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第25話 柚佑の過去
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「葵ちゃんはさ……俺と同じだったりする?」
柚佑は葵の隣に腰掛けると口を開く。
「え? 同じって?」
「(なんだ? なんかバレたか?)」
ひとり焦る葵をよそに、柚佑は話し続ける。
「俺と同じ環境なのかなって思っただけ。俺……物心ついた時から、ずっと親が敷いたレールの上をずっと歩いてた。それが正しいんだって思ってた」
「(家庭環境ってそういうことか……。やっぱり柚佑はあたしと同じだ)」
♢♢♢
──今から2年前。
「ただいま戻りました。お父さん、お母さん! 模試の結果出ました」
中学2年生の冬、まだ幼さが残る柚佑は塾で受けた模試の結果を手に嬉しそうに家に帰ってきた。
「見してみろ」
リビングのソファーに座っているのは、目鼻立ちが柚佑にそっくりな父。
父は不機嫌な重々しい声と共に右手を差し出した。
中学生になった今も父の声が怖く、話す時はいつも緊張していた。
だが、今日は違う──模試の結果が良かったのだ。
父と話す時の柚佑はいつも強ばり必死に笑顔を作っていた。
「お願いします」
柚佑は父の前に立つと模試の結果が記載されているA4サイズの紙を手渡した。
「西山高校……判定A」
「はい! 志望校A判定でした!」
柚佑の顔は貼り付けたものではなく、自然な笑顔を見せていた。
「お前はこれで喜んでたのか?」
「え……」
父の低く感情のこもっていない声に柚佑の顔から笑顔が消えた。
「こんなの当たり前だ。たかがA判定で喜ぶな。お前は俺たちの言う通り、西山高校を出て、医大に行き医者になればいいんだ」
「……」
父の言葉に俯く柚佑。
「返事は! 口が聞けないのか?」
「はい……」
悲しげな返事と共に、柚佑はその場を後にした。
部屋に入るなり、柚佑はベットに腰掛け項垂れていた。
「(レベルの高い高校の模試がA判定だったのに……。当たり前ってなんなんだよっ! 塾の先生は嘘つきだ。褒めてくれないよ……)」
柚佑の頬には一筋の涙が流れた。
塾で模試の結果を受け取った柚佑。
担当講師から「ご家族にいっぱい褒めてもらってね。中学2年生でこの判定は凄いよ」と、言われていたのだ。
だが、実際は褒めてなんてくれない。
むしろ喜ぶなと言われる始末だ。
「柚佑大丈夫?」
「お母さん……」
母の声が聞こえ、柚佑はベットから立ち上がりドアを開けた。
「母さん達はね、柚佑に幸せになってほしいのよ。母さんと父さんの言う通りにしてれば必ず幸せになるわ。だから、こんなことで喜ばないで柚佑にはもっと上を目指してほしいの」
「幸せ……」
「そう。あなたは必ず幸せになるわ」
「(幸せってなに? 言う通りにすればいい? 俺の人生なのに……なんで? なんで言われた通りに生きなきゃいけないんだ?)」
今まで必死に両親の言う通りに生きてきた柚佑。
ずっとそれが正しいと思っていた。
友達との遊びを断り、毎日塾や習い事の日々。
だが、いくら頑張っても褒められたことなんて一度だってない。
それが普通なんだと思っていた──
「幸せってなに? なんで、お母さん達に俺の幸せ決められなきゃいけないの? 意味が分からない」
淡々と話す柚佑。
感情のこもっていない声、それは恐怖すら覚える。
「ゆ、柚佑?」
「決めた……俺、お母さん達の言う通りには生きない」
「ちょ、ちょっと柚佑!」
「どうした?」
「あなた、柚佑が……」
母が父の元へ向かった隙に、柚佑は適当に荷物を持つと静かに部屋を出た。
──ガチャン
「え、柚佑……」
玄関のドアが閉まる音がし、母は慌てて向かう。
だが、そこに柚佑の姿はなかった。
「あなた、どうしましょう」
「放っておけ。そのうち戻ってくる」
「そうよね……」
