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第15話 噂
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***
季節は巡り、夏──
「夏休みだー! 海に祭りに行きたい放題だ!」
終業式を終えたこの日、倉庫のいつもの部屋では、テンション高めな蓮がいた。
「蓮、うるさい」
「なんでだよ! 夏休みだ、嬉しくないのか?」
冷めた視線を送る葵に蓮は笑顔で問いかける。
「別に。宿題多いんだし毎日遊んでられないよ」
「(それに、祭りは良いとして……海には行けないな)」
葵は右腰に手を当てると視線を落とした。
「宿題は最後に追い込めばいいんだよ! 夏休みは楽しまないと!」
「まあ、宿題は追い込まなくても毎日コツコツやれば良いと思うけど。楽しみ方は色々あるんだし。あたしはこの部屋で過ごす時間も楽しいけど」
「おぉ……そっか。じゃあ適度に遊ぼうな」
葵は蓮の言葉に耳を傾けず、ただ一点を見つめていた。
葵が外で遊ぶことを拒んだのには、理由があった。
それは、遡ること1週間前──
♢♢♢
「あお!」
「しゅうちゃん。久しぶり」
昼休み、屋上へ行く途中、葵の背後から声をかけてきたのは萩人だった。
「最近、こっち来ないから心配してたんだぞ」
「ごめんごめん。最近、白狼の奴らとお昼食べてたから全然しゅうちゃんのところ行けてなかったね」
「あー柏木達か」
「そうだよ。それより、なんかあった?」
「あー昼休みか放課後時間取れるか?」
「それだったら今の方がいいかな」
葵はそう言うと携帯を取り出し、白狼のメンバーにお昼は別々に食べることを連絡した。
白狼の倉庫へ行くようになってからは、お昼は屋上で食べるのが日課になっていた。
同じクラスの蓮達の他、竜と楓も共に輪になって食べていた。
「入れ」
「ありがとう」
だが、今日のお昼は転校初日以来の理事長室でのお昼だ。
理事長室に入るなりソファーに対面で座る2人。
「今日はどうしたの?」
葵は、予めコンビニで買っていたサンドウィッチの袋を空けながら口を開く。
「いや、妙な噂を耳にしてな……」
萩人は歯切れの悪そうな声で話し出す。
「妙な噂?」
「ああ。あいつらがお前を探してるらしい」
「え……あっ、探してるってどういうこと?」
萩人の言葉に驚いた葵は手に持っていたサンドウィッチを危うく落としそうになっていた。
「そのままの意味。昨日、菖人(アヤト)から連絡があったんだよ。お前の行方を知らないかって」
「菖人から……そ、それでなんて答えたんだ!」
葵は、サンドウィッチを握る手に力を入れながら食い気味に問いかける。
「もちろん知らないって答えた。俺に連絡してきたって事はこっちに来ないとも限らない。目立った行動は気をつけろよ」
「……わかった。桜玖(サク)って……その……」
「俺も気になって聞いたけど、まだ眠ったままだ」
なかなか、言葉に出来ない葵に対し、萩人は話を汲み取るとそう答えた。
「そっか……」
「あれはお前のせいじゃない。あいつがお前を助けたくてした事だ。あおが責任を感じる必要はないんだよ」
「しゅうちゃん……ありがとう」
俯く葵は、ただ一点を見つめていた。
季節は巡り、夏──
「夏休みだー! 海に祭りに行きたい放題だ!」
終業式を終えたこの日、倉庫のいつもの部屋では、テンション高めな蓮がいた。
「蓮、うるさい」
「なんでだよ! 夏休みだ、嬉しくないのか?」
冷めた視線を送る葵に蓮は笑顔で問いかける。
「別に。宿題多いんだし毎日遊んでられないよ」
「(それに、祭りは良いとして……海には行けないな)」
葵は右腰に手を当てると視線を落とした。
「宿題は最後に追い込めばいいんだよ! 夏休みは楽しまないと!」
「まあ、宿題は追い込まなくても毎日コツコツやれば良いと思うけど。楽しみ方は色々あるんだし。あたしはこの部屋で過ごす時間も楽しいけど」
「おぉ……そっか。じゃあ適度に遊ぼうな」
葵は蓮の言葉に耳を傾けず、ただ一点を見つめていた。
葵が外で遊ぶことを拒んだのには、理由があった。
それは、遡ること1週間前──
♢♢♢
「あお!」
「しゅうちゃん。久しぶり」
昼休み、屋上へ行く途中、葵の背後から声をかけてきたのは萩人だった。
「最近、こっち来ないから心配してたんだぞ」
「ごめんごめん。最近、白狼の奴らとお昼食べてたから全然しゅうちゃんのところ行けてなかったね」
「あー柏木達か」
「そうだよ。それより、なんかあった?」
「あー昼休みか放課後時間取れるか?」
「それだったら今の方がいいかな」
葵はそう言うと携帯を取り出し、白狼のメンバーにお昼は別々に食べることを連絡した。
白狼の倉庫へ行くようになってからは、お昼は屋上で食べるのが日課になっていた。
同じクラスの蓮達の他、竜と楓も共に輪になって食べていた。
「入れ」
「ありがとう」
だが、今日のお昼は転校初日以来の理事長室でのお昼だ。
理事長室に入るなりソファーに対面で座る2人。
「今日はどうしたの?」
葵は、予めコンビニで買っていたサンドウィッチの袋を空けながら口を開く。
「いや、妙な噂を耳にしてな……」
萩人は歯切れの悪そうな声で話し出す。
「妙な噂?」
「ああ。あいつらがお前を探してるらしい」
「え……あっ、探してるってどういうこと?」
萩人の言葉に驚いた葵は手に持っていたサンドウィッチを危うく落としそうになっていた。
「そのままの意味。昨日、菖人(アヤト)から連絡があったんだよ。お前の行方を知らないかって」
「菖人から……そ、それでなんて答えたんだ!」
葵は、サンドウィッチを握る手に力を入れながら食い気味に問いかける。
「もちろん知らないって答えた。俺に連絡してきたって事はこっちに来ないとも限らない。目立った行動は気をつけろよ」
「……わかった。桜玖(サク)って……その……」
「俺も気になって聞いたけど、まだ眠ったままだ」
なかなか、言葉に出来ない葵に対し、萩人は話を汲み取るとそう答えた。
「そっか……」
「あれはお前のせいじゃない。あいつがお前を助けたくてした事だ。あおが責任を感じる必要はないんだよ」
「しゅうちゃん……ありがとう」
俯く葵は、ただ一点を見つめていた。
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