボンの裾へ。
そのまま下ろされた先。本来なら反応しきった分身がいるはずのそこには……なにも、なかった。
ない、というのは正しくない。確かにクラロの股間には息子と呼ぶべき器官が存在しているし、反応しきっているのも自覚している。
単に視認できないだけだ。上から覆っている――貞操帯と呼ぶべき存在によって。
思わず漏らしそうになった悲鳴が柔らかい感触で塞がれる。否、塞がれる前に閉ざしたのだ。あまりにも近すぎる顔に、本能的に。
まるで表面をついばむように何度も唇が合わさる間、後ろに組まされた両腕に巻き付く感覚。
抵抗が遅れたのは口付けのせいでも、対処できなかったのはクラロ自身。ちゅ、と吸い付く音に紛れる布擦れの音は背後と胸元から途切れることなく。
なにが起きているのかわからぬまま、くすぐったい感覚が首元を這う。その正体に思い至るよりも先に、戒めから解放されたはずの胸に襲いかかる圧迫感。
呻き、藻掻き、されど緩まぬ拘束に触れる唇が歪むのを感じてもどうしようもなく。上から臓器を押し潰さんばかりに締め直され、吐いた息はあまりにも浅いもの。
「……うん、こんなものかな」
やがて音が止まり、唇が離れ。先ほどと同じように襟元を引っ張り確認した男が満足そうに頷くのを、睨むなというのが無理な話。
「っ、なに、を……!」
話そうとすれば、首が緩やかに締め付けられる。後ろ手にされた腕を動かそうとしても同じく。
なにをされた、なんて。クラロの胸を隠していた布で縛られたとしか考えられない。
着脱不可の魔術はかかっていたはずなのに、なぜ。
「発想としてはよかったけど、ソレって肌から離れなければ位置自体は変えられるから、やり方次第でどうにでもなるんだよね」
混乱するクラロを眺めながら本は元の位置に戻され、赤は柔らかく笑む。微笑ましさを感じるそれは、本当にその通りなのだろう。
浅知恵で頑張ったと、幼い子どもに対するものと同じように。
「触手の寄生とか相性がいいんだよね。ふふ、懐かしいなぁ」
あの時は楽しかったと、無邪気に笑うそれに嫌悪感。
あの時、というのは一つだけだ。十数年前、人間たちを征服した時の……その抵抗を思い出しているのだろう。
言葉自体に反応しなかったのは、それよりも締め付けられた肺が苦しかったからだ。
背後は見えず、どのように戒められているかは不明。背を丸めようとすれば腕に繋がった首が絞まり、突き出したままの姿勢を強要される。
何重にも巻き直された胸板は変わりないように思えても、無視できない違和感がそうではないと伝えてくる。
隙間無く覆われていたはずだった。どれだけ触れようとしても阻めるように丁寧に。
だが、最も守りたかった場所はその布から唯一露出し、男に向かってピンッと勃ってしまっている。
クラロの意思ではない。上下から寄せられ、避けるように巻き直されたせいだ。ギチギチと音がなりそうなほどキツイのに、そこだけが自由で、無防備。
再び裾から手を入れられ、確かめるように撫でられる胸に触れられた感触はない。感覚遮断の魔法がまだかかっていることに、どうして安心できただろうか。
他が感じないせいで、意識が乳首に集中してしまう。見ていなければどこを触れられているかわからないが、見ていれば弄られているところも視界に入る。
使用した魔術を理解した上で逆手に取られたのだと。そう気づいたところで、捕まった獲物になにができたというのか。
「っ……腕、まで、巻く必要、はっ……!」
締め付けのせいで上手く息が吸えず、声だって弱々しい。それを理解して笑う男の、なんと性格の悪いことか。
「それ以上胸に巻いたら息ができないし、かといって余ったのは目障りだし……どこかに括っておくのが一番綺麗と思うけど」
片手は素肌に。もう片手は、服の上から。
手をあてがわれただけなのに先端がシャツに擦れ、それだけで息が弾む。意識しては駄目だ。感じては、いけない。いけないのに。
「それに、これは巻き方を間違えていた君のお仕置きでもあるしね。だめだろう? 可愛いところを隠すなんて」
本当に乳首の幅しかない隙間。そこから僅かに露出した乳輪を指の背でスリ、と撫でられ、咄嗟に抑えたはずの悲鳴が漏れる。
ぎゅ、と腹の奥が搾られるような、擽られるような。そんな感覚が腰元に流れて、無意識に首を振っても息苦しさが増すだけ。