2人は柚佑がすぐに戻ってくると思い、探しに行くことをしなかった。
だが、この日を境に2人は柚佑と会っていない。
柚佑は葵の隣に腰掛けると口を開く。
「え? 同じって?」
「(なんだ? なんかバレたか?)」
ひとり焦る葵をよそに、柚佑は話し続ける。
「俺と同じ環境なのかなって思っただけ。俺……物心ついた時から、ずっと親が敷いたレールの上をずっと歩いてた。それが正しいんだって思ってた」
「(家庭環境ってそういうことか……。やっぱり柚佑はあたしと同じだ)」
♢♢♢
──今から2年前。
「ただいま戻りました。お父さん、お母さん! 模試の結果出ました」
中学2年生の冬、まだ幼さが残る柚佑は塾で受けた模試の結果を手に嬉しそうに家に帰ってきた。
「見してみろ」
リビングのソファーに座っているのは、目鼻立ちが柚佑にそっくりな父。
父は不機嫌な重々しい声と共に右手を差し出した。
中学生になった今も父の声が怖く、話す時はいつも緊張していた。
だが、今日は違う──模試の結果が良かったのだ。
父と話す時の柚佑はいつも強ばり必死に笑顔を作っていた。
「お願いします」
柚佑は父の前に立つと模試の結果が記載されているA4サイズの紙を手渡した。
「西山高校……判定A」
「はい! 志望校A判定でした!」
柚佑の顔は貼り付けたものではなく、自然な笑顔を見せていた。
「お前はこれで喜んでたのか?」
「え……」
父の低く感情のこもっていない声に柚佑の顔から笑顔が消えた。
「こんなの当たり前だ。たかがA判定で喜ぶな。お前は俺たちの言う通り、西山高校を出て、医大に行き医者になればいいんだ」
「……」
父の言葉に俯く柚佑。
「返事は! 口が聞けないのか?」
「はい……」
悲しげな返事と共に、柚佑はその場を後にした。
部屋に入るなり、柚佑はベットに腰掛け項垂れていた。
「(レベルの高い高校の模試がA判定だったのに……。当たり前ってなんなんだよっ! 塾の先生は嘘つきだ。褒めてくれないよ……)」
柚佑の頬には一筋の涙が流れた。
塾で模試の結果を受け取った柚佑。
担当講師から「ご家族にいっぱい褒めてもらってね。中学2年生でこの判定は凄いよ」と、言われていたのだ。
だが、実際は褒めてなんてくれない。
むしろ喜ぶなと言われる始末だ。
「柚佑大丈夫?」
「お母さん……」
母の声が聞こえ、柚佑はベットから立ち上がりドアを開けた。
「母さん達はね、柚佑に幸せになってほしいのよ。母さんと父さんの言う通りにしてれば必ず幸せになるわ。だから、こんなことで喜ばないで柚佑にはもっと上を目指してほしいの」
「幸せ……」
「そう。あなたは必ず幸せになるわ」
「(幸せってなに? 言う通りにすればいい? 俺の人生なのに……なんで? なんで言われた通りに生きなきゃいけないんだ?)」
今まで必死に両親の言う通りに生きてきた柚佑。
ずっとそれが正しいと思っていた。
友達との遊びを断り、毎日塾や習い事の日々。
だが、いくら頑張っても褒められたことなんて一度だってない。
それが普通なんだと思っていた──
「幸せってなに? なんで、お母さん達に俺の幸せ決められなきゃいけないの? 意味が分からない」
淡々と話す柚佑。
感情のこもっていない声、それは恐怖すら覚える。
「ゆ、柚佑?」
「決めた……俺、お母さん達の言う通りには生きない」
「ちょ、ちょっと柚佑!」
「どうした?」
「あなた、柚佑が……」
母が父の元へ向かった隙に、柚佑は適当に荷物を持つと静かに部屋を出た。
──ガチャン
「え、柚佑……」
玄関のドアが閉まる音がし、母は慌てて向かう。
だが、そこに柚佑の姿はなかった。
「あなた、どうしましょう」
「放っておけ。そのうち戻ってくる」
「そうよね……」
2人は柚佑がすぐに戻ってくると思い、探しに行くことをしなかった。
だが、この日を境に2人は柚佑と会っていない。
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