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第62話 パンケーキの約束
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***
週末──
「葵ちゃん、おはよう」
「……はよう」
葵のマンション前には真っ黒なベンツが停められていた。
その後部座席の窓からは日向と楓の姿が見えた。
「こっちどうぞ」
「ありがとう。おはよう」
日向は後部座席のドアを開けると真ん中に寄り、葵が座るスペースを空けた。
「おはようございます。では、動きます」
凌はそう言うと車を走らせた。
今日は待ちに待ったパンケーキを食べに行く。
"今度3人で行こう"という約束がやっと果たされる。
「では、私はこれで。また、お迎えに上がります」
葵達3人をカフェの近くで降ろすと車はそのまま走り去って行った。
車から降りると、ほのかに金木犀の香りが漂っていた。
「楽しみだね」
「そうだね」
日向につられ、自然と笑みがこぼれる葵。
「(最近色々思い出して辛かったし、今日はいい気晴らしになりそうだな)」
お店の前まで行くとパンケーキの甘い香りが葵達の鼻をかすめる。
「いらっしゃいませ。3名様でよろしいでしょうか?」
お店のドアを開けるとベルのような音が響き渡り、店員が出迎えた。
以前来た時と同様、白と黒を基調とし、絵本のおとぎ話の中に入り込んだ様な店内が目に入る。
「はい」
「では、ご案内致します」
葵が答えると店員は歩きだした。
「こちらのお席へどうぞ。お決まりになりましたら、お呼びください」
案内されたのは窓際のテーブル席。
入口側に楓、対面には日向と葵が座った。
店員が去ると早速3人はメニューを広げた。
「どれにしよー。葵ちゃんは楓さんと来た時、何頼んだの?」
「リンゴパンケーキだよ。美味しかったよ」
「美味しそうだなぁ。楓さんは何頼んだんですか?」
日向は葵から楓に視線を移した。
「キャラメルパンケーキ」
「え、美味しそう! 名前がいいですね!」
「ああ。美味かった」
「じゃあ、僕キャラメルパンケーキにしよっ!」
日向は色々悩んだ末、楓が前回頼んだパンケーキに決めた。
「私は……宇治抹茶パンケーキにしよう」
「じゃあ、ホットチョコレートパンケーキ」
「りょーかい」
日向はそう言うと席に設置されているベルを押し、店員に3人分の注文内容を伝えた。
「葵ちゃん、この前は怖い思いさせてごめんね」
日向はメニューを畳むと申し訳なさそうな顔をした。
「すまない」
葵の斜め前では楓が眉を下げ口を開いた。
「え? 全然大丈夫だよ」
そんな2人とは対照的に葵は全く気にしてなさそうだった。
「そっか。それならよかった。今日は葵ちゃんに少しでも気晴らしになってもらえればと思ったんだ」
「そうだったんだ。ありがとう」
「(気晴らしか……ちょうど同じこと思ってたな)」
黒豹とは関係なく、葵は過去を思い出し眠れない日々が続いていた。
葵は日向達が自分と同じことを考えてくれたことが嬉しくて口元を緩ませる。
「でも、葵ちゃん凄いね!」
日向は興奮気味に口を開いた。
「なにが?」
「蓮と一緒に男倒したんでしょ?」
「(はぁ……またその話か……)」
目を輝かせる日向に葵はバレないようため息をついた。
「あーそれは空手とかやってたから……てか、そんなに凄くないよ」
「凄いよ! でも怖くなかった?」
「んーそうでもなかったよ」
「前に黒蛇と遭遇した時も怖がらなかったな」
すると、今まで黙っていた楓が口を開いた。
「それは、楓がいたからだよ。だって白狼のみんなは守ってくれるんでしょ?」
「も、もちろん! 葵ちゃんのことは僕達が絶対に守るよ!」
そう言った日向は立ち上がりそうな勢いだった。
「……ああ」
「ありがとう。だから、私は怖くなかったし、蓮と一緒に戦うことができた」
「(もしもの時は、私が絶対に白狼を守るから……)」
