37 / 70
2章。バフ・マスター、Lv5覚醒
37話。バフ・マスター、家族と家路につく
しおりを挟む
「シグルド……! そう、私を守ってくれたのね。さすがは私の騎士よ」
尻もちをつくアンジェラ王女の前に、黒衣の騎士が仁王立ちしていた。
その身は焼け焦げ、噴煙が上がっている。
アンジェラがティファに攻撃された瞬間。黒衣の騎士は僕に背中を斬られるのも構わず、主の盾となるべく飛び出したのだ。
「くっ……シグルド様!」
ティファが歯噛みしている。
それで気がついた。
「ま、まさか、父上なのか?」
黒衣の騎士の兜が壊れて、顔が覗いていた。
闇で見えづらいとはいえ、その面貌を忘れるハズがない。
僕の父シグルドだ。
アンジェラ王女にアンデッドにされても、誰かを守るために戦うという騎士の本分に父上は忠実だった。
神剣グラムに背中を斬られ、ティファの奥義を喰らって、さしもの父上も片膝をついた。
だが、アンジェラを守り抜こうという気概だけは衰えることなく、その両目に宿っている。
まさに僕が誇りとし、夢見てきた理想の騎士の姿そのものだ。
「あなたっ……! アベルのお父様に、私たちの英雄になんてことを!?」
「シグルドは、まだこの世に未練があって戦いたがっていたのよ。私はその背中を押してあげただけ」
リディアの糾弾に、アンジェラは冷笑を返した。
「そうか……手加減されているように感じたのは父上だったからか」
「手加減ですって……?」
アンジェラが目を剥いた。
「アンデッドになって、彼の自我は完全に消えたのよ。そんなことがあるハズが無いわ」
「気づかなったのか? 父上のスキルは魔法剣の攻撃力を3倍に上げる【魔法剣・極】。なのに一度も僕に、魔法剣を使わなかったぞ」
そう告げると、アンジェラは押し黙った。
「そんなことがっ……」
「アンジェラ……お前には腹が立つが、同時に感謝もしている。父上に直接、剣を教えてもらえたんだからな」
僕はバフをかけると、まともに動けなくなる外れスキルを得た。
途方に暮れたが、僕はバフ・マスターを使いまくって進化させる道を選んだ。
父上から、このスキルは、お前の大切な人を守るために女神様が与えてくれた力だと言われたからだ。
騎士の戦いは、誰かを守るためのモノだ。それが叶うなら、必ずしも剣が強くなくても構わない。
『自分に与えられたスキルを否定するな』
それが父上の教えだった。
だけど、父上から剣の稽古をつけてもらえなかったことが、僕はずっと心残りだった。
歪な形とはいえ、それが叶った。
「剣を教えてもらったですって……? 私の命令に逆らって、そんなことを……
シグルドは、私の私だけの騎士になってくれたのに……っ!」
「アンジェラ。お前は父上の主君にはふさわしくないってことだ」
「……いいわ。まだシグルドの自我は残っていたということね。事実として認めるわ。
だったら、私のネクロマンシーで完全に彼の自我を壊して縛ってやるわ。一度、私のモノになったら、永遠に私のモノよ」
アンジェラは立ち上がって、ドレスの埃を払った。
「もう空が白み始めてきた。シグルド、退くわよ。これ程、最悪な気分で夜会を終えるのは初めてだわ」
父上がアンジェラを片手で、抱きかかえる。
「逃げる気なの?」
「ええ。リディア王女、またお会いしましょう」
その言葉と同時に、父上が踵を返して立ち去る。
追いかけようとも思ったが、ふたりの姿は、幻のように闇に溶けてしまった。
「……はうっ」
気が抜けたのか、ティファがその場にヘタリ込んだ。
限界以上まで力を使って、荒い息を吐いている。
「ティファ、大丈夫か? ほら掴まれ」
「い、いえっ! ……だ、大丈夫ですぅ」
僕が肩を貸そうとすると、ティファは顔を真っ赤にしてのけ反った。
「いいから無理をするなよ」
「で、でもリディア様の前で、そんなっ」
「リディアの前だと何か困るのか?」
ティファが何を気にしているのか、まったく分からない。
「ああっ、もうニブチンねっ! 私としては浮気の心配が無くて良いけど……」
リディアが何やら不機嫌な様子になっている。
「遠慮しなくて大丈夫よ、ティファ。あなたたちは家族なんでしょ? それくらい許してあげるわ」
「あっ、ああ。ありがとうございますっ」
何かティファがリディアにお礼を言っている。よくわからないが、まあ、いいか。
僕はティファに肩を貸して、僕のたちの家への道を急いだ。
なぜかティファは僕と目を合わせようとせず、うつむいたまま顔を赤くしていた。
やがて彼女は、意を決したように告げる。
「……アベル様。シグルド様を私たちの手で天に還して差し上げましょうね」
「ティファ、力を貸してくれるか? 多分、父上もそれを望んでいると思う」
父上の本来の剣技は、あんな物ではない。
次に戦う時は、父上はアンジェラにより強く支配され、手加減など期待できないと思う。
その時までに少しでも腕を上げておかねばならない。
それが父上への手向けとなるだろう。
「私も協力するんだからね。仲間外れは嫌よ」
リディアが僕に寄り添いながら告げた。
できればリディアを危険な目に合わせたくないんだが……
アンジェラがリディアを狙ってくるなら、そうも言っていられないだろう。
悩んでも仕方がない。
今は無事にリディアとティファを守りきれたことを喜ぼう。
僕の頭上で朝日が上り、夜の闇を溶かし始めていた。
尻もちをつくアンジェラ王女の前に、黒衣の騎士が仁王立ちしていた。
その身は焼け焦げ、噴煙が上がっている。
アンジェラがティファに攻撃された瞬間。黒衣の騎士は僕に背中を斬られるのも構わず、主の盾となるべく飛び出したのだ。
「くっ……シグルド様!」
ティファが歯噛みしている。
それで気がついた。
「ま、まさか、父上なのか?」
黒衣の騎士の兜が壊れて、顔が覗いていた。
闇で見えづらいとはいえ、その面貌を忘れるハズがない。
僕の父シグルドだ。
アンジェラ王女にアンデッドにされても、誰かを守るために戦うという騎士の本分に父上は忠実だった。
神剣グラムに背中を斬られ、ティファの奥義を喰らって、さしもの父上も片膝をついた。
だが、アンジェラを守り抜こうという気概だけは衰えることなく、その両目に宿っている。
まさに僕が誇りとし、夢見てきた理想の騎士の姿そのものだ。
「あなたっ……! アベルのお父様に、私たちの英雄になんてことを!?」
「シグルドは、まだこの世に未練があって戦いたがっていたのよ。私はその背中を押してあげただけ」
リディアの糾弾に、アンジェラは冷笑を返した。
「そうか……手加減されているように感じたのは父上だったからか」
「手加減ですって……?」
アンジェラが目を剥いた。
「アンデッドになって、彼の自我は完全に消えたのよ。そんなことがあるハズが無いわ」
「気づかなったのか? 父上のスキルは魔法剣の攻撃力を3倍に上げる【魔法剣・極】。なのに一度も僕に、魔法剣を使わなかったぞ」
そう告げると、アンジェラは押し黙った。
「そんなことがっ……」
「アンジェラ……お前には腹が立つが、同時に感謝もしている。父上に直接、剣を教えてもらえたんだからな」
僕はバフをかけると、まともに動けなくなる外れスキルを得た。
途方に暮れたが、僕はバフ・マスターを使いまくって進化させる道を選んだ。
父上から、このスキルは、お前の大切な人を守るために女神様が与えてくれた力だと言われたからだ。
騎士の戦いは、誰かを守るためのモノだ。それが叶うなら、必ずしも剣が強くなくても構わない。
『自分に与えられたスキルを否定するな』
それが父上の教えだった。
だけど、父上から剣の稽古をつけてもらえなかったことが、僕はずっと心残りだった。
歪な形とはいえ、それが叶った。
「剣を教えてもらったですって……? 私の命令に逆らって、そんなことを……
シグルドは、私の私だけの騎士になってくれたのに……っ!」
「アンジェラ。お前は父上の主君にはふさわしくないってことだ」
「……いいわ。まだシグルドの自我は残っていたということね。事実として認めるわ。
だったら、私のネクロマンシーで完全に彼の自我を壊して縛ってやるわ。一度、私のモノになったら、永遠に私のモノよ」
アンジェラは立ち上がって、ドレスの埃を払った。
「もう空が白み始めてきた。シグルド、退くわよ。これ程、最悪な気分で夜会を終えるのは初めてだわ」
父上がアンジェラを片手で、抱きかかえる。
「逃げる気なの?」
「ええ。リディア王女、またお会いしましょう」
その言葉と同時に、父上が踵を返して立ち去る。
追いかけようとも思ったが、ふたりの姿は、幻のように闇に溶けてしまった。
「……はうっ」
気が抜けたのか、ティファがその場にヘタリ込んだ。
限界以上まで力を使って、荒い息を吐いている。
「ティファ、大丈夫か? ほら掴まれ」
「い、いえっ! ……だ、大丈夫ですぅ」
僕が肩を貸そうとすると、ティファは顔を真っ赤にしてのけ反った。
「いいから無理をするなよ」
「で、でもリディア様の前で、そんなっ」
「リディアの前だと何か困るのか?」
ティファが何を気にしているのか、まったく分からない。
「ああっ、もうニブチンねっ! 私としては浮気の心配が無くて良いけど……」
リディアが何やら不機嫌な様子になっている。
「遠慮しなくて大丈夫よ、ティファ。あなたたちは家族なんでしょ? それくらい許してあげるわ」
「あっ、ああ。ありがとうございますっ」
何かティファがリディアにお礼を言っている。よくわからないが、まあ、いいか。
僕はティファに肩を貸して、僕のたちの家への道を急いだ。
なぜかティファは僕と目を合わせようとせず、うつむいたまま顔を赤くしていた。
やがて彼女は、意を決したように告げる。
「……アベル様。シグルド様を私たちの手で天に還して差し上げましょうね」
「ティファ、力を貸してくれるか? 多分、父上もそれを望んでいると思う」
父上の本来の剣技は、あんな物ではない。
次に戦う時は、父上はアンジェラにより強く支配され、手加減など期待できないと思う。
その時までに少しでも腕を上げておかねばならない。
それが父上への手向けとなるだろう。
「私も協力するんだからね。仲間外れは嫌よ」
リディアが僕に寄り添いながら告げた。
できればリディアを危険な目に合わせたくないんだが……
アンジェラがリディアを狙ってくるなら、そうも言っていられないだろう。
悩んでも仕方がない。
今は無事にリディアとティファを守りきれたことを喜ぼう。
僕の頭上で朝日が上り、夜の闇を溶かし始めていた。
0
お気に入りに追加
2,033
あなたにおすすめの小説
はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~
緋色優希
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~
深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。
ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。
それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?!
(追記.2018.06.24)
物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。
もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。
(追記2018.07.02)
お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。
どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。
(追記2018.07.24)
お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。
今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。
ちなみに不審者は通り越しました。
(追記2018.07.26)
完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。
お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。
隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。
婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。
しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……
【完結】拾ったおじさんが何やら普通ではありませんでした…
三園 七詩
ファンタジー
カノンは祖母と食堂を切り盛りする普通の女の子…そんなカノンがいつものように店を閉めようとすると…物音が…そこには倒れている人が…拾った人はおじさんだった…それもかなりのイケおじだった!
次の話(グレイ視点)にて完結になります。
お読みいただきありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる