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異世界に来る前に紗季也とその母親にされたことや学校での生活のことを話す。
父にも誰にも話せなかったことを、どれだけ苦しくてつらくて寂しかったかを。
途中でまた泣いて2人がかりで慰められた。
そして、最後に紗季也の策略で上級生に殴られた時のことも話した。
「ーーそれで、殴られて気を失ったんです。で、目が覚めたらここにいて」
「それがあの怪我だったんだね……」
「はい」
腹部にあった醜いあざを思い出して血の気がひいた。内臓も傷付いていたのかもしれない。
「神子、サキヤ様も近くに居たんだよね?」
「近くに立って、倒れてる僕を見て、笑って……ました……可笑しくて、楽しくて、たまらないって……」
あの時の紗季也の笑い声が耳から離れない。
もうあのまま、気を失ったまま目が覚めなければいいと思った。
こんな生活にはもう耐えられなかった。
嗚咽に近い僕の声を2人は最後まできいてくれた。
「よく、話してくれたね……」
「僕を、信じてくれますか……?」
恐る恐る訊ねると、イリヤは当たり前だよと抱き締めてくれた。
「アオイくんが嘘つくなんて思わないよ」
「辛かったな……一人でよく耐えたな」
オースティンもよしよしと頭を撫でてくれる。
2人の瞳に僅かの翳りもない。イリヤもオースティンも本当に僕を信じてくれている。
それがただただ嬉しかった。
◇◇◇
一頻り話を終えると、今度はイリヤが僕が気を失っている間のことを教えてくれた。
紗季也と2人で召喚されたが、気を失っていたのは僕だけだったらしい。
そのことが紗季也が神子と決定された理由だった。
「召喚は本来、神子のみをこちらの世界へ連れて来るものなんだけど、今回はたまたま近くにいた人間を巻き込んでしまったんだと結論づけられたんだ。で、2人のうちどちらが神子かってことになるんだけど」
そこまで話すと、イリヤは難しい顔で僕を見た。
「サキヤ様の方が神子だと判断されたんだ。というのも、神子召喚には膨大な魔力が必要で術者には負荷が掛かるんだけど、神子自身には一切負担が掛からないようになってるんだ。お招きする方だからね。だから、大神官が気を失っていたアオイくんは神子ではあり得ないと、サキヤ様を神子様だと傅いたんだ」
他人にチヤホヤされることが大好きな紗季也のことだ。神子様と持て囃されて、僕を見下せて笑いが止まらなかっただろう。
神子という国を左右するような重役なんて、僕には荷が重い。だから、選ばれなかったことは惜しくも何ともないけど。
「僕は別に神子じゃなくていいんですけど。僕は何かしないといけないんでしょうか。……紗季也の世話とか」
僕の問いに答えてくれたのは、オースティンだった。イリヤに目で確認をとって話し出す。
「正直に言うと、そういう話も出ている。神官たちはサキヤ様の言うことを鵜呑みにしてご機嫌をとっているからな。だが、さっきも言ったがアオイは来界人として扱うというのが国の判断になるだろう」
「つまり、オースティンさん達に保護されるってことですか」
「そうだ。こちらの都合で巻き込んでしまった被害者を無碍に扱っては他の来界人たちから非難される」
「って、国王に進言したんだよ。オースティンが」
「え?!」
思ってもみなかった言葉に声を上げてしまった。僕なんかのために国王にそんなことを言うなんて。
「当然のことを主張したまでだから、アオイが気にすることはない」
「本当に、オースティンさんが処罰されたりしませんか」
「本当に気にしなくて大丈夫だよ、アオイくん。この人、これでも国王の甥だから。簡単には罰せられないよ。それにオースティンも言った通り、当然のことだからね」
イリヤが言うには、異世界の知識を持つ来界人は各分野で重宝され、国の重要なポストに付いている人もいるのだという。
だから、同じ世界、特に女神アリウムと同郷の者を雑に扱ったとなれば大きな問題に発展するらしい。
「それなら安心ですけど。僕のために無理をしないで下さいね」
「……分かった」
オースティンに目を逸らされ、ぶっきらぼうに返された。差し出がましいと思われてしまったのかもしれない。
余計なことを言ったと反省していると、イリヤが可笑そうに吹き出した。
「オースティン、心配してもらって嬉しいならそう言わないと。アオイくん、オースティンは心配してもらうのに慣れてなくて照れちゃっただけだから」
気にしないでとイリヤはまた笑った。僕もつられて照れ臭くなり、俯く。
「2人して照れないでよ、もう」
「イリヤ、うるさい」
「はいはい。ーーで、そんなわけだからアオイくん。僕らに保護されてね?」
そう言ってイリヤは紅い瞳を片方だけ、ぱちんと閉じた。
父にも誰にも話せなかったことを、どれだけ苦しくてつらくて寂しかったかを。
途中でまた泣いて2人がかりで慰められた。
そして、最後に紗季也の策略で上級生に殴られた時のことも話した。
「ーーそれで、殴られて気を失ったんです。で、目が覚めたらここにいて」
「それがあの怪我だったんだね……」
「はい」
腹部にあった醜いあざを思い出して血の気がひいた。内臓も傷付いていたのかもしれない。
「神子、サキヤ様も近くに居たんだよね?」
「近くに立って、倒れてる僕を見て、笑って……ました……可笑しくて、楽しくて、たまらないって……」
あの時の紗季也の笑い声が耳から離れない。
もうあのまま、気を失ったまま目が覚めなければいいと思った。
こんな生活にはもう耐えられなかった。
嗚咽に近い僕の声を2人は最後まできいてくれた。
「よく、話してくれたね……」
「僕を、信じてくれますか……?」
恐る恐る訊ねると、イリヤは当たり前だよと抱き締めてくれた。
「アオイくんが嘘つくなんて思わないよ」
「辛かったな……一人でよく耐えたな」
オースティンもよしよしと頭を撫でてくれる。
2人の瞳に僅かの翳りもない。イリヤもオースティンも本当に僕を信じてくれている。
それがただただ嬉しかった。
◇◇◇
一頻り話を終えると、今度はイリヤが僕が気を失っている間のことを教えてくれた。
紗季也と2人で召喚されたが、気を失っていたのは僕だけだったらしい。
そのことが紗季也が神子と決定された理由だった。
「召喚は本来、神子のみをこちらの世界へ連れて来るものなんだけど、今回はたまたま近くにいた人間を巻き込んでしまったんだと結論づけられたんだ。で、2人のうちどちらが神子かってことになるんだけど」
そこまで話すと、イリヤは難しい顔で僕を見た。
「サキヤ様の方が神子だと判断されたんだ。というのも、神子召喚には膨大な魔力が必要で術者には負荷が掛かるんだけど、神子自身には一切負担が掛からないようになってるんだ。お招きする方だからね。だから、大神官が気を失っていたアオイくんは神子ではあり得ないと、サキヤ様を神子様だと傅いたんだ」
他人にチヤホヤされることが大好きな紗季也のことだ。神子様と持て囃されて、僕を見下せて笑いが止まらなかっただろう。
神子という国を左右するような重役なんて、僕には荷が重い。だから、選ばれなかったことは惜しくも何ともないけど。
「僕は別に神子じゃなくていいんですけど。僕は何かしないといけないんでしょうか。……紗季也の世話とか」
僕の問いに答えてくれたのは、オースティンだった。イリヤに目で確認をとって話し出す。
「正直に言うと、そういう話も出ている。神官たちはサキヤ様の言うことを鵜呑みにしてご機嫌をとっているからな。だが、さっきも言ったがアオイは来界人として扱うというのが国の判断になるだろう」
「つまり、オースティンさん達に保護されるってことですか」
「そうだ。こちらの都合で巻き込んでしまった被害者を無碍に扱っては他の来界人たちから非難される」
「って、国王に進言したんだよ。オースティンが」
「え?!」
思ってもみなかった言葉に声を上げてしまった。僕なんかのために国王にそんなことを言うなんて。
「当然のことを主張したまでだから、アオイが気にすることはない」
「本当に、オースティンさんが処罰されたりしませんか」
「本当に気にしなくて大丈夫だよ、アオイくん。この人、これでも国王の甥だから。簡単には罰せられないよ。それにオースティンも言った通り、当然のことだからね」
イリヤが言うには、異世界の知識を持つ来界人は各分野で重宝され、国の重要なポストに付いている人もいるのだという。
だから、同じ世界、特に女神アリウムと同郷の者を雑に扱ったとなれば大きな問題に発展するらしい。
「それなら安心ですけど。僕のために無理をしないで下さいね」
「……分かった」
オースティンに目を逸らされ、ぶっきらぼうに返された。差し出がましいと思われてしまったのかもしれない。
余計なことを言ったと反省していると、イリヤが可笑そうに吹き出した。
「オースティン、心配してもらって嬉しいならそう言わないと。アオイくん、オースティンは心配してもらうのに慣れてなくて照れちゃっただけだから」
気にしないでとイリヤはまた笑った。僕もつられて照れ臭くなり、俯く。
「2人して照れないでよ、もう」
「イリヤ、うるさい」
「はいはい。ーーで、そんなわけだからアオイくん。僕らに保護されてね?」
そう言ってイリヤは紅い瞳を片方だけ、ぱちんと閉じた。
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