舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

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第17話 刺青

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「(この部屋ずっと気になってたんだよな。何があるんだろう)」
「この部屋は?」

部屋に入ると、そこにはベッドとテレビだけが設置されていた。

「ここは仮眠室みたいなもんらしいよ。眠くなったら誰でも使って良いって前に蓮から聞いたけど」
「へえ」
「じゃあ、服脱いで」

ドアを背にし向かい合う2人。

杏佳は葵の目をしっかりと見つめると真顔でそう言った。

「は?」
「いいから、脱いでくれない?」
「なんで?」
「そんなに警戒しないで。別に取って食うわけじゃないんだから」
「理由は? なんであたしが服を脱がなきゃいけないわけ?」

段々と詰め寄ってくる杏佳に対し、葵は距離をとろうと後ろへ後ずさりする。

「もう! いちいちうるさいわね」

葵の背中が壁にぶつかると、先程までとっていた距離はなくなる。

杏佳は更に距離を詰めると、葵の服に手をかける。

「ちょ、ちょっと! 何するのよ!」

その直後、部屋には葵の切羽詰まった声が響き渡る。

「おい! 葵大丈夫か!? 開けるぞ!」

ドアを叩く音ともに心配そうな蓮の声がドア越しに聞こえてくる。

「開けるなっ!」

ドアノブが下がったのを目にした葵は声を上げる。

それは、殺気さえ出てそうなドスの効いた声だった。

「あ、悪い……なんかあったら言えよ」

それに怖気付いたのか蓮は消え入りそうな声を出した。 

「ありがとう」
「……随分とドスの効いた声ね。こんなに可愛い顔をしてるのに……」
「うるさい。何も無理やり脱がすことはないだろ」

葵は怒りと苛立ちを含んだような声を出す。

その姿は、杏佳に洋服を剥ぎ取られ、上半身は下着姿だった。

「あなたがなかなか脱がないからよ。これに着替えてほしいのよ」
「……だったら、先に言え」

葵は杏佳が持つ大きな紙袋に視線を移す。

「なに? あたしに何かされると思って警戒してたの? 可愛い」
「うるさ……で、これに着替えればいいわけ……ってこれ」

杏佳から紙袋を奪い中身を確認した葵は思わず声を詰まらせる。

「そう。浴衣、あたしはその着付けをするために呼ばれたわけよ」
「……」

固まる葵をよそに、杏佳は紙袋から浴衣を取り出す。

「早く服脱いでくれない?」
「わかった……」

杏佳に背を向け服を脱ぎ始める葵。

前を隠すことに必死で"あれ"を見られないようにすることをすっかり忘れていた。

「あら、顔に似合わず刺青入れてるのね」
「……っ!」

杏佳の言葉に葵は慌てて右腰を手で抑えた。

「なんで隠すの?」
「だ、誰にも言わないで!」
「わかったわ。あなたの腰に龍と桜の刺青が入ってることは誰にも言わない」
「……ありがとう」

杏佳は慣れた手つきで葵に浴衣を着せていく。

着付けが終わると、髪の毛をアップにまとめ髪飾りを付け、軽く化粧をしたら完成だ。

「はい、出来た。あなた化粧映えするわね。こんなに綺麗なのにもったいない」
「めんどくさいし、顔になんか付けるの好きじゃない」
「そう。まあ、スッピンであんなに綺麗なのは羨ましいけど。さ、こんな時間だし行くわよ」
「……」
「はい、楽しみはこれからよ」

葵は強引に部屋から出され、みんなの前でお披露目をさせられた。


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