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2章。500人の美少女から溺愛される

37話。ルカ様は今、何と戦っていたのですか?

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「ルカ様! ご無事でありましたか!?」 
 屋敷に戻るとエリザにガバッと抱きしめられた。
 彼女は華奢な見た目とは裏腹に凄まじいバカ力なので、身体がきしむ。

「ぐっえ!? 無事だったけど、いま死ぬ!」
 
 必死にエリザの背中をタップして、離してもらう。

「はっ!? これは申し訳ありません! しかし、外出時に護衛もつけず。私に所在も告げないなどもっての他です! 今は戦時中なのですよ!」

「エリザ、お姉様はご家族にお会いしたかったのよ。部外者が邪魔をしてはいけないでしょう?」

 助け舟を出してくれたミリアを、エリザはきつく睨みつけた。

「ミリア様とて部外者でしょう? あなた様もご自分の立場についての自覚が足りません! 御身になにかあれば、ルカ様のお命に関わるのですよ!」

「私は部外者じゃないわ! ルカお姉様のフィアンセよ! お母様にも嫁として認めていただいたんだから!」

「……うちの母さんは、よくわかっていない感じだったけどね」

 ムキになって言い返すミリアに、ボクは脱力感を覚える。

「とにかく。今後はエリザめが、ルカ様のかたわらに必ず付き従います! 浴場や寝室にもお供し、片時も目を離しません!」

「ええっ!? いや、ボクは男なんだってば! いくらなんでも、それは困る」

「ルカ様をお守りすることこそ、我が本懐です!」

 エリザが、き然と胸を張って言い放った。

「ホ、ホントに反省するから。浴場と寝室まではカンベンしてくれ!」

 今はどこに行くにも、美少女の聖騎士たちが何人もついてきて「ルカ様! 姫様!」と傅いてくるので、気が休まらないのだ。

 このままでは、ボクがひとりきりになれる貴重なプライベート時間が無くなる。

「そうよ! 私とルカお姉様の夫婦の営みができなくなるわ!」

「ミリアも絶対に入ってくるな!」

 強い口調で告げると、ミリアはしゅんとうなだれた。
 結婚もしていない男と、浴場や寝室を共にしようとする彼女の感覚は、まるで理解できない。

「わかりました。では、今後、どこかに出かける際は、必ずエリザを同行させてください。念話も私からのコールにはすぐに出てくださいますよう」

「わ、わかった。約束する。今回のことはごめんなさい」

 ボクの言葉にエリザは、頭を垂れた。
 エリザにはだいぶ心配をかけてしまったし、その点は反省しなければならないな。

 先ほどイルティアにも会ったが、エリザからの追求と説教に疲れてグッタリしていた。

「それじゃ、ボクはこれから剣の修行をしに練兵場に行く。ちょっと気になる本をもらって来たんで」

 ボクの剣の師匠が、母さんに渡して行ったという奥義書だ。

 ボクは初歩の技しか教えてもらえず、基礎的な修行しかしてこなかった。いきなり奥義など習得できるかはわからないが、より高みを目指すために目を通すべきだろう。

「はっ! それではエリザがお供いたします」
 
「ルカお姉様、修行が終わったら一緒にお食事にしましょうね!」

「うん」

 ミリアと別れて、エリザと共に練兵場に向かう。
 すでに日が落ちていたため練兵場には誰もいなかった。設置された魔法灯の淡い光が周りを照らしている。

 そう言えば、ずっとひとりで師匠から言いつけられた修行をしてきた。誰かに修行を見てもらうのは初めてだ。

 エリザは聖騎士団長になるほどの剣の使い手なので、ボクの田舎剣術を披露するのは恥ずかしい。

 それにここ最近、目が回るほどの忙しさで、修行をサボっていた。感覚が鈍っているかも知れない。うまくできるか、ちょっと不安だ。

「まず、いつもやっている剣の修行をするけど……何かおかしなところがあったら、教えてもらえないかな?」

「はっ!」

 エリザに離れて見てもらうことにした。
 彼女におかしな点を指摘してもらえば、ボクの腕前は、より伸びるに違いない。
 
 ボクは訓練用の木刀を手に取って、構えた。
 息を吸って、目を閉じる。

 頭の中に、記憶に焼き付いた師匠の姿をありありとイメージする。
 目を開けると、そこには剣を正眼に構えた師匠の幻影があった。

 しなやかな肉食獣を思わせる見事なたたずまいだ。
 
 これは師匠から教えてもらったイメージトレーニングだ。対戦相手を鮮明に思い描いて、剣を実際に交えている場面を想像しながら、剣を振るう。

 剣の型が身に付いた後は、毎日、これをするように言いつけられていた。

 師匠の幻影が、一足飛びで距離を詰めてきて、閃光のような三連突きを放つ。

 『雷光三連』
 師匠が得意とした、ほぼ同時に見えるほどの連続攻撃だ。

 ボクは前に出ながら、これを木刀で受け流す。後ろに下がれば、防戦一方になるためだ。

 密着する間合い。

 ボクは石畳が陥没するほどの勢いで踏み込みながら、剣を横なぎに振るう。
 勇者の超パワーで放たれた斬撃を、師匠は剣で軽やかに受け流す。

 こちらの攻撃はやはり読まれていた。
 どんな破壊力の攻撃も、神速の一閃も、事前にわかっていれば対処はたやすい。

 師匠から、剣術とは先の読み合いであると教わった。敵の殺気や足運び、目線の動きなどから攻撃を読んでかわす。

 攻撃には虚実を織り交ぜ、こちらの狙いはかんたんには読ませない。

 相手の攻撃を読めれば、その軌道に剣を置くだけで、ソードパリィ〈剣による受け流し〉ができる。

 師匠の剣速は目で見てから対処できるレベルではない。師匠の攻撃を読み誤った瞬間、いつもボクの負けが決定していた。

 だけど、ボクは勇者の力を手に入れたのだ。これまでは手加減された上で負けてきたが、師匠に全力を出させてやる。
 そして、通算3000回近い連敗記録に終止符を打つ。

 そう誓い、襲い来る嵐のような斬撃を必死に受け流す。
 ボクは、わずかな隙を見つけるや、かかんに攻撃を繰り出した。

 だが、発見したと思った隙は、師匠の釣りだった。
 ボクの剣は、師匠の肩をかすめただけに終わり、カウンターで斬撃を浴びた。

「くそう。また勝てなかった……!」

 緊張から解き放たれて、膝を折る。
 全身から汗が吹き出していた。

 今回は40合近くまで食らいつくことができたが、結局、負けた。
 師匠に手加減させなかったし、いい線を行っていたと思ったが。劣勢に追い込まれた際の状況判断が甘かった。
 
「ル、ルカ様……今、一体誰と? い、いや、何と戦っていたのですか!?」

 エリザが酸欠の金魚のように口をパクパクと開閉していた。

「……やっぱり、何かおかしなところがあった?」

「全部! 全部! おかしなところだらけです!」

 エリザが肩を震わせて叫ぶ。
 そ、そんなにボクの修行は、非常識だっただろうか?

 やはり、正当な宮廷剣術と比べると、いろいろと欠点や、おかしなところがあったりするんだろうな……

「相手の攻撃より先に動いての神速の攻防……こんな、こんな非常識な剣があったなんて」

 エリザはあえぐように天を仰いだ。
 やはり、ボクの剣術はだいぶおかしいモノのようだ。

 無論、師匠に教えてもらった剣のおかげで、コレットやミリアを守ることができたんだ、感謝してもしきれない。
 だけど、ボクはもっと強くなりたいんだ。

「エリザ。もしよかったら、アルビオン王家に伝わる正統派剣術を教えて欲しいんだけど……」

「いいえ、ルカ様! 逆です! 私をぜひ弟子にしてください! その前に、この剣を一体何者から教わったのですか!?
 勇者と真っ向勝負してせり勝てる剣士など、世界ひろしと言えど、まずおりません! そうだ、流派! ルカ様の学ばれた剣の流派を教えてください!」
 
 エリザに勢いこんで迫られ、ボクは目を瞬いた。

「ボクの師匠の名前は、実は知らないんだ。なんか教えてくれなくて。流派は奥義書の表紙に書いてあったから、今日、初めて知ったけど……『破神流』っていうみたい」

 それを聞いたエリザは、目を驚愕に大きく見開いた。
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