葵は2人を見つめると改めてそう心に決めたのだった。
週末──
「葵ちゃん、おはよう」
「……はよう」
葵のマンション前には真っ黒なベンツが停められていた。
その後部座席の窓からは日向と楓の姿が見えた。
「こっちどうぞ」
「ありがとう。おはよう」
日向は後部座席のドアを開けると真ん中に寄り、葵が座るスペースを空けた。
「おはようございます。では、動きます」
凌はそう言うと車を走らせた。
今日は待ちに待ったパンケーキを食べに行く。
"今度3人で行こう"という約束がやっと果たされる。
「では、私はこれで。また、お迎えに上がります」
葵達3人をカフェの近くで降ろすと車はそのまま走り去って行った。
車から降りると、ほのかに金木犀の香りが漂っていた。
「楽しみだね」
「そうだね」
日向につられ、自然と笑みがこぼれる葵。
「(最近色々思い出して辛かったし、今日はいい気晴らしになりそうだな)」
お店の前まで行くとパンケーキの甘い香りが葵達の鼻をかすめる。
「いらっしゃいませ。3名様でよろしいでしょうか?」
お店のドアを開けるとベルのような音が響き渡り、店員が出迎えた。
以前来た時と同様、白と黒を基調とし、絵本のおとぎ話の中に入り込んだ様な店内が目に入る。
「はい」
「では、ご案内致します」
葵が答えると店員は歩きだした。
「こちらのお席へどうぞ。お決まりになりましたら、お呼びください」
案内されたのは窓際のテーブル席。
入口側に楓、対面には日向と葵が座った。
店員が去ると早速3人はメニューを広げた。
「どれにしよー。葵ちゃんは楓さんと来た時、何頼んだの?」
「リンゴパンケーキだよ。美味しかったよ」
「美味しそうだなぁ。楓さんは何頼んだんですか?」
日向は葵から楓に視線を移した。
「キャラメルパンケーキ」
「え、美味しそう! 名前がいいですね!」
「ああ。美味かった」
「じゃあ、僕キャラメルパンケーキにしよっ!」
日向は色々悩んだ末、楓が前回頼んだパンケーキに決めた。
「私は……宇治抹茶パンケーキにしよう」
「じゃあ、ホットチョコレートパンケーキ」
「りょーかい」
日向はそう言うと席に設置されているベルを押し、店員に3人分の注文内容を伝えた。
「葵ちゃん、この前は怖い思いさせてごめんね」
日向はメニューを畳むと申し訳なさそうな顔をした。
「すまない」
葵の斜め前では楓が眉を下げ口を開いた。
「え? 全然大丈夫だよ」
そんな2人とは対照的に葵は全く気にしてなさそうだった。
「そっか。それならよかった。今日は葵ちゃんに少しでも気晴らしになってもらえればと思ったんだ」
「そうだったんだ。ありがとう」
「(気晴らしか……ちょうど同じこと思ってたな)」
黒豹とは関係なく、葵は過去を思い出し眠れない日々が続いていた。
葵は日向達が自分と同じことを考えてくれたことが嬉しくて口元を緩ませる。
「でも、葵ちゃん凄いね!」
日向は興奮気味に口を開いた。
「なにが?」
「蓮と一緒に男倒したんでしょ?」
「(はぁ……またその話か……)」
目を輝かせる日向に葵はバレないようため息をついた。
「あーそれは空手とかやってたから……てか、そんなに凄くないよ」
「凄いよ! でも怖くなかった?」
「んーそうでもなかったよ」
「前に黒蛇と遭遇した時も怖がらなかったな」
すると、今まで黙っていた楓が口を開いた。
「それは、楓がいたからだよ。だって白狼のみんなは守ってくれるんでしょ?」
「も、もちろん! 葵ちゃんのことは僕達が絶対に守るよ!」
そう言った日向は立ち上がりそうな勢いだった。
「……ああ」
「ありがとう。だから、私は怖くなかったし、蓮と一緒に戦うことができた」
「(もしもの時は、私が絶対に白狼を守るから……)」
葵は2人を見つめると改めてそう心に決めたのだった。
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