否、それは。その反応は、目の前の男をより愉しませるもの。
「ほら、ここだって苦しかったって言ってるよ」
「――っあ!」
シャツの上から、軽く一撫で。たったそれだけと理解しているのに、耐えきれない痺れが先端から頭の上に駆けていく。
じわりと染み出すような、弾けるような。なんとも言えない感覚は、そのまま背筋を通って腰へと下る。
慌てて唇を噛んでも遅い。それに耐えられないことは、たった今証明されてしまったのだから。
「ほら、喜んでる」
「っ……!」
違うと否定すれば、その途端にまた喘いでしまう。故に固く閉ざしたままでいたくとも、それが続かないことはクラロ自身が理解していた。
スリスリと、シャツの繊維に擦られ息が弾む。その間も片手で外されていくボタンを留め直すことはできず、あっという間に胸元が晒される。
「よしよし、楽になれてよかったね。意地悪された分、いっぱい撫でてあげよう」
きつく戒める白、その合間に見える薄桃色から目を逸らしたくて。だが、それよりも先に唇がそこへ下りてしまえばそうもいかず。
見上げる赤がニマリと笑う。そうしてゆっくりと開く口。覗く犬歯の合間から、ずるりと這い出る舌はまるで蛇のよう。
他人の舌などまざまざと見たことはないが、少なくともクラロのものよりも分厚く、長いそれ。
下唇に乗せたまま吐かれた息はジトリと湿気を帯び、それだけで突起が湿る錯覚を抱く。
外気に触れて冷やされたそこが熱に煽られ、余計に固さが増したのはそれこそ気のせいだ。
「舌でも、よしよし、してあげようか」
笑う息と共に舌が伸びる。ぷくりと膨らんだ乳首の、そのすぐそばまで。決して触れず、掠めず。寸前のところで蠢く先端。
単純な上下運動に合わせて、指も下から跳ねるような動きに。指がクルリと一周すれば、舌先も同じく、見せつけるように。
否定しても弄られる。肯定など、それこそ口が裂けたって言うものか。
故にどちらもできず、なにもできず。目を逸らすことだってできない。
「……可愛いね、本当に」
「っ、ん!」
触れるだけのキスが一つ。そこに滑りも熱さもないのに、柔らかさだけで喘ぎ、跳ね、硬直してしまったのを笑う吐息が離れていく。
「このまま舐めてもいいけど、今日は指にしておこうか」
楽しみは少しでも取っておかないとと、口に出さずとも聞こえる狙いに安堵も怒りも抱く間もなく、指は直接乳首の上に。囁く唇は耳元へ、再び。
「じゃあ、お勤め頑張ろうね?」
「ん――っあぁ、んっ!」
耳穴に舌先を捻じ込まれ、左は直接摘まみ、右はカリカリと引っかかれる。
いくら来ると分かっていたって。否、来ると分かっているからこそ、こんなの耐えられるはずがない。
首と腕を繋ぐ布が張り詰め、逸らしたかった顔は繋ぎ止められたまま。気道が狭まり、息苦しさを感じながらも唇を閉ざしたのは意地からだ。
声を抑えようと抵抗する間も、シャツ越しにも直接にも弄られる乳首の刺激は止まない。
揉み込むように捏ねられ、掻かれ。と思えば逆側を弾かれて、跳ねたところをグリグリと押し潰される。
一つ一つの反応を楽しむように、どれに一番弱いかを見極めるように。瞳はクラロの顔から離れず、見つめられたまま。
「どれが一番好き? 右と左と、どっちが気持ちいい?」
ねぇねぇと、甘えるような声が聞こえる。それだけなら子どもの無邪気な問いにも聞こえただろう。赤と青、クッキーとドーナツ、コーヒーと紅茶、人形と模型。
だが、実際に問うているのはそんな可愛らしいものではないし、指先の動きは全く愛らしくもなんともない。
比べやすいようにと同じ動きで、同じ速さで、ゆっくりと引っかけられる乳首。
かり、かり……かり。
焦らすタイミングまでも合わせられて、鼻から漏れる息は長く、深く。抜けた声が出ないよう必死に、隙を見ながら繰り返される。
嘘など通用しない。適当など、それこそ。どちらにせよ両方弄られるし、どうであろうとクラロの意思は関係ないのだ。
この男が満足するまで遊ばれる。それこそ、何十分、何時間。飽きるまでずっと、ずっと。
ならば早々に快楽に堕ちたフリをして、興味を削ぐのが最善だとわかっている。わかっているのにできない。したくない。するわけには、いかない。
気持ちよくなんてない。違う。これは、気持ちよくなってるわけじゃ、ない……!
くぷ、と抜き差しされる舌の水音に紛れるのは笑う気配。くすぐる吐息が頬へかかり、それすらもゾクゾクと肌を粟立たせる。
「声、我慢できて偉いね。でも、これはお勤めなんだから声は出さなくちゃ……ね?」
かり、かり、かり。指は止まらない。耳を嬲る舌先だって止まってくれない。
痺れは強くなり、押し寄せる波が大きくなって、今にも呑み込まれてしまいそうになる。
腰が重く、足が震える。それなのに後ろにもたれかかることはできず、男に支えてもらうなど、それこそ。
「ほら、あー……って。口開けて?」
真似するようにと、形の良い唇が開いていくのを耳元で感じる。
耳を包み込むような吐息。チロチロと舌先で突かれ、また舐られ。そうしながらも、指は口元ではなく乳首を弄ったまま。
そうするとクラロの口はより固く閉ざされ、息まで止めそうな勢い。
「本当に可愛いね」
暫く……といっても、おそらくは数秒。そうして待っていた男が、やはり笑う。
無駄なのにと。まるで子どもの我が儘を許すように、最後にはどうなるか分かっているだろうにと、そう言い聞かせるように。
「じゃあ、今日はこっちも弄ってあげようかな」
直接撫でていた指が下に滑っていく。乳房から臍、それからズボンのベルトへ。
擦れる音の後、片手でどう外されたのか。目視できないまま締めつけが緩まり、裾から差し込まれる指に分かっていても腰が動いてしまう。
それをどう捉えたか、クスクスと笑う声が鼓膜を擽って……すぐに、固い感触と共に止まった。
「……ん?」
顔が離れ、中を覗き込まれる。もう片方の乳首も解放され、両手はズボンの裾へ。
そのまま下ろされた先。本来なら反応しきった分身がいるはずのそこには……なにも、なかった。
ない、というのは正しくない。確かにクラロの股間には息子と呼ぶべき器官が存在しているし、反応しきっているのも自覚している。
単に視認できないだけだ。上から覆っている――貞操帯と呼ぶべき存在によって。
10
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
【完結】A市男性誘拐監禁事件
若目
BL
1月某日19時頃、18歳の男性が行方不明になった。
男性は自宅から1.5㎞離れた場所に住む40歳の会社員の男に誘拐、監禁されていたのだ。
しかし、おかしな点が多々あった。
男性は逃げる機会はあったのに、まるで逃げなかったばかりか、犯人と買い物に行ったり犯人の食事を作るなどして徹底的に尽くし、逮捕時には減刑を求めた。
男性は犯人と共に過ごすうち、犯人に同情、共感するようになっていたのだ。
しかし、それは男性に限ったことでなかった…
誘拐犯×被害者のラブストーリーです。
性描写、性的な描写には※つけてます
作品内の描写には犯罪行為を推奨、賛美する意図はございません。
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
【BL】婚約破棄されて酔った勢いで年上エッチな雌お兄さんのよしよしセックスで慰められた件
笹山もちもち
BL
身体の相性が理由で婚約破棄された俺は会社の真面目で優しい先輩と飲み明かすつもりが、いつの間にかホテルでアダルトな慰め方をされていてーーー
奴隷騎士の雄っぱい牧場
丸井まー(旧:まー)
BL
敗戦国の騎士リンデは、敵兵に捕らえられ、奴隷となった。リンデは、他の者達と共に移送された先の施設で、何故の注射をされた。それから平穏な日々を過ごしていたリンデ達だが、ある日から乳が出るようになり、毎日雌牛のように乳を搾られるようになった。奴隷となった騎士リンデは、貴族の男に買われ、美しい男ダーナディルに乳を飲ませることになった。奴隷騎士の搾乳雌堕ちデイズ!
※てんつぶ様主催の「奴隷騎士アンソロジー」に寄稿させていただいた作品です。
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
魔族に捕まった殺し屋が触手に産卵される話
藤間背骨
BL
繁栄都市の裏社会で活躍する殺し屋・コスティは罠にはまって魔族に捕まってしまう。そして拘束され、その体を弄ばれる。 ■拘束・監禁・浣腸・スカトロ・大スカ・小スカ・ヘミペニス・触手・結腸責め・産卵・異物挿入・口枷 ■五体満足で生還します ■既存の作品のパロディです
ゆるふわメスお兄さんを寝ている間に俺のチンポに完全屈服させる話
さくた
BL
攻め:浩介(こうすけ)
奏音とは大学の先輩後輩関係
受け:奏音(かなと)
同性と付き合うのは浩介が初めて
いつも以上に孕むだのなんだの言いまくってるし攻めのセリフにも♡がつく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる