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4章。限界突破の外れスキル《バフ・マスター》で世界最強

59話。アンジェラとの決着

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 父上が光の粒子となって消滅していく。
 僕はそれを呆然と見つめた。

 アンジェラは、父上はこの世に未練があって戦いたがっていた、と言っていた。自分はその背中を押しただけだと。
 
「シグルド様は、アベル様の成長を見届けたかったのですね」

 ティファがやって来て、告げた。

「生前。アベル様に剣を直接、教えられなかったのが、残念だとおっしゃっていました……」

「そうか……」

 だから、満足して天に昇っていったんだな。
 父上の魂が、今度こそ迷わないように僕は祈りを捧げた。

「アベル……傷の手当てをするね」

 リディアが寄ってきて、僕の背中に手を当てた。注ぎ込まれた回復魔法が、身体の痛みを取り去っていく。

「私も祈るわ。お父様の安らかな眠りを……」

「ありがとう。リディア」

 大聖女の祈りを受ければ、もう父上がアンデッド化することはないだろう。

 できれば、もっと父上と話がしたかったけれど。これ以上の奇跡を望んだら、きっとバチが当たるだろうな。

「嘘っ……私の最強の騎士がっ。シグルドが……!」

 その時、アンデッドの馬に乗ったアンジェラが、呆然自失とした様子でやって来た。

「これで、あなたの自慢の三騎士はすべて、アベル様に破れましたね」

「なぜ、それを……?」

 ティファの言葉に、アンジェラは表情を強張らせる。

「三騎士に指定したアンデッドの能力を3倍に引き上げ、弱点属性の耐性も与える。それが、あなたのスキルの力なのでしょ?
 知ってしまえば、なんということはありません。バフ・マスターの劣化版ではありませんか!」

「確かにそうね! シグルド様にドラゴンゾンビ。強力なアンデッドを騎士にしてこそ、真価を発揮する力だわ。
 シグルド様クラスの存在なんて、そうそういないし。もう、あなたなんて怖くないわ!」

 リディアも強気で言い放った。

 【死霊使い(ネクロマンサー)】の強さとは、支配するアンデッドの強さによって決まる。

 アンジェラは攻撃系の暗黒魔法も習得しているが、もう僕たちの敵ではない。

「アンジェラ。降伏して魔物の軍勢を撤退させろ。そうすれば、命までは取らない」

「……やさしいのね。でも私に敗北は許されないの」
 
 アンジェラは懐から、何か赤い宝石のような物を取り出した。

「勝ち目が無いなら。あなた達、全員、道連れにするだけよ」

「アベル様……! あれは強力な魔法爆弾です!」

 ティファの鋭い叫び。魔法爆弾は城壁を壊するのに使う新型の攻城兵器だ。それを至近距離で使うとは……
 まさかアンジェラは自爆するつもりか?

「【敏捷性】を限界突破!」

 そう直感した僕は、アンジェラに向けて疾風となって突進する。
 
「【筋力】を限界突破!」

 アンジェラの宝石を奪い取って、空に向かって放り投げた。
 その瞬間、宝石が爆発し、すさまじい爆風が大地を叩いた。

「きゃう!?」

 僕たちは、吹き飛ばされて地面を転がる。
 リディアもティファも、うめいてはいるが怪我をした様子は無かった。

 それは尻もちをついたアンジェラも同じだった。

「まさか、最後の切り札も通用しないなんて……」

「ちょっと、アンジェラ。私たちごと自爆しようなんて、どういうつもり!?」

 リディアが立ち上がって、アンジェラに詰め寄った。

「せっかくアベルが、降伏すれば命までは取らないって、言ってあげてるんでしょうが!?」

「……交渉の余地は無いということです、リディア様。アンジェラ王女はここで斬りましょう」

 ティファが瞳に怒りの火を灯す。

「ティファ、待て。アンジェラ、自爆してまで、勝利にこだわる理由はなんだ?」

 アンジェラを倒すのは、もはや簡単だ。それなら降伏してもらった方が、ありがたい。

 魔物の軍勢はアンジェラを倒したところで、好き勝手に暴れるだけだ。

 無秩序化した3万もの魔物の討伐は困難だ。こちらも大きな被害を受けて、フォルガナに付け入るすきを与えかねない。

 できればアンジェラの命令で、魔物の軍勢を撤退させた方が得策だった。

「……同じことなのよ。アーデルハイドの攻略に失敗したら、私は無能としてお父様に処刑されるわ。
 私は実験的に生まれた半魔族。使えないなら消されるだけよ」

「なんですって?」

 自嘲気味な笑みを浮かべるアンジェラに、リディアは面食らう。

「そうしたら、お母様も廃棄処分にされる。私は何としても、あなた達の命を奪わなければならないの」

 アンジェラは立ち上がって、戦う姿勢を見せた。

「さぁ、続けましょう。ラストワルツよ」

「はあっ!? お母様のため? あなたバカじゃないの!? あなたのお母様が、あなたが死ぬことなんか、望んでいると思う!?」

「な、なにを……?」

 リディアはアンジェラの腕を掴んで、【解呪(ディスペル)】の魔法を使った。
 アンジェラが発動しようとしていた暗黒魔法が、霧散して消える。

「おい、リディア!」

 危険極まりない行動に、僕はリディアを制止しようとしたが、彼女は構わず続けた。

「あなたのお母様は、あなたに生きていて欲しいと思っているハズだわ。それにあなたが、私たちを巻き添えにして死んだところで、お母様が無事のままでいられる保証なんて無いでしょう!?」

「アンジェラ。キミのお母さんは魔族の女性で、フォルガナの王宮にずっと幽閉されているんだろう?
 キミがいなくなったら、それこそ処分されてしまうんじゃないか?」
 
 フォルガナ王がアンジェラの母親を閉じ込めて生かしているのは、アンジェラに言うことを聞かせるためだろう。

「それは……」

 アンジェラが動揺を見せた。その点には思い至っていたが、他に手立てが無かったのだろう。

「僕はこれ以上、血を流すのを望んでいない。魔物の軍勢を撤退させるのなら、キミの母親を取り戻す交渉をすると約束する。
 それでもうフォルガナには加担せず、親子ふたりで仲良く暮らしたらどうだ?」

 関係者全員が得をする道という奴だ。

「えっ? ……それは本気で言っているの? 私のお母様を助けてくれるって。
 私はシグルドを……あなたのお父様をアンデッドにして使っていたのよ?
 この国を滅ぼそうとしていたのよ?」

「そのおかげで、父上と再会できた訳だし。3万もの魔物とやり合うのは、正直、骨が折れる。
 とりあえず判断するのは、僕がどうやってキミのお母さんを助けるつもりか、その策を聞いてからにしてもらえないか?」

 アンジェラは、こくんと頷いた。
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