ごめん、大好きだよ。

織山青沙

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第15話 最悪な出会い

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***


とある休日の昼下がり、翔は買い物をするため街に来ていた。


梅雨真っ只中、雲はくすみ今にも雨が降りだしそうだ。


「いらっしゃいませー」


白を基調としたお店の自動ドアを抜けると、上品な雰囲気の女性が出迎えた。


「彼女さんへのプレゼントですか?」
「え? あ、まあ……来週誕生日なので……」


突然、店員に声をかけられ、驚きながらも答える翔。

6月23日は愛の21歳の誕生日だ。


翔は誕生日プレゼントを購入するため、とあるジュエリーショップを訪れていた。


「(あ、これ似合いそうだな)」


ショーケースに並ぶアクセサリーの中で1つのネックレスから翔は目が離せないでいた。


「お決まりですか?」
「あ、はい……このネックレスをプレゼント用でお願いします」
「承知しました」


店員はショーケースの中から1つのネックレスを取り出すと綺麗にラッピングを施した。


「お待たせしました。素敵な誕生日になりますように」
「ありがとうございます」
「ありがとうございました。またお越しくださいませ」


翔はネックレスの入った紙袋を受け取り、会釈をすると店を出た。

駅に向かう途中、更に空は暗くなり、雨粒が降り出してきた。


「(うわっ! 結構降ってきたな。どこかで雨宿りできる場所は……あった!)」


傘を持っていなかった翔は必死にプレゼントを雨から守り、雨宿りできる場所を探す。

ふと、目に入ったのは、所々サビの付いたシャッターが閉まった店の軒下だ。

そこには既に一人、先客がいたが翔は気にせず飛び込んだ。

頭はパーカーのフードで守られたが全身びしょ濡れだ。


「(結構降ってきたな。止むまで雨宿りしないとか……)」


鞄から取り出したタオルで濡れた服を拭いていく翔。


「(え……)」


そこで、初めて雨宿りの先客と目が合う。

見知った人物に驚き、目を逸らすが既に遅かった。


「え、翔? 翔よね! あたし何度も電話したのよ! なんで出てくれなかったの?」


その女性は、やや興奮気味に問いかけた。


「菜奈(ナナ)……」
「よかった。覚えてくれてたのね」
「ああ」
「ずっと電話で言いたかったこと今話してもいい? いいわよね? どうせ、止みそうもないし」
「……」
「あたし子供ができたのよ」


肯定も否定もしない翔に対し、菜奈と呼ばれる女性はそのまま続ける。

体のラインがよく分かるワンピースに身を包む彼女、お腹の部分はふっくらとでっぱりを見せていた。


「え、おめでとう。でもなんで俺に? それが話したかったことか?」


なぜ、そんな話を自分にするのか理解出来ない翔は、困惑した。


「わからない? あなたの子よ?」
「は……? お、俺の子供……嘘だろ? そんなの信じられる訳ないだろ!」


真剣な彼女の眼差しに思わず言葉を失う翔。


「あたし、あなたとしか付き合ったことないから確かな情報よ。だから、責任を取って欲しいのよ」
「責任って……」
「あたしと結婚して、この子を一緒に育てたいの!」


菜奈の悲痛な叫びが口から吐き出される。

更に雨足が強くなっていき、雨宿りをしている店の屋根に容赦なく雨粒が叩きつけられていた。


「いや……無理だろ。そんな、俺たちはもう別れてるし……俺、別に付き合ってる子いるから無理だよ」
「どうして? このお腹の中にいる子が可愛くないの? あなたの子なのよ」


彼女はお腹を擦ると悲しそうに見つめる。
 

その瞳には薄らと涙が浮かんでいた。


「仮に俺の子だとしても……俺は愛が好きなんだよ!」
「愛?」


思わず愛の名を口にした翔、咄嗟に口を抑える。


「あっ…… やべ」
「ふぅん。なら、あたしから彼女に伝えるわ」


だが、菜奈にははっきりと聞こえていたようだ。


「それだけはやめてくれ!」
「無理ね。あ、雨止んだわね。さようなら、また連絡するわね」


翔の必死な呼び止めも虚しく、菜奈は軒下を飛び出した。


先程まで、大きな音を立てていた雨粒もすっかり止んでいた。


***


「あ、あーやんからLimeだ。久々に食事でもだって。やったー! 楽しみだな」
 

その日の夕方、愛のスマホにはあーやんから食事の誘いが届いてた。


友人との久々の再会だ。

愛は嬉しそうにスマホを手にベットを数回転がっていた。



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