ごめん、大好きだよ。

織山青沙

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第17話 ごめん、大好きだよ。

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菜奈から別れるよう言われた次の日、愛と翔は近くの公園に来ていた。


この公園は、愛が元彼と別れた際に翔が慰めてくれた場所だ。

日も暮れ、どこからか夕焼けチャイムが聞こえてきた。



「翔……ごめん。……わ、別れよ」


2人はベンチに腰掛け、数分の沈黙の末、愛が震える声を絞り出した。


「は? なんでだよ!」


突然のことに驚き、翔は声を荒らげる。


「ごめん……」
「ごめんじゃなくて理由は?」
「理由……」
「(多分、あーやんの妊娠のことを言っても別れてくれないと思う。だから……ごめん)」


理由を迫られ、戸惑う愛。


「理由を言ってくれないと納得出来ない」


言葉を探し、やっとの思いで口を開く。


「翔……あたしの事好きになってくれてありがとう。翔と一緒にいれて楽しかったよ。けど、ごめん。友達としてならいいけど、やっぱり異性としては好きじゃない。ほんとにごめん」


それは悲しい嘘だった──


「嘘だろ……。俺、ずっと愛のこと好きだったんだよ! なんでっ! ……なんで、やっと両思いになれたじゃんか!
愛も俺のこと好きって言っただろ!」


2人以外誰も居ない静かな公園に、翔の悲痛な叫び声が響き渡る。

他に聞こえてくるのは風でなびく草木のざわめきだけだ。


「そ、それは……翔がしつこいから……だからっ! し、仕方なく付き合ってあげたの! べ、別に翔のことなんて好きじゃなかった。……騙した形になってごめん。でも、翔にはあたしじゃなくてもっといい人いるから……その人と、し、幸せになって」


愛は膝の上で拳を握りしめ、俯きながらも必死に言葉を探した。


「なんで……俺、愛のこと好きなんだよ! なんでだよっ! 好きだって言ったじゃん。あれは本心じゃなかったのかよ! 」


怒りに任せ怒鳴り散らす翔は愛の肩を揺する。


その表情は悲しみが滲み出て今にも泣き出しそうなほどだった。


「ごめん……。あたしのことは恨んで構わないっ……けど、恋愛は嫌いにならないでね。あたしのせいで誰とも付き合えなかったって言われても嫌だしさ。じゃあ、さようなら」


愛は泣きそうになるのを必死に堪え、全て言い終わると、肩に置かれた手を振り払いその場を後にした。


「あ……っ! おいっ!」


翔は追いかけようとするも足がすくみ、その場から動けずにいた。

愛が去った公園からは、男性のすすり泣く声だけが聞こえていた。


***


日が沈み、辺りが暗くなった頃、街を歩く1人の女性の姿があった。


すれ違う人々は、彼女を見るなり心配そうな顔を浮かべた。

中には指を指しコソコソと喋る人も見受けられた。


「ねぇ、ママ。なんであのおねえちゃん、ないてるの? かわいそうだね」
「そうだね。なにかあったのかもね」


幼稚園位の男の子だろうか、彼女を見るなり悲しそうな声で、隣に歩く母に問いかけた。

母はそれとなく返答すると、進路を変え彼女から離れて行った。


「うっ……ごめんっ……」
「(なんであんな酷いこと言っちゃったんだろ。本当はあんなこと言いたくなかった。けど、ああ言わないと別れてくれなかっただろうし。翔……ごめん、大好きだよ。今までありがとう……)」


彼女の悲痛な叫びは声にならずそのまま消えていった。


ただ、大粒の涙だけが彼女の頬を濡らしていく──



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